抄録
【目的】
心筋梗塞患者のリハビリテーション(心リハ)は予後を見据えた包括的管理が重要である。TIMIリスクスコア(Morrow DA et al, Circulation, 2000)は緊急入院時の臨床的背景因子から主に30日予後を層別化する指標である。本研究の目的は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の1年以内の心事故とTIMIリスクスコアの関連を明らかにすることである。
【方法】
対象は、2006年5月から2007年4月までに当院で発症24時間以内に冠動脈造影が施行されたSTEMI連続197例の中で、TIMIリスクスコアの除外基準に相当する66例を除外した131例である。
評価項目は、発症1年以内の心事故(心臓死、非致死性心筋梗塞、入院を要する狭心症やうっ血性心不全の複合)である。Primary PCI後の慢性期追跡冠動脈造影を行い再狭窄を認めたSMI例は狭心症から除外した。
対象を心事故群(n=21例)と非心事故群(n=110例)に分け、両群間で患者背景、臨床背景、血行再建状況、退院時薬物、TIMIリスクスコアなど合計29因子を比較した。また、心事故群を発症から30日以内の事故(急性期心事故群)と、31日以降の事故(慢性期心事故群)に分け両群間を同様に比較した。そして、慢性期心事故群と非心事故群間についても同様に比較検討した。
【説明と同意】
本研究を行うにあたり、個人情報の取り扱いは当院の規定にしたがった。
【結果】
心事故は21例(16.0%)で、急性期心事故群8例(心臓死5例、非致死性心筋梗塞2例、狭心症1例)と慢性期心事故群13例(心臓死2例、非致死性心筋梗塞1例、狭心症6例、心不全4例)であった。
心事故群の、来院時心拍数(88±22bpm)、収縮期血圧(128±27mmHg)、Killip分類(2.0±1.0)、腎不全(29%)、TIMIリスクスコア(5.9±2.7)は、非心事故群と有意差があった(76±16bpm、141±24mmHg、1.3±0.6、7%、3.9±2.7)、(各、p<0.05、p<0.05、p<0.001、p<0.05、p<0.001)。
急性期心事故群の、来院時収縮期血圧(111±28mmHg)、薬剤溶出性ステント留置(38%)は、慢性期心事故群と有意差があった(138±22mmHg、85%)、(各、p<0.05、p<0.05)。急性期心事故群のTIMIリスクスコア(6.4±3.1)は慢性期心事故群(5.6±2.5)と有意差がなかった(p=0.55) 。
慢性期心事故群の、来院時心拍数(89±23bpm)、Killip分類(1.6±0.9)、TIMIリスクスコア(5.6±2.5)、LMT病変(15%)は、非心事故群と有意差があった(76±16bpm、1.3±0.6、3.9±2.7、1%)、(各、p<0.05、p<0.05、p<0.05、p<0.05)。
【考察】
本研究から、これまで30日予後の指標として用いられたTIMIリスクスコアは、1) 発症から1年以内の心事故を層別する指標、また、2) 31日から1年以内の心事故を層別する指標としても有用であること、しかし、3) 30日以内の心事故と31日から1年以内の心事故を層別する指標ではないこと、などが考えられた。
その他、現時点では上記のような因子が関与することが示された。今後はより長い観察期間内でのリスク評価にも有益であるのか検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
TIMIリスクスコアは発症から1年間の包括的なリスク評価として有用であり、心リハを実施する理学療法士に有益な情報であると考えられた。