理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-195
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一般演題(ポスター)
自宅退院後に寝たきりとなる因子の検討
渡邉 基起鹿嶋 秋五佐藤 峰善畠山 和利千田 聡明松永 俊樹島田 洋一
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抄録

【目的】
平成18年度の診療報酬改訂により疾患別リハビリテーションの算定日数上限が設けられた。そのため、リハビリテーション(リハビリ)終了後の自宅での自主運動指導が重要になっている。急性期から在宅までSeamless医療サービスを提供するためには、急性期病院から診療所や施設に至るまで、あらゆる種類の医療・介護機関が密に連携していく必要がある。現代社会における障害の社会的な予後は退院時の身体的機能や認知機能が高い高齢者は在宅に、低い高齢者は転院や介護施設という流れが一般的である。そのために地方連携クリニカルパスを用いることで、質の高いリハビリを提供し、患者様の身体機能の改善・維持を行うことが出来る。しかし、一概的なパスでは対応出来ず、寝たきりとなる患者様もいる。今回、私は退院時に歩行を獲得していたにもかかわらず、数ヵ月後には立ち上がり困難でほぼ寝たきり状態となった症例を数例経験した。本研究の目的は、退院後に寝たきり状態を誘発する影響因子を検討することである。
【方法】
対象は、他医療施設を退院後にほぼ寝たきり状態となった女性20例(以下寝たきり群)で平均年齢は80歳(76~88歳)である。対照群として寝たきりではない女性10例(以下非寝たきり群)平均年齢81歳(80~90歳)を無作為に抽出した。両群は当法人のリハビリを施行した。寝たきり群は歩行を獲得して退院したが、2~3ヵ月後に明らかなADL低下を示し、臥床時間が多くなった群である。評価した項目は、1)年齢、2)下肢の関節可動域、3)膝関節伸展筋力、4)家族構成(世帯数、配偶者の有無)、5)1日の活動量、6)矢田部・ギルフォード性格検査(YGテスト)である。関節可動域の測定部位は股関節屈伸、膝関節屈伸、足関節底背屈とし、膝の筋力はMicroFET2(HOGGAN社製)を用いて測定した。
【説明と同意】
本研究では、世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した。
【結果】
関節可動域で制限のあったものは、寝たきり群で股関節伸展で-15~10°(平均-3.3)、膝関節伸展-10~0°(平均-5.25)、足関節背屈0~25°(平均11.8)であり、非寝たきり群では股関節伸展で-10~10°(平均-2.5)、膝関節伸展で-10~0°(平均-3)、足関節背屈で15~25°(平均21)であった。筋力は寝たきり群で平均72.5Nm、非寝たきり群で平均168.3Nmであり、有意な差を認めた(p<0.01)。家族構成は寝たきり群では平均2世帯で配偶者有りが45%を占め、非寝たきり群では平均1.4世帯で配偶者有りが50%を占め、世帯数に有意な差を認めた(p<0.05)。1日の活動量は寝たきり群で平均6.3時間、非寝たきり群で平均12時間であり、有意な差を認めた(p<0.01)。何故活動量が低下したのか症例の主観を尋ねると、「やっと退院できたから、少しの間は家でゆっくりしようと思っていた」、「隣人と家が離れている」、「家事は家族がやってくれる」という意見があった。YGテストにおける各項目の平均点は、寝たきり群ではI(14.5)、N(14.3)、O(12.8)、の項目が標準点4であり、Co(15.0)の項目が標準点5であった。また、非寝たきり群ではD(4.4)、C(5.4)、N(7.0)が標準点2であり、T(12.7)が標準点4であった。この寝たきり群におけるCo値は、有意な差を認めた(p<0.05)。
【考察】
結果から、今回の対象者が寝たきり状態になった影響因子は、1)YGテストにおけるCoが高得点、2)2世帯以上というICFにおける環境因子、個人因子が深く関わっていることが考えられる。YGテストにおけるCoは非協調的、内閉的傾向という性格である。本研究では、対象者の数がまだまだ少ないため、今回の結果のみで寝たきりになった要因を結びつけることは出来ない。しかし、退院時には身体的機能や認知機能が高く、在宅復帰が可能となったにも関わらず、機能低下が起こる症例も少なからず存在する。そのため、退院時の申し送りにはYGテストの結果や家族構成の情報(2世帯以上など)を伝達するべきであると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より、リハビリを行う際に、入院時の経過や退院時の身体的機能のみではなく、ICFにおける環境因子や個人因子に関する評価も重要であることがわかった。そのため、退院時の申し送りにはYGテストや世帯数などの情報も伝達することで、さらに高いレベルのSeamless医療を提供することが可能となる。今後このような地方連携クリニカルパスに適応できない例も事前に予測し、対応することが可能となり得る。

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© 2010 日本理学療法士協会
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