理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Sh2-005
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主題演題
筋電気刺激併用荷重立位周期的水平揺動による後期高齢者への運動効果
梅居 洋史河村 顕治酒井 孝文山下 智徳
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抄録
【目的】超高齢社会を迎えて介護予防や転倒予防を目的とした筋力増強が重要とされている。これまでに健常成人女性や前十字靭帯再建術後患者において前後揺動刺激と筋電気刺激を併用したトレーニングを行い著明な下肢筋力増強効果を認めた。この方法は低負荷であるため一般的な筋力トレーニングが困難な高齢者でも有効と考える。本研究では、揺動刺激と筋電気刺激を併用したトレーニング法の高齢者への運動効果の検討を行うことを目的とした。

【方法】対象は老人ホーム入居中の後期高齢女性10名で日常生活自立度J1からA1の者とした。年齢は87.9±5歳で体重は49.3±9.4kgであった。その内6名をトレーニング群(以下T群)、4名をコントロール群(以下C群)とした。トレーニングには電気刺激併用型水平揺動装置(オージー技研、特注)を使用した。高齢者における実験の安全性に配慮して、転倒防止ハーネスと緊急停止装置を設置した。揺動装置の搭乗板上で立位保持し、電極を大腿部前面、後面に貼り、搭乗板が前方に揺れた時に大腿四頭筋に低周波が流れ、後方に揺れた時にハムストリングに低周波が流れる設定にした。揺動の揺れ幅は前後80mmで揺動の速度は1~3Hzとし、電気刺激の強度は被験者の耐えられる最大刺激とした。1回のトレーニング時間は約20分で、週3回の頻度で3ヵ月間行った。運動効果の測定は、等尺性膝屈曲筋力、等尺性膝伸展筋力、closed kinetic chain(以下CKC)の脚伸展筋力、5m最大歩行速度(maximum walking speed;以下5mMWS)、Functional Reach(以下FR)、Timed Up and Go test(以下TUG)を研究開始前、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後に行った。筋力の測定はIsoforce GT-330(オージー技研)を使用した。そして、各測定項目の研究開始前の値を100%としてそれぞれ1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後での測定値を算出し、C群、T群ごとの平均値と標準偏差を求めた。統計処理にはSPSS16.0を使用し二元配置分散分析、多重比較検定(Scheffe法)を行った。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】本研究は吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規程、「ヘルシンキ宣言」あるいは「臨床研究に関する倫理指針」に従う。また、吉備国際大学倫理審査委員会に申請し審査を経て承認を得た(吉備国際大学倫理審査委員会 受理番号:08-13)。対象者に対し「臨床研究説明書と同意書」により研究の意義、目的、不利益および危険性、口頭による同意の撤回が可能であることなどについて口頭および書類で十分に説明し、自由意思による参加の同意を同意書に署名を得て実施した。また、データの収集、分析、公表では個人情報が特定出来ないように匿名化を行った。

【結果】等尺性膝屈曲筋力は、3ヵ月間のトレーニングではT群151.8±43.8%でT群にのみ有意な増加を認めた。等尺性膝伸展筋力は、3ヵ月間ではT群145.2±31.9%でT群にのみ有意な増加を認めた。CKCの脚伸展筋力は、T群171.7±75.2%、C群91.9±9.5%でどちらも3ヵ月間の有意差は認めなかった。5mMWSは、3ヵ月間ではT群78.7±8.3%でT群にのみ有意な減少を認めた。FRは、3ヵ月間ではT群221.6±71.7%でT群にのみ有意な増加を認めた。TUGは、3ヵ月間ではT群74.6±14.8%でT群にのみ有意な減少を認めた。本実験の全経過を通して転倒事故や膝痛などの訴えを認めた症例はいなかった。

【考察】荷重立位では抗重力メカニズムで筋肉が能動的に活動するため、それに逆リクルートメント特性を持つ電気刺激を併用するとそれぞれの刺激が単独では低負荷であっても相乗効果で、効率的な筋力増強効果が期待できる。T群は膝屈曲および伸展筋力の有意な増加を認め、脚伸展筋力においても増加傾向を認めた。さらに5mMWS、TUGにおいて有意な時間短縮が認められ、歩行能力やバランス能力にも効果があることが示唆された。これは最大歩行速度やバランス能力が下肢筋力との関連が強いことによると考えられる。したがって、高齢者における筋力、歩行能力改善や転倒防止において本法の有効性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】従来、低周波などの電気刺激は物理療法として利用され、電気刺激単独では筋力増強効果を得ることは困難であった。電気刺激を揺動刺激と同時に行うことで運動療法の補助的手段として応用可能となる。また、高齢者においては若年者の様な高負荷筋力トレーニングを行うことは困難である。そこで、本法が確立されたならば高齢者に対して安全でより効率的な新しい筋力増強の手法が提供できる。
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© 2010 日本理学療法士協会
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