理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-155
会議情報

一般演題(ポスター)
妊婦の姿勢評価とマイナートラブルとの関係
岡西 奈津子木藤 伸宏河村 光俊秋山 實利山本 雅子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】妊娠中および産後の期間に,腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に悩まされる女性は多い。これらの妊娠中および産後の不定愁訴はマイナートラブルと言われ,妊娠に伴う姿勢の変化の関与が推察される。筆者の臨床経験からも,骨関節系や泌尿器系のマイナートラブルを訴える妊産婦は,何らかの姿勢の変化がみられる傾向があり,多くの先行研究の報告と一致する。しかし,妊婦の姿勢について,脊柱平坦化,sway back姿勢,骨盤前傾または後傾等一定の見解はみられず,姿勢変化とマイナートラブルの関係について明確なエビデンスは存在しない。そこで本研究は,妊娠中の姿勢とマイナートラブルとの関係を検討することを目的とした。

【方法】被験者は,医師により研究参加許可の得られた,妊娠16週から35週の妊婦7名とした。切迫早産や内科的疾患など,妊娠継続が困難となり得る合併症のある者は除外した。測定項目は,1)マイナートラブルの聞き取り調査,2)姿勢評価とした。聞き取りは,現病歴,既往歴や妊娠の経過等の医学的情報,マイナートラブルについて詳細に調査した。マイナートラブルは先行研究で多く報告されている疾患や症状から抽出し,a)骨関節系(肩こり,腰痛,骨盤帯痛等),b)泌尿器系(尿失禁,頻尿),c)その他(呼吸循環器系,精神神経系等)とし,各々の症状について,その有無,程度,治療経験の有無とその内容について詳しく聞き取り調査を行った。2)姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R) (Aditus Systems Inc., Irvine)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからSPSS for Windows 15.0J(SPSS Japan Inc.)を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,被験者の姿勢の特徴とマイナートラブルの有無について分析した。

【説明と同意】研究に先立ち,研究内容およびリスク,個人情報の保護,研究成果の学会発表,研究参加中断可能であることについて,十分な説明を口頭にて行った。すべての被験者において同意が得られ,同意書に署名を頂いた。また,本研究は広島国際大学倫理委員会の承認を得た。

【結果】被験者は年齢32.57±4.54歳(平均±標準偏差),身長156.86±4.26cm,体重55.95±3.01kg,妊娠週数23.86±6.79週,初産婦4名,経産婦3名であった。マイナートラブルについて,すべての被験者において腰痛,骨盤帯痛,肩こり等の骨関節系症状が重複してみられ,5名において尿失禁がみられた。すべての症状に対して,専門的な治療を受けた者はいなかった。主成分分析の結果,第1主成分には腰椎後弯角0.925,体幹と下肢のなす角度0.842,仙骨傾斜角-0.900,胸椎前弯角-0.896が高い負荷量を示した。第2主成分には立位時の傾斜角0.844,体幹と骨盤のなす角度-0.763で高い負荷量を示した。これに基づき被験者の主成分得点より姿勢を分類すると,脊柱の弯曲が少なく骨盤前傾(2名),骨盤後傾(2名),また,脊柱の弯曲が多く前傾(2名),後傾(1名)であった。

【考察】すべての被験者において骨関節系や泌尿器系症状がみられたことは,妊婦の腰痛,骨盤帯痛,尿失禁に関する多くの先行研究での報告と同様の傾向がみられた。姿勢評価では,静止画像とスパイナルマウスでの各項目において主成分分析を行った結果,脊柱の弯曲と骨盤の傾斜が妊婦の姿勢評価の指標となることが示された。これに基づいた本研究の被験者は,多様なタイプの姿勢に分類された。しかし,被験者数が少なかったため,各症状と姿勢の関係を明らかにすることはできなかった。妊婦の脊柱や骨盤前後傾,姿勢について,未だ一定の見解が報告されていない。今後はさらにより多くの被験者を対象として引き続き分析していきたい。

【理学療法学研究としての意義】妊娠中や産後のマイナートラブルは,妊娠中の特異的な姿勢制御が持続した結果生じるものとも言われ,妊娠中からマイナートラブルの予防や改善に向けて理学療法士の関与が重要である。そのため,妊婦の姿勢分析はその根本的な指標となり,不可欠である。また,日本では,諸外国と異なり,まだ現実的に妊婦を対象とした専門的な理学療法がほとんど行われていない。本研究を通して日本でのウーマンズヘルスケアにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。

著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top