理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-004
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口述発表(一般)
関節軟骨に対する低出力超音波パルスの即時効果
伊藤 明良三浦 美樹子青山 朋樹土本 浩司橋本 幸次郎小倉 祥子三井 裕人石橋 誠黒木 裕士
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抄録

【目的】
低出力超音波パルス療法(Low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)は骨形成促進効果を有することから難治性骨折治療にも既に用いられている。関節軟骨に対するLIPUS効果の報告も散見されるが、これらの多くは関節軟骨構成体であるコラーゲンやアグレカン合成等の同化作用に関するもので、関節軟骨破壊などの異化作用に着目した報告はない。本研究の目的は、LIPUSが即時的な関節軟骨破壊抑制(異化抑制)作用を有するかどうかを検証することである。また、理学療法応用への可能性について検討することである。
【方法】
食用に屠殺されたブタ(生後6カ月)大腿骨顆部から、6mm径の関節軟骨プラグを採取した。培養液の入ったディッシュ内で1日培養後、LIPUSを照射した。照射条件は、照射時間20分と60分、照射強度160mWと400mWとし、照射しないコントロール群を含めた5群(各群n=3)で検討を行った。照射後直ちに急速冷凍しmRNAの変性を防止した。5群の関節軟骨プラグからTotal RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを生成した。このcDNAを鋳型とし、異化作用に関与するMMP13(matrix metalloproteinase-13)、MMP1(matrix metalloproteinase-1)、異化抑制作用に関与するTIMP1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)、TIMP2(tissue inhibitor of metalloproteinase-2)、関節軟骨基質であるCol2 (type 2 collagen)とACAN (aggrecan)のmRNAに対する特異的なプライマーをそれぞれ用いて発現量を測定した 。なお、各mRNA発現量はReal-time PCR法により検出し、beta-actin mRNA発現量を内部標準遺伝子として算出した。算出された値は、コントロール群を1とした場合の相対量として示した。
【結果】
MMP13、MMP1のmRNA発現量は、LIPUSを照射していないcontrol群に比べてLIPUS照射60分400mW群において抑制される傾向が認められた(MMP13: 0.27±0.14, MMP1: 0.38±0.07)。TIMP1、TIMP2、Col2、ACANのmRNA発現量は、control群と比べて有意な差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果からLIPUS刺激はMMP13、MMP1などの異化作用促進因子を直接抑制することが示唆された。これはMMPsをタンパク結合で抑制するTIMPの発現を上昇させることや、関節軟骨基質合成を相対的に増加させることで生じるのではなく、LIPUS刺激の初期段階で異化作用抑制効果を有する可能性を示唆する結果である。
近年の研究からは適切なメカニカルストレス(機械的刺激)は関節軟骨においてコラーゲンやアグレカンなどの基質タンパクの合成を促進するだけでなく、MMPsの発現を抑制することが報告されている。適切なメカニカルストレスによるMMPs発現の抑制メカニズムの1つとして、転写共役調節因子であるCITED2の発現量が増加し、MMPsの転写共役活性化因子であるEts-1と競合することでMMPsの発現が抑制されることが考えられている。LIPUSによる刺激も同様なメカニズムが関与している可能性があり、今後明らかにしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
個体発生、成長、形態維持にはメカニカルストレスが重要でありMechanobiologyという研究分野が存在する。理学療法学研究においてもMachanobiologyの要素はその治療の中に取り入れられている。例示すると変形性膝関節症治療における関節への力学的負荷コントロールやアライメント調整、筋力向上による安定性獲得などである。しかしながらこれらは関節軟骨に対する直接作用を目的としたものではなく、これまでにその有効性が組織、細胞、分子レベルで検討されることがなかった。本研究における結果はLIPUSが関節軟骨を標的とした物理療法として有効であることを示すだけでなく、理学療法学におけるMechanobiologyの新しい分野を開く上で重要であると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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