理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-176
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一般演題(ポスター)
血液疾患患者に対する化学療法の身体的影響と理学療法効果について
非ランダム化比較研究
林 大二郎八並 光信湯藤 裕美沼波 香寿子澤田 絵里佳中村 友唯香伊藤 晃範鷲頭 由宜松浦 芳和江渡 奈保子内田 学
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キーワード: 血液疾患, ADL, 抗がん剤
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抄録

【目的】
がん患者が行う化学療法は身体的侵襲が強く、副作用により臥床期間が長期化することも少なくない。その結果、基礎体力やADLの低下が問題となる。しかし、抗がん剤と体力や身体機能に関する報告は散見する程度である。そこで、我々は、血液疾患患者に対し、化学療法の身体的影響と非ランダム化比較試験による理学療法効果について考察した。
【対象】
2009年4月から10月までに化学療法を受け、歩行可能な男性14名(64.9±12.3歳)、女性11名(68.8±9.5歳)の計25名。原疾患は、非ホジキンリンパ腫13名、非ホジキンリンパ腫再発3名、急性骨髄性白血病4名、急性リンパ性白血1名、成人T細胞白血病2名、多発性骨髄腫2名であった。また、適応された化学療法のタイプは、多剤併用療法であるR・CHOP 6名、CHOP 1名、R・THP-COP 3名、THP-COP 2名、R・ESHAP 3名、R・Flu+MIT 1名、IDA+Ara-C 2名、ALL202 1名、CAG 2名、LSG15 2名、VAD 2名であった。
【方法】
各コース化学療法試行前に、体重、理学療法実施の有無、Barthel Index、等尺性筋力計ミュータス(μTas F-1:ANIMA)による膝伸展筋力、握力、上腕周径、Time Up & Go Test(TUG)、指床間距離、開眼片脚立位、白血球等の血液データを測定した。なお、測定時期が、1-2クール目7名、2-3クール目6名、3-4クール目8名、4-5クール目4名であり、理学療法を受けたもの(treatment group:T群)13名、受けていないもの(control group:C群)12名である。統計学的検討は、量的パラメーターに関して化学療法前後の変化率(施行後-試行前)/試行前×100)を求め、相関分析およびKruskal Wallis 検定を行った。使用した統計パッケージは、SPSSver11.0Jである。
【説明と同意】
本研究の対象患者には、ヘルシンキ宣言に基づき、研究内容を説明し同意を得た。
【結果】
クール別(測定期間の違い)にみた筋力・TUG・指床間距離、開眼片脚立位、白血球等の血液データに差はなかった。理学療法の有無により各パラメーターに対して、Kruskal Wallis 検定を行い、左膝伸展筋力変化率(T群平均6.8%、C群平均-3.9%:p=0.02)と有意な増加を認め、右膝伸展筋力(T群平均2.8%、C群平均-5.5:p=0.07)、TUG(T群平均-5%、C群平均1.1%:p=0.05)に改善の傾向が認められた.ADLに関しては、素点で初回T群平均90.8点、C群平均95.8点、2回目 T群平均94.0点、C群平均96.3点、変化率T群平均3.7%、C群平均0.5%:p=0.09)であった。
【考察】
今回の結果から、理学療法効果としては、下肢筋力および動的バランス能力の改善に寄与することが示唆された。アウトカムとして重要なADLに関しては、初回時より90点以上が大部分を占めており、天井効果によって明らかな差違が生じなかったものと考えられた。また、治療期間に影響を受けなかった点は、治療方法の改善、副作用を抑制する制吐剤の向上などが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
医療技術の進歩に伴いがんの死亡率は減少傾向にある。しかし、長期間の治療による体力、ADLの低下は著しい。多くの場合、廃用症候群が進行し、ADLの低下が表面化してから理学療法が処方される。この点は、理学療法士の科学的効果が認知されていないことが誘因と考えられる。理想的には、化学療法早期から予防的理学療法が重要である。癌研究における理学療法の介入研究で、ランダム化比較研究を臨床現場で行うことは非常に難しいため、本研究のように非ランダム化比較研究での研究結果は重要であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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