理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-179
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一般演題(口述)
2つの就寝様式による身体機能の比較
布団とベットが起き上がりと立ち上がりに及ぼす影響を中心に
高橋 俊章赤塚 清矢神先 秀人永瀬 外希子真壁 寿藤井 浩美佐藤 寿晃千葉 登後藤 順子大崎 瑞恵熊谷 純日下部 明
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抄録

【目的】日本人の就寝様式は、布団かベットの二通りの形態に大別できる。以前は障害により床から立ち上がることが出来なくなった人がベットを用いることが多かった。しかし近年、住宅の洋式化や下肢への負担軽減等の目的で、健常な高齢者もベットを多く使用している。これまで、布団とベットを使用することで、高齢者の身体機能に及ぼす影響を比較した研究は見あたらない。
そこで、本研究の目的は、地域在住健常高齢者の就寝様式の違いが、起き上がりや立ち上がりを中心とした身体機能に及ぼす影響を検討することである。
【方法】被験者は、日常生活の自立した地域在住高齢者115名(女性79名、男性36名)、年齢は、女性74.9±5.4歳、男性76.4±5.1歳であった。対象者に、就寝スタイル(布団かベット)を尋ねた。測定項目は、背臥位からの起き上がり所要時間、長坐位からの立ち上がり所要時間、長座体前屈、膝ROM、膝筋力、10m歩行(時間、歩数)TUG、FRTの8種目である。起き上がりと立ち上がりは、自由なやり方でできるだけ早く動作してもらうよう指示した。また、動作時に、両手支持、片手支持、手の支持なしを観察し記録した。
統計処理は、布団群とベット群の各測定項目の比較には対応のないt検定、起き上がりと立ち上がり時の手の支持の様式の比較にはχ2適合度検定、また、様式の違いによる各測定項目の比較には一元配置分散分析を用いた。有意水準は5%とした。
【説明と同意】被検者には、本学倫理委員会の承認を受けた後、測定前に研究の目的、方法等について説明し、文書にて同意を得た。
【結果】布団使用者は70名(女性47名、男性23名)、ベッド使用者は45名(女性32名、男性13名)であった。起き上がり所要時間、立ち上がり所要時間は、両群に有意な差はなかった。起き上がりの時の手の支持様式は、ベット群男性は両手支持が有意に多かった。各測定項目について男女別に比較したところ、長座体前屈距離が、ベット群女性は布団群女性に比べて有意に少なかった。
同一寝具使用者内における起き上がり様式の違いによる比較では、布団群において、ROM左屈曲は支持なし<片手支持(p<0.05)、支持なし<両手支持(p<0.05)であった。10m歩行歩数は支持なし>片手支持(p<0.01)であった。立ち上がり様式の違いによる比較では、布団群において、膝伸展筋力は支持なし>両手支持(p<0.05)、片手支持>両手支持(p<0.05)であった。膝屈曲筋力は片手支持>両手支持(p<0.05)であった。立ち上がり秒数は支持なし<両手支持(p<0.01)、片手支持<両手支持(p<0.01)であった。一方、ベット群では、TUGは片手支持<両手支持(p<0.01)、10m歩行時間は片手支持<両手支持(p<0.01)、10m歩数は片手支持<両手支持(p<0.05)であった。
起き上がりと立ち上がり動作における上肢の使用パターンを基準とした比較では、両手支持で起き上がりを行う被験者において、布団群の方がベット群より、長座体前屈距離が有意に大きかった(p<0.05)。同様に、両手支持で立ち上がりを行う被験者の比較では、布団群の方がベット群より、長座体前屈で有意に大きな値を示した(p<0.05)。片手支持で立ち上がりを行う被験者の比較では、ベット群の方が10m歩行時間が有意に短かった(p<0.05)。
【考察】本研究の地域在住の健常高齢者においては、2群間で起き上がりと立ち上がりともに所要時間に有意な差は見られなかったが、手の支持の様式について特徴が見られた。ベット群では、起き上がりの際に、男性において両手支持が多かったことや、長座体前屈距離が布団群に比べて有意に少ない値を示した。このことは、布団の利用は体幹や股関節の可動性を維持しやすいことを示唆すると考えられた。床からの立ち上がりに際する上肢の使用に関して、布団群では片手支持か両手支持になるかは、膝の筋力の影響を受ける。また、ベット群では、歩行機能とバランス機能から影響を受ける可能性が示唆された。
これらのことから、就寝様式は利用者の生活様式や機能により選択すべきと考えられるが、日本のベットは活動空間が狭く、身体の可動範囲に差が出ることも考えられることから、ベットを選択する場合は、体幹や股関節の可動性の維持を考慮すべきであると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】就寝様式の違いは、多く経験する起居動作の差に繋がる結果、身体機能に差が生じてくる可能性がある。理学療法を行ううえで、このことを考慮することに意義があると考える。今後、疾患を有する人へ対象を広げ、就寝様式の違いによる身体機能を検討したいと考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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