理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-146
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一般演題(口述)
起立‐着座動作を応用した運動負荷と自転車エルゴメータにおける仕事量の換算式
上村 さと美秋山 純和
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抄録

【目的】起立と着座動作は,運動療法において多様な目的で活用されている。ADL練習のほか,両運動を反復する運動負荷(以下,起立運動負荷法)は,下肢筋力の評価や心肺機能評価,前頭葉の賦活に応用されている。運動強度は起立仕事率(回/分)や環境設定から調整されるが,心肺機能の側面から運動強度の調整がされないと,過負荷を招く危険性がある。仕事量の設定は自転車エルゴメータなどの機械的負荷装置とは異なり,未だ定量化されていない。仕事量について,機械的負荷装置の仕事率を基準にした換算式の作成から,定量化を試みたので報告する。
【方法】対象は,運動の妨げとなる心血管系および整形外科的疾患を有さない健常な20歳代の男性43名と70歳代の男性17名(平均年齢74.4(歳),身長1.61(m),体重60.4(kg))とした。なお,20歳代のうち31名により(平均年齢20.1(歳),身長1.72(m),体重63.6(kg))両運動負荷法の換算式を作成し,12名により(平均年齢19.8(歳),身長1.69(m),体重59.6(kg))換算式の精度を検討した。方法は,起立運動負荷法と自転車エルゴメータによる運動負荷(以下,エルゴメータ法)の仕事率と酸素摂取量の関係を基準として検討を行った。同一日に,両運動負荷を1時間以上の休憩をとり無作為に負荷した。リスク管理は,運動前と運動時に分けて実施した。70歳代の被験者には,心血管系の評価として血圧,心音,12誘導心電図の評価と服薬の状況,骨関節への負担を十分に確認した後に運動を負荷した。運動の中止基準は,一般的なリスク管理基準への該当や動作が発信音に追随できなくなった場合などとした。環境設定は起立運動負荷法では,椅子の高さを床から腓骨頭高とした。運動負荷プロトコルは各負荷段階を3分間とした多段階運動負荷プロトコルを設定した。起立運動負荷法では一段階6(回/分)を設定し,メトロノームの発信音に合わせて,30(回/分)まで増加させた。エルゴメータ法では,無酸素性代謝閾値の仕事率の120から125(%)に到達するまで,一段階20から25(%)の増加率でペダルの回転数50(rpm)により負荷した。測定項目は,事前に身長,体重,座高,下肢筋力を測定した。運動中は酸素摂取量(Cortex社製Metalyzer3B),心拍数および心電図,血圧などを設定し,酸素摂取量と心拍数は連続的に記録を行い,血圧は各負荷段階終了30秒前に測定した。分析は,被験者ごとにエルゴメータ法における酸素摂取量を目的変数に,仕事率を説明変数に設定した単回帰式を作成した。起立運動負荷法における各負荷段階の酸素摂取量を求めた式に代入し,起立仕事率をエルゴメータの仕事率に置換した(以下,起立仕事率と一致するエルゴメータの仕事率)。両運動負荷法の仕事率の換算式の作成は,年代ごとに,目的変数に起立仕事率と一致するエルゴメータの仕事率を,説明変数に身長および体重,座高,下肢筋力を設定した重回帰分析を行った。換算式の精度は,両運動負荷法において100W に相当する負荷を,起立運動負荷法では3分間,エルゴメータ負荷法では6分間負荷した。測定項目は酸素摂取量(ミナト医科学株式会社,AERO MONITOR AE-300S)を設定した。分析は,終了30秒間の酸素摂取量の平均値と相関を検討した。統計ソフトはSPSS13.0Jを用い,危険率の有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】所属施設における倫理委員会の承認の後,対象の候補者に事前に本研究の目的と内容を紙面と口頭にて十分に説明の上,紙面による記載を持ち同意を得た。
【結果】仕事率の換算式は,20歳代ではy=-222.259+3.604×回数(回/分)+1.192×体重(kg)+86.384×身長(m)(R2=0.94),70歳代ではy=-62.368+2.702×回数(回/分)+1.252×体重(kg)-23.668×筋力(kgf/kg)(R2 = 0.83)であった。仕事率100Wを負荷したところ,起立運動負荷法の酸素摂取量は25.0±0.86(ml/min/kg),自転車エルゴメータ法では23.5±0.93(ml/min/kg)となり,相関係数はr=0.94であった(p<.01)。
【考察】年代ごとに換算式を検討すると,20歳代では移動距離に関する項目,70歳代では自重のコントロールに関与する項目を調整することにより,両運動負荷法の仕事量が一致すると考えられる。定量化は起立仕事率(回/分)の設定のみならず,個人の身体的要素を取り入れて検討を進めることにより,個人を考慮した運動強度の設定が行える可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】定量化から,機械的負荷装置を利用できない対象者の運動負荷試験における質とリスク管理の向上を考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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