理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-144
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一般演題(ポスター)
大胸筋不全断裂術後の早期理学療法の経験
山本 浩基上野 順也平沢 良和藤盛 嵩広宮本 定治好井 覚
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抄録

【目的】
大胸筋不全断裂は比較的稀な疾患である。今回、大胸筋不全断裂の理学療法を経験し良好な結果が得られたので考察を加え報告する
【方法】
症例は60歳代、男性、製造業、バレーボール指導者、左利きである。勤務中にローラーに右腕を巻き込まれ、右尺骨骨幹部骨折、前腕筋断裂と同時に腋窩皮膚裂創、大胸筋鎖骨部繊維遠位の筋腱移行部に近い筋腹の不全断裂を受傷した。手術は断裂部を2号PDS糸でマットレス縫合した。術後より固定は三角巾とバストバンドにて肩関節内転、内旋位とし患部以外の運動を開始した。術後2週より肩関節内転、内旋位での他動屈曲運動開始、術後4週で固定を除去し自動介助での水平内転運動を開始、術後8週より鎖骨部繊維を含む大胸筋への積極的な筋力増強運動を開始、術後12週で可動範囲および筋力に改善を認め理学療法終了となった。筋力改善の指標として、乳頭部胸囲と超音波画像診断装置SONOLINE G60S(SIMENS社製)を使用し、鎖骨内側2/3の直下で大胸筋鎖骨部繊維の筋厚を健側と比較した。
【説明と同意】
本発表の内容を詳細に本人に説明し同意を得た。
【結果】
肩関節可動域は術後4週で屈曲140°、伸展40°、外転80°、水平伸展5°、第1肢位外旋60°、第2肢位外旋20°、肩関節屈曲90度での外旋(以下、第3肢位外旋)5°。8週で屈曲175°伸展50°外転180°水平伸展30°第1肢位外旋60°、第2肢位外旋60°第3肢位外旋10°。12週で正常可動範囲を獲得、乳頭の位置に左右差を認めず、胸囲は4週の101.2cmから12週で103.7cmと2.5cmの拡大を認めた。超音波画像診断装置による大胸筋鎖骨部繊維の筋厚は12週で健側6.9mm患側6.8mmとなった。
【考察】
大胸筋不全断裂は稀な疾患である。我々が渉猟しえた限りでは不全断裂の手術例についての報告はなく、完全断裂の症例についての報告が本邦で26例あった。26例の報告の中で術後の後療法について述べられた報告は1例のみであった。大胸筋断裂は特に若年者のスポーツによる受傷が多く、断裂部については、筋腱移行部、停止部に頻度が高いと報告されている。高齢者における報告は少ないが、受傷前の活動が低い場合は保存療法でも日常生活に制限をきたすことが少ないとされ保存療法を選択されることが多い。手術例ではpeak torqueが健側比99%まで改善するが、保存例では56%の回復に留まると報告されている。大胸筋断裂は初診時に見逃されることも多く陳旧例となりやすい。陳旧例では断端の瘢痕化や癒着、筋萎縮などの理由から可動範囲、筋力の改善に時間を要する。今回の症例は、腋窩皮膚裂創があり早期に大胸筋断裂と診断され手術を行った症例であり、早期から疼痛を避けて大胸筋鎖骨部繊維を弛緩させた状態で可動域訓練を行った事により可動範囲を確保することができた。筋力の改善においては大胸筋に対してだけでなく、大胸筋の作用と拮抗する筋への筋力維持を行い筋力の不均衡を起こすことのないよう注意する必要があると考えられる。本症例においては橈尺骨骨折及び前腕の筋断裂の治療は継続しておりスポーツへの参加は果たせていないが、更衣動作など大胸筋断裂による日常生活における問題は解消された。
【理学療法学研究としての意義】
大胸筋不全断裂術後に対する理学療法を経験した。大胸筋不全断裂に対しては早期より安全な肢位で肩関節可動域を確保する為に早期からの理学療法が必要であると考えられる

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© 2010 日本理学療法士協会
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