理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-240
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一般演題(ポスター)
外陰部腫瘍術後の理学療法経験
山本 寛子高森 陽子秋澤 理香栗原 由佳古川 俊明
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抄録
【目的】近年、癌治療は進歩し不治の病であった時代から癌と共存する時代となってきており、ADL獲得を主たる目的とした癌のリハビリテーションに変化が求められている。今回、外陰部腫瘍にて術後に体力向上や易疲労性改善、自覚的健康度の改善、活動性やQOL向上が得られるとされているフィジカルリハビリテーション(有酸素運動を中心とした運動プログラム)を導入し、理学療法を継続した症例を経験したので報告する。本研究の目的は、症例の理学療法を通し癌患者の外来理学療法継続の必要性について検討することである。【方法】症例は外陰部腫瘍の74歳女性で、200X年1月初旬に外陰部腫瘍摘出・両側鼠径リンパ節郭清・腹直筋皮弁形成術、同月末に両側鼠径部デブリードマンを施行されている。術後にリハビリテーションを開始し、ADL自立し2月上旬に退院した後も外来にて7ヶ月間理学療法を継続した。理学療法開始時は、術創部である左鼠径部に強い疼痛があり(Visual analogue scale以下、VAS:10点)、左股関節伸展-15度、筋力は股関節周囲筋MMT3で腹筋MMT2であった。立位歩行時は体幹前傾位で、10m歩行速度は9秒82と低下していた。ADLは移乗・移動に時間を要し、FIM115点であった。理学療法実施期間は術後~外来継続1ヵ月後の短期運動期(1期)と外来継続1ヶ月後~6ヶ月後の長期運動期(2期)とに分けて実施した。1期では、医師の指示の下に創離開、腹壁ヘルニア、腰痛といった合併症に留意しながら関節可動域運動、ストレッチ、筋力増強運動、リンパマッサージを段階的に実施し、疼痛や創部を配慮した動作指導を併行した。2期では、ストレングスエルゴを用いたフィジカルリハビリテーションを導入した。ストレングスエルゴは週に1回、5Wの負荷量で5分間施行し、Borgスケール(自覚的運動強度)に合わせて徐々に負荷量と持続運動時間を延ばした。自主トレーニングとしてはストレッチと15分程度のウォーキングを指導した。自主トレーニングは1日1回とし、身体活動記録票に記録した。全体を通し本人の自覚症状や訴えを傾聴するように努め、効果や改善点を定期的にフィードバックした。両期での身体状態、拡大ADL及び易疲労性状態を評価し、2期前後のQOL(健康医療評価研究機構 iHope・健康関連QOL)と活動(社 日本理学療法士協会・E-SAS)を比較検討した。【説明と同意】担当医からの病状説明と共に研究の目的、必要性を説明し同意を得た。【結果】1期:違和感残存するものの左鼠径部痛は消失(VAS:0)し、左股関節伸展25度、筋力は股関節周囲筋MMT5で腹筋はMMT4、ADLは全て自立しFIM126点となった。立位歩行は体幹伸展位にて可能となったが歩行速度は9秒31に留まった。また、家事は休憩が必要であり、買い物も困難で易疲労状態が残存した。2期:フィジカルリハビリテーション導入前(以下、導入前)と導入6ヶ月後(以下、導入後)の結果を以下に示す。膝関節伸展筋力 右/左(ANIMA社製・等尺性筋力計ミュータス)は導入前8.8kgf/6.3kgf、導入後12.5kgf/14.6kgf。10m歩行速度は導入前9秒31、導入後8秒36。耐久性はストレングスエルゴの負荷量、駆動時間、Borgスケールの順に導入前は5W、5分間、13。導入後は15W、20分間、13。健康関連QOL(最高点9点)は導入前22点、導入後27点。活動は、生活の広がり(120点満点)が導入前52点、導入後54点。ころばない自信(40点満点)は導入前33点、導入後38点。歩くチカラ(Time Up & Go Test)は導入前10秒03、導入後7秒08。拡大ADLは家事・買い物・近位外出が可能となった。【考察】腹直筋皮弁形成術後は一般的に創離開、腹壁ヘルニア、腰痛などの合併症が生じるといわれている。今回、医師と連携し段階的に理学療法実施したことで、合併症なく体幹と股関節の可動域制限や筋力低下を改善させ、ADL自立に至ったと考える。また、フィジカルリハビリテーション導入し6ヶ月間理学療法を継続した結果、筋力や歩行速度と耐久性は向上し、E-SASに改善が認められた。外来理学療法として、ストレングスエルゴに加えて簡便で身近なウォーキングを用いたこと、運動時間や負荷量増加といった効果を定期的にフィードバックしたことにより、症例の訓練に対するモチベーションや運動継続につながり、有酸素運動の長期効果に有効に働いたと推察する。一方拡大ADLは改善したが、健康関連QOL評価としては数値には改善は示されなかった。しかし、生活の自信や満足度の点では良い効果が示された。【理学療法学研究としての意義】癌患者の理学療法はADL自立にて退院と同時に終了となることが多い。しかし、本症例のようにADLが自立していても活動やQOLが著しく低下していることがあり、このような患者に対して外来理学療法の必要性が示唆された。今後、癌患者の理学療法の発展を考える上で、外来理学療法の継続を視野に入れた取り組みを行っていきたい。
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© 2010 日本理学療法士協会
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