抄録
【目的】
在宅脳卒中患者を対象とした訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション等を実施する上で,患者の身体機能の他,生活機能(IADL能力)や社会的関係等に対する視点は,在宅患者のQOL(Quality of Life)向上をめざした介入方策を検討する上で重要である.
本研究では在宅脳卒中患者における生活機能と社会的関係の関連性について調査した.
【方法】
大分県内の医療機関7ヶ所,老人保健施設4ヵ所,および訪問看護ステーション1ヵ所の計12施設において,外来通院或いはサービス利用した在宅脳卒中患者123名(平均年齢71.9±9.9歳,男性59名,女性64名,発症経過期間は58.4±57.2ヶ月)を対象とした.
調査方法については質問紙法とした.調査内容は患者の生活機能として手段的ADL(Instrumental ADL:以下,IADL)能力,社会的関係の状況として社会的支援や対人交流の頻度について調査した.
IADLの評価については,老研式活動能力指標(以下,IADL得点;0~13点)を用いた.本評価尺度は,手段的自立,知的能動性,社会的役割の3領域の設問群から構成されている.
また,社会的関係については,大友ら(1999)の先行研究を踏まえ「老化に関する縦断的研究マニュアルに基づくソーシャルサポート質問表」を使用した.得点化については,社会的支援(Social Support:SS)に関する状況をSS得点(0~8点),対人交流(Social Network:SN)の量や頻度をSN得点(0~16点)として,それぞれ得点化した.
分析方法については,IADL得点の多寡別に社会的関係を示す各変数(SS得点およびSN得点)を比較すると共に,両者の相関関係を求めた.
また,生活機能(ADL)が社会的関係(SS,SN)へ影響を及ぼすといった多重指標モデルを作成し,そのモデル適合度を共分散構造分析にて検証した.
【説明と同意】
調査実施にあたっては,対象者の十分な同意を得るために調査協力依頼書を作成し,研究の趣旨および内容に対し理解および同意が得られた者を対象とした.
【結果】
1.IADL能力別の比較
SS得点は,IADL低得点群(0~2点)は4.0±2.2点,中得点群(3~10点)は4.1±2.0点,高得点群(11~13点)は4.7±1.7点であったが,各群間で統計学上の有意差は認めなかった.また,SN得点は低得点群5.5±4.1点,中得点群は6.9±3.5点,高得点群は10.0±2.7点と各群間で有意差を認めた(ANOVA F=8.9 p<0.01).
2.IADLとSSおよびSNの関連性
IADL得点とSS得点の2変数間には,相関関係を認めなかった. 一方,IADL得点とSN得点の2変数間については,緩やかであるが統計学上有意な相関関係を認めた(r=0.38 p<0.01).
3.生活機能と社会的関係のモデル
分析モデルの適合度指標としては,TLI(Tucker Lewis index)0.94,CFI(Comparative fit index)0.97,AIC(Akaike’s information criterion)65.8であった.結果,モデル適合度はいずれも許容水準を満たしていた.また,各標準化係数は,IADLからSSは-0.30,IADLからSNは0.71,SSからSNは0.57であった(p<0.05).この事から,生活機能(IADL)が直接的,または間接的に社会的関係(SSおよびSN)に影響を及ぼしいていることが確認された.
【考察】
在宅脳卒中患者においては,IADL能力はSN(対人交流の頻度や量)を介して,間接的にSS(社会的支援)を促進していることが確認された.在宅脳卒中患者に対する在宅サービスにおいては,IADL能力等の生活機能に対して積極的に介入することが,患者の対人交流を促進し,在宅生活をおくる上での支援が得られやすくなる等の患者を取り巻く社会的関係の改善が期待できることが確認された.
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた知見は,地域社会で生活を送っている脳卒中患者に対する訪問リハビリテーション等の理学療法の実施にあたって,有益な知見であると考えられる.
その理由としては,IADL能力を高めるための訪問理学療法サービスが,対象者の対人関係の広がりや生活支援の受けやすさといった患者の社会的関係に対しても,好影響を与えることが確認されたからである.