理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-158
会議情報

一般演題(口述)
慢性呼吸不全患者におけるバランス能力と転倒骨折事故のリスクについて
筒井 宏益藤田 美紀男佐野 博内藤 博道高田 誠一渡辺 充伸内賀嶋 英明
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】慢性呼吸不全患者(以下CRF患者)において、自宅などで転倒骨折事故を呈する症例を経験する。特に大腿骨近位部骨折に至ると生命的リスクが増加し、リハビリの進行が阻害され入院期間長期化やADL、QOL低下も予想される。今回、CRF患者のバランス能力と転倒骨折事故が予後に与える影響を調査することにより、転倒のリスクを検証し包括的転倒予防の必要性を検討したので報告する。
【方法】バランス能力測定ではCRF患者12例(平均年齢75.7±4.9歳)を対象とし、コントロール群は脳血管障害既往のない健常者12例(平均年齢77.5±7.3歳)に対し平衡機能測定装置gait view(アイソン株式会社)にて外周面積、総軌道長、単位時間軌跡長を静止立位で測定した。転倒骨折事故の調査では、2008年1月~12月にCRF患者で転倒により大腿骨近位部骨折、胸腰椎圧迫骨折を受傷した当院入院患者12例(平均年齢79±4.7歳)を対象者とし、コントロール群は同期間に入院した呼吸器疾患既往のない上記同疾患患者76例(平均年齢80±5.9歳)を設定した。後方視的に、転倒状況分析、入院期間、入退院時のADL変化、転機、レセプト請求額を調査した。
統計処理は群間の各項目の比較にStudents t-test もしくはMann-Whitney Testを用いた。
【説明と同意】本研究に参加した被験者に対し、目的、方法、安全性を十分説明し同意を得た。実施に際しては被験者に対する負担を抑えるよう配慮した。【結果】バランス能力測定においてCRF患者では、外周面積、単位時間軌跡長において有意に高値を示した(P<0.05) 。総軌道長においては統計学的には有意差が認められなかったが高値を示した(P=0.17)。転倒骨折事故調査において、転倒場所でCRF患者は寝室で転倒する割合が多く、非CRF患者は廊下、入浴時に転倒する割合が多かった。転倒時行動ではトイレ移動、立ち上がり動作時においてCRF患者が多く、歩行時においては非CRF患者が多かった。CRF患者は、認知及び記名力低下例が45%,35%と多く、入院期間でも89±39,49±29と有意に高値を示し、ADL変化は17.24±6.2,31.22±4.3と有意に低値であった。レセプト請求額においても有意に高値であった(CRF患者,非CRF患者、いずれもp<0.01)。自宅復帰率においても57%,71%であり低値を示した。
【考察】高齢者の転倒事故において、危険因子の身体的特徴としては筋力低下とバランス障害の寄与率が高いとされている。CRF患者では、低酸素ストレスによる神経細胞の障害(興奮性アミノ酸の放出、フリーラジカル産生 等)、COPDの全身性炎症に伴う変化、高二酸化炭素血症、廃用症候群等が筋力やバランス能力、認知、記憶に影響を及ぼし転倒リスクが増大すると考えられる。それらにより転倒骨折事故を呈すると予後不良となり、経済的損失も生じると推察される。今回の調査においても同様の結果が示唆された。また、転倒分析においてもある程度の傾向がみられることから、CRF患者においても、1)患者教育、2)環境整備、3)バランス練習含めた転倒予防トレーニング 等の三位一体の包括的アプローチが必要である。
【理学療法学研究としての意義】CRF患者においては、同年代健常者よりバランス能力が低下しており、転倒しやすい要因がある。さらに転倒骨折事故を受傷するとADL、QOLが低下し予後に悪影響を与える。よってCRF患者の理学療法施行の際には、包括的な転倒予防を視野に入れたプログラムを検討する必要である。

著者関連情報
© 2010 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top