理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-325
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一般演題(ポスター)
コーチングを利用した療法士教育が当院の臨床実習教育システムに与えた影響
大久保 秀雄山口 真人
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抄録

【目的】当リハビリテーション部(以下、リハ部)では、H18 年より療法士の増員により40名を超える部署になるに伴い、療法士全体における質をいかに向上させるかが逼迫の課題となってきた。その背景には、以下に掲げる問題があった。即ち、療法士の経験年数からみた構成がバランスを欠き(H18年度においては、経験年数1~2年の療法士が4年以上の療法士に比べて四倍となった)、療法士間における十分な信頼関係が築けなかった結果、H18年度末において離職率が上がったこと、さらにはそれと関連して、臨床実習生の受け入れ体制において効率的なシステム構築できなかったことである。こういった事情を踏まえ、H19年より療法士教育においてコーチング技法を取り入れたことにより、H20~21年度において離職率を低下させることができたとともに、臨床実習生の受け入れにおいても効率的なシステムを構築することができたので、考察を加えて報告する。
【対象および方法】対象は、H18年4月からH21年4月の期間にリハ部に所属し、調査期間中に退職したものも含む全ての療法士(H18年度45名、H19年度39名、H20年度42名、H21年度52名)及び同時期に臨床実習をした学生であった。方法は、教育担当療法士(H18年度はゼロ、H19年度6名、H20~21年度9名)がコーチングに関する勉強会を行った後、各々に割り当てられた若手療法士を指導した。その指導内容は、コーチング技法の中核を成す以下の六つの技法に絞った。即ち、(1)傾聴、(2)具体的な指導(3)指導内容を絞る、(4)技術指導においては興味・関心を持たせ、気付かせるために教育担当療法士がしてみせる、(5)不得意なことは無理にさせない、(6)アドバイスしない、であった。
【説明と同意】本研究は実施計画をスタッフに口頭で説明し、同意を得た。
【結果】離職率は、H18年4月からH19年3月までの期間では20%、H19年4月からH20年3月までの期間では15%、H20年4月からH21年3月までの期間では4%、H21年4月からH22年3月までの期間では1%であった。
臨床実習生の受け入れにおいても、当院では1クールに12~15名の臨床実習生(以下、PTS)を受け入れている。しかし、H18~19年度においてはスーパーバイザー(以下、SV)とケースバイザー(以下、CV)の担当病棟が異なっていたために、PTSを指導する上でSVがCVと臨床実習生とを指導及び管理することにおいて非効率的であった。しかし、H20年度には、コーチング技法を活用したことにより、一つの病棟に2~3名の理学療法士を配置し、同病棟においてSVがCVとコミュニケーションを頻繁にとることが可能になった。その結果、病棟ごとにPTSを配置することが可能となり、同病棟においてSVがCVとPTSとを指導及び管理することができるようになり、臨床業務及び事務作業上の効率も改善した。
【考察】リハ部では病棟リハを中心に行っているが、そのため、特にH18年度とコーチング導入を開始したH19年度では先輩療法士が後輩療法士の臨床現場での状況を把握できない、コミュニケーションが円滑に行えないといった問題点があった。その結果、後輩療法士に対する意見の押し付けなどにより、彼らの自発的な向上心を導き出せずに孤立感を深めさせてしまったり、さらには先輩療法士においても、後輩に対する指導が上手く行えないためにいたずらに時間を消費してしまうことで仕事量の許容範囲を超え、業務に集中できないといった弊害が生じ、そういったことが療法士の離職率を高くした一因になったと考えられる。H20~21年度においては、教育部を立ち上げて、指導法が理想的な形で統一され始めた結果、各々の療法士の状況を把握することが可能となり、それに応じた判断を療法士自身に任せられるようになったことで、彼らに責任感が生まれる同時に自主性が高められたことで療法士自身が自分の役割を自覚できるようになった結果、業務におけるやりがいが増して離職率が低下したと考えられる。さらには、そのことがCVの育成にもつながり、臨床実習生の指導においても効果が上がったと考えられる。今回の研究により、コーチング技法がスタッフの役割を自覚させ、快適な職場つくりに有用であることが示唆された。今後は、教育システムをさらに充実させることにより、知識だけでなく、いわゆる“エビデンス”に必ずしも基づかない臨床において有意義な技術の伝授についての指導についても検討し、個々の療法士の力量をリハビリテーション部全体の質の向上に役立てられる職場づくりを目指したい。
【理学療法学研究としての意義】本研究は、療法士教育における方法としてコーチング技法を取り入れたことによって得られる効果的な指導方法について明らかにすることである。

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© 2010 日本理学療法士協会
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