理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-303
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一般演題(ポスター)
温熱刺激および振動刺激の効果特性
神経生理学的検討
中林 紘二兒玉 隆之水野 健太郎中村 浩一甲斐 尚仁福良 剛志
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キーワード: 温熱刺激, 振動刺激, H反射
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抄録

【目的】
物理療法の基本的要素の一つである温熱刺激は古くから痛みや痙縮の軽減を目的に行われてきた。近年、振動刺激による痛みの軽減や筋緊張抑制効果が報告され、ROM制限に対する治療として臨床応用されている(中野ら 2004)。そこで、本研究は、温熱刺激と振動刺激が骨格筋に及ぼす影響について、神経生理学的に検討を行い、臨床における物理療法の有効性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は、下肢に神経障害の既往のない健常成人男性46名(年齢21.9±3.5歳)。被験部位は左下肢46肢とした。すべての被験者に対して、物理療法としての温熱刺激条件と振動刺激条件を実施した。温熱刺激は、OGパックス(オージー技研株式会社製)を用い、左下腿後面部を中心に覆うように設置し10分間施行した。振動刺激は、Handy Vibe(大東電気工業製)を用い、左アキレス腱部に3分間施行した。物理療法の効果判定については、VikingSelect(Nicolet社製)を用いてM波およびH波の測定を行った。測定時期は、物理療法実施前、物理療法実施直後、1分後、2分後、3分後とした。尚、order effectを考慮し、温熱刺激条件と振動刺激条件の順は交互に行った。治療肢位および測定肢位は腹臥位で、膝関節30°屈曲位、足関節0°底屈位とした。すべての被験者は、ベッド上腹臥位にて5分間の安静を行った後、測定を開始した。電極は、腓腹筋遠位部にあるヒラメ筋部およびアキレス腱外側部に貼付した。測定項目として、M波の波形潜時および最大振幅、H波の波形潜時および最大振幅、最大振幅比(H max / M max)を算出した。それぞれの結果に関して、一元配置分散分析および多重比較検定(Fisher’s PLSD)を用いて温熱刺激条件内および振動療法条件内での測定時期間の比較検討を行った。温熱刺激条件と振動刺激条件の比較検討には二元配置分散分析および多重比較検定を行い、治療効果の判定を行った。
【説明と同意】
すべての被験者に対して、ヘルシンキ宣言に基づいて紙面上および口頭による説明を行い、同意および承諾を得た。
【結果】
温熱刺激条件では、H波の最大振幅および最大振幅比(H max / M max)は、実施前に比較し実施直後、実施1分後は有意に減少していた(p<0.05)。M波およびH波の波形潜時、M波の最大振幅に有意差を認めなかった。
振動刺激条件では、H波の最大振幅および最大振幅比(H max / M max)は、実施前に比較し実施直後は有意に減少していた(p<0.05)。実施直後に比較し、1分後、2分後および3分後は有意に増加していた(p<0.05)。M波およびH波の波形潜時、M波の最大振幅に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では、物理療法の効果判定を、M波およびH波を用いて神経生理学的に行った。温熱刺激条件では、実施直後および実施1分後にH波の最大振幅および最大振幅比(H max / M max)の減少を認めた。振動刺激条件では、実施直後にH波の最大振幅および最大振幅比(H max / M max)の減少を認めた。H波の最大振幅は、脊髄運動細胞の興奮性を表す代表的な指標であり、また、脊髄運動細胞の興奮性増大は筋緊張亢進の主要因として知られている。つまり、H波最大振幅の減少は、筋緊張の抑制を示唆するものである。また、最大振幅比(H max / M max)は、運動ニューロンプールの興奮性を示し痙縮状態では増強するとされている。以上より、温熱刺激および振動刺激には、骨格筋の筋緊張を抑制する効果を認め、その効果発現には特性があると考えられる。神経生理学的に骨格筋の筋緊張抑制を考慮した場合、臨床においては、それぞれの効果特性を考慮し施行することが必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床的に効果が認められていた温熱刺激および振動刺激の効果特性を神経生理学的に明らかにできたことは、理学療法学研究上、有意義であると考える。

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© 2010 日本理学療法士協会
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