理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-216
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一般演題(ポスター)
当院入院患者の転倒実態調査
都築 宏正佐伯 香菜木口 大輔林 美里田内 秀樹鴻上 繁平井 覚
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抄録
【目的】医療事故の中でも転倒事故は骨折や脳外傷などの重大な傷害に繋がる可能性が高く,転倒を予防する対策が必要である.近年,当院では転倒患者が増加の傾向にあり重要な問題になってきている.今回我々は入院患者の転倒事故にどのような傾向が見られるか実態調査を行い,急性期病院に求められる転倒予防対策について検討した.

【方法】対象は2009年3月から2009年5月までの3ヶ月間に当院入院中に転倒した患者とし,小児は対象外とした.調査は転倒時に提出されるインシデントレポートより行った.調査項目は,年齢,性別,発生時期,発生時間,発生場所,転倒既往,精神状態,性格,運動機能障害,移動レベル,転倒時の介助者の有無,転倒動作,行動のきっかけ,履物の14項目とし分析を行なった.

【説明と同意】本研究を行うにあたり,院内倫理委員会の承認を得た.データ処理に関しては各個人が特定できないよう配慮し,インシデントレポートおよび入院カルテから必要な情報のみを抽出した.

【結果】調査期間中の転倒件数は延べ102件,転倒人数は89名,性別は男性47名,女性42名,そのうち複数回転倒者は11名(12%),年齢は21~91歳(中央値73歳)であった.発生時期は入院2週以内(53%)に多く,発生時間は23時~7時(45%)の時間帯に多かった.発生場所は病室内(71%)が最も多く,転倒既往は50%に認めた.精神状態は,理解力低下・見当識障害が44%を占め,認知症状は6%であった.運動機能障害は筋力低下が39%,ふらつきが31%に認められ,移動レベルは車椅子40%,独歩38%であった.転倒時の介助者の有無では,介助者有りは11%認め,そのうち病院スタッフが7%,家族が4%であった.行動のきっかけは排泄が52%を占め,転倒時の履物はスリッパが65%を占めていた.発生時間と行動のきっかけの関係では,23時~7時の時間帯は排泄による転倒が77%と最も多く占めていた.また,複数回転倒者の66%に何らかの精神状態の異常を認めた.

【考察】急性期病院では入院患者の高齢化が進み,かつ平均在院日数の短縮により重症患者の割合が増加し,転倒のリスクは高まる一方である.よって,入院患者の転倒要因を明らかにし,転倒予防対策を行っていくことが急務である.今回の調査では,転倒状況と転倒要因として,年齢,発生時間,場所,筋力低下,理解力低下,見当識障害,転倒既往が挙げられ,これらは先行研究を支持するものであった.加藤ら(2000)は,老人保健施設での転倒患者は一般病院と比べ認知症,車椅子使用者が多いと報告し,田中ら(2005)は,回復期病棟の転倒要因として年齢,感覚障害,運動機能障害を挙げている.また杉山(2005)は,急性期病院の転倒は様々な要因が絡み合って発生すると報告している.このように施設内容により転倒要因は大きく異なるため,各施設に応じた転倒予防対策が必要であると考えられる.急性期病院である当院は多くの診療科を有し,入院患者の転倒要因も多岐にわたる.したがって,転倒要因を把握していくためにも,医師・看護師・薬剤師・理学療法士等による多職種の多角的な視点が必要であると思われる.今後データを蓄積し,非転倒者のデータと比較することで急性期病院の転倒要因が明確となり,これが転倒予防や減少に繋がると考えられる.

【理学療法学研究としての意義】現在,入院高齢者の転倒予防効果を認めた研究は少ないが,Hainesら(2004)は運動プログラムを含んだ多因子介入プログラムの導入により転倒率が減少したことを報告している.今回の調査において,転倒者の多くに筋力低下やふらつきが認められ、転倒時に介助者有りが11%認められた.これは、転倒予防を行っていくにあたり,専門的な視点をもつ理学療法士が介入していくことが重要といえる.
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© 2010 日本理学療法士協会
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