理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: Se2-062
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専門領域別演題
軟部組織硬度と関節可動域に対する超音波療法の効果
単盲検プラセボ試験による検討
森下 勝行烏野 大藤原 孝之藤本 哲也阿部 康次
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抄録

【目的】超音波(US)療法が生体に与える作用として,組織温の上昇,局所循環の促進,コラーゲン線維の伸張性増加,細胞膜透過性の亢進などがあり,疼痛や関節拘縮の改善に有効とされている.しかし,疼痛や関節可動域(ROM)制限の要因の1つである軟部組織硬度(STH)について客観的な指標を用いて検討した報告は見当たらない.STHとは軟部組織の硬さを意味し,その異常は筋硬結や筋スパズムなどの原因となり疼痛を惹起しADL制限の誘因となる.このため,筋硬結や筋スパズムなどに対する理学療法ではSTHの評価は重要である.しかし,臨床では触診による主観的評価が中心であり,治療効果判定としての客観性に乏しいのが現状である.また,筋硬結や筋スパズムなどによる疼痛は安静時のみだけではなく筋に負荷が加わる運動時に多く認められる.このため,STHによる治療効果判定は安静時のみだけでは不十分であり自動運動による運動負荷時の評価も重要である.本研究の目的は,US療法が安静時と運動負荷時のSTHと自動ROMに与える影響について定量的に検討することである.

【方法】対象は,健常成人男性20名(年齢20~35歳,身長174.1±5.8cm,体重67.8±6.8kg,BMI22.3±1.4)とした.施行条件は(1)US照射,(2)プラセボ照射(無出力),(3)コントロール(安静)の3条件とし比較検討した.なお,施行順序は無作為化した.測定項目は,安静時と運動負荷時のSTHと皮膚温度(ST),頚部側屈の自動ROMとし,それぞれ軟部組織硬度計(ACP社製)と放射温度計(TASCO社製),デジタル傾斜計(SATOSHOUJI社製)を用い計測した.測定部位は僧帽筋上部線維とした.超音波は超音波治療器(EU-940伊藤超短波社製,ビーム不均等率3.5:1,有効照射面積6.0cm2)を用いた.照射条件は,周波数3MHz,強度1W/cm2,照射時間率100%,有効照射面積の2倍の範囲をストローク法にて10分間照射した.測定肢位およびUS照射肢位は両上肢を両大腿上に乗せた自然な起座位にて行った.実験プロトコールは,測定開始時(T1),US直前(T2),US直後(T3),US後10分(T4),US後20分(T5)とし,US照射10分間を含めた前後40分間を10分間隔で計測した.統計学的検討は,反復測定による二元配置分散分析後に多重比較(Dunnett法)を行い,有意水準は5%未満とした.

【説明と同意】本研究は,郡山健康科学専門学校研究倫理委員会の承認を得て行われた研究である.対象者には本研究の趣旨を口頭および書面で説明し同意を得た.

【結果】反復測定による二元配置分散分析の結果,各項目に関してUS照射とプラセボ照射およびコントロールの3条件の間に有意な変化のパターンを示した(p<0.01).Dunnett法による多重比較の結果では,US照射の安静時と運動負荷時のSTHはT1に比べT3~5(照射後)で有意に低下したが(p<0.01),プラセボ照射とコントロールには有意な変化は認めなかった.US照射のSTはT1に比べT3~4で有意な上昇を示したが(p<0.01),T5では下降傾向にあった(p<0.05).一方,プラセボ照射ではT1に比べ照射後で有意に下降し(p<0.01),コントロールには有意な変化は認めなかった.US照射の自動ROMはT1に比べ照射後で有意に拡大したが(p<0.01),プラセボ照射とコントロールには有意な変化は認めなかった.

【考察】USは筋の粘弾性に影響し安静時と運動負荷時のSTHを低下させ,自動ROMを拡大させる効果があることが示唆された.本研究では健常成人を対象としているが,筋硬結や筋スパズムなどで疼痛を有する症例においては,運動負荷時のSTHの低下は自動運動を円滑としパフォーマンスの向上に&#32363;がる可能性があるものと考えられる.各項目の持続的効果の関連性では,STH低下と自動ROM拡大はUS照射後20分間にわたり維持したが,STは下降する傾向を示した.STHの持続的効果は,USの温熱効果に加え機械的振動刺激から得られる非温熱効果が筋粘弾性に直接的に作用した結果と考えられる.自動ROMでは,STHの低下に加え感覚閾値の影響が関与したものと推察される.これらから,ROM拡大に対するアプローチはUS照射直後から20分間に行われることが効果的であり推奨されるものと考えられる.今後は,USが感覚閾値に与える影響についての検討やパルス照射および各種温熱療法との比較検討を行う予定である.

【理学療法学研究としての意義】本研究により,US療法は可及的にROM制限を改善させ自動運動の向上に寄与する有効な治療法としての可能性が示唆された.臨床応用では,従来からの徒手療法や運動療法に加えUS療法を効果的に併用させることにより,更なる疼痛緩和やROM拡大,治療期間の短縮などが期待できるものと考えられる.本研究により,US療法はSTH低下とROM拡大に対するアプローチとしての有用性が高いことが明らかになった.

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© 2010 日本理学療法士協会
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