理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
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基礎理学療法
口述発表(一般)
  • 藤田 直人, 近藤 浩代, 永友 文子, 村上 慎一郎, 藤野 英己, 石原 昭彦
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-001
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】糖代謝は主に骨格筋や肝臓において行われている.2型糖尿病の場合,耐糖能の低下とインスリン抵抗性の上昇により骨格筋における糖の取り込みが減少する.インスリン刺激による糖取り込みの75%以上は骨格筋によるものであり,骨格筋でのインスリン感受性の低下は,個体の糖処理に影響する.一方,糖尿病の骨格筋では線維タイプの移行が報告されており,耐糖能の低下やインスリン抵抗性の上昇に大きく関与している.一方,高気圧・高濃度酸素環境へ長期間暴露した足底筋では,酸化系酵素活性が高い遅筋線維の割合が増加すると報告されている.遅筋線維は速筋線維に比べてインスリン感受性が高く,グルコース取り込みが多いことが知られている.長期間の高気圧・高濃度酸素環境への暴露により遅筋線維の割合が増加することは,2型糖尿病患者における糖代謝改善につながると考えられる.本研究では,長期間の高気圧・高濃度酸素環境への暴露による骨格筋の組織化学的変化を糖尿病モデルラットの速筋を用いて検証した.また,酸化的リン酸化反応に関与するコハク酸脱水素酵素(SDH)活性やグルコースの取り込みに関与するとされる骨格筋内毛細血管密度の変化も併せて検証した.

    【方法】インスリン抵抗性の高い2型糖尿病モデル動物として生後5週齢のOLETF雄ラットを用い,そのコントロールには同一週齢のLETO雄ラットを用いた.全てのOLETFラットおよびLETOラットは,通常飼育群と高気圧・高濃度酸素環境へ暴露する群に分けた.高気圧・高濃度酸素環境へ暴露するラットは1.25気圧で酸素濃度を36%に維持した酸素カプセル(動物実験用 Medical O2)に毎日3時間暴露した.22週間の暴露期間終了後に長指伸筋を摘出し,未固定の凍結横断切片を作製し,ATPase染色(pH 4.25)とSDH染色を行い,筋線維タイプ別のSDH酵素活性を測定した.また,アルカリフォスファターゼ染色を行い,筋線維あたりの毛細血管数を算出した.統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い,有意水準は5%未満とした.

    【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した.

    【結果】全ての筋線維タイプにおいて,OLETFラットのSDH酵素活性はLETOラットよりも低値を示した.また,高気圧・高濃度酸素環境に暴露したOLETFラットとLETOラットのSDH酵素活性は,全ての筋線維タイプにおいて,通常飼育群よりも高値を示した.OLETFラットにおける筋線維あたりの毛細血管数は,LETOラットよりも高値を示した.また,OLETFラット,LETOラットともに,高気圧・高濃度酸素環境暴露による筋線維あたりの毛細血管数の変化は認めなかった.

    【考察】2型糖尿病モデル動物であるOLETFラット長指伸筋の全筋線維タイプにおいてSDH酵素活性が低下したが,高気圧・高濃度酸素環境への暴露によって抑制された.先行研究では,高気圧・高濃度酸素環境への暴露は,2型糖尿病モデル動物の成長に伴う血糖値上昇と高インスリン血症を予防したと報告されており,本研究で確認された長指伸筋における遅筋線維割合の増加や酸化系酵素活性値の上昇は糖代謝機能改善に関与した可能性があり,2型糖尿病に対する高気圧・高濃度酸素処方の有効性が示唆された.また,骨格筋内毛細血管密度の変化に関して,OLETFラットはLETOラットに比べて筋線維あたりの毛細血管数の増加を認めた.先行研究において,2型糖尿病の初期過程では狭小毛細血管数が増加するとされており,今回のOLETFラットにおける毛細血管数の増加はこれに相当するものと思われる.本研究では,長指伸筋内の毛細血管に対する高気圧・高濃度酸素による顕著な変化は認められなかったが,アルカリフォスファターゼ染色では毛細血管の狭小化の様な微細な構造変化を検出し難いため,高気圧・高濃度酸素が2型糖尿病の骨格筋内毛細血管に及ぼす効果を検証するには,新たな測定方法の必要性が示唆された.本研究で用いた高気圧・高濃度酸素処方による長指伸筋における酸化系酵素活性値の上昇は,遅筋線維割合の増加によるインスリン受容体とGLUT4の発現量を変化させている可能性があり,更なる検証が必要である.

    【理学療法学研究としての意義】高気圧・高濃度酸素処方は,運動耐容能が低下した虚弱高齢者等においても安全かつ効果的に実施可能であり,2型糖尿病患者に対する理学療法の治療手段を増やすことは意義があると考える.
  • 荒巻 英文, 奥田 裕, 伊藤 俊一, 高柳 清美
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-002
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    近年、骨格筋の伸張刺激による筋肥大効果が報告されており、高齢者の長期臥床による筋萎縮ならびにdeconditioning防止に有用である可能性が示されている。一般に、筋肥大を起こすには1時間以上の伸張刺激が必要と報告されているが、臨床現場では実施することは不可能である。一方、短時間では反復伸張の方が効果的であるとの報告も散見されるが、どれも小動物における検討であり、ヒトにおける報告は見られない。本研究の目的は、骨格筋の反復伸張における筋肥大および筋力増強効果を、ヒトを対象として検証し、運動制御や転倒予防に対して、より効率の良い理学療法実施に関して検討することである。
    【方法】
    対象は下肢に整形外科的疾患、血管病変等の既往がなく、日常的に運動習慣のない健常成人男性20名(平均年齢26.0±6.2歳、身長171.7±6.2cm、体重72.7±18.2kg)とした。対象を無作為に介入群10名、対照群10名に群分けし、研究期間中、運動習慣を変えないよう指示した。介入群は他動的足関節背屈運動を行うために、等速性筋力測定装置(Biodex system 3,Biodex Medical Systems社製:以下Biodex)のダイナモメータに足関節を取り付け、股関節70°、膝関節0°にて足底がフットプレートから離れないよう強固に固定した。足関節角度は、腓骨と第5中足骨のなす角度90°を底背屈0°の中間位と定めた。反復伸張の対象筋は下腿三頭筋とし、対象各々の足関節背屈可動域(自動運動)をBiodexにより2回ずつ測定した。先行研究に準じ、10°/秒で足関節0°から最大背屈可動域まで、他動的反復背屈運動を1分間約15回、1日10分の介入を週3回の頻度で4週間の計12回実施した。反復伸張時には、リラックスして底屈方向への随意収縮を行わないように指導し、Biodexの足関節底屈トルク値を測定し、随意収縮を行っていないことを確認した。介入前後の計2回の下腿三頭筋の最大筋力、足関節背屈可動域(自動運動)、筋形状指標(筋厚、羽状角)を計測した。対照群では伸張を加えず、介入群と同様の計測を行った。測定は全員右側で行った。筋力測定にはBiodexを使用し、足関節筋力測定時の姿勢に準じ、股関節90°、膝関節20°、足関節0°にて等尺性足関節底屈筋力を3回ずつ測定した。筋形状は超音波診断装置(Vivid i CE0344,GE Healthcare社製)Bモード法を使用し、腹臥位で膝関節0°、足関節0°の位置にて各2回測定した。測定部位は先行研究に基づき、下腿長の近位から15%とし、腓腹筋内側頭とした。この部位の短軸の位置は筋の内外側中間位として皮膚上から決定した。筋厚および羽状角は、超音波画像から画像解析ソフト上にある分析ツールを用いて計測した。筋厚は画像中央の表層腱膜と深層腱膜間距離とし、羽状角は表層腱膜と筋束のなす角の平均値とした。筋束長は先行研究に基づき、筋厚と羽状角から次の式、筋束長=筋厚/sinθ(θは羽状角)を用いて算出した。各測定項目の値は全て平均±標準偏差で示した。各筋形状指標間の比較および各最大筋力間の比較には、Wilcoxon t検定を行った。有意水準は5%未満とした。また、各筋形状指標測定の検者内信頼性を級内相関係数ICC(1,1)で算出した。
    【説明と同意】
    埼玉県立大学倫理委員会の承認のもと、対象者には研究内容についての説明を行い、文書での同意を得た。
    【結果】
    筋形状指標測定の級内相関係数は腓腹筋筋厚0.90であり、羽状角0.70であった。介入群の腓腹筋筋厚は平均2.9±2.0mmと有意に増加(p<0.01)し、羽状角は平均3.4±3.0°と有意に増加(p<0.01)したが、対照群では有意な差は認められなかった。筋束長、筋力は両群ともに有意な差は認められなかった。
    【考察】
    今回の測定は、高い信頼性が示された。ヒト下腿三頭筋に対して、反復伸張を1分間約15回(角速度10°/秒)、1日10分間、週3回の頻度にて4週間の計12回実施することにより、筋厚を増加させることが可能と考えられた。しかし、有意な筋力の増加は認められなかったことから、今回得られた筋厚増加は一般的に認められた筋肥大とは異なり、さらに詳細な検証が必要と考えられた。今後、伸張の負荷量、頻度、持続時間、期間をはじめ、筋構成タンパクの増加をRNAの抽出による筋特異的転写因子や筋成長因子の検証など、さらに詳細な検討も必要であると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    ヒト下腿三頭筋の4週間の反復伸張により、筋力増強は伴わないものの筋肥大を生じさせることが可能である可能性が示唆された。
  • 縦断面における筋の部位別検討
    木村 繁文, 山崎 俊明, 稲岡 プレイアデス 千春, 栗山 敬弘
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-003
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】実験動物を用いて廃用性筋萎縮を惹起させた際に,筋の毛細血管数の減少が生じることが報告されており,それに伴う筋血流量の低下,筋代謝の低下が生じることが予測される.それに対して伸張刺激は筋の血流量を増大させることが報告されており,筋代謝の改善が期待できる.これまでの研究において,廃用性筋萎縮とその治療的介入による血流量の変化を,毛細血管数をもとに予測したものは散見されるが,血流量を評価したものは少ない.そこで本研究では近年,骨格筋血流量の評価に有用とされている塩化タリウム‐201トレーサー(201TlCl)を用い,廃用性萎縮筋に対する伸張運動の血流量の影響を筋の部位別に検討すること目的とした.

    【方法】対象は8週齢のWistar系雄ラット(n=39)の右側ヒラメ筋で,これらを対照群(C群:n=10),後肢懸垂により廃用性筋萎縮を惹起する群(HSA群:n=7),後肢懸垂期間中に伸張刺激を加える群(STA群:n=7),後肢懸垂期間終了後,筋摘出直前に伸張刺激を加える群(HSB群:n=7),後肢懸垂,及び伸張刺激期間終了後,筋摘出直前に伸張刺激を加える群(STB群:n=8)の5群に振り分けた.伸張運動はラットの股関節,膝関節を90°に固定し,足関節のみを背屈する装置を作成し実施した.運動は間歇的伸張運動(10秒間足関節背屈位保持後,10秒間底屈位保持)とし,負荷量はラットの体重の50%とした.麻酔下にて1日1回20分間,計10日間実施した.実験期間終了後,体重を測定し麻酔下で201Tlを腹腔内投与し,HSB,STB群は20分間の伸張運動を行った.投与から30分後にラットを安楽死させ,右側ヒラメ筋を摘出し,筋湿重量を測定後,各試料の201Tlの取り込み率を測定した.また筋の近位部(筋長の約25%),筋腹部(筋長の約50%),遠位部(筋長の約75%)の取り込み分布を測定し,筋全体に対する比率を算出した.各群の取り込み率の比較は一元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合にはTukeyの方法による検定を行った.部位別の群間の取り込み分布比,各群の部位間の取り込み分布比の比較は,群間と部位間で二元配置分散分析および,Tukeyの方法による検定を行った.

    【説明と同意】本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:AP‐091481).

    【結果】各群の取り込み率においてC群と比較し,HSA,STA,HSB,STB群は有意に低値を示した.群間と部位間の交互作用は認められなかった.取り込み分布比の部位別の群間での比較では,遠位部においてC群と比較しHSA群は有意に低値を示した.取り込み分布比の各群の部位間の比較においてHSA群,STA群,HSB群の遠位部とHSB群の筋腹部は,各群の近位部と比較し有意に低値を示した.C群,STB群では部位間に有意差は認められなかった.

    【考察】各群の取り込み率の結果において,廃用性萎縮筋に対する我々の伸張刺激方法による平常状態の血流増大効果は認められなかった.また,伸張刺激後に筋を採取した群においても同様に血流量の増大を認めなかった.これについては伸張刺激後の血流増大のピークが筋を採取する以前に生じ,筋採取時には平常状態へと戻っていったことが原因として考えられる.これらのことから,廃用性萎縮筋に対して伸張刺激のみでは平常状態での筋血流量の改善は困難であること,また,廃用性萎縮筋に対する伸張刺激の血流増大効果は長時間持続しないことが推察された.部位別の群間の取り込み分布における,遠位部のC群とHSA群,STA群との比較結果から,廃用性萎縮筋においては遠位部の血流量が相対的に低下し,日常的な伸張刺激により筋の遠位部の相対的な血流低下を完全ではないが抑制することが可能であったことを示している.さらにHSB群,STB群における部位間の比較結果は,日常的に伸張刺激を実施した群と,後肢懸垂のみを実施した群では,単回の伸張刺激後の血流分布が異なり,日常的な伸張刺激により,血流の分布に差がなくなることを示している.以上のことから廃用性萎縮筋への伸張刺激の効果は,筋血流量を増大させることよりも,筋の血流の分布を均一化することにあることが示唆された.

    【理学療法学研究としての意義】まず,従来,臨床における伸張刺激は,関節可動域や軟部組織の柔軟性の改善を目的に実施されることが多いが,本研究では伸張刺激の効果を廃用性筋萎縮の機能改善という視点から介入した点,次に筋萎縮抑制効果に血流量を指標とした点,さらに部位別に評価した点から,本研究結果は,今後の臨床応用の基礎データとして有用であると考える.
  • 伊藤 明良, 三浦 美樹子, 青山 朋樹, 土本 浩司, 橋本 幸次郎, 小倉 祥子, 三井 裕人, 石橋 誠, 黒木 裕士
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-004
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    低出力超音波パルス療法(Low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)は骨形成促進効果を有することから難治性骨折治療にも既に用いられている。関節軟骨に対するLIPUS効果の報告も散見されるが、これらの多くは関節軟骨構成体であるコラーゲンやアグレカン合成等の同化作用に関するもので、関節軟骨破壊などの異化作用に着目した報告はない。本研究の目的は、LIPUSが即時的な関節軟骨破壊抑制(異化抑制)作用を有するかどうかを検証することである。また、理学療法応用への可能性について検討することである。
    【方法】
    食用に屠殺されたブタ(生後6カ月)大腿骨顆部から、6mm径の関節軟骨プラグを採取した。培養液の入ったディッシュ内で1日培養後、LIPUSを照射した。照射条件は、照射時間20分と60分、照射強度160mWと400mWとし、照射しないコントロール群を含めた5群(各群n=3)で検討を行った。照射後直ちに急速冷凍しmRNAの変性を防止した。5群の関節軟骨プラグからTotal RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを生成した。このcDNAを鋳型とし、異化作用に関与するMMP13(matrix metalloproteinase-13)、MMP1(matrix metalloproteinase-1)、異化抑制作用に関与するTIMP1(tissue inhibitor of metalloproteinase-1)、TIMP2(tissue inhibitor of metalloproteinase-2)、関節軟骨基質であるCol2 (type 2 collagen)とACAN (aggrecan)のmRNAに対する特異的なプライマーをそれぞれ用いて発現量を測定した 。なお、各mRNA発現量はReal-time PCR法により検出し、beta-actin mRNA発現量を内部標準遺伝子として算出した。算出された値は、コントロール群を1とした場合の相対量として示した。
    【結果】
    MMP13、MMP1のmRNA発現量は、LIPUSを照射していないcontrol群に比べてLIPUS照射60分400mW群において抑制される傾向が認められた(MMP13: 0.27±0.14, MMP1: 0.38±0.07)。TIMP1、TIMP2、Col2、ACANのmRNA発現量は、control群と比べて有意な差は認められなかった。
    【考察】
    本研究の結果からLIPUS刺激はMMP13、MMP1などの異化作用促進因子を直接抑制することが示唆された。これはMMPsをタンパク結合で抑制するTIMPの発現を上昇させることや、関節軟骨基質合成を相対的に増加させることで生じるのではなく、LIPUS刺激の初期段階で異化作用抑制効果を有する可能性を示唆する結果である。
    近年の研究からは適切なメカニカルストレス(機械的刺激)は関節軟骨においてコラーゲンやアグレカンなどの基質タンパクの合成を促進するだけでなく、MMPsの発現を抑制することが報告されている。適切なメカニカルストレスによるMMPs発現の抑制メカニズムの1つとして、転写共役調節因子であるCITED2の発現量が増加し、MMPsの転写共役活性化因子であるEts-1と競合することでMMPsの発現が抑制されることが考えられている。LIPUSによる刺激も同様なメカニズムが関与している可能性があり、今後明らかにしていく必要がある。
    【理学療法学研究としての意義】
    個体発生、成長、形態維持にはメカニカルストレスが重要でありMechanobiologyという研究分野が存在する。理学療法学研究においてもMachanobiologyの要素はその治療の中に取り入れられている。例示すると変形性膝関節症治療における関節への力学的負荷コントロールやアライメント調整、筋力向上による安定性獲得などである。しかしながらこれらは関節軟骨に対する直接作用を目的としたものではなく、これまでにその有効性が組織、細胞、分子レベルで検討されることがなかった。本研究における結果はLIPUSが関節軟骨を標的とした物理療法として有効であることを示すだけでなく、理学療法学におけるMechanobiologyの新しい分野を開く上で重要であると考える。
  • 橋本 幸次郎, 三井 裕人, 青山 朋樹, 三浦 美樹子, 土本 浩司, 伊藤 明良, 小倉 祥子, 黒木 裕士
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-005
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】膝前十字靱帯損傷と変形性膝関節症(以下OA)発症との関連はこれまでにも報告されているが、前十字靱帯損傷受傷後にどのような機序を経てOAに到るかを解析したものはない。本研究の目的はラット膝前十字靱帯損傷モデルを作成後、トレッドミル走行により定量的な運動を負荷し、簡便な二次元動作解析法と関節可動域測定を用いて実験動物の関節負荷量を推定する方法を検討することで、OA発症機序のシミュレーションを行うことである。

    【方法】実験動物としてWister系雌8週齢ラットを用いた。膝OAモデル群(n=8)とcontrol群(n=3)を設けた。膝OAモデル群は麻酔下で右後肢に前十字靭帯切離手術(以下、ACLT)、左後肢にSham手術(擬似手術)を行った。両群とも麻酔下にてラット左右後肢に赤色油性顔料系インクで5カ所ランドマーク(寛骨結節、大転子、膝関節裂隙、腓骨外果、第五中足骨)を設定した。関節角度測定は、麻酔下にてhip、knee、ankleの各関節最大屈伸時を撮影しimage-J (NIH)のangle toolにて計測した。皮膚上に設けたランドマークの信頼性を検証するために同時に角度計による実測値を測定し比較した。術後3日目以降、両群をトレッドミルにて22~25m/min の中等度負荷速度で走行させ、その様子を左右方向から動画撮影した。動画解析はvirtual dubにて30/secのimage sequence に変換後、1個体当たり10歩行周期を抽出し、image-J のangle toolで経時関節角度変動を計測した。計測結果から角速度、角加速度を算出後、後肢の各セグメント質量と関節軸からセグメント重心までの距離を一定とみなし、両群間の回転トルクを比較した。

    【説明と同意】本研究は所属大学の動物実験委員会の承認を受けて行い、実験動物の飼育、実験は大学の動物実験指針に遵守して行った。

    【結果】ラットの関節可動域を実測値(角度計)と画像上(image-J)で比較した結果、両間に顕著な差はみられなかった。二次元動作解析において、総角度変動域を両群で比較すると、ACLT側 hip 22.2%減少、knee 14.1%増加 、ankle 27.3%増加、Sham側hip 20.2%減少 ankle 12.3%増加していたが(いずれも有意)、Sham側kneeで有意な増減は認められなかった。control群においては立脚期の膝関節屈曲方向の回転トルクに対する制動、いわゆる立脚期中に2度膝が屈伸するdouble knee actionによる制動が認められた。一方膝OA群ACLT側では、立脚期においてこの制動がみられず、足関節による代償運動が観察された。立脚期接地時の膝関節に生じる関節トルクを求めたところ、ACLT群はコントロール群に対して42.8%増加していた。また、1歩行周期に要する時間を比較すると膝OA群Sham側で立脚期(ACLT側遊脚期)が54.2%増加していた。

    【考察】これまで動物実験において疾患モデルの動作解析を行った研究は存在しない。動物実験において疾患モデルを構築することの意義は、運動負荷量を定量化できることや病態進行の変化を定量解析できる。今回の解析で得られたシミュレーションの結果、トルクはACLT群で42.8%増加し、膝関節への負荷量が増加していることは明らかである。また膝OA群の走行特徴は、Sham側の立脚期増加、およびACLT側の足関節総角度変動域の増加によって、ACLT側の膝関節運動を代償している。とくにACLT側で膝関節屈曲方向の回転トルクに対する制動がみられずにdouble knee actionが欠如する点を、足関節運動が27.3%に増加することで代償していることは今回の研究で得た新知見である。今後はラットのリンクモデルを構築し、関節トルクをさらに詳細に推定・定量するのに加え、更に組織学的検討を行うことでOAの発症機序を明らかにする予定である。

    【理学療法学研究としての意義】これまでに前十字靱帯靱帯損傷時における運動負荷が膝OAに及ぼす影響について経時的に、定量評価する方法は存在しない。今回の動物疾患モデルを用いて運動負荷を定量化し、それに伴って変化するバイオメカニクス変化とOA発症機序や初期病態に与える影響を明らかにする事は基礎研究のみならず、臨床現場における運動負荷の方法や量の決定を行ううえでのシミュレーションをする際に重要な知見であると考える。
  • 若年者と高齢者の比較
    坂本 梨花, 羽崎 完
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: OI1-006
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    肋骨は呼吸に伴って運動し,吸気時では上方に,呼気時では下方に回転運動を行う。また,最大吸気時に,脊柱起立筋は脊柱を伸展させ,直接肋骨に作用しないが肋椎関節を介して肋間隙の拡大を起こすとされている。最大呼気時では,腹筋群が脊柱を屈曲させ肋間隙を狭小させる。これらのことから,脊柱の運動と呼吸運動とは関係があると考えられるが,両者の関係は明らかでない。一方,人は加齢に伴い様々な機能が低下するとされる。呼吸機能では,残気量の増加,肺活量の減少,一秒量・一秒率の低下などが見られる。したがって,高齢者の呼吸機能低下が脊柱カーブに何らかの影響を及ぼすことが予測される。しかし、高齢者の呼吸と脊柱カーブの関係も明らかでない。
    本研究の目的は最大呼気・最大吸気時の脊柱カーブの変位を若年者と高齢者で比較し呼吸運動と脊柱カーブの関係を明らかにすることである。
    【方法】
    地方都市在住の健康な高齢者67名(男性21名,女性46名),平均年齢72.6±4.8歳(男性72.1±4.5歳,女性72.8±4.9歳),健康な大学生38名(男性19名,女性19名),平均年齢 20.3±1.1歳(男性20.9±0.8歳,女性19.6±0.9歳)を対象とした。
    被験者は,薄着をさせ,背もたれのない高さ42cmの椅子に骨盤が座面に対し垂直になるように座らせた。そして,安静時・最大吸気時・最大呼気時の脊柱を体表面上より脊柱の各椎体間の角度を測定できるスパイナルマウス(インデックス社製)を用い測定を行った。最大吸気・最大呼気は口頭で指示を行い,最大に動いたところでしばらく息を止めさせ脊柱カーブを測定した。
    解析は,スパイナルマウスにより計測された脊柱カーブの数値のうち,胸椎後彎角(第1胸椎から第12胸椎までの各椎体間角度の総和角度)と腰椎前彎角(第12胸椎から第1仙椎までの各椎体間角度の総和角度)の2つの数値を用いて行った。そして,胸椎後彎角及び腰椎前彎角の最大吸気時から最大呼気時までの変位量,安静時から最大吸気時までの変位量,安静時から最大呼気時までの変位量をそれぞれ求め,Mann-Whitney U検定で高齢者と若年者を比較した。
    【説明と同意】
    各被験者には本実験を行う前に本研究の趣旨を文章ならび口頭で十分に説明した上で,研究参加の同意を得た。
    【結果】
    胸椎後彎角の最大吸気時から最大呼気時までの変位量の50パーセンタル値は,若年者7.0°,高齢者11.0°で高齢者が有意に大きかった(p<0.05)。安静時から最大吸気時までの変位量の50パーセンタイル値は,若年者-4.5°,高齢者-4.0°で有意差はなかった。安静時から最大呼気時までの変位量の50パーセンタイル値は,若年者3.0°,高齢者6.0°で高齢者が有意に大きかった(p<0.01)。
    腰椎前彎角の最大吸気時から最大呼気時までの変位量の50パーセンタイル値は若年者6.0°,高齢者8.0°。安静時から最大吸気時までの変位量の50パーセンタイル値は若年者-3.0°,高齢者-4.0°。安静時から最大呼気時までの変位量の50パーセンタイル値は若年者2.0°,高齢者4.0°で腰椎前彎角のすべての変位量に有意差はなかった。
    【考察】
    結果から高齢者では脊柱を過剰に動かし,若年者では脊柱をほとんど動かさなかった。これは,高齢者は呼吸筋力低下の代償として脊柱を過剰動かしていると考えられ,若年者では体幹筋が安定しているのでほとんど動かさない事がわかった。胸椎後彎角の安静時から最大吸気時までの変位量は,若年者と高齢者で有意差はなかった。一般的に,脊柱の伸展は胸郭を拡大させるとされている。しかし,高齢者は加齢変化により胸腰部の伸展可動域が減少するため,脊柱の伸展による代償が行えなかったと考えられる。安静時から最大呼気時までの変位量は,若年者より高齢者で有意に大きかった。これは一般的に,高齢者では最大吸気筋力及び最大呼気筋力の低下が見られるため,代償として脊柱を屈曲することで,内臓を横隔膜に押し上げ呼気を補強しているのではないかと考える。
    腰椎前彎角のすべての変位量に若年者と高齢者で有意差はなかった。これは,高齢者の多くは骨盤が後傾位にあることが多く,腰部で動こうとしても骨盤の動きが制限されているので有意差がなかったと考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    今回,明らかになった健常高齢者の呼吸運動時の脊柱カーブの特徴は,高齢者の呼吸機能低下に対する治療プログラムを考慮する際の一旦となると考える。
  • 福士 宏紀, 高階 欣晴, 関 公輔
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-007
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】安静直立位から刺激に反応して素早くつま先立ちを行わせると、主動作筋である腓腹筋(以下GC)の放電開始に先行して、前脛骨筋(以下TA)の見こし放電が出現する。この見こし放電は先行随伴性姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustments:以下APAs)と呼ばれている。
    つま先立ち動作におけるAPAsの先行研究では、動作開始時の重心の前方変位が、GCの放電前に認められるTAの見こし放電の時間を短縮させることが分かっている。このことは、重心の移動距離が短く、姿勢調整の必要量も直立位に比べて少ないため、見こし放電の時間が短縮したと考えられている。
    ところで、姿勢制御には身体重心の位置だけではなく、身体体節の相対的位置関係(以下身体アライメント)も大きく関与すると考えられ、APAsについても身体アライメントとの関連性が予測される。しかし身体アライメントを変化させた時に、APAsがどのように調整されるかについては明らかにされていない。
    本研究の目的は、開始姿勢の重心位置を変化させず、身体アライメントのみを変化させた安静立位からのつま先立ち課題におけるTAとGCの筋電図のから、APAsの特徴を明らかにすることである。
    【方法】健常男性10名(平均年齢26.6±3.7歳)を対象とした。計測課題は、音刺激に反応してできるだけ素早く行なうつま先立ちとした。計測する姿勢は、1)直立立位(以下US)、2)股関節を屈曲し骨盤を後方に引いた立位(以下HFS)の2姿勢とした。重心位置を制御するため、足底の圧中心位置をXSENSOR(XSENSOR社製)にてリアルタイムで表示、各姿勢間で圧中心位置が一定になるように調整させた。身体体節の位置は、右上前腸骨棘及び右足関節第5中足骨頭に反射マーカーを貼付し、三次元動作解析装置(VICON MOTION SYSTEMS社製VICON612)を用いて測定した。また床反力作用点(以下COP)の位置は床反力計(Bertec社製)を用いて計測した。筋電図の測定はmyosysytem1200(Noraxon社製)を用いた。電極貼付位置は下野の方法に従い、音刺激に素早く反応した時の右GC内側頭と右TAの筋電図を記録した。それぞれの筋の反応時間(以下RT)を計測し、TAの見越し放電時間は各々のRTの差から算出した。計測はそれぞれ5回ずつ施行し、5回の平均値を個人データとした。統計処理は対応のあるT検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】研究に先立ち、研究の目的や方法、研究への参加により生じる利益や不利益、研究成果などを学会などで公表することなどについて被検者に対し十分に説明し書面にて同意を得た。
    【結果】第5中足骨頭に対する上前腸骨棘のXおよびY座標位置はUSでそれぞれ-48.9±22.3mm、58.7±21.6mm、HFSでそれぞれ-50.9±27.5mm、10.2±37.7mmで、Y座標位置において差が有意であった。COPのXおよびY座標位置はCSでそれぞれ-184.4±15.3mm、41.5±18.1mm、HFSでそれぞれ-188.0±20.9mm、44.8±20.2mmで有意な差は認められなかった。GCのRTはUSで0.50±0.07sec、HFSは0.44±0.09sec で差が有意であった。TAのRTはUSで0.25±0.06sec、HFSは0.21±0.05secで有意な差は認められなかった。TAの見こし放電時間はUSで0.24±0.06sec、HFSは0.19±0.06secで差が有意であった。
    【考察】今回計測した筋電図は、反応刺激の呈示から主動筋の放電開始(GCのRT)までを細分して捉える事ができる。すなわち、反応刺激呈示からTAの見こし放電開始まで(見こし放電潜時)と、TAの見こし放電開始から主動作筋の放電開始(見こし放電時間)である。見こし放電潜時は、刺激を知覚して、適切な姿勢条件を選択、あるいは決断に要する時間(認知要素)と捉えることができ、見こし放電時間は、トリガーされた姿勢信号が発射されている時間(姿勢要素)と捉えることができる(山下,1992)。
    開始姿勢の違いによってGCのRTに差が認められるとすれば、見こし放電潜時(認知要素)と、TAの見こし放電時間(姿勢要素)のどちらか、あるいは、その両者によって差が生じたと解釈できる。今回の結果では、GCのRT に有意な差が認められたが、TAのRT、すなわち見こし放電潜時に有意な差は認められず、見こし放電時間には有意な差が認められた。このことから、開始姿勢の相違が、認知要素ではなく、姿勢要素に影響を与えたと推測でき、身体アライメントがAPAsの調整に影響を及ぼすことが示唆された。
    【理学療法研究としての意義】随意運動において、姿勢の制御が随伴しており、先行する姿勢制御がない限り運動は実行できない。したがって、運動を成立させるためには、姿勢調節との協調が非常に重要である。したがって、APAsの特徴を明らかにすることは、運動と姿勢の相互協調の再構築を図るための介入手法を検討する上で重要な過程と考える。
  • 何をフィードバックし,何をコントロールしているか?
    水澤 一樹, 江原 義弘, 田中 悠也, 古川 勝弥
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-008
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】重心(COG)の真下に足圧中心(COP)が位置するとき立位姿勢は安定する.COGが移動した際には筋活動によってCOPをCOGの真下へ移動しようとする.これがバランス制御である.すなわちCOGに関係する何らかの情報が中枢神経系に入力され,それが処理されて筋活動が出力される.この筋活動がCOPの変化として反映されている.立位姿勢制御において,入力系と出力系の間には神経生理学的な時間差が存在するはずである.しかしこれまで神経生理学的に考えて妥当な時間差を考慮し,どのような入力系によって,どのような出力系が調節されることにより立位姿勢制御が行われているかは明らかにされていなかった.そこで本研究の目的は,神経生理学的に考えて妥当な時間差を考慮し,立位姿勢の制御において何をフィードバック(入力)して,何をコントロール(出力)しているかを明らかにすることである.

    【方法】対象はバランスや歩行に関する既往歴がない健常男性11名とした.赤外線カメラ9台を含む3次元動作解析装置(VICON MX,Oxford Metrics Ltd.)と床反力計(OR6-6-2000,Advanced Mechanical Technology Inc.)2台を使用し,サンプリング周波数100Hzにて立位姿勢保持中の運動学的および運動力学的データを抽出した.統計解析にはCOPとCOG・COG速度・COG加速度・頭部位置・頭部速度・頭部加速度の相互相関関数を求め,各変数がCOPにどの程度先行しているか,相関係数がピーク値を示したTime-Shiftを求めた.さらにCOPの単位時間当たりの増加分(COP速度)とCOG・COG速度・COG加速度・頭部位置・頭部速度・頭部加速度・COPの相互相関関数を求め,各変数がCOP速度にどの程度先行しているか,相関係数がピーク値を示したTime-Shiftを求めた.解析は開眼・閉眼ごとに行い,相互相関関数は対象者ごとに求めた.なお相互相関関数の計算には,Microsoft Office Excel 2007(Microsoft Corp.)による自作プログラムを使用した.

    【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,新潟医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:17042-081203).実験に先立ち,対象者には本研究について十分に説明を行い,書面にて同意を得た.

    【結果】上位中枢を介して運動を制御する場合,刺激(入力)に対して0.2~0.4sの応答(出力)の遅れがあるとされる(猪飼,1961;塚原,1972).COPと各変数間,そしてCOP速度と各変数間における相互相関関数の結果から,0.2~0.4s程度のTime-Shiftをもつ組み合わせを探索した結果,開眼・閉眼においてもCOP速度とCOG加速度(開眼0.33±0.05s;閉眼0.30±0.14s),COP速度と頭部加速度(開眼0.40±0.09s;閉眼0.33±0.08s)の組み合わせが該当した.

    【考察】本研究結果より,静的立位姿勢制御の出力系はこれまで考えられてきたCOPではなくCOP速度であった.つまりCOP位置ではなくCOP速度を調節することでヒトは静的立位姿勢を制御していることが明らかとなった.なお静的立位姿勢の制御における入力系としては,頭部加速度を知覚する前庭系の存在が考えられた.これまで外乱負荷応答において前庭系は,視覚系や体性感覚系などのフィードバック機構よりも影響力は小さいとされてきた.しかし神経生理学的に考えて妥当な時間差を考慮した本研究結果より,外乱の小さい静的立位姿勢においてCOG加速度や頭部加速度といった加速度情報がより有効に利用されていることが明らかとなった.ヒューマノイドロボットを用いた姿勢調節の研究(玄,2009)では,三半規管に相当するジャイロセンサーからのフィードバックを用いて立位姿勢が制御されることが示されており,加速度情報のフィードバック系として三半規管といった前庭系が重要である点は本研究結果からも裏付けられた.なお本研究では健常者を対象としたため,前庭系に異常を有する者を対象とし,本研究結果と比較検討することで,立位姿勢の制御方式をさらに明確にできる可能性がある.

    【理学療法学研究としての意義】理学療法ではバランスの客観的指標として,重心動揺計から得られるCOPを参考にすることが多い.しかし静的立位姿勢制御の出力系はCOP速度であったため,COPよりもCOP速度が静的立位姿勢の評価指標として有用である可能性が考えられる.また静的立位姿勢制御における入力系としては,前庭系がより有効に利用されていることが考えられた.そのため理学療法における治療選択という観点から,バランス障害を有する者に対しては前庭系に対するアプローチが重要であるかもしれない.
  • 平井 達也, 千鳥 司浩
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-009
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    学習を効果的に進めるために,現在の自分の状態を自身でモニターする機能(セルフモニタリング)は必要不可欠なものである.臨床において,パフォーマンスが向上しない症例の中には,自己の学習状況を把握できていない(セルフモニタリングに問題がある)者が存在する. 本研究の目的は,運動学習におけるセルフモニタリングが加齢の影響により低下するかを明らかにすることである.
    【方法】
    対象は,視覚や上肢に問題のない健常若年成人14名(若年群:平均22.8±2.9歳),健常高齢者16名(高齢群:平均71.9±5.9歳)であった.高齢群のMini Mental State Examinationの得点は全て25点以上であった.運動学習課題は,座位にて20cm前方に設置したスタートボタンからその20cm前方に7個×7個で配列されたキーの中央にある標的キーを押すポインティング課題とした.標的キーを押すことができればヒット,標的キー以外のキーを押した場合はエラーとした.フィードバック板(FB板)を参加者の目の前に設置し,全てのキーを視覚確認できないようにした.FB板にはキーの位置に対応した位置にLED(ヒットは緑,エラーは黄と赤)を設置し,視覚的FBとして,キー押し1秒後,1秒間LEDを点灯させた.対象者には課題を通じてできるだけヒットを多くするよう求め,20試行を1ブロックとし,合計10ブロック(200試行)行なった.全試行および各ブロックのヒット率を算出した.セルフモニタリングの測定は,1)事前段階:学習課題の説明後,学習容易性判断(EOL)を「1:とても難しい~5:とても簡単」の5段階で答えるよう求め,2)遂行段階:各ブロックの前に次のブロック(20試行)のヒット率の予測(EOP)を0~100%の10%段階で答えるよう求め(計10回),さらに,3)事後段階:全試行終了後,「どのくらいヒットしたと思うか」という全試行のヒット率の判断(JAT)を%で答えるよう求めた.ヒット率の群間比較をt検定にて行い,EOLの群間比較をMann-Whitney U検定にて行なった.また,予測や判断の正確性を見るために,EOP誤差として各ブロックのEOPからヒット率を減じた値を算出し,年齢×ブロックの二元配置分散分析を行い,JAT誤差として全試行のヒット率を減じた値を算出し群間比較(t検定)を行なった.いずれも有意水準を5%未満とした.
    【説明と同意】
    本研究の主旨と倫理的配慮について説明し署名にて同意を得た.
    【結果】
    全試行における平均ヒット率は,若年群(平均53.4±10.8%)の方が高齢群(平均40.8±17.3%)より有意に高かった.EOLは両群ともに中央値2(やや難しい)であり有意差はなかった.EOP誤差の分散分析の結果,ブロック7(若年群:平均0.4±25.3%,高齢群:平均-21.6±25.7%),ブロック8(若年群:平均-4.6±21.2%,高齢群:平均-23.8±22.0%)では,高齢群の誤差が有意に大きかった. JAT誤差でも若年群(平均-0.5±12.1%)より高齢群(平均-12.3±17.3%)の誤差が有意に大きかった.
    【考察】
    本研究の結果,事前の学習容易性判断(EOL)では両群に違いがなかったにも関わらず,遂行中の予測(EOP),事後の判断(JAT)は両群間に差が見られた.高齢群のEOP,JATは,実際の成績と大きく乖離することが明らかとなり,運動学習におけるセルフモニタリング能力は加齢により低下することが示唆された.NelsonとNarens(1994)は学習活動のプロセスは事前段階→遂行段階→事後段階(→事前段階)と循環し各段階で自己によるモニタリングとコントロールの調整を受け,学習結果に影響を及ぼすとしている.本研究の結果は,高齢者の遂行段階や事後段階におけるモニタリングが適切に行われなかったか,予測が不適切であった結果を反映していると推察された.また,事後段階の判断の低下は,課題遂行中に与えられたFB結果を保持する機能(ワーキングメモリ)の問題であることも考えられた.運動学習中に行なわれるセルフモニタリングは,エラー感受性や身体への注意と関連し,学習の自己調整に影響すると考えられ,今後さらに詳細に検討する必要がある.
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究の結果は,高齢者の学習能力の低下がセルフモニタリング能力と関連している可能性を明らかにし,臨床において高齢患者に適切な学習課題を提供するための一助となり得る.
  • 上原 信太郎, 内藤 栄一
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-010
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    運動は繰り返し行うことで次第に安定化し、それ以降は顕著な向上が見られなくなる。これは運動機能再建を目指すリハビリテーション臨床場面でも多々目にする現象である。では、この段階から脱し、更なる向上を導くにはどのような手段が有効なのだろうか。近年、末梢神経に対する感覚刺激は大脳皮質運動領野の神経活動を修飾し、その結果、運動パフォーマンスを向上させる効果があることが示されている。ただし、通常その介入時間は数十分&#12316;数時間を要しており、臨床的観点からは必ずしも有意義な手段とは言い難い。一方で、筋を運動閾値下の強度で直接刺激した先行研究からは、1分程度の刺激でも十分に運動領野の神経活動を亢進できることが示されており、この直後に運動を行うことで、その運動への恩恵が期待できる。そこで本研究では、まず筋への短時間の感覚刺激が運動領野の神経活動を亢進するかを検証し、さらに刺激介入が安定化した運動に及ぼす効果について行動学的評価を行った。
    【方法】
    実験1:母指球筋に対する90秒の電気的感覚刺激(パルス幅: 250μs、周波数: 100Hz、強度: 運動閾値直下)が、皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響を検証した。健常成人6名、計12手を対象とした。対側一次運動野に磁気刺激コイルを当て、単発刺激による運動誘発電位(MEP)を短母指外転筋(APB)から記録した。磁気刺激強度は安静時運動閾値の130%とした。筋刺激介入前の平均MEP振幅を基準として、刺激後の振幅変化率を求めた。対照条件は、10秒筋刺激、90秒の茎状突起部刺激、刺激なしの3条件とした。実験2:90秒の筋刺激直後に運動課題を行い、刺激介入が安定化した運動に及ぼす効果を検証した。十分な事前練習によって運動が安定した健常成人12名、計24手を対象とした。運動課題には2つの球を掌でできるだけ多く回す巧緻運動課題を用いた。1試行15秒間とし、120秒の試行間隔を取りながら計14試行繰り返し行った。前半の1‐7試行は特別な介入をせず、後半8‐14試行のみ直前に母指球筋に対する90秒間の感覚刺激を施した。母指に取り付けた加速度計のデータから運動周波数と運動変位量を算出し、行動学的変化を評価した。実験3:実験2より、筋刺激の繰り返し介入によるパフォーマンス向上の残存効果が認められたため、より長期的(2週間)介入による日々の学習促進効果を検証した。事前練習により運動が安定した健常成人13名、計26手を対象とした。実験2同様の課題を用い、120秒の試行間隔を取りながら1日に14試行繰り返し課題練習を行った。ただし、1‐5日目は全ての試行で特別な介入をせず、6‐10日目の6‐14試行のみで、直前に90秒母指球筋刺激を行った。
    【説明と同意】
    全ての参加者から実験参加の同意を得られており、独立行政法人情報通信研究機構の倫理委員会が本実験を承認した。実験はヘルシンキ宣言(1975)を遵守して行われた。
    【結果】
    実験1:90秒筋刺激条件のみで、直後のMEP振幅が有意に増加し(p<0.01)、他の条件と比較しても、有意な皮質脊髄路興奮性の増大が認められた(p<0.005)。実験2:入念な事前練習により運動周波数が安定化していた1‐7試行に対して、90秒筋刺激介入を行った8‐14試行では、有意に運動周波数が増加した(p<0.01)。また、この変化に関連して1周期あたりの指変位量が減少することがわかり(p<0.01)、介入後には効率的な運動制御が可能になることが明らかとなった。更にこの効率的制御様式は8‐14試行中維持され、その後介入を辞めても残存した。実験3:1‐5日目に刺激介入なしで練習を継続しても、パフォーマンスの向上(運動周波数の増加)は見られなかった。ところが、運動直前の筋刺激を組み合わせた課題練習を施した6‐10日目の6‐14試行では運動周波数の有意な増加が生じた(p<0.001)。さらに、その効果の一部は翌日まで残存し、刺激介入を行わない翌日の1‐5試行の運動が日々段階的に向上した(p<0.001)。
    【考察】
    末梢筋刺激は、数十秒程度でも、皮質脊髄路の興奮性を増加させうる。このような神経系での変化を運動直前に惹起することによって、その後の運動に恩恵をもたらせうることが示唆された。この効果は、事前練習によりある程度安定化している運動の効率化を促進でき、刺激と運動とを組み合わせて反復練習することで、向上したパフォーマンスを維持しながら、更なる運動学習を促進できる可能性が示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究結果は、安定化した運動を効果的に向上へと導くための介入手法を考える上で有意義な知見であると言える。
  • 河石 優, 安田 夏盛, 福本 貴彦, 森岡 周
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-011
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】ヒトの歩行は常に変化する環境下で行われており、中枢神経系は安定した歩行を維持できるようこれらの環境の変化に適応した運動を制御している。これまで、歩行中の環境の変化に対する運動制御に関する研究は、「床面が滑る」、「床面が沈む」、「押される」などといった環境下で数多く検討されてきた(Marleen H et al.2009; Tamika L et al.2006; Tang et al.1996)。これらの先行研究では、環境が変化した直後の姿勢制御反応を主な調査対象としている。しかし、環境の変化に対する歩行の適応過程を検討する為には、環境が変化する時点の前後での運動制御を、時系列に追って検討する必要がある。
    本研究では、床面の素材が途中で変化する特殊な歩行路上を歩行中の下肢の筋活動、関節運動を測定し、環境の変化に対する歩行の適応過程を検討した。

    【方法】対象は健常成人10名(平均年齢24.2±1.4)とした。歩行路は、床面の素材が途中で木製からスポンジ製に変化するものとし、全体に布を被せ、その変化が視覚的に確認できないようにした。測定は被験者が一定の歩幅で歩ける様に事前に練習した後行い、歩行路上を歩行中の左下肢の1~7歩行周期(cycle1~7)について行った。また、測定時、cycle1~3は木製、cycle4~7はスポンジ製の歩行路上を歩行する様、被験者ごとに素材が変化する位置を設定した。試行は連続して3回行った。筋活動を表面筋電計により記録し(EMG)、導出筋は左前脛骨筋(TA)、腓腹筋(GS)、大腿直筋(RF)、大腿二頭筋(BF)とした。また、左股、膝、足関節の関節運動を電器角度計により記録した。さらに、左踵部にコンタクトスイッチを貼り、その記録から踵接地の瞬間を同定し、踵接地時から次の踵接地までを1歩行周期とした。
    記録したEMGより各cycleごとに踵接地から200msまでの積分値(iEMG)を算出した。関節運動については、各関節間の協調パターンを検討する為に、xyグラフのx座標に一方の関節の値、y座標にもう一方の関節の値を入れ、各cycleごとにグラフ上に曲線として表現し、さらにその曲線によって描かれた図形の外周距離を算出した。
    統計処理はそれぞれ算出した値を1試行目と3試行目について、各cycleごとに対応のあるt検定を用いて比較した。また、それぞれの算出した値について、cycle4~7における変動係数を計算し、1試行目と3試行目で対応のあるt検定を用いて比較した。(p<0.05)

    【説明と同意】全ての被験者には、本研究の主旨を説明し研究の参加に対する同意を得た。

    【結果】iEMGについては、TA、RF、BFにおいてcycle4で3試行目が有意に小さかった。また、GSにおいてはcycle4、5で3試行目が有意に小さかった。関節間協調パターンを表す図形の外周距離については、足-膝関節、膝-股関節の協調パターンにおいてcycle3で3試行目が有意に大きく、cycle4で3試行目が有意に小さかった。変動係数については、iEMGではTA、図形の外周距離では膝-股関節、股-足関節の協調パターンにおいて、3試行目が有意に小さかった。

    【考察】1試行目と3試行目の違いは、素材の変化を過去に経験し、また予測できたか否かである。
    iEMGの結果について、1試行目では急な素材の変化に対し筋活動を上げることで歩行を維持したのに対し、3試行目では先の変化を予測することで変化後も最小限で最適な筋活動によって歩行を維持したことを表している。
    関節間協調パターンを表す図形について、1試行目ではcycle1~3に比べcycle4で急激に大きく拡大し、その後徐々に一定の大きさに収束していくのに対し、3試行目ではcycle3の時点ですでに図形の拡大が始まっており、cycle4以降一定の図形の大きさとなった。図形の外周距離の比較結果もこれを表すものとなった。
    算出したデータにおけるcycle4~7の変動係数は、素材の変化後、運動制御のパターンがどの程度乱れたかを表しており、3試行目で有意に小さかったことから、素材の変化後もより安定した歩行を維持していたと考えられる。
    以上のことから、ヒトの歩行が環境の変化に直面した時、過去の経験の記憶を利用し、環境の変化前から予測的に運動を制御することで、環境の変化後もより円滑にその環境に適した新たな運動パターンに移行し、安定した歩行を維持していることが示唆された。

    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、歩行障害に対するリハビリテーションにおいて、変化する環境に適応できるより自由な歩行能力の回復には、記憶、予測などの高次機能を考慮する必要があると考えられる。
  • 冷水 誠, 貴島 みのり, 東野 早希子, 廣川 朋美, 前岡 浩, 松尾 篤, 森岡 周
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: OI1-012
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動学習にはフィードバック情報が有用であり,特にバランス学習には視覚的フィードバックが効果的であると報告されている。臨床においても,鏡によるフィードバック付加訓練が実施されることは多い。しかしながら,鏡による視覚的フィードバックは同時フィードバックであり,与え方によっては依存を助長することが指摘されている。一方,スポーツ分野を中心に,ビデオ映像を用いた視覚的かつ最終フィードバックの付加による運動学習効果が多数報告されている。しかしながら,リハビリテーション分野において,ビデオ映像によるフィードバックがバランス学習に対して効果的であるかは不明である。そこで本研究の目的は,バランス学習課題において,健常成人を対象に鏡によるフィードバックとビデオ映像によるフィードバックの付加効果の違いを明らかにすることである。

    【方法】
    対象は健常大学生42名(男性21名,女性21名,平均年齢21.6±1.5歳)とし,14名ずつ無作為にコントロール群,鏡フィードバック群(鏡群),ビデオフィードバック群(ビデオ群)の3群に割り当てた。学習課題は左右方向のみに不安定とした不安定板(DIJOCボード 酒井医療)上での立位バランス保持とした。各群ともに試行肢位は両肩幅での開脚立位とし,できるだけボードの両端が床と接しないよう長く保持するよう求めた。練習手順はpre testを実施し,その後1分間の課題試行と休憩2分を1セットとし合計5セット試行した。その後,post testを実施し,さらに学習保持効果をみるために24時間後にretention testを実施した。コントロール群では,試行中および試行後のフィードバックがなく,課題試行と休憩を繰り返した。鏡群では,試行中自身のパフォーマンスを鏡によるフィードバックを与えた。ビデオ群では各試行中に自身のパフォーマンスをビデオ撮影し,休憩時に自身のビデオ映像によるフィードバックを与えた。なお,各群ともに試行中は足元を見ないよう指示した。
    評価項目は課題試行中の足圧中心総軌跡長と,DIJOCボード上にて連続で立位保持が可能であった最長保持時間とした。総軌跡長は圧力分布測定システム(ニッタ社製)により測定した。最長保持時間は,DIJOCボードの両端に圧センサー(NORAXON社)を設置し,床に接地することによる圧信号をPCに取り込みディジョックボードの両端が床と接していない時間を測定した。統計学的検定は総軌跡長および最長保持時間それぞれについて,pre testとpost testおよびretention testに対して,学習時期および群による効果を二元配置分散分析にて比較した。多重比較検定にはBonferroni法を用いた。

    【説明と同意】
    実験参加に際し,対象者には文章および口頭にて十分な説明を実施し同意を得たものを対象とした。

    【結果】
    総軌跡長および最長保持時間ともに学習時期による主効果(p<0.01,p<0.01)が認められたものの,群による主効果(p=0.41,p=0.23)および交互作用(p=0.81,p=0.15)は認められなかった。多重比較の結果,総軌跡長では3群ともにpre testと比較してpost testにて有意な短縮が認められ(p<0.01),post testと比較してretention testにて有意な増大が認められた(p<0.01)。最長保持時間ではコントロール群およびビデオ群においてpre testと比較してpost testにて有意な増大が認められ(p<0.01,p<0.05),さらにビデオ群のみpre testと比較してretention testにおいても有意な増大が認められた(p<0.01)。鏡群に関しては有意差が認められなかった。

    【考察】
    本研究の結果から,3群ともに総軌跡長が有意に短縮したことからバランス課題における学習効果が得られたと考えられる。しかしながら,最長保持時間においては,コントロール群にて学習効果が認められ,さらにビデオ群においては学習効果だけでなく学習保持効果が認められた。ビデオ群では試行中に体性感覚情報,試行後にビデオフィードバックによる視覚情報の入力から,体性感覚および視覚情報との比較照合による誤差学習を促進させたことが考えられる。さらに,休憩中にビデオ映像を観察したことによって,次試行への運動イメージが形成されたとも考えられる。これに対し,鏡群では試行中の視覚情報に依存したことによって有効な学習に繋がらなかったと考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】
    バランス学習においてビデオ映像によるフィードバック付加が効果的であることが示唆された。ビデオ映像を用いた方法では特別な機器を必要とせず,様々な臨床場面にて利用可能であり,今後臨床研究による効果を検証することで,バランス障害を有する患者に対して有効な治療手段となる可能性が考えられる。
  • 畠 昌史, 竹井 仁, 妹尾 淳史, 宇佐 英幸, 小川 大輔, 松村 将司, 市川 和奈, 見供 翔, 渡邉 修
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-001
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    健常女性を対象に、MRI (Magnetic Resonance Imaging)を用いて、腹臥位からの体幹伸展位における下部胸椎・腰椎椎間関節、腰仙関節、仙腸関節の可動域を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は健常女性20名(平均年齢20.6歳)で、身長と体重の平均値(標準偏差)は157.3(4.2)cm、50.1(4.5)kgだった。測定条件は、1)腹臥位・2)腹臥位からの軽度体幹伸展位(握りこぶしを重ねてその上にあごを乗せた肢位:以下、軽度伸展位)・3)伸展腹臥位(puppy position:以下、PP)の3肢位とした。MRI装置(PHILIPS社製Achieva 3.0T)を用い各肢位のT2強調矢状断像を撮像した。得られた画像から次の項目について、画像解析ソフトImage J 1.42を用いて計測した。1)各椎間角度:第11胸椎~第1仙椎の各上位椎骨に対する相対的傾斜角(以下、Th10/Th11~L5/S1)、2)腰仙角:第1仙椎上面と水平面とのなす角(以下、L角)、3)左右骨盤傾斜角:後上腸骨棘と恥骨結合を結んだ線と水平面とのなす角(以下、左右PI角)。さらに軽度伸展位・PP条件の各項目について、伸展方向を正とした腹臥位からの角度変化量を算出した。椎間角度変化量について、分節と肢位を2要因とした二元配置分散分析を実施した後、分節間の差を比較するため各肢位内で多重比較法(Tukey HSD)を実施した。また骨盤・仙腸関節の動きについて、L角と左右PI角の角度変化量の差をみるため、部位と肢位を2要因とした二元配置分散分析を実施した。全ての検定で有意水準は5%とした。統計ソフトにはPASW statistics18を使用した。
    【説明と同意】
    各対象者に研究内容について十分説明を行い、書面にて研究参加の同意を得た。なお本研究は、首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理審査委員会の承認(承認番号09049)を受けて実施した。
    【結果】
    軽度伸展位における各角度変化量[°]の平均値±標準偏差は、L5/S1:-0.1±2.9、L4/5:-0.9±2.2、L3/4:1.9±2.5、L2/3:1.7±2.3、L1/2:1.6±2.0、Th12/L1:1.3±1.5、Th11/12:2.2±1.5、Th10/11:0.8±2.4、左PI角:-0.05±2.2、右PI角:-0.07±2.1、L角:0.4±3.6だった。PPではL5/S1:0.5±4.4、L4/5:2.4±3.7、L3/4:3.0±3.5、L2/3:3.5±2.6、L1/2:4.5±2.2、Th12/L1:2.6±2.4、Th11/12:2.7±2.0、Th10/11:1.0±2.9、左PI角:-0.1±2.3、右PI角:-0.1±2.9、L角:-0.4±4.1だった。分節間の比較では、軽度伸展位においてL3/4・L2/3・L1/2・Th12/L1・Th11/12がL4/5に比べて有意に伸展した。PPではL1/2がL5/S1・Th10/11よりも有意に伸展した。また軽度伸展位・PPともにL角と左右PI角の間に有意差はなく、仙腸関節の動きは認めなかった。
    【考察】
    軽度伸展位ではL4/5が体幹伸展運動に寄与する割合は小さいが、PPではL4/5は上位分節と同様に,伸展したととらえることができる。またどちらの条件も、腰仙関節の角度変化量は非常に小さい傾向にあり、仙腸関節に関しては動きが認められなかったことから、腰仙関節・仙腸関節に対する力学的ストレスは僅かであることが示唆された。従って、腹臥位からの体幹伸展において、軽度伸展位では主にTh11/12からL3/4までが先行して伸展し、PPまで体幹伸展程度が増加するとL4/5にも伸展方向の動きが伝播してくるという運動学的特性が確認できた。立位からの体幹伸展運動を分析している先行研究では、腰椎伸展に加えて腰仙関節・仙腸関節を含めた骨盤帯、ならびに股関節が関与することが報告されている。しかし今回は腹臥位からの体幹伸展位の解析であり、骨盤帯の腹側への空間的位置変化が制限されたため、骨盤帯自体の変化ならびに下部腰椎への影響は小さく、主に頭側から尾側に向かって伸展運動が波及したと推測される。臨床においては、仙腸関節・腰仙関節の動きを抑制し、上位腰椎椎間関節の動きを選択的に獲得させるための方法として応用できる可能性がある。
    【理学療法学研究としての意義】
    腹臥位からの体幹伸展位について、椎間関節の可動域や仙腸関節の可動性に関する報告は少ない。本研究は、目的とする脊椎分節を考慮して運動療法や治療肢位を選択したり、ADL指導をしたりするための基礎的資料になるという意義があると考える。
  • 円唇母音発声による腹横筋エクササイズの有効性
    布施 陽子, 福井 勉, 矢崎 高明
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-002
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】我々は従来の研究を参考に、第43回日本理学療法学術大会にて、超音波診断装置による腹横筋厚の測定方法を検討し、十分な信頼性を得た。また第44,45回日本理学療法学術大会において、ストレッチポール使用による腹横筋エクササイズが有効であることを示した。しかし、ストレッチポールを使用したエクササイズは、ある程度のバランス機能を必要とし、自主的にトレーニングとして行うまでに時間を要する事が多い。そこで今回、特別な道具を用いない日常的に行っている声を出す、という観点から発声が腹横筋エクササイズとして有効か否かを調べた。今回、発声と腹横筋はどのような関連を持つか、またどのような発声がより腹横筋機能に作用するのか検討したので報告する。
    【方法】対象は健常成人男性11名、女性5名の計16名(32.0±9.96歳)、計測機器は超音波診断装置(日立メディコEUB-8500)、デジタル騒音計(日本スリービー・サイエンティフィック株式会社U11801)を用い、操作に慣れた1名を検者とした。計測肢位は、立位(両上肢はそれぞれ反対側の肩に手をのせ、両股関節が内外転0度となる状態)とし、被験者の口元からデジタル騒音計が30cm (音声言語における病理学的評価で用いられている距離) 離れた場所に位置するよう設定した。被験者には、a,i,u,e,oの5つの母音をそれぞれの口の形状を強調しつつ、5秒間発声するよう指示した。また発声の音量は、デジタル騒音計の数値が75~80dBとなるように十分な練習を行った上で計測した。安静呼気終末と各母音発声3秒後の6条件を腹部超音波画像にて記録した。計測部位は、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と平行な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。第43回日本理学療法学術大会で報告した方法を採用し、独自に作製したプローブ固定器を使用して、毎回同じ位置で腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまでプローブを押しあてた際の画像を記録した。記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で左右それぞれについて計測した。統計処理はSPSS ver18を使用し、それぞれ安静呼気終末,a,i,u,e,o発声時による腹横筋厚の違いについて、一元配置分散分析および多重比較法(Bonferroniの方法)により有意水準1%で検討した。
    【説明と同意】本実験にあたり、東京北社会保険病院生命倫理委員会の承諾を得て行った。また、被験者には、腹横筋評価とエクササイズをより詳細に確立する事を目的とすること、実験方法については上記と同様の説明をし、同意書による承諾を得た上で行った。
    【結果】1. 安静呼気終末,a,i,u,e,o発声時による腹横筋厚に違いを認めた(p<0.01)。 2.u発声時の腹横筋厚は、安静呼気終末,a,i,e発声時の腹横筋厚より大きかった(p<0.01)。 3.o発声時の腹横筋厚は、安静呼気終末,a,i,e発声時の腹横筋厚より大きかった(p<0.01)。 4.u発声時の腹横筋厚と、o発声時の腹横筋厚の違いは、認められなかった(p>0.05)。
    【考察】母音(a,i,u,e,o)は、顎を適切な位置に挙上させ、舌のボリュームと位置の変化によって、口蓋と舌の間の共鳴腔の容積を変える事により作られた音色であり、唇の丸みの程度によって、円唇母音(u,o),非円唇母音(a,i,e)に分けられている。円唇母音(u,o)は、口輪筋の活動を認め、その唇の形状により非円唇母音よりも口腔内圧が高まると考えられる。また円唇母音(u,o)は舌の形を考慮した場合、さらに奥舌狭母音(u)と奥舌半広母音(o)に分けられる。結果2,3では、uとoを発声した際に、より腹横筋厚が大きくなることが示された。結果1,2,3により、発声は口腔内圧,腹腔内圧の調整が必要となることに加え、円唇母音であるu,oを選択的に発声することで、腹横筋エクササイズとしてより有効である可能性が示唆された。また結果4により舌の形状よりも唇の形状が、腹横筋機能により重要な要素であると考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】本実験により、発声による腹腔内圧上昇が、腹横筋収縮を得られるという結果に加え、口輪筋を使用する円唇母音の使用が腹横筋を効率的にエクササイズできる可能性を示唆した。これは、ダイナミックな関節運動を伴わず行えるエクササイズとして、ベッドサイドでの理学療法の適応を広げたと考えられる。また、特別な道具を使用せず、自宅で手軽に行えるという観点からも自主トレーニングとして有効であると考えている。
  • 赤澤 直紀, 北裏 真己, 松井 有史, 大川 直美, 廣田 茂美
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-003
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    臨床場面では,ハムストリングス短縮により膝関節伸展制限を有した症例に遭遇することを経験する.先行研究では,膝関節伸展制限の改善が生活機能向上に寄与することを報告(Steffen,1995)しているが,従来のストレッチングや関節可動域運動を中心としたアプローチでは痛みや防御的筋収縮を伴うことが多く,治療が難渋する場合も少なくない.そこで我々は,膝関節伸展制限を有する症例に対してストレッチングや関節可動域運動を行う前処置として,制限因子であるハムストリングスではなく拮抗筋である大腿四頭筋が位置する皮膚表面に対し軽擦刺激を与えている.軽擦刺激により,痛みや防御的筋収縮を誘発することなくハムストリングスの伸張性が改善することを経験している.しかし,大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に与える影響について検討した研究は,我々が調査した範疇では見当たらない.本研究の目的は,健常者を対象とし, Finger Floor Distance(以下:FFD)を用い,大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に与える影響について検討することである.
    【方法】
    健常者85名(男性56名,女性29名,年齢:31.4±12.2歳)を大腿前面部への軽擦群52名,対照群33名に群分けした.軽擦群に対しては被験者の両大腿部前面に軽擦刺激を40秒実施し,介入前後のFFDをそれぞれ1回測定した.対照群については,軽擦介入は行わず40秒間の安静臥床前後のFFDをそれぞれ1回測定した.軽擦群に対する介入肢位は,背臥位となった被験者に対して施行者は正座位となり,施行者の大腿上に股関節内外旋中間位とした被験者の一側下肢を位置させた.軽擦方法は大腿長に応じて膝蓋骨上縁から近位25cm~30cmの範囲とし,軽擦方向は膝蓋骨上縁から大転子(末梢から中枢)に向かう方向とした.軽擦スピードは,1秒間に2ストロークするスピードとし,軽擦圧は大腿上で抵抗なく軽擦手を滑らすことの出来る圧とした.また,軽擦には片手第1指~第5指の中手骨頭~指腹部を用い,他手で介入側下肢の脛骨近位部を固定した.軽擦時間は片側大腿部軽擦20秒とし,軽擦順序として右大腿部軽擦の後,時間を空けず左大腿部軽擦を行った.なお,軽擦介入は再現性を確保するため1名の男性理学療法士が実施した.FFD測定は0cmに達しない場合をマイナス(-)値とし,0.1cm単位で測定した.統計解析は両群のFFDについて介入前後,群別を要因とした2元配置分散分析を行った.なお,本研究における統計学的有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    参加者には本研究の目的,方法,リスクなどを口頭および文書で説明し,署名にて同意を得た.
    【結果】
    介入前後の主効果は有意であった(軽擦群介入前FFD:-4.1±10.2cm,介入後FFD:-0.2±10.0cm,対照群介入前FFD:0.2±9.8cm,介入後FFD:2.1±8.9cm,p<0.001).群別の主効果は有意ではなかった(p=0.13).また,FFD変化量は対照群(1.9±2.6cm)と比較して軽擦群(3.9±1.8cm)が高値を示した.
    【考察】
    両群ともに,FFDは介入後に有意な増加を認めた.対照群のFFDの増加は,反復測定の影響を受けたと考えられる.しかし,軽擦群FFD変化量が対照群より高値を示したことから,大腿前面部への軽擦刺激はハムストリングス伸張性改善に影響を与えた可能性が考えられる.大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に影響を与えた機序について,大腿四頭筋の上面皮膚を,1秒間に2ストロークするといった比較的速い軽擦刺激が,皮膚受容器(速順応性受容器)を刺激し,同側性伸筋反射(伸筋である大腿四頭筋の興奮)が起こった結果,屈筋であるハムストリングスが抑制され伸張性の改善が得られたのではないかと推察する.
    【理学療法学研究としての意義】
    大腿前面部への軽擦刺激は,非常に簡便であり,理学療法士だけでなく他職種や家族も実践可能なため,臨床導入が容易である.また,軽擦刺激による効果は短時間で現れるため,ハムストリングスのみならず他筋に対しても臨床応用が期待できる.
  • 山下 智徳, 河村 顕治, 藤井 彰人, 川口 直樹, 山田 圭介, 松村 卓典, 北井 真太郎, 斎藤 賢治, 濱浪 一則, 角南 義文
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-004
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    OKCとCKC出力時における大腿直筋の筋厚および筋硬度の変化を超音波診断装置と筋硬度計を使用して計測することにより筋電図では捉えられない大腿直筋の形態および緊張状態の変化を明らかにする.
    【方法】
    健常成人男性16名(年齢26.5±3.2歳,身長173.6±4.4cm,体重64.3±6.2kg).筋力測定器(オージー技研ISOFORCE GT-330)を使用し,測定肢位は先行研究より安定した足部出力が得られた肢位である体幹垂直位,股関節屈曲90°,内外転0°,内外旋0°膝関節屈曲60°,足関節背屈10°とした.被験者にモニターで直接足部出力を確認させながら最大足部出力(maximum pressing force;以下MPF)まで10%ずつ出力を高めるよう指示し,各出力時の筋厚と筋硬度を測定した.筋厚測定には超音波診断装置(MIZOUE PROJECT JAPAN DEBUGSCOPE4)を使用し,下前腸骨棘から膝蓋骨上縁への遠位1/3にて各足部出力において計測し,筋の走行に垂直に超音波プローブをあて,大腿骨が最もよく観察されるように超音波プローブの角度を微調整して計測した.その時の画像をパーソナルコンピューターに記録し,筋膜で覆われた大腿直筋の筋厚をフリーソフトImage Jを用いて計測した.筋硬度は,筋硬度計(HENLEY JAPAN CORPORATION Muscle Meter PEK-1)を用いて,各足部出力において3回計測し平均値を求めた.得られた足部出力はMPFで正規化を行い,筋厚,筋硬度ともに大腿直筋が最も活動するOKCでのMPF時の値にて正規化を行った.OKCとCKCでの筋厚と筋硬度を10%MPFからMPFまで10%ごとに一元配置分散分析を用いて比較した.いずれも危険率5%未満(P<0.05)を有意な差とした.
    【説明と同意】
    本研究は,吉備国際大学「人を対象とする研究」倫理規定,『ヘルシンキ宣言』あるいは『臨床研究に関する倫理指針』に従う.吉備国際大学倫理審査委員会に申請し,審査を経て承認を得た.(吉備国際大学倫理審査委員会 受理番号:09-9)対象者に対し,臨床研究説明書と同意書にて研究の意義,目的,不利益および危険性,口頭による同意の撤回が可能であるということなどについて,口頭および書類で十分に説明し,自由意志による参加の同意を,同意書に署名を得て実施した.
    【結果】
    筋厚はOKCでは約20%MPF,CKCでは約40%MPFにてプラトーに達した.全足部出力過程においてOKCとCKCの筋厚に有意な差を認め,筋厚はCKCにてOKCの約90%とOKCよりもCKCの方が薄いという結果を示した.筋硬度は全足部出力においてOKCとCKCの間に有意な差は認められず,OKC,CKCともに足部出力の増加に伴い同程度増加した.
    【考察】
    CKC運動を行った際、大腿直筋は筋電図では低値を示すことから股関節伸展筋群による股関節伸展モーメントと釣り合うように他動的に筋張力を発揮し,股関節屈曲モーメントを生じることで,球関節であり出力の土台ともなる股関節の安定化を図り,股関節周囲筋の筋力を二関節として膝伸展トルクに変換していると推察される.つまり,大腿直筋は腱様につっぱり,出力の方向や安定性を制御しつつパワートランスファーとして筋張力を発揮していると考えられる.さらに,二関節筋の筋収縮は拮抗筋の作用によって抑制されており,筋疲労を生じることなく出力方向を偏移させることなく股関節周囲の筋力を膝関節に伝えることができる仕組みになっていると考えられる.
    【理学療法学研究としての意義】
    CKC運動はスポーツ選手から虚弱高齢者まで幅広い領域において評価,治療として取り入れられている.下肢CKC運動における大腿直筋の機能的役割を明確にすることで,CKC運動における二関節筋の働きに対する考察を深める基盤となり,理学療法学研究としての意義は大きい.
  • 佐藤 啓壮, 黒木 薫, 五十嵐 守, 齋木 しゅう子
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-005
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    平衡機能を評価する方法には、ファンクショナルリーチやBerg balance scaleなどの機能的検査法が用いられている。また、計測機器を使用した評価では、ロンベルグ肢位を用いた足圧中心(COP)での開眼位、閉眼位での評価が良く用いられており、基本肢位である静的な立位状態を、詳細に分析するスタシオロジーとして多くの先行研究が存在する。静的立位肢位から動的運動への変換の際に生じる様々な問題や傾向を推測する上で有効な手法として検討されている。これらの背景から、近年、COPに関して非線形解析も行われるようになり、従来の解析手法からさらに発展した見解が得られることが期待されている。今回、COP変位を減らすために行われる身体の立位平衡維持戦略の特徴について、時系列で周波数の変化を見ることが出来る連続ウェーブレット変換の手法を用い、若年者と日頃から運動習慣のある活動的な高齢者とで比較することにより、高齢者の平衡機能について検討し、連続ウェーブレット変換を用いた解析手法の可能性について報告する。
    【方法】
    普段定期的に運動を行っている健康な60歳以上の高齢者12名(男性6名、女性6名)、平均年齢67.5±4.8歳、平均身長161.8±6.7cm、平均体重59.1±7.6kg、及び、健康成人9名(男性6名、女性3名)平均年齢20.4±0.9歳、平均身長167.6±0.9cm、平均体重61.9±8.0kgを対象に計測を行った。
    計測方法は静かな室内環境下にて、3次元動作解析用の反射マーカーを貼付け、開眼立位、及び閉眼立位にて足圧計測器(FDM-S:Zebris社製)の上でなるべく動かないように指示し、COPの変位を30秒間計測した。その際、3次元動作解析装置(Cortex:Motion Analysis社製)で3次元マーカーデータをPC内に同期させて取り込んだ。得られたデータから、COP、及び剛体リンクモデルから計算して得られた仮想重心点(COG)、さらに頭頂部のマーカーの変位データを抽出して比較した。信号処理は3次元動作解析のマーカーデータにおいてはButterworthの6Hzにて平滑化を行った。また、足圧計測器の各データは信号処理ソフト(Igor Pro:Wave metrics社製)に取り込み、Morletをマザーウェーブレットとする連続ウェーブレット変換を行い、COG、頭頂部、及びCOPそれぞれのパワースペクトルを求めた。統計処理は対応のある分散分析を用い、TukeyのPost-hoc testを行った。有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    全ての対象者に、本研究の目的と内容を説明し書面で同意を得た。なお、本研究は東北福祉大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号:RS1002151)
    【結果】
    総軌跡長による比較では、COPでは全ての組み合わせで若年者の方が少ない結果となった。しかし、COGでの比較では開眼、閉眼とも全ての組み合わせで差が生じなかった。また、頭頂部の変位に関しては高齢者群で閉眼時が有意に大きくなった。また、連続ウェーブレット変換によるCOPの軌跡は、開眼時、閉眼時共に側方成分であるX軸において、若年者より代表周波数が高くなる傾向が見られた。また、COGにおいては、開眼時のX軸においてのみ高齢者の方が高かった。頭部においては周波数成分に差は見られなかった。
    【考察】
    静的な立位姿勢維持において、高齢者は若年者に比較してCOPの総軌跡長の延長が確認できたが、高齢者と若年者とのCOG変位量に差は見られなかった。また、周波数解析によっても、高齢者のCOP変位側方成分の代表周波数が高くなったことから、高齢者は若年者より微妙な動揺を繰り返し行って積極的にCOPを移動させ、COG変位量を制御していると推測された。さらに、頭部に対する変位も若年者と比較しても活動的な高齢者で差はなく、足部、股関節部を制御することにより、頭部の変位制御が優先的に行われている事が示唆され,静止立位制御の機構は活動的な高齢者では維持されている事が確認された。COPの総軌跡長の長さが必ずしも姿勢制御能力の低下につながるとは言えないという報告もある。本研究では活動的な高齢者と若年者との比較であったが、今後は活動量の低い高齢者との比較も視野に入れて検討を続けていく必要がある。
    【理学療法学研究としての意義】
    高齢者における静止立位姿勢維持機構を安全に解析し、動的な諸問題の予測のための基礎研究として本研究を行った。時間周波数解析の手法を用いれば、切り取った断面だけの解析だけではなく、時系列での変化を知ることが可能となり、臨床に即した解析が可能になる。
  • 立位骨盤運動時,矢状面および前額面の関係
    福井 勉, 大竹 祐子
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: OI2-006
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    身体重心を制御するため支持基底面内で足関節と股関節で協調した運動が行われていることはよく知られている。またどちらかの関節で運動制限を有しても他の関節で代償運動している症例を良くみかける。しかしながら、この両方の関節の動作時の関係性を明確に示したものはあまり見当たらない。そこで、我々は荷重位での骨盤前後運動の際の股関節と足関節の角度の相関分析を用いて検討したので報告する。
    【方法】
    対象は下肢などに運動制限を有しない男性健常人14名(年齢24.1±3.38歳、身長172.7±6.43cm、体重64.3±7.00cm)とした。被験者に対して立位足幅25cmの幅で、下肢を平行に立った立位から、骨盤を前方-後方および右方-左方に可及的に移動するよう指示した。それぞれの運動の時間は5秒で最大位置に達するように指示し、数回の練習を行った後に計測した。身体運動検出には、VICON-MX(カメラ8台,sampling rate 120Hz)にて計測した。モデルは、Plugin-gait下肢モデルを用い、足関節底背屈、回内外および股関節屈曲伸展、内外転角度を求めた。マーカー位置は左右(上前腸骨棘,大腿外側,膝外側,下腿外側、外果、踵、第2中足骨頭)計16個であった。足関節(距骨下)回内外角度と股関節内外転および足関節底背屈角度と股関節屈伸角度について時系列データの相関分析を行った。
    【説明と同意】
    本研究は文京学院大学倫理委員会承認を受けた。被験者に対して、本研究への参加は被験者の自由意志によるものであることを十分に説明し、研究に参加しないことによる不利益がないことを述べた。データは匿名化の処理を行い、個人情報を含むファイルは文京学院大学大学院スポーツマネジメント研究所内パソコンに保管した。研究成果の公表の場合は、個人が特定されないよう配慮を行った。被験者各人に書面と口頭で「対象とする個人の人権擁護、研究の目的、方法、参加することにより予想される利益と起こるかもしれない不利益について、個人情報の保護について、研究協力に同意をしなくても何ら不利益を受けないこと、研究協力に同意した後でも自由に取りやめることが可能であること、計測中生じうる危険」を説明し、作成した同意書にて本研究協力に関する同意を得た。
    【結果】
    足関節回内外角度と股関節内外転の相関係数はr=0.85~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節回内時に股関節内転、足関節回外時に股関節外転が生じた。また足関節底背屈角度と股関節屈伸角度の相関係数はr=0.75~0.99(p<0.001;n>1000)であり、足関節背屈時に股関節伸展、足関節底屈時に股関節屈曲が生じた。それぞれの角度変化は一方が大きくなるほど他方も大きくなる関係であった。
    【考察】
    スクワット動作中の足および股関節の関係を検討した我々の先行研究では、足関節背屈角度制限を人為的に起こすと股関節屈曲角度を大きくして代償し、また逆に股関節屈曲角度を制限すると足関節背屈運動で代償した。すなわち相補的関係を示したわけであるが、これはどちらか一方の関節が可動域制限を有していても他方の関節が補うものであった。
    Trendelenburg徴候が慢性化すると、徐々に距骨下関節を回内位にして足部を床に接地するようになってくる症例を見かけることは多い。この徴候は股関節内転位であり骨盤外側移動も起こすため本実験結果と良く一致し、原因は股関節にあると考えられ距骨下関節の動きはその結果であると考えられる。一方、前距腓靭帯損傷後には距骨下回外位を避けるため、骨盤を外側へ移動させて代償する症例もしばしば観察できる。その際、当然であるが骨盤側方移動は代償運動であり、内反捻挫を原因とする結果的な代償である。原因は足関節であり、股関節はその結果である。そのため理学療法として骨盤側方移動に対してアプローチするのではなく、原因である足関節を対象とすることが正当であることも示唆していると考えられる。本研究での骨盤運動の指示は足関節、股関節どちらかを制御因子としたわけではないため両者の相関関係は明確にあると考えられる。これは支持基底面上に身体重心を位置させる作用を足、股関節の双方で相補的に有することを示していると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    荷重位における足関節と股関節の前額面、矢状面における相互関係が本研究で明確となったと考えられる。足関節、股関節どちらかの関節の機能に障害が生じた場合、もう一方の関節でどのように代償させたらよいか、あるいは治療アプローチの方法論に展開可能となる。また運動学的な関係性とともに、外乱時の身体応答の検討のみでなく日常の姿勢にもこのような現象は合致した。すなわち理学療法の治療介入の順序を規程することにつながると考えられる。
  • 膝関節屈曲に伴う経皮酸素分圧の変化
    久保 憂弥, 大谷 浩樹, 伊藤 直之, 堀 秀昭, 尾島 朋宏
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-007
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】経皮酸素分圧測定は,臨床上微小循環の病態把握に対する客観的評価として用いられている.Youngerらは膝前面の皮膚は下行膝動脈,外側上・下膝動脈,前脛骨動脈から穿通する微小動脈網より栄養されると報告しており,阿漕らはTKA術後に膝前面の経皮酸素分圧を測定し,創トラブル予防の指標に使用している.しかし,健常者における膝前面の皮膚血流に関する報告は,我々が渉猟する範囲では認められない.本研究はTKA術後超早期の理学療法を再考するための基礎研究であり,健常者における膝前面の経皮酸素分圧を測定し,膝関節屈曲に伴う変化を捉えることを目的とした.
    【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患の無い健常者10名10膝(平均年齢24.2±3.9歳)とした.方法は,ラジオメーター社製経皮酸素分圧装置TCM400を使用し,膝関節伸展位及び膝関節30°,60°,90°,120°屈曲位にて経皮酸素分圧を測定した.TKAの皮切を考慮し,測定部位は膝蓋骨上下縁から上下1cm内外側4cmの部位で,近位外側・内側,遠位外側・内側の4ヶ所とした.比較検討項目は,膝関節屈曲に伴う変化と各測定部位間の差について二元配置分散分析及び多重比較検定(Tukey法)を用いた.危険率5%未満を統計学的有意とした.
    【説明と同意】対象者には本研究の趣旨と方法を十分に説明し同意を得た上で研究を開始した.
    【結果】測定肢位と測定部位に交互作用は認められず,測定肢位間(p<0.05)及び測定部位間に有意差(p<0.05)が認められた.各測定部位における経皮酸素分圧を,膝関節伸展位,30°,60°,90°,120°屈曲位の順に示す.近位外側は75.7→71.7→68.5→59.9→50.3mmHgであった.近位内側は68.2→65.2→60.0→47.0→34.5mmHgであった.遠位外側は60.6→57.7→53.4→45.5→33.0mmHgであった.遠位内側は74.5→74.9→74.7→68.7→51.1mmHgであった.膝関節屈曲に伴う変化として,近位内外側では伸展位と比較して,90°及び120°屈曲位で有意な低下が認められた(p<0.05).また,遠位内外側では伸展位と比較して,120°屈曲位で有意な低下が認められた(p<0.05).測定部位間において,伸展位では近位外側と,伸展位以外では近位外側及び遠位内側と遠位外側間に有意な違いが認められた(p<0.05).また60°以上の屈曲位では遠位内側と近位内側間に有意な違いが認められた(p<0.05).
    【考察】本研究の結果より,近位内外側は膝関節90°,遠位内外側は120°屈曲位で有意な低下が認められた.その理由として,膝関節90°以上の屈曲により内側広筋と外側広筋は長軸及び短軸方向に伸張され,筋内を走行している下行膝動脈及び外側上膝動脈が圧迫されたためと考える.近位内外側は,遠位内外側と比較して軟部組織の容量が大きいことから圧迫による影響を受けやすかったと考える.測定部位間では,伸展位では近位外側と,伸展位以外では近位外側及び遠位内側と遠位外側間に有意な違いが認められた.その理由として,遠位外側は外側下膝動脈から栄養されており,その穿通枝の数は近位外側及び遠位内側を支配している深部動脈の穿通枝と比較して非常に少ないため,遠位外側は有意に低下したと考える.また,膝関節60°以上の屈曲位では遠位内側と近位内側間に有意な違いが認められた.野崎は,近位内側は下行膝動脈関節枝から栄養されており,これは内側広筋に入った後,内側広筋斜走線維を突き抜けて走行すると報告している.つまり,近位内側の皮膚血流は膝関節屈曲に伴い,内側広筋は伸張し圧迫による影響を受けやすいことから,近位内側は有意に低下したと考える.
    【理学療法学研究としての意義】近年TKAの理学療法において,術後超早期に積極的なROM運動が施行され,屈曲可動域の獲得が求められている.本研究の結果より,健常者において膝関節屈曲に伴う経皮酸素分圧の低下が認められたことから,TKA術後超早期に膝関節90度以上屈曲することは,著明な経皮酸素分圧の低下を引き起こすと推察され,創傷治癒遅延の可能性が危惧される.TKA術後超早期は経皮酸素分圧にも留意した理学療法を展開する必要性があると考える.
  • 重心動揺に着目して
    高木 綾一, 高崎 恭輔, 鈴木 俊明
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-008
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    脳卒中片麻痺患者では上肢運動や上肢を空間に保持した時に、姿勢保持が困難となる症例を経験する。しかし、上肢挙上保持時における姿勢保持困難について重心動揺の観点より報告した研究はない。そこで今回、脳卒中患者の上肢挙上保持時に重心動揺計を計測し、姿勢制御に関して若干の知見を得たので報告する。
    【方法】
    対象は立位にて両側上肢120°までの上肢挙上保持が可能な当院入院及び通院している脳卒中患者12名(男性8名、女性4名・右片麻痺6例、左片麻痺患者6例・平均年齢66.8歳・発症からの平均日数159日・Brunnstrom stage 上肢・下肢ともにV1名、VI11名)とした。方法は、まず重心バランスシステムJK-310(ユニメック社製、以下、重心計)の上で立位姿勢を保持させ、続いて片側上肢を挙上位で保持させた。挙上保持角度は肩関節屈曲60°、90°、120°とし、30秒間2回の上肢挙上保持を両上肢ともに行った。各角度の上肢挙上保持中に重心計より重心動揺を記録した。また、重心動揺計記録時のサンプリング周波数は30Hzとした。次に得られた重心動揺より左右及び前後方向動揺平均中心変位(以下、COP平均変位)、総軌跡長、単位軌跡長、周波数帯域を算出した。周波数帯域はパワースペクトルを算出し、0.5以上の周波数帯域における全面積に対する百分率(%)をパワースペクトラム面積比として算出した。各角度での各パラメーターの比較には分散分析と多重比較を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    対象者には本研究の趣旨を説明し、同意を得た。
    【結果】
    各屈曲保持角度間のパワースペクトラム面積比、総軌跡長、単位軌跡長、左右方向COP平均変位には有意差はなかった。しかし、前後方向COP平均変位は麻痺側および非麻痺側上肢挙上において立位と比較して屈曲60°、90°、120°で有意に前方へ変位した(p<0.05)。
    【考察】
    本研究の結果、脳卒中患者の上肢挙上では重心動揺の大きさを示す総軌跡長や重心動揺の速さを示す単位軌跡長及び重心動揺の細かさを示すパワースペクトラム面積比は増大しなかった。しかし、麻痺側及び非麻痺側挙上において前後方向COP平均変位は上肢挙上保持にて前方に変位した。健常者における前後方向COP平均変位は立位と比較して屈曲60°までは後方へ、屈曲90°、120°では前方あるいは後方に変位する(2006 高木)。つまり、健常者では上肢挙上角度増加に伴う体節の前方移動に対応するために屈曲60°までは前後方向COP平均変位を後方へ変位させ重心の前方変位を保障していると考えられる。しかし、脳卒中患者では立位と比較して屈曲初期より重心が前方に変位し、挙上角度増加に伴い重心がさらに前方に変位する傾向が認められた。よって本研究結果より、脳卒中患者では上肢挙上保持時に身体重心を後方へ変位させることが困難であることが示唆された。重心を後方で保持するためには腹筋群や前脛骨筋などの身体全面に位置する筋の活動が必要である。しかし、脳卒中患者ではこれらの筋の活動が低下していることが多く認められる。そのため、本研究においても後方への重心移動が困難であったと推察された。
    非麻痺側挙上においても屈曲60°、90°、120°で立位と比較して前後方向COP中心変位が前方に移動した。脳卒中患者では非麻痺側の上肢挙上保持では麻痺側体幹筋の活動が不十分で姿勢保持が困難となる(2009 中村)。また、一側上肢挙上では挙上した上肢の重みを体側体幹筋の活動により制御する(2008 高木)。したがって、脳卒中患者では先述した身体前面に位置する筋の筋活動不全の要因に加えて、麻痺側体幹筋の作用による非麻痺側上肢の重みの制御が充分にできなかった結果、重心が前方に変位したと考えられた。
    また、上肢挙上角度増加に伴い立位と比較して0.5以上周波数帯域や単位軌跡長は変化しなかった。脳卒中患者では痙性の影響により身体の各関節での弾力的なたわみが減少し、剛体に近い状態で動揺することにより、重心動揺の速度が増加し、また、前後、左右方向への切り返しが多くなるといった周波数の増加が生じる(新井 1994)。しかし、本研究の対象者は機能的なレベルが高いことから筋緊張の異常が重心動揺に与える影響が少なかったため、周波数帯域や単位軌跡長が変化しなかったと考えられた。

    【理学療法学研究としての意義】
    脳卒中患者の上肢挙上では、姿勢制御の不全を認める症例を経験する。本研究は機能レベルが高い脳卒中患者を対象としたものであるが、脳卒中患者に対する上肢挙上保持時の姿勢制御に関しての評価や治療の一助となると考えられる。
  • 岩月 宏泰, 羽場 俊広, 工藤 真大, 成田 秀美
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-009
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】積雪寒冷地に住む高齢者でも、積雪期に手荷物を複数の袋に分けて前腕にぶら下げて持つことが多い。凍結路による足元の滑り易さに加え、荷物で両手の自由が制限されているため、転倒時には頭部外傷、上下肢の骨折などの傷害を負う可能性が高くなる。また、荷物運搬方法と酸素需要量との関係について検討した先行研究では、5分間の歩行時間でもリュックサックに比べ手提げ鞄で運搬した際に酸素需要量が有意に増加するとの報告がある。高齢者の多くは加齢に伴う体力、下肢筋力の低下なども生じることから、買物の際の安全な荷物の運搬による効率の良い歩行を指導することができれば、健康寿命を延伸させることが出来得る。そこで、本研究では健常青年を対象に荷物の重量を一定(体重の10%)として2種類の運搬条件で歩行させた際の呼吸循環応答の経時的変化から、歩行効率の良い荷物の運搬方法を明らかにすることを目的とした。

    【方法】対象は健常青年10名(男性7名、女性3名、平均年齢27.1±9.7歳、体重58.5±6.5kg)であった。方法は各被験者の体重の10%を重量負荷(10%BW)とし、運搬方法は1)リュックサック(容量15&#8467;、600g)内に10%BW入れる(運搬A)、2)1)で使用したリュックサックに5%BW及び手提げ袋に各々2.5%BWに分割(運搬B)した2種類を採用し、トレッドミル上で時速4kmの速度(勾配0°)で安静5分後に20分間の連続歩行をさせた。なお、歩行時には携帯型呼吸代謝測定装置(K4b2、COSMED社製)を装着させて、breath-by-breath法で心拍数、呼吸動態を連続記録し、終了後には主観的運動強度(ボルグスケール)と身体各部の疲労状況を調査した。統計学的検討は各運搬方法で記録された呼吸パラメータ及び心拍数について、二元配置分散分析(Tukey)を行い、交互作用及び主効果を認めた際に下位検定を行った。

    【説明と同意】対象者全員が本学研究倫理委員会の指針に従って筆者から説明を受け、実験の参加に同意した者であった。

    【結果と考察】運搬Aと運搬Bの歩行終了後の主観的運動強度(ボルグ得点)の平均値と標準偏差は、各々10.5±3.9点、11.6±4.3点であり、両運搬方法による差を認めなかった。また、歩行終了後の身体各部の愁訴では、運搬Aで肩・前胸部の疲労感を訴える者が4名(40.0%)いたが、腰背部、下腿に対する愁訴は少なかった。運搬Bでは愁訴が頭頸部、腰背部、下腿など全身に至っており、特に運搬Aではみられなかった上腕屈側部の愁訴が8名(80.0%)おり、運搬方法による有意な差を認めた(p<0.01)。運搬方法別の呼吸循環応答について、VO2/Kgでは運搬方法及び経過時間による主効果を認め、各々(F(1,126)=5.83, p<0.05)、(F(6,126)=6.84, p<0.05)であった。VEでは運搬方法及び経過時間による主効果を認め、各々(F(1,126)=7.29, p<0.05)、(F(6,126)=8.32, p<0.01)であった。なお、運搬BではVO2/Kg及びVEでは歩行開始15分、20分で運搬Aより有意な高値を示した。さらに、VCO2では経過時間による主効果(F(6,126)=6.08, p<0.01)を認めたが、HR、呼吸数、VTでは運搬方法及び経過時間による効果を認めなかった。リュックサックと手提げで10BWを運搬する運搬BではVO2/Kg、VE、VCO2などの呼吸のパラメータで高値を示し、この運搬方法によるトレッドミル歩行時にエネルギー消費が増大したことが認められた。しかし、運搬Aと運搬Bの歩行終了後の主観的運動強度では差を認めなかったことから、このことについては運搬方法の違いで生じた身体各部の愁訴と関係があるものと考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】トレッドミル歩行中の呼吸のパラメータから、運搬Bが運搬Aより有意な高値を示したことから、脊柱変形や下肢筋力の低下を伴う高齢者にリュックサックのみを使用した運搬Aを疲労が少なく歩行効率の良い方法として指導するための基礎資料を得ることが出来た。
  • 渡邊 裕文, 大沼 俊博, 藤本 将志, 高崎 恭輔, 谷埜 予士次, 鈴木 俊明
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-010
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】我々は今までに座位での様々な方向への体重移動における体幹筋群の働きについて研究を進めてきた。そこでは外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位に表面電極を貼付し検討してきたが、電極部位で働きの違いがあり、同じ腹斜筋として捉えることの難しさから、より詳細な腹斜筋の働きを明確にする必要性を感じた。昨年より、体幹前面部から側面部へ複数の電極を配置し、座位での体重移動における腹斜筋群の働きについて再考し始めた。今回、座位での後外側方への体重移動における腹斜筋群の筋電図積分値を、上記のように複数の電極を用いて再度検討したので報告する。

    【方法】対象は健常男性7名とした。被験者に足底を床に接地した座位で両肩関節外転90度位を保持させ、テレメトリー筋電計MQ-8(キッセイコムテック社)にて、腹斜筋群の筋電図を測定した。測定した腹斜筋群はNgの報告から、一側の外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位に電極を貼付した。また腹斜筋群は前記した内外腹斜筋重層部位以外に、計12電極用いて、内腹斜筋単独部位の直上より肋骨下端にかけて6電極(前面内側部)、内外腹斜筋重層部位直下から骨盤にかけて3電極(前面外側部)、さらに大転子直上の腸骨稜の上部から肋骨下端にかけて3電極(側腹部)を配置した。次に今回の測定課題の開始肢位である体幹左右回旋45度位保持と以下の課題を実施させ上記同様に筋電図を測定した。測定課題は開始肢位より後外側方へ5、10、15、20cmとリーチさせ、それぞれの姿勢を保持させた。測定時間は5秒間、測定回数は3回としそれぞれの平均値を求めた。後外側方へのリーチ距離の設定は、自作の移動距離測定器を片側の肩関節外転90度位を保持させた指尖から回旋45度方向に一直線に配置し、測定中は前方の一点を注視させた。筋電図の分析は、座位での肩関節外転90度位保持での筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値(相対値)を求め、筋電図波形による検討と、各電極部位にて開始肢位からの相対値の変化を分散分析とTukeyの多重比較検定により検討した。

    【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、予め説明した本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被験者を対象に実施した。

    【結果】移動側腹斜筋群は、後外側方へのリーチ距離を増大しても相対値の変化を認めなかった。反対側腹斜筋群は、後外側方へのリーチ距離の増大に対し、大転子直上の腸骨稜上部からの3電極(側腹部)と外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部とその直下の3電極(前面外側部)にて開始肢位と比べ有意に相対値の増加を認めた。

    【考察】先行研究では、座位での後外側方へのリーチ肢位の保持により、移動側腹斜筋群はそれ程変化を認めず、後外側方へのリーチ肢位を保持するため移動側腹斜筋群は伸長していく必要があり、筋電図積分値の増大は必要なかったと報告した。本研究でも移動側体幹に配置した複数の電極からの相対値は、先行研究と同様にどの部位も変化を認めなかった。後外側方へのリーチ肢位における移動側腹斜筋群の働きは、電極部位が違っていても大きな違いはなく、後外側方へのリーチ肢位保持に伴う移動側体幹の伸長に対応するため、移動側腹斜筋群全体で筋活動を高める必要がなかったと考えた。反対側腹斜筋群は先行研究にて、後外側方へのリーチ距離の増大に伴い筋活動の増加を認め、骨盤の側方傾斜と後傾の制動に関与すると報告した。本研究でも反対側腹斜筋群の相対値は増加し、特に側腹部に配置した3電極と外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位とそこからの直下の3電極の相対値が増大した。今回の測定課題である後外側方へのリーチ肢位保持では、反対側体幹が側屈位となるための反対側骨盤の挙上(側方傾斜)と後傾が必要で、この骨盤の制動には、側腹部の腹斜筋群と外腹斜筋単独部位および肋骨下縁周囲の腹斜筋群の関与が考えられ、それぞれの筋線維の活動を反映したものと考えられた。

    【理学療法学研究としての意義】臨床上、特に脳血管障害片麻痺患者の理学療法において、座位での活動性を向上させるため、様々な方向への体重移動を練習するが、後外側方へのリーチ課題における注意点は、本研究結果より以下の点が挙げられる。1)移動側腹斜筋群は、前面および側面、もしくは上部および下部にかかわらず、筋活動を高める必要がない。2)反対側腹斜筋群は、側腹部の腹斜筋群の活動と肋骨下縁周囲の腹斜筋群の活動の向上に着目する必要がある。今後も様々な方向へのリーチ肢位による腹斜筋群の働きを明確にして、臨床における評価・治療の一指標として用いていけるように検討していく。
  • 岡山 裕美, 大工谷 新一, 鶴池 柾叡
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-011
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    先行研究でダイナミックストレッチング(以下,DS)実施前後の股関節屈筋群の等速性筋力と筋活動の関係について,10回から50回のDS実施後のトルク変化には筋疲労の影響よりも筋力発揮における質的な影響があると報告した.今回の研究では,運動課題であるDS実施時の経時的変化に着目し,運動課題に筋力発揮が困難となる原因があるのかを明らかにすることを目的とした.また,実施後のストレッチング効果についても検討した.
    【方法】
    整形外科学的,神経学的に問題のない健常男性12名の利き足12肢を対象とした.平均年齢は24.0±1.3歳(平均±標準偏差),平均身長172.8±7.0cm,平均体重66.3±13.5kgであった.
    DSは安静立位を開始肢位とし,一側の股関節と膝関節を90度屈曲位まで同時に屈曲させた後に元の肢位に戻すまでの動作とした.なお,DSの回数は50回とし,下肢挙上から開始肢位に戻るまでをメトロノーム(1Hz)にて誘導した.DS時に,大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AdL)の表面筋電図をMyosystem1400(Noraxon)により記録した.得られた波形から波形の外観的特徴の観察および1動作の単位時間あたりの筋電図積分値(IEMG)を算出した.なお,1動作は,自作のフットスイッチにより規定した.また,DS実施前後には,膝関節屈曲位での股関節屈曲可動域と股関節内外旋中間位・内旋位・外旋位でのSLR(SLR中間位・内旋位・外旋位)を測定した.
    得られた結果から,DS実施時のIEMGの経時的な変化を比較し,DS実施前後の股関節屈曲可動域とSLRの変化に対しては,対応のあるt検定を用いて有意水準を5%未満として統計学的に検討した.
    【説明と同意】
    被験者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た.
    【結果】
    DS実施時のIEMGの比較では,RF・TFL・AdL全てにおいて実施回数の増加とともにIEMGの増加が認められた.また,実施回数30回付近では,IEMGの低下が認められた.
    股関節屈曲可動域をDS実施前後で比較すると,実施前は92.9±11.1度,実施後は99.3±13.2度であり,実施後で有意に高値を示した(p<0.01).同様に,SLR中間位は,実施前56.9±14.6度,実施後59.6±14.0度であり実施後で有意に高値を示した(p<0.05).SLR内旋位は,実施前48.8±13.2度,実施後58.8±16.0度であり実施後で有意に高値を示した(p<0.01).SLR外旋位は,実施前60.8±15.8度,実施後56.9±13.2度であり,実施後で有意に低値を示した(p<0.05).
    【考察】
    本研究では,IEMGはRF・TFL・AdL全てにおいて実施回数の増加にともない増加傾向を示した.また,経時的な変化を詳細にみると実施回数30回付近においてIEMGの低下が認められた.筋電図積分値は筋活動の程度を量的に示すものであり,運動単位の動員数に左右される(Basmajian, 1979).そのため今回の結果からは,運動回数の増加により筋への運動単位の動員が増加し,30回程度で筋疲労の影響が大きくなったため運動単位の動員数が減少した可能性が考えられる.30回以降では,疲労した運動単位の補償のために新しい運動単位が動員したと考えられた.
    一方,関節可動域については,股関節屈曲可動域・SLR中間位と内旋位においては関節可動域の増加を示したが,SLR外旋位に関しては減少を示した.今回のDSでは主動作筋が股関節屈曲筋群であり,拮抗筋が股関節伸展筋群である.そのため,股関節伸展筋群には相反抑制が作用し,股関節伸展筋群が伸張されることで股関節屈曲方向への可動域は拡大すると考えられる.しかし,SLR外旋位においては可動域の減少が認められた.この要因としては,股関節内旋方向へ作用するTFLによる過用により筋が伸張時に筋緊張による抵抗が強くなったことが考えられた.
    DSは10回から15回を目安として行われているとの報告があるが,今回の実験結果から30回までであれば動員される運動単位数が増加していくことが考えられた.しかし,自動運動において30回以上実施すると筋疲労の影響が大きく関与することが示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】
    DSの適切な実施回数を決めるにあたっての有用な指標となる.また,今回の実験方法や用いたパラメータを応用していくことは,DSの効果判定を行う際にも有用となる.
  • 芥川 知彰, 榎 勇人, 若松 志帆, 室伏 祐介, 田中 克宜, 石田 健司, 谷 俊一
    専門分野: 基礎理学療法4
    セッションID: OI2-012
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    筋力増強運動のプログラムを設定するには,筋収縮形態,運動強度,運動頻度などの要素が必要であり,運動強度に関しては「最大筋力の~%」と設定することが一般的である.つまり,正確な最大筋力を測定することで運動効果の向上が期待でき,各筋収縮形態に応じた特性を理解しておくことは重要である.
    一定の筋出力の持続や最大筋力の発揮には,視覚や聴覚などの感覚フィードバックが有効なことが知られており,Peacockら(1981)は,かけ声による聴覚フィードバックと筋トルク曲線による視覚フィードバック(visual feedback;VF)の効果を等尺性膝伸展運動で比較している.しかし,筋収縮形態やVFの与え方の違いで効果を比較した報告は,渉猟し得なかった.
    本研究の目的は,VFの方法と筋収縮形態の違いにおける最大筋力発揮パフォーマンスの変化を確認することである.
    【方法】
    対象は,下肢に整形外科的既往のない健常成人14名(男性7名,女性7名,平均年齢23.5±3.1歳)とした.
    筋力測定は筋力測定機器(川崎重工社製,MYORET RZ-450)を用いた等尺性(膝90°屈曲位で1回)及び等速性(膝屈曲30-80°,60deg/secで1回3セット)膝伸展運動の2種類を,足関節上前面にパッドを当てて計測した.まず,各運動での筋力を2回ずつ測定し,その最大値を各対象者の基準筋力とした.次に,各運動を数値によるVF(数値VF),棒グラフによるVF(グラフVF),及びVFなしの3条件で各2回ずつ順不同に測定した.数値と棒グラフはそれぞれコンピュータのモニタに映し出され,数値VFでは対象者に基準筋力を口頭で伝え,グラフVFでは基準筋力を破線で示し,それらを越えるように指示を与えた.VFなしでは,運動直前に「これまで以上に頑張るように」とだけ指示した.測定毎に1分以上の休憩を挟んで次の測定に進んだ.また,対象者の筋疲労を考慮し,等尺性運動と等速性運動は1日以上間隔を空けて実施した.
    データ処理では,各VF条件下の最大値の基準筋力に対する筋力比を算出し,正規性の検定を行った.その結果に従って,多重比較検定(等尺性運動;Tukey-HSD法,等速性運動;Steel-Dwass法)を用いて筋収縮形態の種類別に3つのVF条件の筋力比を比較した.また,筋収縮形態の違いによるVF効果を比較する目的で,数値VFとグラフVFの筋力比に関して,Wilcoxonの符号付順位検定を用いて等尺性運動と等速性運動の比較を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    対象者に対して事前に本研究の趣旨と安全性について説明し,同意を得た.
    【結果】
    等尺性運動の各VF条件下における筋力比は,数値VF:103.4±8.2%,グラフVF:103.5±7.5%,VFなし:99.7±6.6%であり,各条件間に有意差は認めなかったが,数値VFとグラフVFはVFなしより筋力比が高い傾向にあった.一方,等速性運動の筋力比は,数値VF:110.3±11.3%,グラフVF:111.4±9.4%,VFなし:108.8±11.9%と,こちらも各条件間に有意差は認めなかった.
    等尺性運動と等速性運動の比較では,グラフVFにおいて等速性運動の筋力比が有意に高かった(p<0.01).
    【考察】
    等尺性運動,等速性運動ともVFによって筋力が発揮されやすい傾向にはあったが,同一運動内でのVFの違いによる効果に有意差は認められなかった.本研究のようにあらかじめ最大収縮での筋力を基準に目標値を設定した先行研究はなく,元々最大収縮した時の筋力を基準としているこの設定が,VFありとなしの間で有意差が出なかった一要因と考えられる.
    等速性運動においては,グラフVFが等尺性運動に比べて有意に効果を発揮し,数値VFも等尺性運動より高い筋力比を示したことから,等速性運動は等尺性運動に比べてVFの効果が高いと考えられる.また,等速性運動の筋力比の平均はVFなしでも100%を超えて高いことから,普段から使い慣れていない筋収縮形態であるが故に基準筋力の測定で最大筋力を十分に発揮できていなかった可能性も考えられる.
    今後はサンプル数を増やし,性差による比較なども加えることで,最大筋力発揮パフォーマンスにおけるフィードバック効果の特性をより詳細に検討していきたい.
    【理学療法学研究としての意義】
    最大筋力発揮パフォーマンスの変化を筋収縮形態やVFの違いから検討した.近年,徒手筋力検査法(MMT)に代わってhand-held dynamometerなどの簡便な機器を用いた客観的な筋力測定が臨床場面で普及しているなかで,本研究のように筋力発揮を最大限に引き出す方法を解明しようとする試みは意義深いと考える.
  • 高齢入院患者における検討
    加嶋 憲作, 山﨑 裕司
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-013
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    歩行は立脚相と遊脚相の連鎖によって成立する.左右の下肢が交互に支点となるため,安定した片側への重心移動および下肢での体重支持が必要不可欠である.歩行と下肢筋力には密接な関連があり,歩行自立に最低限必要な筋力閾値が存在する.しかし,重心移動および下肢での体重支持が,どの程度の筋力で障害されるかについては明らかになっていない.そこで本研究では,片側下肢での体重支持に必要な等尺性膝伸展筋力について検討した.

    【方法】
    対象は,高齢入院患者129例(男性76例・女性53例)で,年齢は75.9±7.0歳,身長は156.2±7.2cm,体重は50.0±9.6kgである.中枢神経疾患や明らかな荷重関節の整形外科疾患,認知症を有する者は対象から除外した.等尺性膝伸展筋力の測定にはアニマ社製μ-TasF-01を用い,端坐位下腿下垂位において約3秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせた.各脚2回の測定のうち大きい値を採用し,左右脚の平均値(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)とした.下肢荷重率の測定は,市販の体重計2枚に左右の脚をのせた立位で行った.片側下肢に最大限体重を偏位させるように指示し,5秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を下肢荷重率(%)とした.どの程度の下肢筋力低下が一側下肢への体重支持に影響を及ぼすかを検討するために,等尺性膝伸展筋力を0.2kgf/kg未満,0.2~0.3kgf/kg未満,0.3~0.4kgf/kg未満,0.4~0.5kgf/kg未満,0.5~0.6kgf/kg未満,0.6kgf/kg以上に区分した.先行研究では,独歩自立には最低でも約80%の下肢荷重率が必要であり,90%以上あれば全症例で独歩自立が可能と報告されている.そこで,各筋力区分別に80%,90%の下肢荷重率を上回る症例の割合を算出した.統計学的解析にはχ2検定を用い,危険率5%を有意水準とした.

    【説明と同意】
    対象者には,研究の内容と目的を説明し,同意を得た後に測定を実施した.

    【結果】
    等尺性膝伸展筋力区分別にみた下肢荷重率80%以上例の占める割合は,0.2kgf/kg未満では0%(0例/11例),0.2~0.3kgf/kg未満では61.1%(22例/36例),0.3~0.4kgf/kg未満では81.5%(22例/27例),0.4~0.5kgf/kg未満では92.9%(26例/28例),0.5~0.6kgf/kg未満では100%(17例/17例),0.6kgf/kg以上では100%(10例/10例)であった.筋力の上昇に伴って80%以上の下肢荷重率を有する症例の割合は有意に高値を示した(p<0.01).同様に,下肢荷重率90%以上例の占める割合は,0.2kgf/kg未満では0%(0例/11例),0.2~0.3kgf/kg未満では8.3%(3例/36例),0.3~0.4kgf/kg未満では48.1%(13例/27例),0.4~0.5kgf/kg未満では60.7%(17例/28例),0.5~0.6kgf/kg未満では76.5%(13例/17例),0.6kgf/kg以上では80%(8例/10例)であった.筋力の上昇に伴って90%以上の下肢荷重率を有する症例の割合は有意に高値を示した(p<0.01).

    【考察】
    0.2kgf/kg未満では80%以上の下肢荷重率を有する症例はなかった.よって,この筋力水準を下回る場合,実用的な下肢支持性を得ることは困難なものと考えられた.一方,0.4kgf/kgを上回る場合,ほとんどの症例が80%以上の下肢荷重率を有した.また,7割の症例は90%以上の下肢荷重率を有した.したがって,実用的な下肢支持性を得るには0.4kgf/kg以上の筋力が必要なものと考えられた.いくつかの先行研究は,等尺性膝伸展筋力が0.4kgf/kgを下回ると歩行自立例が減少しはじめ,0.2kgf/kgを下回った場合,連続歩行例がなくなることを指摘している.これらのデータは本研究結果と類似しており,筋力低下による歩行能力低下の主要因として,片側下肢での体重支持の困難性が存在するものと推測された.0.6kgf/kg以上の筋力を要しても,90%以上の下肢荷重が困難な症例が少数見られた.この原因としては,下肢支持性というよりも平衡機能の関与が強いものと推察された.今回は0.6kgf/kg以上の症例数が少ないため,今後,症例数を増やした上で他の平衡機能評価を併用して再検討する必要がある.

    【理学療法学研究としての意義】
    体重支持に必要な下肢筋力水準が明らかとなったことで,歩行能力低下の原因について,より客観性をもった専門的な分析が可能となる.
  • 予備的検討
    塩見 耕平, 田中 直樹, 飯塚 陽, 内藤 幾愛, 山口 普己, 金森 毅繁, 斉藤 秀之, 奥野 純子, 柳 久子, 長澤 俊郎, 小関 ...
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-014
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】医療現場における動作分析は主観的に行われることが多く,異常の程度を示すことが困難である.動作の定量的測定には,ビデオカメラや3次元動作解析装置を用いる方法がある.しかしこれら方法では解析や機器装着に労力を要すこと,高価であること,可搬性が低いことなどから,日常の臨床で用いられることは少ない.そこで本研究の目的は,表示機能を備えた角速度センサを,即時的,簡便,定量的な測定機器として使用し,臨床場面で歩行動作分析に容易に活用することと,その測定の信頼性を検討することとした.
    【方法】被検者は健康成人男性10名(平均年齢24.9±2.4歳)とした.測定機器は表示機能付き角速度センサ(SS-30001,シリコンセンシングシステムズジャパン社製)1台,デジタルビデオカメラ(HDR-SR11,Sony社製)1台を使用し,それぞれの機器で平地歩行中の大腿および下腿の角度を測定した.角速度センサの検出範囲は角速度±300°/秒,角度±999°,センサ部と表示部が5mのコードで接続した1軸角速度センサを用いた.角速度センサの表示部は角速度もしくは角度の現在値,時計回り(CW)最高値,反時計回り(CCW)最高値を表示可能である.センサ部の取り付けは左下肢とし,位置は大腿測定時が大転子と外側上顆の中間点,下腿測定時が腓骨頭と外果の中間点とした.表示部には角度を表示し,デジタルビデオカメラの撮影範囲のうち被検者と重ならない位置に提示した.デジタルビデオカメラは毎秒30フレームのプログレッシブ画像を記録する設定とし,矢状面での歩行を撮影するため床面から高さ0.9mの位置に歩行の進行方向と垂直となるよう歩行路から4m離れた位置に設置した.身体部位の同定のため左大転子,左外側上顆,左腓骨頭,左外果の計4箇所にマーカーを貼付した.歩行開始直前に直立不動位で角速度センサのキャリブレーションを行った後,被検者に床面のビニールテープの方向へ快適速度で歩くよう指示を与えた.歩行開始から歩行停止までビデオカメラの撮影範囲内となるよう実施した.大腿部測定,下腿部測定の2条件を,1試行ずつ測定し,全試行において左下肢がカメラの手前側になるよう撮影した.デジタルビデオカメラのデータは動画編集ソフトにて1秒30フレームの静止画に変換し,歩行開始前と測定部位角度が最大の静止画を抽出した.次に画像編集ソフトを用いて,マーカーを結んだ線と床面上のビニールテープの角度から,各試行における下肢角度の最高値を求めた.角速度センサの測定は,9名の測定者(経験年数2~6年の療法士8名,理学療法学科学生1名)に動画を見せ,動画上の角速度センサ表示部からCW,CCW角度の最高値を読み取り,紙に記入させた.測定の順はランダムとし,1試行につき3回ずつ測定させた.統計学的解析は級内相関係数(ICC)を用いて角速度センサの測定者内・測定者間信頼性を検討し,Pearsonの積率相関係数を用いて角速度センサの測定値と画像解析測定値の測定値との関係を検討した.有意水準は0.05とした.
    【説明と同意】
    本研究は実験内容に関して十分な説明を行い,同意の得られた者を対象として実施した.
    【結果】
    測定部位別の平均値(静止画測定値,角速度センサ測定値)は,大腿部CWが26.1±4.7°,28.7±6.1°,CCWが8.9±2.8°,8.8±2.1°,下腿部CWが21.0±5.1°,25.2±3.1°,CCWが53.2±4.9°,47.3±6.1°であった.角速度センサ測定値の測定者内信頼性は,最も低値であった測定者のICCが大腿部CW1.00,大腿部CCW0.993,下腿部CW0.998,下腿CCW0.823となった.9名の測定者間におけるICCは大腿部CW1.000,大腿部CCW1.000,下腿CW0.999,下腿CCW0.998となった.静止画測定値と角速度センサ測定値との相関係数は,大腿部CW0.660(p<0.05),大腿部CCW0.822(p<0.01),下腿部CW0.269(有意差なし),下腿部CCW0.812(p<0.01)となった.
    【考察】
    本研究により,表示機能付き角速度センサを用いた下肢角度測定において,測定値読み取りの信頼性が高いことは示唆されたが,ビデオカメラ動画の画像解析による測定値との相関において,下腿部CWでは有意差を認めなかった.その理由として,角速度センサ側ではドリフトの影響,静止画側ではビデオカメラレンズの歪曲収差,画像編集ソフトなどによる測定誤差の影響が考えられた.
    【理学療法学研究としての意義】
    角速度センサは床反力計,3次元動作解析装置等に比べて可搬性が高く,安価な点から,測定方法を確立することで定量的な動作分析の普及が期待される.
  • 長谷川 正哉, 大田尾 浩, 島谷 康司, 金井 秀作, 小野 武也, 田坂 厚志, 沖 貞明, 大塚 彰
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-015
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】足趾は感覚器および運動器としての役割を担い,立位,歩行中など重心移動時の安定性に寄与する事が知られている。脳卒中片麻痺者では痙性によるクロートゥやハンマートゥなどの足趾変形が起こる事が知られており,これらの足趾変形では疼痛や足趾の接地部分の変化,足趾接地圧の増加がみられ歩行能力に影響がおよぶものと考えられる。その一方で,臨床場面において足趾の不接地状態を見かける場面も多く,これらの症例では立位や歩行中における不安定性の増加が確認される場合があり,足趾の不接地状態の評価が重要と考えられる。しかし,これまで脳卒中片麻痺者の足趾接地状態について評価した報告はみられない。そこで本研究では試作したピドスコープを用いて中高年者と脳卒中片麻痺者の足趾接地状態を比較検討する事を目的とした。

    【方法】対象は,研究の趣旨と協力に同意した入院中もしくは通院中の脳卒中片麻痺患者105名および健常高齢者50名とした。計測は試作したピドスコープを用いて行い,静止立位時における足底面の接地状態をデジタルカメラで撮影した。次に足趾の接地状態の評価として,完全接地2点,接地不十分1点,非接触0点とし各趾の評価を行い,その後左右10本の足趾の合計スコアを求めた。また,左右の足趾全てが完全に接地していたものを接地良好群(全ての足趾が2点),1本でも不十分な接地が認められるものを接地不十分群(いずれかの足趾が1点),1本でも非接触が認められるものを不接地群(いずれかの足趾が0点)とし各群における百分率を求めた。統計解析は,各足趾のスコアおよび足趾接地状態の合計スコアについてMann-Whitney検定を用いて比較した。統計解析にはエクセル統計2007を用い,有意水準を5%未満とした。

    【説明と同意】本研究は,調査を行った施設に所属する倫理委員会の承認を事前に得てから研究を実施した。また,対象者には研究の目的や方法を十分に説明し同意を得て研究を開始した。

    【結果】健常高齢者と比較し脳卒中片麻痺患者の足趾スコアは麻痺側,非麻痺側に関わらず低値(p<0.01)を示し,また合計点においても低値を示した(p<0.001)。また健常高齢者では接地良好群26%,接地不十分群48%,不接地群26%であったのに対し,脳卒中片麻痺者では接地良好群6%,接地不十分群60%,不接地群34%となり,脳卒中片麻痺者では足趾の不接地が高率に発生する事が確認された。また不接地群の特徴として,健常高齢者では2趾あるいは5趾単独の不接地が多いのに対し,脳卒中片麻痺者では母趾の不接地や複数の足趾にまたがる不接地が多く確認された。

    【考察】本研究により,脳卒中片麻痺者では足趾の過剰な接地のみでなく,不接地が高率に発生する事が確認された。また足趾の不接地の状態は健常高齢者と異なり,母趾側の不接地や複数の足趾にまたがる不接地がおこる事が確認された。脳卒中片麻痺者では麻痺側骨盤の後方回旋に伴う重心の後方偏移が起こる事が知られており,これらの重心の偏移が足趾接地状態に影響を及ぼすものと考えられた。また本研究では足趾の不接地状態が麻痺側のみでなく,非麻痺側の母趾側においても多く認められた。これは荷重量の不均衡に伴い重心が非麻痺側後方へ偏移した影響と考えられる。先行研究により脳卒中片麻痺者の重心位置の特徴として非麻痺側・後方に変移する事が報告されており,本研究においても類似した傾向を得たものと考える。しかし本研究では実際の重心位置の測定を行っていないため,今後の課題として,脳卒中片麻痺者の足趾接地状態と重心位置の関係について検討していきたいと考えている。

    【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者では麻痺側,非麻痺側に関わらず足趾接地状態が不十分である可能性が示された。前述したとおり,足趾は感覚器および運動器としての役割を果たしている為,足趾の変形や不接地状態の確認は重要であり,また,装具や履物作成時には足趾の機能や接地状態を考慮し,適切な対応を講ずる必要がある。
  • タッチパネルとバランスWiiボードを用いたTrail Making Test
    久保田 一誠
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-016
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者において,歩行は獲得しているにも関わらず,急な方向転換や身の回りのADL動作を行う際,極端に転倒リスクが高まることを臨床上経験する.高齢者の場合,支持基底面内の安定性限界狭小化によって動的バランス能力が低下することに加え,あらゆる環境に適用するための注意機能低下が関与すると言われている.近年,二重課題(dual-task)下でのパフォーマンス能力低下が注目されており,転倒リスク軽減のためには,身体機能面としての動的バランス能力だけでなく,注意機能も伴った複合的な能力の獲得が必要となってくる.しかし,こういった二重課題下での能力を定量的に評価する方法はほとんど確立されていない.
    今回,注意機能評価方法の一つであるTrail Making Test Part A(TMT-A)を紙面上ではなく,パーソナルコンピューター(PC)のディスプレイ上で行えるオリジナルソフトウェアを作成した.さらに,その制御を市販のタッチパネルディスプレイとバランスWiiボードを用いて行えるように改変した.タッチパネルは,PCによるマウス操作が不慣れな高齢者にも使用可能であると考えられる.また,バランスWiiボードは,動的バランス能力に必要な支持基底面内の安定性限界を向上させる効果が期待されている.このシステムにより,注意機能および二重課題バランス能力について,定量的な評価が行えるかどうかを検討した.
    【方法】
    対象は,健常者12名(男性8名,女性4名)とした.対象の年齢は26.6±3.9歳であった.
    [1]注意機能の計測には,I・O DATA社製10.1型タッチパネルディスプレイ(LCD-USB10XB-T)を使用した.また,[2]二重課題バランス能力の計測には,Nintendo社製バランスWiiボードを使用した.測定は,[1]→[2]の順番で行った.[1][2]間では別の課題を行ってもらい,1~25の位置を記憶できないように配慮した.また,合計タイムだけでなく,1~25間のラップタイムも記録した.
    さらに,[1]と紙面上で行う通常のTMT-Aをそれぞれ2回実施し,検者内再現性および測定誤差を求めた.2回目の測定は別の日に行った.統計解析は,フリーウェアR2.8.1を使用した.検者内再現性は,Pearson積率相関係数(r)と級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC)を求めた.測定誤差は,測定標準誤差(Standard Error of Measurement:SEM)と最小検知変化(Minimal Detectable Change:MDC)を算出した.
    【説明と同意】
    対象者全員に対し,本研究について十分な説明を行い,同意を得た.
    【結果】
    [1][2]いずれの測定においても,検者一人で安全に実施可能であった.また,計測時間は1被検者あたり2~3分程度で実施可能であった.[1]タッチパネルでの計測結果は,13.64±1.93秒であり,ラップタイムの平均は,0.57±0.20秒であった.[2]バランスWiiボードでの計測結果は,47.56±8.44秒であり,ラップタイムの平均は,1.98±0.59秒であった.
    2回目の[1]タッチパネルでの計測結果は,13.25±1.94秒であった.検者内再現性は,r=0.71(p<0.01),ICC(1,2)=0.83であった.測定誤差は,SEM=1.09秒,MDC=3.03秒であった.一方,通常のTMT-Aの計測結果は,1回目20.34±3.34秒であり,2回目17.40±3.15秒であった.検者内再現性は,r<0.50(p>0.05),ICC(1,2)<0.50であった.測定誤差は,SEM=3.67秒,MDC=10.17秒であった.
    【考察】
    [1]の測定結果では,検者内再現性は0.7以上であり,測定誤差は1.09秒と平均値の10%以下であった.このことから,優れた再現性と測定精度を有していると考えられる.一方,[2]の測定結果では,健常者を対象にした場合においてもばらつきがみられた.ラップタイムの標準偏差は,[1][2]いずれも1.00秒以内であり,どの方向に対しても極端な差はみられなかった.今回の結果を基準として,今後患者層に適用し照らし合わせることで,その症例がどの方向への注意が向きにくいか,または,どの方向への重心移動が困難かを詳細に推定可能になると考えられる.
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究は,歩行時の急な方向転換や身の回りのADL動作などでの転倒リスクを回避するために必要となる二重課題下での能力について,定量的な評価を実現するための一助になると考えられる.
  • 北地 雄, 重國 宏次, 佐藤 優史, 清藤 恭貴, 原 辰成, 古川 広明, 原島 宏明, 角田 亘
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-017
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    歩行の安定性を評価するには観察により定性的評価をしたり、歩行周期中の変動を計測したり、パフォーマンスの変動を計測したりすることが多い。歩行の安定性を評価することにより、対象者の歩行が安全か、効率はどうか、応用性はあるか、学習過程のどの段階かなどを推測することができると考えられる。臨床的には、観察による評価やストップウォッチによる計測をすることが多いが、観察による評価は一般的に客観性に乏しいと言われ、ストップウォッチによる安定性の評価には繰り返し動作を行い、その再現性、変動を評価するため対象者への負担が大きい。ここでは、歩行を環境が安定している閉鎖スキルと考え、安定性≒再現性とし、臨床応用をしやすい2回の繰り返し計測による歩行時間の変動係数(CV)と、歩行時間の差から、歩行自立度が判断可能であるかを検討した。
    【方法】
    対象は脳血管疾患により片麻痺を呈した42名(平均年齢62.7±12.1歳、男性33名、女性9名)であり、発症からの期間は100.5±50.2日であった。なお顕著な高次脳機能障害や認知症の疑いのあるものはいなかった。調査項目はTimed up and go test(3m)の至適速度条件(TUGcom)と最大速度条件(TUGmax)をそれぞれ2回ずつ繰り返して計測した。そして1回目と2回目の差(TUGcom差とTUGmax差)と1回目と2回目の変動係数(TUGcomCVとTUGmaxCV)を算出した。なおTUGcom差とTUGmax差は常に正数となるよう減算した。その他、下肢Brunnstrom Recovery Stage(BRS)、麻痺側下肢荷重率(荷重率)、Functional Balance Scale(FBS)、Barthel Index(BI)を調査した。統計学的解析はそれぞれの調査項目間の関係をPearsonとSpearmanの相関係数を算出し、病棟内の移動手段を歩行としているものを自立群、見守りや介助、車いすを利用しているものを非自立群として群別し、それぞれの調査項目についてt検定とMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。さらにTUGcom差とTUGcomCVおよびTUGmax差とTUGmaxCVについてWilcoxonの符号付順位検定を用いて比較した。そして、病棟内での歩行自立の可否を従属変数、TUGcom差、TUGcomCV、TUGmax差、TUGmaxCVを独立変数とした尤度比による変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を実施した。この結果、歩行自立度と関連の認められた項目について,ROC曲線から歩行自立の可否を判断するカットオフ値を求めた。解析にはPASW17.0を使用し有意水準5%とした。
    【説明と同意】
    対象者には事前に研究の概要を口頭にて説明し、理解を得たうえで同意を得た。
    【結果】
    全対象者のうち歩行自立群は23名、非自立群は19名であった。TUGcom差とTUGmax差ともにBRS、荷重率、FBS、BI、TUGcom、TUGmaxと1%未満で有意な相関がありr=0.538~0.704の間であった。TUGcomCVはBI、FBSと、TUGmaxCVはTUGmaxと相関がありr=0.308~0.467の間であった。自立群と非自立群の比較ではすべての項目間に有意差があり、TUGcom差とTUGcomCVの間、TUGmax差とTUGmaxCVの間にも有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果、歩行自立の可否にはTUGcom差とTUGmax差が採択され(それぞれp=0.023と0.014)、オッズ比はTUGcom差9.56倍で、TUGmax差56.17倍であった。HosmerとLemeshowの検定の結果はp=0.549であり、判別的中率は95.2%であった。ROC曲線から、TUGcom差は曲線下面積=0.889となりカットオフ値は0.83秒で感度および特異度は82.6%、84.2%となり、TUGmax差は曲線下面積=0.921となりカットオフ値は0.99秒で感度および特異度は95.7%、89.5%となった
    【考察】
    相関行列からTUGの1回目と2回目の差とCVは、差の方が他のパフォーマンステストとの相関係数も高く有意な項目数も多かった。やはり2回の繰り返しでCVを算出する事には無理があると考えられた。しかし2回の繰り返しとはいえ、1回目と2回目の差との相関関係より発揮されるパフォーマンスが安定していないと歩行能力のみならず、麻痺の重症度や麻痺肢への荷重、バランス能力やADL能力も低下、悪化していく事が予測できる。またそれは、ロジスティック回帰分析や歩行自立に関するROC解析の結果からも確認されたと考えられる。カットオフに関してTUGcom差よりもTUGmax差の方が曲線下面積、感度、特異度とも高かった。これは最大歩行速度の方が再現性が高いと言われていることとも関係があると考えられ、また再現性の高いテストにおいてバラツキの多い結果となるということは能力が低い、つまり安全ではなく、効率が悪く、応用性もなく、学習の初期や中期と考える事ができると思われる。
    【理学療法学研究としての意義】
    TUGの2回繰り返し計測は臨床的であり、その2回の差から歩行自立度、つまり少なくとも安全性に関しては予測できる結果となった。
  • 西山 保弘, 岩松 尚美, 江崎 智哉, 工藤 義弘, 矢守 とも子, 中園 貴志
    専門分野: 基礎理学療法5
    セッションID: OI2-018
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    固定性に劣る可搬型床反力測定装置を用いて瞬時に椅子から立ち上る床反力(floor reaction force以下,FRF)の信頼性を本学会で報告している.30歳代から40歳代の下肢・体幹に障害のない健常成人18名(平均年齢40.2±7.1歳、男性7名、女性11名)で測定し、垂直方向SFzで級内相関係数係数0.963.前後方向SFx 0.819で高い信頼性を検証した.瞬時に立ち上る床反力は,ADL能力と相関が高いTimed up and go test(以下,TUG)の一部に含まれスタートの安定性と敏捷性が結果に関係することが予想される.FRFの垂直方向SFz,前後方向SFxと10m歩行時間,TUGの所要時間等の関連性について検討したので報告する.
    【方法】
    被検者は下肢・体幹に障害のない健常成人22名(平均年齢38.5±10.0歳,男性11名,女性11名)である.床反力測定は可搬型三次元フォースプレート(アニマ社製MG-200 以下,MG-200)を使用した.床面に下腿が垂直で足底がプレートに十分接する椅子を使用し,背もたれにもたれず両手を両膝の上に置いた姿勢を立ち上り開始姿勢とした.立ち上る速さは,ふらつかず瞬時に立ち上る最速とした.床反力データ(単位kgf)の垂直方向の左右加算値SFz,SFzから体重(weight)を引いた値SFz-W,前後方向の左右加算値SFx,立ち上り所要時間(start time,以下,ST)は,最大SFz値の時間から直前の最小SFz値の時間を引いた値を立ち上り所要時間とした. 日を変え2回のFRFを測定し、各FRF のSFz,SFz-W,SFxと1回毎の10m歩行時間,TUG,総膝伸展筋力(左右の和,OG技研社製アイソフォースを用いて固定バンドを使用した)の相関を求めた.被検者プロフィールとして性別,体重,身長,年齢,BMIを測定および聞き取りした.統計処理は,正規性検定(Shapiro-Wilk検定),Spearmanの順位相関係数を統計ソフトSPSS13.0Jを使用して求めた.いずれの検定も有意水準は,5%以下とした.
    【説明と同意】
    被検者には、口頭と文書で研究の目的、方法を説明し同意書に署名を得た。
    【結果】
    1回目と2回目ともにSFz,SFz-W,SFxの各項目と10m歩行時間,TUG,総膝伸展筋力,身長,体重,BMIの間に高い相関を認めた.1回目と2回目ともにSFyは,すべての項目に相関を認めなかった.信頼性係数0.619であったSTは,1回目はSFz-W,BMIに2回目にSFz-W,SFx ,TUG,膝伸展筋力,10m歩行時間に相関を認め,身長,体重,BMIには相関を認めなかった.年齢と各項目には相関はなかった.
    【考察】
    瞬時に立ち上る床反力は,ADL能力と相関が高いTUGの一部に含まれスタートの安定性と敏捷性が結果に反映することが予想される.結果よりFRFのSFz,SFz-W,SFxは,TUGや歩行能力に関する10m歩行時間の項目と高い相関を認めた.MG-200は,高い精度を持つ床反力計であるが,可搬型であるためプレートを踏み込む速度や角度によりデータの誤差が生じることが考えられた.測定結果より信頼性が証明され,瞬時に椅子から立ち上る起立動作は,日常生活能力を反映するパラメーターのひとつとして使用することが可能と判断される.スクワットや立ち上り筋力トレーニングの重要性を再確認させる結果となった.STについては,データの読み取り作業に誤差が生じやすい問題を今後、検討する必要がある.
    【理学療法学研究としての意義】
    可搬型MG-200を用いて瞬時に立ち上る起立動作のSFz,SFz-体重,SFxを測定し歩行能力に関する因子との相関関係を検討した.FRFのSFz,SFz-W,SFxは,歩行能力に関する10m歩行時間,TUGの項目と高い相関を認めた.日常生活能力を反映する評価のパラメーターとして使用することが可能と判断される.
ポスター発表(一般)
  • 猪村 剛史, 松本 昌也, 深澤 賢宏, 森川 久美, 孫 亜楠, Khalesi Elham, 河原 裕美, 弓削 類
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-001
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,従来の治療では根治が困難である疾患に対する新たな治療として,再生医療が注目されている.理学療法の対象である脳卒中,脊髄損傷,パーキンソン病等の中枢神経疾患は,同時に再生医療の対象でもある.脳虚血や脳挫傷等の疾患モデル動物に対して細胞移植を行った先行研究では,細胞移植により運動機能の回復が促進されることが報告され,中枢神経疾患に対する細胞治療の効果が示唆されている.しかし,細胞移植を受けた疾患モデルであっても,その回復が十分でないケースもある.さらに,新生した神経細胞が正しいネットワークを築くことができるのか不明であるという報告もあり,新生ニューロンの再教育の重要性が示唆されている.すでに日本や諸外国でも再生医療の臨床治験が始まり,一般臨床現場への導入が現実味を帯びてきた.その中にあって細胞移植後に,より機能回復を促進する治療法の確立は急務である.しかし,細胞移植後にリハビリテーションを行い,リハビリテーションと細胞治療の相加効果を検討した報告は極めて少ない.そこで本研究では,脳損傷モデルマウスへの細胞移植後に運動を行わせ,その効果を検討した.

    【方法】
    移植細胞にはES細胞由来神経幹細胞を用いた.中枢神経疾患モデルとして脳損傷モデルマウスを作製し,損傷7日後に,静脈経由で細胞移植を行った.細胞移植後のリハビリテーションとして,移植翌日よりトレッドミルを使用し運動を行わせた. 実験群は,細胞移植のみを行う群 (trans群), 運動のみを行う群(ex群), 細胞移植後に運動を行う群 (trans+ex群), 治療を実施しない群 (cont群), 頭部切開のみの群 (sham群) の5群とした.運動機能評価にはrotarod testおよびbeam walking testを行い,損傷1週後,2週後,3週後,4週後,5週後に実施した.組織学的評価として,脳損傷5週後に脳を摘出し,神経分化マーカーであるmicrotube associated protein 2 (MAP2) およびアストロサイトの分化マーカーであるgrail fibrillary acidic protein (GFAP) の免疫染色を行い,移植細胞の動態を評価した.

    【説明と同意】
    本研究は,広島大学の動物実験委員会指針及び広島大学自然科学研究支援センターの動物実験施設の内規に従って行った.

    【結果】
    運動機能評価では,cont群と比べ,trans群やex群で運動機能が改善した.さらにtrans+ex群では,最も運動機能が改善した.免疫組織学的解析では,MAP2の陽性率は,trans+ex群でtrans群と比較して高かった.また,GFAPの陽性率は,trans+ex群とtrans群の間で差はみられなかった.

    【考察】
    以上の結果より,細胞移植後のリハビリテーションの重要性が示された.細胞移植後に運動介入をすることで,移植した神経幹細胞のニューロン分化が促進されたことが,trans+ex群で最も運動機能が回復した要因として考えられる.今後は,運動により移植細胞のニューロン分化が促進されるメカニズムについて検討したい.

    【理学療法学研究としての意義】
    脳卒中,脊髄損傷,パーキンソン病等は,理学療法の重要な対象疾患であり,同時に再生医療の対象でもある.すでにES細胞を用いた臨床治験が米国で始まり,一般臨床現場への導入が現実味を帯びてきた.再生医療の到来は,理学療法の臨床現場に大きな影響を与えることが予測される.ES細胞由来神経幹細胞の移植効果を検討するだけでなく,理学療法学の視点から細胞移植後のリハビリテーション効果を検討することは重要であると考える.今後は,運動が移植細胞に与える影響のメカニズムおよび効果的な運動介入の方法について検討したい.
  • 神経分化と細胞移植
    松本 昌也, 猪村 剛史, 孫 亜楠, 深澤 賢宏, 森川 久美, Khalesi Elham, 河原 裕美, 弓削 類
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-002
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    理学療法の対象疾患である,中枢神経系疾患に対する再生医療が始まろうとしている.骨髄間質細胞は,自家移植可能であることから,臨床応用が期待されている.しかし,骨髄間質細胞を神経細胞に分化誘導する際に,サイトカインの多用や遺伝子導入によるがん化や免疫拒絶の諸問題がある.近年,電気,超音波等の物理的刺激に対する細胞応答の研究が注目されており,神経細胞への分化の際に電気刺激を用いた報告も散見される.しかし,骨髄間質細胞を用いた同様の報告は極めて少ない.このような物理的刺激を用いて移植細胞の分化を制御することは,従来の培養法に比べ安全な細胞の培養法につながるものである.そこで,本研究では,マウス骨髄間質細胞の培養の際に電気刺激を行い,形態学的,分子細胞生物学的に検討した.また,脳挫傷モデルを作製し,その移植効果を検討した.

    【方法】
    成体マウスの両側大腿骨及び脛骨から骨髄細胞を採取し,培養皿に播種した.2日後に培地交換によって浮遊細胞を除去し,培養細胞とした.増殖培地で70% confluentになるまで培養した後,神経分化誘導培地に移し,電気刺激を行う群(ND+E群)と電気刺激を行わない群(ND群)の神経への分化率の検討を行った.位相差顕微鏡を用いて形態学的な観察を行い,神経系細胞の分化マーカーの発現を免疫抗体法及びRT-PCR法により検討した.これらの細胞は,分化誘導7日後に,中枢神経系疾患モデルとして作製した脳挫傷モデルマウスに移植した.電気刺激の効果の検討のため, p38 MAPKの活性化を解析した.また,分化誘導14日後まで培養を継続し,分化率を検討した.移植は,損傷7日後に行い,損傷前,及び損傷2日から 28日後に運動機能を評価した.脳損傷から28日後にマウスから脳を摘出し,免疫染色を行った.

    【説明と同意】
    本研究は,広島大学の動物実験委員会指針及び広島大学自然科学研究支援センターの動物実験施設の内規に従って行なった.

    【結果】
    形態観察では,ND+E群で突起を伸ばした細胞が多くみられた.RT-PCRでは,分化誘導7日後において,ND+E群で神経分化早期のマーカーが,ND群に比べて強く発現した.さらに分化誘導14日後では,ND+E群で成熟神経細胞マーカーの発現が強くなった.免疫染色では,分化誘導14日後において,ND+E群で成熟神経細胞の陽性細胞数が,ND群に比べて多かった.ND+E群でp38MAPKの活性化がみられた.ND+E群の細胞を移植した脳挫傷モデルマウスの運動機能は,有意に改善した.また,脳の免疫染色においても,ND+E群の移植細胞の神経細胞への分化率が有意に高かった.

    【考察】
    骨髄間質細胞に対する神経分化誘導の際に電気刺激を行うと,14日後に神経細胞の分化マーカーの発現が強くなった.電気刺激により通常の神経分化誘導培養よりも分化が促進される可能性が示唆された.電気刺激を行った細胞で,p38MAPKの活性化がみられたことから,電気刺激がp38MAPKを介して分化を促進すると考えられる.また,電気刺激を行った細胞を脳挫傷モデルマウスに移植したところ,移植を行わなかったマウスに比べ,高い割合で神経細胞として生着し,運動機能の有意な改善がみられた.このことから,本研究で培養した細胞が,中枢神経系疾患への細胞移植治療への利用が可能であることが示された.マウスの骨髄間質神経細胞の培養及び細胞移植において,電気刺激で分化を促進できるということは,安全な細胞移植法の確立に寄与するものと思われる.今後は,細胞移植後の理学療法介入効果も検討していきたい.

    【理学療法学研究としての意義】
    再生医療の臨床応用が着々と進む中で,理学療法の対象となる疾患の治療が革新的に変化する可能性がある.再生医療に関する知識と,再生医療と理学療法の関わり方を動物実験等で検討していくことは,今後の理学療法の発展の上で重要である.
  • 井上 隆之, 橋本 龍樹, 岩本 凡子, 堀江 哲史, 大谷 浩
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-003
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法の臨床で遭遇する,長期臥床や関節の安静固定等によって引き起こされる拘縮は,結合組織,骨格筋などの関節構成体や,その他皮膚,神経などが複雑に関与している。これらに対して徒手治療や物理療法を行う上では,系統解剖学や組織学により記載されているそれらの正常な位置・構造からの変位や変化の可能性を念頭に置く事が重要である。昨年の理学療法学術大会において,膝関節に屈曲拘縮を呈したヒトご遺体を用いた関節,骨格筋および周囲の組織の肉眼および組織学的観察により拘縮病態の重症度別情報を収集して,拘縮に関する要因・要素を報告した。この度,四肢に重度拘縮を呈したご遺体より肩関節拘縮の病態を観察した。

    【方法】四肢に重度拘縮を呈した1ご遺体の肩関節(拘縮肢位:肩甲骨挙上35°伸展20°,肩関節屈曲・伸展0°,外転20°,内旋80°)を用いて,肩関節周囲に存在する骨格筋や周囲にある組織などを剖出し,その位置や形状を浅層から肉眼的に観察した。浅層部の肉眼的観察後,体幹から肩関節周囲の筋および鎖骨をつけたまま肩甲骨を外し,肩関節を肩甲骨面で割断して肉眼観察した。特に変化が顕著な部位および関節包,肩鎖関節を標本として切り出して再固定・脱灰を行って凍結切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色,エラスチカ・ワンギーソン(EVG)染色による組織学的観察を行った。また,現病・既往に肩関節疾患等のないご遺体2体を対照群として同様に観察した。

    【説明と同意】本研究は,島根大学医の倫理委員会承認(承認番号第420号)のもと実施した。使用したご遺体は,解剖実習に供せられる献体されたご遺体のご遺族に文書で研究内容を説明して同意をいただいた後に採材した。

    【結果】浅層観察および断面観察では,拘縮ご遺体において1)正面から鎖骨下筋の全容が肉眼で観察された。2)大胸筋と上腕二頭筋短頭の強い結合組織性の癒着が観察された。3)関節下結節に付着する上腕三頭筋長頭起始腱および脂肪体の著明な線維化が起こっていた。(4)関節包および関節上腕靱帯の肉眼的観察による明らかな肥厚・線維化が観察された。また,HEおよびEVG染色による組織学的観察では,拘縮ご遺体の肩鎖関節において肩鎖靭帯の肥厚,腱板の線維化が観察された。また,肩甲上腕関節の関節包および関節上腕靱帯の組織学的観察では,拘縮ご遺体関節包の弾性線維が対照群に比べ明らかに減少しているのが観察された。

    【考察】拘縮ご遺体の浅層観察において鎖骨下筋の全容が正面から観察された。通常,鎖骨下筋はその筋腹の多くが鎖骨の後外側方向に位置するため,この観察結果は肩甲骨挙上・伸展位により鎖骨が後方へ牽引・回旋されたことによるものと考えられる。上腕二頭筋短頭と大胸筋の強い結合組織性の癒着や,肩甲骨面の断面観察より観察された上腕三頭筋長頭腱の著しい緊張帯形成は,長期不活動による筋の線維化・短縮により起こったものと考えられる。また,EVG染色による組織学的観察結果において,肩甲上腕関節の関節包および関節上腕靱帯の弾性線維が明らかに減少していたことから,長期不活動により肩甲上腕関節を覆う関節包および関節上腕靱帯は強い線維化を呈し,これが本例の肩関節拘縮の大きな要因と考えられた。また肩関節は屈曲,外転,外旋方向への運動制限が多く,本例においても,肩鎖靭帯の肥厚,腱板の線維化なども呈していることから,複合的な組織学的変化による肩関節の拘縮が考えられた。

    【理学療法学研究としての意義】肩関節は複合した関節構造面の複雑な動きによって広範囲の可動性を有している。したがって,肩関節拘縮における評価・治療においては,その多様な構造の変化を念頭においておく事が必要である。さらに肩関節の拘縮・変形については神経疾患,外科的疾患および加齢による退行的変性により起因し,理学療法の対象としても多く存在する。今回の拘縮症例については内部疾患を主とした長期臥床による廃用性の肩関節拘縮を呈していた。実際の理学療法の臨床において,拘縮に対する治療はまだ後療法的なものが多く,評価・治療技術の正確性を増すための情報として,ヒトご遺体を用いた関節拘縮の病態観察は貴重であり,本研究は拘縮病態の重症度別情報を収集するため有効と思われる。今後研究を進めていくにあたっての課題として,生前の環境因子や治療歴なども考慮し拘縮病態を観察していく。
  • ラットによる実験的研究
    梅井 凡子, 山崎 麗那, 小野 武也, 大塚 彰, 沖 貞明, 武本 秀徳, 大田尾 浩
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-004
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】四肢における整形外科的手術では,一般的に駆血を目的としてターニケットを適用する。我々は先行研究において虚血再灌流後の骨格筋では浮腫と筋萎縮が同時に発生していることを報告した。このような状態の骨格筋に運動負荷をかけることがどのような影響を及ぼすのかを検証することを目的とした。
    【方法】対象は8週齢のWistar系雌性ラット25匹である。これらを5匹ずつ無作為に5群に振り分けた。振り分けた5群のうち1群を処置なしの「正常群」とした。残りの4群は麻酔下にて右後肢に対し駆血を行った。駆血には指用ターニケットカフDC1.6を使用し,加圧装置はラピッドカフインフレータE20,カフインフレータエアソースAG101を使用した。駆血圧は300 mmHgで駆血時間は90分間である。駆血を行った4群は再灌流後に「再灌流のみ3日群」「再灌流開始後運動3日群」「再灌流のみ4日群」「再灌流開始後運動4日群」に群分けをした。運動負荷はトレッドミルにて再灌流開始24時間後より行った。運動中の様子はビデオカメラ撮影を行い運動時の歩行状態を観察した。すべての群は実験終了時に右後肢からヒラメ筋を摘出した。摘出したヒラメ筋は、直ちに電子天秤で筋湿重量を測定し,さらにラットの個体間の体重差を考慮するためヒラメ筋相対体重比を求めた。ヒラメ筋湿重量測定後,液体窒素で急速冷凍させ凍結ヒラメ筋標本を作製した。凍結ヒラメ筋標本はクリオスタットを使用して,10 μm厚のヒラメ筋筋組織横断切片を作製し,H&E染色を施した。顕微鏡デジタルカメラを使用して標本毎にヒラメ筋線維横断面短径の平均値を求めた。
    統計処理は統計処理ソフトにて分散分析を行い,有意差が見られた場合は多重比較検定を行った。危険率5%未満をもって有意差を判定した。
    【説明と同意】本実験は、動物実験モデルであるために演者所属の動物実験倫理委員会の承認を受けて行った。
    【結果】ヒラメ筋相対体重比は「正常群」で0.53 mg/gであった。それに対し「再灌流のみ3日群」は0.46 mg/g,「再灌流開始後運動3日群」は0.48 mg/g,「再灌流のみ4日群」は0.46 mg/g,「再灌流開始後運動4日群」は0.44 mg/gであった。各群間の比較では「正常群」に比較し「再灌流開始後運動4日群」で有意にヒラメ筋相対体重比が減少していた。
    ヒラメ筋線維横断面短径は「正常群」で42.54 μmであった。それに対し「再灌流のみ3日群」は34.39 μm,「再灌流開始後運動3日群」は39.88 μm,「再灌流のみ4日群」38.63 μm,「再灌流開始後運動4日群」38.40 μmであった。各群間の比較では「正常群」に比較し「再灌流のみ3日群」で有意にヒラメ筋線維横断面短径が減少していた。
    運動負荷時の歩行状態は再灌流1日後では右下肢末梢に神経麻痺の状態を呈しており, 足関節底屈位のまま歩行をしていた。時間経過とともに神経麻痺の状態は軽減した。再灌流4日後にはすべてのラットにおいて背屈可能となったが,足趾は弛緩しているものもいた。
    【考察】ターニケットを使用した場合,虚血再灌流障害により骨格筋組織においては炎症反応と浮腫が発生する。その時,筋細胞においては虚血による代謝障害により筋細胞の退行性変化である筋萎縮が発生している。しかし,虚血再灌流障害が発生している場合においても廃用性の筋萎縮を予防するために早期より運動療法を行う。術後の炎症時期に過度の運動療法を行うことは炎症をより助長してしまい,痛みや機能障害を引き起こす可能性もある。織田は骨格筋に起こる虚血再灌流障害で浮腫が増大した場合コンパートメント症候群の増大を引き起こすと述べている。今回の結果から虚血再灌流後の歩行は末梢神経障害の状態を呈していた。運動負荷を行った場合の筋湿重量は4日後には有意に減少しており,浮腫の減少を促進させたと考える。そして浮腫からの回復に伴い歩行動作は改善していた。一方筋線維短径を見ると運動負荷を行った場合には減少せず早期からの運動効果として筋萎縮を予防できたと考える。
    【理学療法学研究としての意義】虚血に強いといわれている骨格筋においても,再灌流後は浮腫と筋萎縮を伴っているため運動開始時期と運動負荷量の検討が必要である。今回の研究において,再灌流24時間後からの骨格筋に対する運動負荷の影響が確認出来た。今回の結果は,ターニケットを使用した場合の早期運動負荷は浮腫の改善と筋萎縮の予防が出来ることを示唆している。今後は虚血再灌流後に行う適切な運動の種類と運動負荷量について検討していく予定である。
  • 機能的近赤外線分光装置(fNIRS)を用いて
    若田 哲史, 森岡 周
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-005
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    左頭頂葉損傷における失行症では、道具使用は可能だがパントマイム動作は障害されるという報告がある(Hermsdorfer et al,2006)。またGoldenberg(2004)、Hermsdorfer(2006)は、道具の把持部を用いたパントマイムにおいても運動が障害されると報告している。これについて脳機能イメージングを用いた報告はみられず、従来のパントマイム・道具使用の脳機能イメージング研究は臥位での拘束性の高い環境で行われている。本研究は機能的近赤外線分光装置(functional near-infared spectroscopy:fNIRS)を用いてパントマイム・把持部の使用・道具の使用を行った際の脳活動について明らかにすることを目的とした。

    【方法】
    整形外科的・精神医学的な既往のない右利き健常成人8名(男性5名、女性3名、平均年齢±標準偏差:28.3±2.38)が実験に参加した。課題は椅子座位の対象者に閉眼を求めた後、音声・効果音に従いスクリーンに提示されたクロスマークを観察しながら課題を行う方法を用いた。課題は条件1から条件4で構成され、条件1はパントマイム動作、条件2は道具の把持部を用いたパントマイム動作、条件3は道具使用動作、条件4は上肢の単純屈伸動作とした。各条件は12セットのプロトコルの中でランダムに3回提示した。タイミングプロトコルは前安静10秒―準備10秒―課題20秒―後安静10秒とし、課題は道具を変え3回実施した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製近赤外分光装置(fNIRS、FOIRE-3000)を用い、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。抽出したoxyHb値は個人差をなくすためにa.u.処理(Harada et al,2009)を行った。光ファイバフォルダは前頭葉と頭頂葉を覆った。統計処理は課題開始5秒前の準備状態、課題時におけるa.u.値を算出し、要因1を道具使用に関係した脳の関心領域、要因2を条件1~4とし、半球ごとに二元配置分散分析を用いて比較を行った。また、事後検定として各要因のa.u.値をBonferroni法により比較した。

    【説明と同意】
    本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を受け、研究実施の際には参加者に対し研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。

    【結果】
    準備状態では1~4条件において前頭前野・下頭頂領域のa,u,値が増加傾向であり、二元配置分散分析の結果、両半球の関心領域間に有意差が認められた(p<0.05)。事後検定では、左半球では条件1において前頭前野と下前頭領域に、条件3において前頭前野と下前頭領域・下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認め、右半球では条件1において前頭前野と下前頭領域に、条件3において前頭前野と前頭領域に有意なa.u.値の差を認めた(p<0.05)。
    課題時では1・3・4条件において前頭前野・下前頭領域のa.u.値が増加傾向であり、条件2において左下前頭領域のa.u.値の減少がみられた。二元配置分散分析の結果、左半球では関心領域間と条件間において有意差が認められ、右半球では関心領域間に有意差が認められた(p<0.05)。事後検定では、左半球では条件1において前頭前野と下頭頂領域に、条件3において下前頭領域と下頭頂領域に、条件4において下前頭領域と前頭前野・下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認め、右半球では条件1において下前頭領域と下頭頂領域に、条件3において前頭領域・前頭前野と下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認めた(p<0.05)。

    【考察】
    本研究は従来の脳機能イメージング研究の結果とは異なり、自由度の高い環境での課題が脳活動に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、把持部使用条件を除き準備状態で下頭頂領域が、課題時に下前頭領域が活動しており、運動の準備状態における下頭頂葉の関与、運動実行における下前頭領域の関与が考えられた。
    全条件における前頭前野の活動は、音声による課題提示、タイミングプロトコル設定によるワーキングメモリーの関与が考えられた。
    パントマイムは、道具概念情報を身体動作へと変換する創造的な課題であり、把持部使用条件における下前頭領域の活動の減少については、把持部分は道具の使用動作の表出には不十分であることが考えられた。

    【理学療法学研究としての意義】
    自由度の高い状態でのパントマイム、道具使用を行ったときの脳活動を明らかにした。また、道具の把持部分を用いたパントマイムは道具使用動作ともパントマイム動作とも脳活動が異なる事が示された。本研究は、失行症の治療における基礎的データとして有用であり、今後の理学療法研究の発展につながると考えている。
  • 異なる腹壁運動時での比較
    清水 洋治, 中崎 秀徳, 手島 雅人, 伊藤 貴史
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-006
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    側腹筋の機能評価方法の一つとして超音波診断装置が注目されており、その信頼性についても多くの研究がなされているが、一般的にプローブは徒手による固定で、課題が動的になるほど、または筋活動量が増すほど信頼性は低くなると考えられているのが現状である。また、ホローイング(腹壁を凹ませること)とブレーシング(腹壁を硬くすること)では明らかにブレーシングの方が体幹の安定性を生み出すという報告があるが、ここではバランス機能と側腹筋筋厚の関連性は述べられていない。そこで今回は、独自に作製したプローブ固定装置と超音波診断装置を用いて、立位・片脚立位でのホローイング・ブレーシング時の側腹筋筋厚を測定しその信頼性を検討することで、今後バランス機能と側腹筋筋厚との関連性を検討していきたいと考える。
    【方法】
    対象は健常男性12名とし、年齢(平均±標準偏差)は25.3±5.3歳、身長(平均±標準偏差)は172.7±4.1cm、体重(平均±標準偏差)は61.5±8.6kgであった。被験者は4つの運動課題をランダムに行った。運動課題は、課題1:立位 /ホローイング、課題2:立位 /ブレーシング、課題3:片脚立位/ホローイング、課題4:片脚立位/ブレーシングとし、その際の腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋の筋断面を超音波診断装置(東芝メディカル社製nemio30)で撮影した。ホローイングは、息は止めずに背中や骨盤が動かないようにゆっくりと腹壁を引き込むよう指導し、ブレーシングは、息は止めずに腹壁を引き込んだり背中や骨盤が動いたりしないようにゆっくりと腹壁を硬くするよう指導し、それぞれ被験者には事前に十分に練習させた。その際、負荷量は小さくなるよう意識してもらうため、Borgスケールの2を目安として運動させた。立位姿勢は、裸足にて胸の前で腕を組み、目線の高さの一点を注視させた状態で下肢を肩幅に開いた状態とし、片脚立位姿勢は、支持脚裸足にて胸の前で腕を組み、目線の高さの一点を注視させた状態で遊脚股・膝関節を軽度屈曲位とした。超音波のプローブの位置は、支持脚側の前腋窩線上で第11肋骨と腸骨稜の間とした。プローブ固定装置は、粘着シートを表面に貼ったスポンジゴムに穴を開けてその中にプローブをはめ込み、その状態で被験者の側腹部に当てキネシオテープにてプローブが落ちないよう固定した。測定モードはBモードとし、運動課題と超音波スクリーン上の筋厚画像が安定したところで横断画像を記録した。測定者は二人として、一人の被験者に対して同日中に各条件を2回ずつ測定した。統計処理にはSPSSver.12を用い、4つの運動課題時の各筋に対して、それぞれ検者内信頼性ICC(1,1)、検者間信頼性ICC(2,1)を求めた。
    【説明と同意】
    ヘルシンキ宣言に基づき、被験者に実験の目的・方法及び危険性等を説明し同意を得た。
    【結果】
    検者内信頼性ICC(1,1)に関して、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の順に、安静時は立位:0.96、0.96、0.88、片脚立位:0.95、0.99、0.96で、課題1:0.89、0.97、0.95、課題2:0.89、0.96、0.90、課題3:0.96、0.97、0.97、課題4:0.91、0.93、0.90であった。また検者間信頼性ICC(2,1)に関しては、腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋の順に、安静時は立位:0.75、0.72、0.64、片脚立位:0.83、0.67、0.57で、課題1:0.69、0.41、0.65、課題2:0.66、0.63、0.44、課題3:0.65、0.42、0.59、課題4:0.14、0.48、0.39であった。
    【考察】
    測定結果から、3筋全ての検者内信頼性は高いことが示され、また信頼性に関してはホローイングとブレーシングの違いはほとんどないことが示唆された。しかし、検者間信頼性に関しては3筋全てにおいて検者内に比べ高い信頼性は得られなかった。この要因の一つとして、プローブの固定方法が考えられる。今回の実験では、プローブがずれないように粘着シートとキネシオテープで二重に固定したが、キネシオテープで固定する際、筋への圧が一定しないことや、徒手にて設定した位置からずれることで、信頼性の低下につながったと考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    超音波診断装置は歩行など動的な場面で用いることは困難であり、信頼性は乏しいとされている。研究結果より、今回作製したプローブ固定装置では検者内信頼性が高かったことから、片脚立位等の半動的な場面での再現性は高いと考える。しかし、検者間信頼性が低かったことから一般化するにはまだ検討の余地があると考える。
  • 老化促進モデルマウスを用いた検討
    前島 洋, 國西 遼, 濱崎 歩, 大谷 拓哉, 黒瀬 智之, 出家 正隆
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-007
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】急速な超高齢化社会を迎える今日、高齢者における健康促進、退行性機能障害の抑制を目的とする運動習慣の育成が地域において盛んに行われている。高齢者におけるウォーキングを始めとする低負荷運動が神経系の退行抑制に働く一つの科学的論拠として、運動により惹起される神経栄養因子の発現が注目されている。神経栄養因子の一つであるBrain derived neurotrophic factor(BDNF)は、in vitro実験において脳に発現するシナプス受容体であるグルタミン酸作用性NMDA受容体や骨格筋に発現するシナプス受容体であるアセチルコリン受容体(AchR)に対して機能修飾してシナプス活性を促進する。BDNFもまた運動による発現増強が報告されているが、老化による各器官における発現修飾に関する知見は乏しい。そこで、本研究では、運動発現において直接的に動員される大脳皮質運動野および骨格筋において、老化および運動がBDNFおよび主要シナプス受容体の発現に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】雄性老化促進モデルマウス20匹を用いた。老齢群として35週齢マウスを運動群と対象群に区分し、成体群として10週齢マウスを同様に区分し、計4群を設けた。1日40分の低負荷トレッドミル走行(6.4m/分)を4週間行い、介入後、大脳皮質運動野およびヒラメ筋を採取、破砕してサンプルとした。各サンプルに対して逆転写反応を行い、cDNAを作成の後、リアルタイムPCR法を用いた定量的PCR法によりターゲット遺伝子のmRNA発現を定量した。ターゲットとして、BDNFに加えて、大脳皮質運動野においてはNMDA受容体のNR2A, NR2Bサブユニットを、筋においてはアセチルコリン受容体βサブユニット(AchRβ)の発現を計測した。2元配置分散分析法により老化および運動の効果について検定を行った。
    【説明と同意】本研究はヒトを対象としない動物実験であり、広島大学動物実験委員会の承認のもとで行われた。
    【結果】大脳皮質運動野において、BDNFは老化により僅かではあるが、有意に発現の減少が認められた。同様に老化によるNR2AおよびNR2Bの有意な発現減少が認められた。大脳皮質運動野における運動による効果は認められなかった。一方、ヒラメ筋においては、老化によりBDNFは劇的に発現が増強し、運動によっても有意な発現増強が認められた。その結果、ヒラメ筋において運動によって惹起されるBDNF発現増強は老齢マウスにおいて顕著であった。また、AchRβ発現も老化により有意に増強が認められた。
    【考察】老化により中枢運動野においてはBDNF発現が抑制される一方、末梢ヒラメ筋では劇的な発現増強が認められた。それぞれのシナプス受容体についてもBDNF発現と同様に老化による発現修飾が認められた。このことは、老化によるBDNF発現への修飾は器官により異なることを示すとともに、骨格筋での老化によるBDNF発現増強は、末梢器官における老化由来の退行進行に対する抑制的意義を持つことが推察された。特に高齢骨格筋において運動により惹起されるBDNF発現の増強が顕著であったことからも、低負荷運動の習慣が特に高齢者の神経・筋システムの維持・保護に有効であることが示唆された。
    【理学療法学研究としての意義】今日、障害からの回復を目的とする理学療法に対して、予防を目的とする理学療法的視点の重要性が唱えられている。本研究の成果は高齢者における予防的運動療法の有効性に関する科学的エビデンスとして貢献することができる。
  • 細江 民美, 蜷川 菜々, 磯部 恵里, 小林 麻美, 小玉 学, 鳥橋 茂子
    専門分野: 基礎理学療法1
    セッションID: PI1-008
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】我々の研究室ではin vivoに近い培養環境でES細胞から脈管を形成するために、アテロコラーゲンを用いた三次元培養方法を確立した。2009年の本学会では、この三次元培養法で、ES細胞塊から多数の脈管を形成できることを報告し、これが脈管形成モデルになりうることを示した。VEGF(血管内皮細胞増殖因子)は、脈管形成および血管新生に関与する一群の糖タンパクであり、多くの血管研究モデルにおいて脈管形成、血管新生を誘発することが報告されている。先行研究でもVEGF処理したES細胞は脈管形成するという報告もある。しかし、アテロコラーゲン三次元モデルにおけるVEGF効果の詳細な検討はされていない。また、PDGF-BBは脈管構造の形成を促進すると共に、動脈やリンパ管への分化も誘導する。そこで本研究では、アテロコラーゲンを用いた三次元脈管モデルにおいて、VEGF処理がどのような影響を与えるか、VEGFとPDGF-BBを併用した場合にどのような効果が得られるかを解析することを最終目的とした。予備実験として、本モデルにおける問題点を見直し、細胞数、培養日数、胚葉体形成方法について検討を行った。
    【方法】マウスES細胞を、Hanging drop法(以下HD)により胚様体(以下EB)を形成した。EBをアテロコラーゲン内に埋め込んで固定し、その上に通常培地を加え、2週間培養を行った。この方法において、EB1個あたりの細胞数、培養日数、レチノイン酸(以下RA)濃度、EB形成方法について検討した。細胞数については、EB1個あたりの細胞数を100個、300個、500個、1000個の4群に分け、それぞれ先述した方法で三次元培養を行い、その経過を光学顕微鏡により形態学的に比較した。培養日数については、HDを行ってから三次元培養を開始するまでの日数を2日、4日の2群に分け、同様に比較を行った。RA濃度については、0μl/ml、0.1μl/ml、0.2μl/mlの3群に分け、同様に比較を行った。EB形成方法では、HDとマイクロスフェアアレイを用いて比較を行った。VEGF効果は三次元培養を開始した培地にVEGFを添加し、11日間培養を行った。培養中は光学顕微鏡で経過を観察し、培養11日目に、動脈マーカーであるEphrinB2、リンパ管マーカーであるFlt-4で免疫蛍光染色を行った。
    【結果】HDは4日間行った群では、多数の出芽が認められた。細胞数は300個が最も出芽を多数認め、EBが崩壊することもなかった。RAは、添加しないと脈管系への分化は少なく、多いと神経系への分化が進行した。0.1μl/mlでは、神経系や心筋細胞などが少なく、脈管系への分化が観察された。EB形成法にマイクロスフェアを用いるとEBの大きさが均一になり、脈管系の出芽も多く観察された。VEGFの効果は、三次元培養2日目にはEBからの脈管出芽が認められ、その後枝分かれと伸長を続け、11日目には広範なネットワークを形成した。EphrinB2の発現は認められず、Flt-4は一部認められた。
    【考察】三次元培養法の見直しにより、アテロコラーゲン三次元培養法を脈管形成モデルとして用いる際の最も効果的な条件が確立した。また、VEGFはアテロコラーゲン三次元培養法においても血管新生を誘発することが示唆された。PCRを用いた遺伝子レベルでの詳細な効果検討とPDGF-BBとの併用効果については現在解析を行っている。その結果については本学会で発表する予定である。
    【理学療法学研究としての意義】脈管形成は理学療法の効果と深く関わっている。本研究のようなサイトカインと脈管形成との関係が明らかになれば、これを利用した炎症時、その回復期のプログラムの立案において参考になる。
  • 竹内 弥彦, 三和 真人
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-009
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の転倒を内的要因から考えるとき、補償的なバランス反応であるステッピング動作に着目する意義は大きい。特に、加齢に伴う姿勢変化により質量中心(Center of mass; COM)が後方にシフトしやすいことなどから、転倒方向として報告の多い、後側方へのステッピング動作が重要と思われる。ステッピング時に見られる、COM制御としての圧中心(Center of pressure; COP)の側方変位は予測的姿勢制御と位置づけられ、その自動化されたメカニズムは、COMを支持脚側へ移動するための生体力学的な効果を生じている。本研究では、随意的な後方ステップ動作時のCOP逆応答現象に着目し、加齢の影響と体幹・下肢筋力との関連を明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    対象は後方へのステップ動作が可能な千葉県在住の高齢者11名(平均年齢76.1±7.3歳)と対照群として健常若年者10名(平均年齢22.1±2.8歳)を選定した。
    被験者は左右分離型荷重計(Anima G6100)上で両足部をそれぞれ別の荷重計に位置させ、上肢を胸郭前方で組んだ立位姿勢を保持した。続いて、検者の合図で後方向へCOMを最大限移動し、片脚を後方へステップする動作を課した。動作時の左右方向のCOP位置変化からCOP逆応答現象を見出し、荷重計による鉛直方向床反力値からステップ足部の離地点と第4腰椎部に取付けた加速度計の鉛直方向成分波形から同側足部の接地点を定義した。さらに、COPのステップ足への側方移動を逆応答現象(Reverse reaction phenomenon; RRP)と定義し、COPが最大に側方移動した距離をRRP-max、側方移動開始点からRRP-maxまでの時間をRRP-time、RRP-max点から支持足への最大側方移動距離をCOP-ML(Medio-Lateral)、ステップ足が離地してから接地するまでの時間をstepping-time (ST)と定義して計測した。なお、RRP-maxとCOP-MLは各被験者の足幅で正規化(%足幅)した。床反力、COP、加速度データはサンプリング周波数200Hzで計測し、加速度データのAD変換器への取込時に荷重計からの同期信号を取込んだ。また、徒手筋力計(HOGGAN HELTH INDUSTRY MICROFET)を用いて、被験者の筋力(体幹屈筋群、股屈曲・伸展筋群、股外転・内転筋群、膝屈曲・伸展筋群、足背屈・底屈筋群、内がえし・外がえし筋群、足趾屈筋群)を測定し、各被験者の体重で正規化(%体重)した。
    統計処理は、RRP-max、RRP-time、COP-ML、STについて、高齢群と若年群の差をWeltchのt検定を用いて検討した。さらに、Pearsonの積率相関係数を用いて、RRP-max、RRP-time、COP-ML、ST間、さらに各筋力との相関関係を分析した。
    【説明と同意】
    全ての被験者には、実験の趣旨を口頭および書面を用いて説明し、同意文書に自筆の署名をいただいた。
    【結果】
    COPの逆応答特性における高齢群と若年群の比較では、RRP-maxにおいて高齢群13.8±10.3%、若年群6.3±2.0%で高齢群が有意に高値を示した(p<0.05)。その他の特性では、両群で有意な差は認めなかった。高齢群における逆応答特性間、および筋力との相関分析では、RRP-maxとCOP-ML間で有意な正の相関関係を認め (r=0.77, p<0.01)、RRP-timeとCOP-ML間で有意な負の相関関係を認めた(r=-0.64, p<0.05)。また、STと膝伸展筋力との間に有意な負の相関関係を認めた(r=0.60, p<0.05)。
    【考察】
    高齢群における逆応答特性間の相関分析で、RRP-max、RRP-timeとCOP-ML間に有意な相関関係を認めたことから、予測的姿勢制御として先行するCOPのステップ足への側方移動量およびその移動時間が、その後の支持足側へのCOP移動量に影響することを示唆している。さらに、RRP-maxにおいて、若年群に比して高齢群で有意に高値を示したことから、高齢群ではCOMの支持足側への移動の力学的要因であるステップ足へのCOP移動量を、より大きくする必要があることが示唆される。
    高齢群でSTと膝伸展筋力との間に有意な負の相関関係を認めたことに関して、STは片脚立位姿勢でのCOM後方移動を制御する区間であるため、膝関節へ加わる屈曲モーメントを制動する膝伸展筋力がSTの短縮に関与することが示唆された。転倒予防からみたステッピング動作においては、いかに速く、新しい支持基底面であるステップ足を接地、制動できるかが重要となるため、今後、支持脚の膝伸展筋機能の関与について、筋電図などを用い、さらに調査していく必要があろう。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究で得た、後方へのステップ動作における加齢の影響やステップ時間に関与する筋力の知見は、介護予防事業に参入している理学療法士が立案する転倒予防プログラムの内容を、より科学的根拠に基づいたものとするための基礎データとして活用可能と考える。
  • 龍嶋 裕二, 萩原 礼紀, 高橋 龍介
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-010
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    健常者の歩行を対象とした我々の先行研究では,歩行相における立脚中期-立脚終期の区間時間と足関節底背屈運動に有意な相関を認めた.今回末期変形性膝関節症(以下KOA)の歩行を測定し,歩行動作中の各歩行相の膝関節屈伸角度及び足関節底背屈角度について定量解析し,特徴を把握することを目的とした.
    【方法】
    対象は当院入院中のTKA施行予定の末期KOA症例38名(男性4名,女性34名)平均年齢71歳±9.4歳とし,横浜市大分類における変形性膝関節症進行度分類(以下OAGrade)4にて独歩可能者を対象とした.JOAスコアは50点(±10),ROMは膝関節屈曲110度(±15),伸展-15度(±10),NRSは6点(±1.8)であった.課題は,10mの直線歩行路上における自由歩行とした.測定前に複数回の試行を実施し,動作を習熟させた.被験者の下肢体表面上に左右の上前腸骨棘,大転子,腓骨小頭,外果,踵骨隆起,第5中足骨頭に直径25mmの赤外線反射標点を貼付し実施した.測定課題において実施中の標点位置を三次元動作解析装置(ライブラリー社製)により撮影し,サンプリング周波数は120Hzとした.計測した1歩行周期を画像データから各歩行相(以下踵接地HS,足底接地FF,立脚中期MS,踵離地HO,足底離地TO)に分類し,正規化し,加算平均を算出した.各歩行相における区間時間,膝関節屈伸角度,足関節底背屈角度を求めた.またPearsonの積率相関係数を用いて各歩行相内での各区間時間と足関節底背運動との相関係数を求めた.有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    当院の倫理委員会の許可を得た上で本研究における概要を書面にて説明し,協力を要請し,同意を得た.
    【結果】
    1歩行周期は1.2±0.18秒となり,各歩行相における区間時間では,右HS-FF0.09±0.01秒,FF-MS0.2±0.03秒,MS-HO0.2±0.03秒,HO-TO0.2±0.03秒,TO-HS0.48±0.07秒であり,左側も同様な傾向を示した.各歩行相における膝関節屈伸角度は右HS13.9±7度,FF18.9±6.7度,MS20.2±11.3度,HO16.7±8.9度,TO26.9±8.9度であり,左側も同様な傾向を示した.足関節底背屈角度においては底屈をプラス,背屈をマイナスと表記し右HS2±7.4度,FF0.9±4.9度,MS9.6±5.5度,HO13.4±6.8度,TO1.6±10.3度となった.膝関節と同様に足関節にても左側は同様な結果であった.各歩行相における区間時間変動と足関節底背屈角度の相関係数は各歩行相全てにおいて有意相関は認められず,右HS-FFはr=-0.04,FF-MSはr=-0.2,MS-HOはr=0.38,HO-TOはr=0.46,TO-HSはr=0.08であり,左側も同様に有意な相関は認められなかった.
    【考察】
    文献では,KOAの初期接地から荷重応答期までに膝屈曲がほとんど生じないとされているが,結果より本研究の歩行周期中の膝関節屈伸角度では,左右共に初期接地から立脚中期にかけて,屈曲角度が増加する傾向を示した.これは対象がOAGrade4であり,主動作筋と拮抗筋を同時収縮させ膝屈曲位にて関節剛性を高めることで関節不安定性に適応させていることが要因として考えられた.また足関節底背屈運動は,HO-TO相において左右共に底屈位から背屈位に移行する関節運動を示した.我々の先行研究で,HO-TO相を詳細に観察した際に足関節は背屈位から底屈位まで直線的に一定方向の運動様式を取っており,時間変化と角度は有意な相関を認めた.しかしKOA群でのHO-TO相では,一様の運動ではなくHO-TO相を通じ,瞬時で微細な足関節底背屈運動が繰り返し生じており,時間変化と角度の相関が認められない結果となった.これらは,KOA群が関節構成機構の破綻及び疼痛により,円滑な荷重移動が障害され,加齢による神経系の低下と相乗し,運動制御の困難な状態として観測されたためと考えられた.
    【理学療法学としての意義】
    KOAの状態を把握するために歩行特性を解明していくことは重要であり,歩行動作時の視点を把握することが臨床での治療の一助になると考えた.
  • 歩行分析計と表面筋電図による解析
    柴垣 信介
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-011
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    履物は転倒発生に関わる外的要因の一つで、スリッパの使用は靴と比較して転倒リスクが高いと報告される。しかし履物と歩行に関する研究結果は一定せず、十分な根拠はないが経験的にスリッパの使用を避けるよう指導内容に選択されているのが現状といえる。今回、スリッパとバレーシューズ(以下靴)での歩行を、歩行分析計と表面筋電図(SEMG)を用いて比較し、若干の知見を得たので報告する。
    【方法】
    被験者は健常男性9名、年齢27±6.2歳、身長168±3.1 cm。スリッパと靴は市販物を使用し、裸足で着用した。靴は装着感に問題のないものを0.5cm間隔で選ばせた。歩行解析にはウォークWay MG-1000(アニマ株式会社製)を使用し、長さ48cmのプレート5枚と前後1mの合計4.4mを歩行路とした。通常速度での歩行を十分な練習後に各4回計測した。施行間に充分な休息時間を設けた。検討項目はストライド長及び秒、歩幅、歩隔、歩行角度、足角、立脚期及び両脚支持期の割合、スピード、ケイデンスの平均値とした。距離因子は身長の平均値から算出した割合で正規化した。また、モニタ上に描写される足跡とCOPの移動を10msec間隔で観察した。SEMG解析にはMyoSystem1400A(NORAXON社製)を使用し、利き足大腿直筋(RF)、前脛骨筋、内側腓腹筋(MG)を測定筋とした。フットスィッチを両側靴底面の母趾々腹、第1中足骨遠位足底面、踵骨足底面に被験者毎に設置して筋電計と同期させた。計測波形はRoot Mean Squareにて処理した。検討項目は各筋ピーク値、立脚相と遊脚相での各エリア平均値とし、MMTの肢位で測定した各筋MVCで正規化した。統計学的分析には対応のあるT検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    被験者には研究の目的及び方法を説明し、理解と同意を得た。
    【結果】
    被験者につき平均8歩行周期を計測した。歩行解析では歩隔(スリッパ:9.9±2.9cm 靴:8.9±2.7cm 以下同順に記載)、歩行角度(9.1±2.8° 8.4±3°)、ケイデンス(115±7.5歩/min 109±8.7歩/min)、立脚期の割合(63±1.6% 66±4%)に有意差があった。モニタの観察からCOPの軌跡は踵接地から足趾離地にかけて、踵から第1中足骨遠位端次いで母趾々腹へと移動する。その移動は滑らかではなく、各箇所で一旦停止してまた動くといった軌跡を呈し、視覚的に明らかな変化があった。COPが踵部から第1中足骨遠位端に到達するのに要する時間(310±50msec 270±40msec)と第1中足骨遠位端から母趾々腹に到達するのに要する時間(50±30msec 100±30msec)に有意差があった。SEMG解析では視覚的に特徴のある波形の変化はなかった。ピーク値は立脚相でのRF(32±16%MVC 24±13%MVC)、MG(54±15%MVC 72±24%MVC)で有意差があった。各相エリア平均値は立脚相でのMG(15±6.2%MVC 24±9.8%MVC)に有意差があった。
    【考察】
    スリッパ歩行はwide base傾向で、踵接地から踵離地にかけてのCOPの移動時間が延長し、踵離地から足趾離地での時間が短縮する。歩容を誇張して表現すると踵接地後の重心前方移動は制限され、立脚後期は短縮すなわちターミナルスタンス以降が不十分な状態で遊脚相へ移行する。これはSEMG解析で立脚相MGの活動性低下が示した通り、蹴り出しによる推進力が低下した事が関連した歩容の変化と考えた。スリッパ歩行は踵部の固定性がないため、足趾屈曲による履物の固定と歩行中の背屈可動域の維持による履物落下防止が必要である。足趾伸展及び底屈可動域の抑制により立脚期MGの活動とフォアフットロッカー作用が低下し、COPの軌跡が変化したと考えた。そしてケイデンスの増加は推進力確保の補完と考えた。RFの立脚相ピーク値は接地後の衝撃緩和を表し、スリッパ歩行で高値であった。上述の通り立脚後期の短縮が生じているが歩幅に有意差はない。立脚相の減少、換言すると遊脚相の拡大は歩幅を維持する代償であり、推進力低下を補うために遊脚時の股関節及び膝関節屈曲角度は増大していたと推測される。この現象は靴歩行と比べ鉛直方向の接地を生じさせ、接地時の床反力作用線は膝後方へ移動し、外的モーメントに変化が現れたと考えた。以上の事からスリッパ歩行は履物保持と推進力を得るために歩容の変化が起き、筋活動等に影響を与える事が示唆された。今回の対象が健常若年者であったため顕著な差ではなかったが、高齢者や下肢機能障害者では身体機能や適応能力が低下し、差の開大が予測され、リスクへの発展が危惧される。被験者の再考と関節角度や床反力、クリアランス等のパラメータとの考察が今後の課題である。
    【理学療法学研究としての意義】
    履物の違いによる歩行解析によって転倒との関連性を明確にし、根拠のあるADL指導やリスク管理を行う。
  • 閉鎖運動連鎖における股屈伸筋力の働きについて
    吉澤 隆志, 藤沢 しげ子
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-012
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    リハビリテーション分野における筋力測定機器は多数存在しているが,そのほとんどは単関節に対してのものである.ここで,人の運動には開放運動連鎖(Open kinetic Chain:以下,OKC)と閉鎖運動連鎖(Closed kinetic Chain:以下,CKC)とがある.近年,運動療法を実施する際にCKCを考慮することが重要視されており,下肢の複合関節運動による伸展トルクを測定できるStrengthErgo(以下,SE)が注目されている.また,SEにて測定した下肢伸展トルクの信頼性は高く,BIODEXによる等速性筋力との関連性やHand Held Dynamometer(以下,HHD)にて測定した膝屈伸筋力との相関が認められている.
    ここで,立ち上がり動作などのCKCの運動形態では,股・膝・足関節が複合した下肢全体としての伸展筋力が必要とされる.筆者らは,以前,下肢伸展トルクと膝屈曲筋力との関係を調べたが,股屈伸筋力との関係の検討は行えていなかった.また,下肢伸展トルクと股屈伸筋力との関係を調べた研究は散見する程度であり,また,SEとHHDを用いた研究はほとんどない.よって本研究の目的は,SEにより測定した下肢伸展トルクと,HHDにより測定した股屈伸筋力との相関を調べることである.

    【方法】
    下肢伸展トルク(Nm)は,SE(三菱電機エンジニアリング株式会社StrengthErgo240)を用いisokinetic modeにて50回転/分の回転速度で5回の連続駆動により行い,下肢伸展動作時の左右における体重比のピークトルクを測定した.股屈伸筋力(N)は,HHD(アニマ株式会社ミュータスF-1)を用い左右の体重比筋力を測定した.股屈曲筋力については,体幹は中間位で両肩を外転し手を座面に着いた状態で測定した.また,股伸展筋力については,腹臥位にて測定した.ここで,下肢伸展トルクと股屈伸筋力においては,それぞれ3回測定し平均値を算出した.
    次に,左右の下肢伸展トルクと股屈伸筋力との関係をスピアマンの相関係数を用いて関係を調べた.なお,統計解析には,spss14.0j for windows(エス・ピー・エス・エス株式会社)を用いた.

    【説明と同意】
    対象は,下肢に既往のない健常成人41名(男性22名・女性19名),平均年齢27.7±7.0歳とした.ここで,事前に対象に対し研究趣旨・測定方法・結果の処理方法・研究結果発表の場について十分な説明を行い,その後同意書に署名をした者についてのみ研究対象とした.

    【結果】
    右下肢伸展トルクは2.4Nm/Kg,左下肢伸展トルクは2.4Nm/Kgであった.次に,右股屈曲筋力は3.4 N/Kg,左股屈曲筋力は3.3N/Kgであった.また,右股伸展筋力は4.3N/Kg,左股伸展筋力は4.1N/Kgであった.ここで,左右下肢伸展トルクと左右股屈曲筋力においては強い相関(r=.76~.80),右下肢伸展トルクと右股伸展筋力においては弱い相関(r=.37)および左下肢伸展トルクと左股伸展筋力においては中等度の相関(r=.41)が見られた.また,左右下肢伸展トルクにおける級内間相関はr=.98,左右股屈伸筋力測定における級内間相関は,r=.86~.97であった.

    【考察】
    本研究では,下肢伸展トルクと股屈曲筋力との間に強い相関,股伸展筋力との間に弱いおよび中等度の相関が見られた.このことは,CKCでの下肢伸展動作時に股屈曲筋である腸腰筋や大腿直筋,股伸展筋である大殿筋が作用することを表している.また,下肢伸展トルクと股屈曲筋力との相関は股伸展筋力との相関よりも高かった.その理由として,腸腰筋や大腿直筋が直接的に膝伸展に作用した効果が考えられる.特に腸腰筋については,CKCにおいてはリバースアクションにより膝伸展への関与が考えられる.また,大腰筋は腰椎を介して骨盤の安定性に関与すると考えられており,下肢伸展トルクを発揮する際に下部体幹を固定する役割として機能したと考えられる.
    ここで,下肢伸展トルクは立ち上がり時間や歩行速度との相関が認められている.よって,臥位・座位レベルから立位レベルへ移行する目的,あるいは,歩行速度向上目的にて股屈伸筋力に対し筋力訓練を行うことの必要性が示唆されたと考える.今後,同様の方法にてSEとHHDという客観的評価が可能な機器を用いて,高齢者における下肢伸展トルクと股屈伸筋力や体幹安定性との関係を調べたいと考える.

    【理学療法学研究としての意義】
    立ち上がりや歩行に関する理学療法としては,大腿四頭筋が注目されることが多い.しかしながら,立ち上がりや歩行はCKCでの動作であるために,膝伸展および体幹の安定性への関与として,腸腰筋や大殿筋などの股屈伸筋力の影響を考慮する必要があると考える.従来から,下肢伸展トルクと股屈伸筋力との関係性は考慮されていたと考えるが,本研究の結果により,SEとHHDという客観的評価が可能な機器によっても両者の関係性が示唆されたと考える.
  • 大腰筋の抗重力作用について
    山口 徹, 竹井 仁
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-013
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    姿勢保持において大腰筋は重要な役割を果たしている。しかしながら大腰筋の活動を評価した報告には、MRIやワイヤー筋電を用いたものがわずかに散見される程度である。
    超音波診断装置を用いて測定する利点にMRIのような高価な機器を使用せず、ワイヤー筋電図を使用する際の侵襲などの危険もなく大腰筋の筋活動を評価できる可能性がある。
    端座位を保持するだけでも姿勢保持筋としての大腰筋の活動が認められることや、姿勢保持を行うための筋の持続収縮に効率的な赤筋で大腰筋が構成されていることなどが、先行研究でも報告されている。第45回大会で超音波診断装置を用いた大腰筋の画像測定の信頼性と妥当性を報告した。今回は端座位において上方へ牽引し、体幹部の部分的に免荷することで、姿勢保持筋としての大腰筋の働きを超音波診断装置を用いて検討したので報告する。

    【方法】
    対象は健常成人男性8名。年齢・身長・体重の平均値と標準偏差は、それぞれ30.1±5.1歳、173.0±4.2cm、66.4±4.2kgであった。測定機器は超音波診断装置(東芝メディカルシステムズNemioXG)を用いた。
    測定肢位は被験者の足がつく端座位で、股関節・膝関節屈曲90度、耳垂・肩峰・大転子が一直線となるような肢位を全荷重位とし、懸垂器具(可動式免荷装置アンウェイシステム)を用いて、体幹部の重さを軽減しかつ肢位が変わらない最大免荷時の肢位を最小荷重位、全荷重位の半分の重さにした肢位を50%荷重位の計3肢位の測定を行った。また同時に第1胸椎棘突起から第5胸椎棘突起までの距離も測定した。検者は被験者の背側より第1腰椎から第5腰椎まで各腰椎部を各測定肢位で、超音波診断装置を用いて大腰筋の超音波静止画像を記録した。超音波静止画像上の大腰筋の特定は大腰筋の筋膜の境界線を基準にし、Image Jを用いて各腰椎レベルにおける大腰筋断面積を測定して[mm2]単位で測定した。
    統計処理には、統計処理ソフトSPSS ver.17.0を用いた。実験については対応のある一元配置分散分析と多重比較検定(Turkey HSD法)で分析し、有意水準は5%とした。

    【説明と同意】
    本研究の目的・方法・趣旨等を口頭・紙面で十分説明し、同意を得られた対象者のみ実験を実施した。

    【結果】
    第3、4、5腰椎部における全荷重位の大腰筋断面積が最小荷重位に比較して有意に大きかった。
    第1から5胸椎棘突起間距離は全荷重位と50%荷重位では差がなく、全荷重位と最小荷重位間で0.5~2cmとなった。

    【考察】
    第3、4、5腰椎部の大腰筋断面積が最小荷重位に比べ全荷重位で広がったことが分かった。この結果は先行研究からの姿勢保持に大腰筋が関与している報告と一致した。しかし第1から5胸椎棘突起間が全荷重位にくらべ最小荷重位で長くなった分、大腰筋が伸長されて断面積が小さくなった可能性も考えられた。
    第1、2腰椎部については有意な差が認められなかったが、第45回大会の報告における上位腰椎では大腰筋の筋形態に有意な変化が見られなかった点と一致した。原因として大腰筋の起始部に近く断面における腱の割合が多いために筋断面積の変化が少なかったと考える。
    今後、体幹部の大腰筋以外の筋の活動の有無で大腰筋の筋形態にどのような影響を与えているかを検討したい。

    【理学療法学研究としての意義】
    超音波診断装置を用いて大腰筋の活動を評価することで、動的な筋活動の変化を確認することが可能となる。また経時的な変化を連続的に評価することも可能となると考える。姿勢変化に大腰筋が及ぼす影響の検討や効果的な大腰筋強化法の確立につながると考える。
    また臨床の場面において簡便に筋活動の評価を行うことが可能となると考える。
  • 帯刀 隆之
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-014
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】養成教育において運動学はカリキュラム全体における基幹科目となる.中でも正常歩行の学習は,理学療法の評価や技術論にとっても確実に理解を図りたい単元である.座学による歩行分析のための用語や歩行メカニズムの学習とともに,実際の歩行についての観察や計測などの演習や実習もまた,学習を促進するために欠かすことはできない.正常歩行を学びはじめる初学習者にとって,歩行相を区分しその名称を言えることは最初のくぐらなければならない知識の関門である.これを実感のある知識とするためには計測実習が役立つ.歩行相区分を目の当たりにするにはフットスイッチを用いた計測が優れている.それは機器としても簡便であり,計測構成システムとしても直観的で理解しやすいからである.ところが,機器としては単純であり材料も安価なものであるためか,製品として入手しようとしても逆に手に入れにくい機器となっていることを経験した.これを機に健常者の自然歩行計測のためのフットスイッチを特別注文で製作した.そこで本研究の目的は,歩行相解釈の教育活動の一助とするために,床反力計と比較した本フットスイッチのもつ機器特性を知ることにある.
    【方法】対象は健常女子13名であった.フットスイッチはフロンティアメディック社製OKFOOT-SWITCH-S1-H22-05で1つの電源から2個のスイッチを配し,3Vと2Vの矩形出力信号が取得可能であった.スイッチのサイズは長さ45mm,幅10mm,厚み3mmであった.2個のスイッチは,右片足に対し長軸を前額面に平行に足底球前端部(以下,つま先スイッチ)と踵部後端部(以下,踵スイッチ)にそれぞれ両面接着テープにて貼付した.スイッチからの出力信号は,床反力計からの信号とともにA/Dボードを介してPCに取り込み解析した.歩行計測は,中央に2基の床反力計を配置した6mの歩行路で8試行を行わせた.歩行条件は自然歩行と速い歩行の各4試行とした.検討した変数は,初期接地として鉛直床反力がはじめて正の値をとったフレームから踵スイッチがオンとなったフレームまでの時間,立脚相終了点となる鉛直床反力がゼロとなったフレームからつま先スイッチはオン・踵スイッチがオフ(つまりHeel Rise)となったフレームまでの時間,同じく鉛直床反力による立脚相終了点からつま先スイッチもオフ(つまりToe Off)となったフレームまでの時間をいずれも鉛直床反力の立脚相フレーム時間を百分率で正規化した(ただし,1フレーム=1/60秒とする).また他に,足関節点の進行方向速度から求めた最大振り出し速度,スイッチがオンとなる荷重量(力)の観測された最小値を取得した.各データに被験者内での特徴的な変動は見られなかったために反復試行の各平均値を被験者の代表値とした.変数間の分析にはPearson積率相関分析を5%の有意水準で行った.
    【説明と同意】被験者には調査内容を説明し書面にて参加同意署名を得た.
    【結果】床反力計と比較したフットスイッチのタイミングは,初期接地の平均と標準偏差が+7%±3.8%,Heel Riseが同じく-8%±3.2%,Toe Offが+14%±8.7%であった.歩行時の最大振り出し速度の平均と標準偏差は4.1m/s±0.4m/sであった.また,スイッチの観測最小負荷量は10.0Nであった.相関分析では,Heel RiseのタイミングとToe Offタイミングとの間に見かけ上の相関があるようにみえた(r=0.564,p=0.045)が,体重の影響を考慮した偏相関係数では有意な関係(rxy・z=0.568,p=0.054)は認められなかった.
    【考察】本フットスイッチの信号出力タイミングは床反力計による立脚時間を100%としたとき,初期接地は約7%遅れたタイミングでみられ,Heel Riseは床反力による立脚終了時間からみて約8%早期に,そしてToe Offはそれより約14%遅れたタイミングでみられることが分かった.スイッチに,ある負荷が加わった際にはじめて出力信号が発せられる構造であるから,本結果はうなずけるものである.しかしながら,スイッチ信号によるToe Offタイミングが床反力計により知る立脚相終了タイミングより,約14%も遅延することは興味深い.Gotz-Neumann(2005)による「Pre-Swingではすでに荷重はされておらず,単に遊脚の準備をしているだけ」という解釈を裏付けるものであると思われた.
    【理学療法学研究としての意義】「歩行の運動学」の学習に供される現象を捉える際,計測機器の特性やそれによる正常歩行の特徴点となる歩行相の見え方が異なってくることを理解することは重要である.
  • 稙田 一輝, 鈴木 哲
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-015
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者腰椎圧迫骨折患者、とくに楔状変形を来たした患者では日常生活において体幹の屈曲を制限することが重要である。臨床上、ギャッジアップ角度増加とともに脊椎の屈曲が生じ、その結果疼痛が増悪することが多い。またギャッジアップ時に疼痛が見られるが、座位時には疼痛が減少する症例も経験する。しかし、ギャッジアップ時や座位時に、胸椎、腰椎がどの程度屈曲するのか、実際に検討した報告は見当たらない。そこで、本研究では、脊椎圧迫骨折患者に対して疼痛の少ない離床方法を検討するため、ギャッジアップ時と座位時の胸腰椎角度を調べることを目的とした。
    【方法】対象は、骨関節疾患のない健常成人10名(男性3名 女性7名 平均年齢26.1±4.2 身長164.5cm±6.15 体重 57.2kg±9.06)とした。脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製)を用い、ギャッジアップ0°、30°、60°、脱力座位姿勢、直立座位姿勢における胸椎彎曲角度、腰椎彎曲角度を測定した。また、膝関節屈曲角度は30°とした。胸椎と腰椎の角度は、後彎を正、前彎を負とした。各条件間における胸椎彎曲角度と腰椎彎曲角度の違いをWilcoxonの符号順位和検定を使用し検討した。
    【説明と同意】全対象者に、本研究の趣旨を紙面にて説明し文書にて同意を得た。
    【結果】各条件における胸腰椎角度は、それぞれギャッジアップ0°(胸椎彎曲角度25.5±5.9° 腰椎彎曲角度-14.3±5.6°)、ギャッジアップ30°(胸椎彎曲角度32.5±7.1° 腰椎彎曲角度1.9±6.4°)、ギャッジアップ60°(胸椎彎曲角度34.6±4.9° 腰椎彎曲角度17.9±7.8°)、脱力座位姿勢 (胸椎彎曲角度38.3±8.4° 腰椎彎曲角度17.3±6.0°)、直立座位姿勢 (胸椎彎曲角度34.4±8.6° 腰椎彎曲角度-16.1±9.4°)であった。ギャッジアップ60°、脱力座位姿勢の胸椎彎曲角度は、ギャッジアップ0°、30°、直立座位と比べて有意に後彎していた。ギャッジアップ0°と直立座位時の腰椎彎曲角度は、ギャッジアップ30°、60°、脱力座位姿勢と比べて有意に前彎していた。またギャッジアップ30°の腰椎彎曲角度は、ギャッジアップ60°および脱力座位と比べて有意に前彎していた。
    【考察】腰椎は、ギャッジアップ0°では前彎位、ギャッジアップ30°でほぼ中間位、ギャッジアップ60°で後弯位にあり、各角度で腰椎彎曲角度に有意な差が見られた。またギャッジアップ角度は胸椎彎曲角度にそれほど影響を与えなかった。ギャッジアップ30°以上のギャッジアップ角度によって腰椎は後彎位となるため、脊椎への前方負荷が増強し疼痛の増悪や今後の椎体圧潰変形への危険が高まると考えられた。ギャッジアップの増加にともなう腰椎の後彎化には、上部体幹の重みによる前方屈曲モーメントの増加および股関節屈曲角度の増加にともなう大腿後面の筋群の伸張が影響していると推察された。脱力座位姿勢時の腰椎の彎曲は後彎位にあり、ギャッジアップ60°と有意な差は無かった。また直立座位の腰椎の彎曲は前彎位にあり、ギャッジアップ0°と優位な差は無かった。そのため、離床の際には、脊椎アライメントの観点から考えると、ギャッジアップ30°以上のギャッジアップ角度をとるより、直立座位姿勢を取る方が適している可能性があることが考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】ギャッジアップ角度にともなう脊椎アライメントに関する報告は少なく、その評価には未だ臨床的な経験に頼っている部分が多い。本研究により、30°以上のギャッジアップ角度では腰椎は後彎位となり、腰椎圧迫骨折患者の腰背部痛を増強する原因になる可能性があること、また直立座位姿勢はギャッジアップ0°と同様に腰椎は前彎位にあり、脊椎アライメントの観点からすれば疼痛の増悪に与える影響は少ないことが示された。これらの結果は、腰椎圧迫骨折患者の離床期におけるリハビリテーションアプローチに寄与すると考える。
  • toe-out接地の場合
    伊藤 浩充, 沖田 祐介, 鈴木 郁, 村上 芙貴子
    専門分野: 基礎理学療法2
    セッションID: PI1-016
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】身体の静的アライメント評価を利用して動的アライメントを予測し、それによって動作障害発生起序を推測する研究が報告されている。しかし、静的アライメントと動的アライメントの相関性は必ずしも高くはない。そこには筋活動の関与を重要視する必要がある。
    動作中の筋活動の推定は、観察では経験を要し、簡便にかつ客観的に評価をするのは困難である。下肢のアライメントや筋力などから動作時の関節運動と筋活動を客観的に推定できれば、対象者の動作の問題を把握し、最適な運動療法の立案に役立てることが期待できる。そこで、我々は、これまで大腿骨前捻角やQ角、足部アーチ高率などの違いが筋活動に及ぼす影響を報告してきた。
    本研究の目的は、片脚着地動作におけるtoe-out接地の膝関節運動や下肢筋活動を足部アーチ高率などの静的な下肢アライメントなどから推定可能かを検証することである。
    【対象と方法】健常男子大学生41名の中から、立位の足部アーチ高率により高アーチ群(H群)6名、低アーチ群(L群)6名を抽出した。そして、被験者の股外転筋力(体重比)・立位舟状骨高・座位舟状骨高・立位アーチ高率・座位アーチ高率・Navicular drop・股内旋可動域、Q角を計測した。次に、30cm台からの片脚着地動作におけるtoe-outでの着地後0.1秒間の膝外反と内旋の角度変位量を三次元動作解析により計測した。同時に腓腹筋外側頭(GL)と内側頭(GM)、大腿二頭筋(BF)、半腱様筋(ST)、前脛骨筋(TA)、長腓骨筋(PL)の筋活動量を計測した。重回帰分析を用いて、被験者の筋力や下肢のアライメントなどから片脚着地動作時の各角度変位量や各筋の筋活動量の推定に必要な項目の抽出と寄与率(R2) を調べた。
    【説明と同意】
    対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、研究内容に関して予め目的と内容を説明し、十分に理解を得た上で同意を得た。
    【結果】H群では、膝関節外反運動の推定に必要な項目は特に抽出されなかったが、内旋運動の推定には股関節外転筋力と立位アーチ高率が抽出され、R2=87%(p<0.05)であった。筋活動については、GL・GM・ST・BFの推定に必要な項目は抽出されなかったが、PLの推定には股関節外転筋力と立位アーチ高率が抽出され、R2=86%(p<0.05)、TAの推定には股関節外転筋力・Navicular drop・Q角が抽出され、R2=94%(p<0.05)であった。
    同様に、L群では、膝関節内旋運動の推定に必要な項目は抽出されなかったが、膝関節外反運動の推定には股関節外転筋力とNavicular dropが抽出され、R2=91%(p<0.05)であった。筋活動については、TA・GL・ GM・ ST・BFの推定に必要な項目は抽出されなかったが、PLの推定には股外転筋力が抽出され、R2=60%(p<0.05)であった。
    【考察】我々の先行研究において足部接地をneutralで行った場合、膝関節内旋や外反の変位量と下肢の筋活動量との関係をみると、H群とL群とでは全く異なる関連性を示すことが明らになった。特にST・TA・PLの活動が異なっていた。そこで、H群とL群の各群において、片脚着地時の膝関節運動や下肢筋活動の推定に必要な静的アライメントなどの項目を調べると抽出される項目が異なっていた。そして、L群では股外転筋力(体重比)・立位舟状骨高・座位アーチ高率・Q角の4項目を調べることにより、PLとBFの活動を高い確率で推定することが可能であり、H群でも立位アーチ高率・Navicular drop・股内旋可動域の3項目を調べることにより、PL・TA・ST・GLの活動および膝関節内旋運動を高い確率で推定することが可能であることが明らかとなった。
    しかし、今回の研究のようにtoe-outで接地した場合には、膝関節の推定はある程度良好であったが、筋活動量については推定できる筋はPLとTAだけであり、今回調べた静的アライメントなどの計測項目では推定困難であった。これは、そもそも被験者にとってはtoe-outでの接地の仕方が習慣化された着地動作ではないためではないかと考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】対象者の習慣化された動作の推定に限られるが、静的なアライメントや一部の下肢筋力を検査することによって膝関節の細かな運動の特徴を予測できることが可能となれば、スポーツ外傷や関節疾患の発症の予測も可能となる。本研究のさらなる成果によって、障害予防策を個別に立案できる可能性が期待できる。
  • 中本 舞, 木藤 伸宏
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: PI1-017
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    片脚起立動作時には,股関節の安定性のために股関節外転筋群の筋力的要因が大きく影響されることが報告されている.しかしながら,股関節内転筋群も骨盤の安定性には重要であるとされている.筋電図を用いた過去の報告では,股関節外転筋である中殿筋に焦点があてられている研究が多く,股関節内転筋群に関する研究はあまり行われていない.そこで本研究は,片脚起立動作時の内部股関節外転モーメント発生に関与する股関節外転筋群と股関節内転筋群の筋活動の関係について検討した.
    【方法】
    被験者は健常若年成人女性11名(平均年齢21.09 ± 0.30歳)であった.課題動作は両脚起立から股関節と膝関節90度屈曲位の左片脚起立までの動作とした.動作の運動学データは赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社,Oxford)で計測し,同時に床反力計(AMTI社,Wateretown)2枚を用いた.マーカーは臨床歩行分析研究会の推奨場所を参考にし,直径14mmの赤外線反射マーカーを使用して7リンク剛体モデルを作成し分析を行った.三次元動作解析装置Vicon MXと床反力計,身長,体重を用いて複数の筋の筋張力の総和や関節支持組織が発した張力を内部股関節外転モーメントとして算出した.本研究では股関節外転筋群と股関節周囲の軟部組織の総和により算出された値を内部股関節外転モーメントと表現した.また両下肢の筋に筋電計Telemyo2400(Noraxon社製,Scottsdale)を用い,両側の大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋,内転筋群の8筋でディスポーザブル電極Blue Sensor(Ambu社,Denmark)を計17個貼付した.貼付場所は表面筋電図マニュアルEM-TS1を参考とし,皮膚インピーダンスが10kΩ以下となるよう皮膚処理を行った.床反力計と筋電計を計測機器とし,片脚起立動作時の内部股関節外転モーメントと最大筋力発揮時に対する相対的筋電積分値(%IEMG)を算出した.
    【説明と同意】
    本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の開始にあたり広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た.また,すべての被験者に対して,本研究の趣旨を十分に説明し,本人に承諾を得たうえで実施した.
    【結果】
    左片脚起立時の各筋の%IEMGは大腿筋膜張筋22.70 ± 12.06%,中殿筋39.35 ± 22.58%,内転筋群4.80 ± 4.38%,大殿筋43.32 ± 29.26%であった.多変量解析の結果,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの値の減少につながり,股関節内転筋群の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの増大につながることが明らかになった.
    【考察】
    本研究で示された片脚起立時の股関節外転筋群の%IEMGは,最大筋力の25~25%と報告した先行研究とほぼ同程度の筋活動であった.つまり健常人は,片脚起立時に余裕のある股関節外転筋群の筋活動により前額面の姿勢安定化に貢献している.また,本研究では股関節内転筋群の筋活動は股関節外転筋群に比較すると低い値を示した.先行研究では片脚起立時に股関節内転筋群の筋活動は認められないという報告もある.しかしながら,剛体モデルを用いた力学的シミュレーションから,歩行時に股関節外転筋と内転筋の同時収縮の結果,筋合力は股関節外転筋のみが収縮した場合と比べて内方化し股関節の安定性に貢献していることが明らかとなっている.本研究で確認された股関節内転筋群の%IEMGは少ないが,股関節安定性に寄与していると推測される.
    股関節内転筋群の%IEMGの増大は内部股関節外転モーメントの値の増加につながることが示された.片脚起立時に骨盤は支持側に移動するとともに,骨盤平衡が維持される.その結果,床反力ベクトルは股関節を内転させる力となり,内部股関節外転モーメントが作用する.先行研究によると股関節内転筋群は歩行立脚期の骨盤の支持側への移動と大腿骨の直立化に貢献しており,本研究結果からも内部股関節外転モーメントを発揮させるための内転筋群の重要性が示された.また,一方,支持側への骨盤水平移動と骨盤水平保持が難しくなると,股関節外転筋群の筋活動は増加する.さらに体幹を支持側へ側屈させて対応し,床反力ベクトルは股関節の近くを通ることになりレバーアームが減少する.その結果,股関節外転筋群の%IEMGの増大は,内部股関節外転モーメントの値の減少につながると推測される.
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究は片脚起立時の股関節外転筋群と内転筋群の貢献度を明らかにした.また近年,内部股関節外転モーメントと疾患との関係が報告されており内部股関節外転モーメントを発揮するためには股関節外転筋群のみでなく内転筋群にも注目する必要性を提示できた.
  • 骨盤肢位と異なる強度の筋力条件における腰部多裂筋筋活動の比較
    安彦 鉄平, 竹井 仁, 島村 亮太, 安彦 陽子, 山本 純一郎, 逆井 孝之, 小川 大輔, 山口 徹, 相馬 正之, 新藤 恵一郎
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: PI1-018
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,骨盤の前後傾を制御するひとつの筋として,腰部多裂筋(以下,LM)の重要性が数多く報告されている.しかし先行研究でのLMのエクササイズは,難易度が高いものや負荷の大きいものが多い.さらに,その多くは骨盤傾斜角度や筋力条件,脊柱起立筋と腰部多裂筋の相互関係についての詳細な報告は少ない.そこで本研究の目的は,超音波画像と表面筋電図を用い,3つの異なる骨盤傾斜角度と,強度の異なる筋力条件での背筋群の活動を分析し,LMが活動しやすい条件を検討することとした.
    【方法】
    対象は腰痛の既往のない健常成人男性10名とした.平均年齢(標準偏差)は26.0(22-34)歳,身長171.0(3.1)cmと体重60.4(4.2)kgであった.
    測定課題は,脊柱起立筋とLMの機能のひとつである仙骨前屈運動を伴う骨盤前傾方向への静止性収縮とした.測定肢位は,ベッド上腹臥位にて,ASISより遠位の下肢をベッドから出し,股関節・膝関節は90度屈曲位とした.次に仙骨尖背面にハンドヘルドダイナモメーター(以下,HDD)を置き,その上に骨盤前傾固定装置で固定した.異なる強度の筋力条件として,最大努力にて課題を実施時のHHDの圧を100%とし,それを基準に安静,10,25,50,75%になるように圧を調整させた.各課題2セット実施した.骨盤肢位は,骨盤中間位,軽度前傾位,軽度後傾位とした.
    測定方法は,超音波画像診断装置(ALOKA社製SSD-5500)にて左LMの筋厚を測定し,各骨盤肢位での安静との変化率を求めた.同時に,右側の背筋群は筋電計(日本光電社製Neuropack MEB-2200)を用い,右胸部脊柱起立筋(以下,TES),右腰部脊柱起立筋(以下,LES),右のLMの積分値(以下,IEMG)を求め,中間位の100%の強度で得られたIEMGを基準に正規化し,%IEMGとした.
    統計処理は,筋厚の変化率と%IEMGを従属変数とし,それぞれ骨盤肢位と強度を2要因とした反復測定による二元配置分散分析の後,Games-Howellの多重比較を行った.さらに,強度と筋活動の関連性を確認するため,Pearsonの相関係数と寄与率を求めた.なお,有意水準は5%とした.すべての解析には,統計ソフトSPSS ver17.0Jを用いた.
    【説明と同意】
    すべての対象に研究の主旨と方法を十分に説明し,書面にて承諾を得た後,測定した.本研究は,東京都リハビリテーション病院研究安全倫理委員会および,首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会(承認番号08071)の承認を得て,実施した.
    【結果】
    筋厚の変化率に関して,強度に主効果を認め,多重比較検定の結果,軽度前傾位では安静に対し10,25%の強度では有意な差はなく,50%から有意に増大した.一方,中間位と軽度後傾位では,安静に対しすべての強度で有意に増大した.さらに中間位では,10%に対し,75,100%で有意に増大した.
    %IEMGの結果,TESの中間位では,10%に対し,75,100%で有意に増大した.LMの中間位では,10%対し,100%で有意に高い値を示した.中間位における強度と%IEMGの相関係数は,TES,LES,LMの順に0.84,0.79,0.62であり,寄与率は0.70,0.62,0.39であった.LMの骨盤肢位の比較では,軽度前傾位に対し,中間位と軽度後傾位で有意に高い値を示した.
    【考察】
    骨盤肢位に関して,筋厚の変化率と筋電図の結果より,軽度前傾位に比べ中間位・軽度後傾位は低い強度で筋厚と筋活動が増大したため,LMが活動しやすい肢位であったと考える.これらの要因は,筋長の影響であり,中間位と軽度後傾位では,両フィラメントの重なり合う部分が多く,張力を発揮しやすかったと推測された.
    異なる強度の筋力条件の比較は,%IEMGの結果より,中間位においてTESの活動を高めることで75%の強度に到達したと考える.また,相関,寄与率においてもTESで高い値となり,強度が高まるとTESの活動を高めやすいことが推測された.したがって,筋電図の結果においてTESを過活動させず,LMを活動させるためには,10%程度の低い強度で十分であると考える.また,LMの筋厚は,安静に対し,10%の強度で有意に増大したため,深層線維も含めたLMは低い強度で活動すると推測される.
    今回の課題は,抗重力方向へ仙骨を前屈させ,骨盤を前傾させるものであり,10%の強度であっても,必ずしも低い強度であるとは限らない.今後,側臥位や背臥位などの除重力位や,骨盤傾斜角度に着目した座位姿勢や立位姿勢の分析を行う必要があると考える.
    【理学療法学研究としての意義】
    骨盤中間位・軽度後傾位において,低い強度で課題を行うことで脊柱起立筋を過度に活動することなく多裂筋が活動し,筋厚が増大することを示した.
  • 近藤 淳, 井上 宜充
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: PI1-019
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    股関節外転筋力は歩行時等の側方安定性に関与し、臨床上対象とする機会は多い。今回、股関節外転筋力が発揮しやすい股関節回旋角度をHand Held Dynamometer(HHD)にて比較検討した。
    【方法】
    対象は本研究の説明に同意を得た股関節に疾患のない、股関節内旋可動域より外旋可動域の方が大きい男性10名(平均年齢25.4±4.1歳、身長173.2±7.1cm、体重66.2±8.3kg)とした。股関節外転筋力を測定した股関節回旋角度は個体差を考慮し、股関節内外旋0度(以下0度)、股関節内外旋可動域の中間位(以下中間位)、Craig testで測定した大転子が最外側に位置する股関節回旋角度(以下Craig) の3種類とした。股関節回旋角度測定は治療台上骨盤・非測定側大腿・下腿部をベルトで固定した腹臥位にて、測定側股関節内外転0度・膝関節屈曲90度とし、ゴニオメーターにて対象者の尾側より測定した。股関節外転筋力測定は、各股関節回旋角度測定の肢位から測定側膝関節伸展した肢位を開始肢位とした。HHDはμTas F-1 (ANIMA社) を使用し、受圧部を測定側膝関節外側裂隙直上に当て、HHDと非測定下肢との間に固定ベルトを通し、股関節外転方向に最大努力での等尺性収縮を3秒間行い測定した。各回旋角度ともランダムに3回づつ測定し、その平均値を採用した。関節中心から測定位置までの距離として大転子から受圧部までの距離を採用した。得られた数値から関節トルク体重比(N・m/BW×100、以下外転トルク)を算出し単位は%とした。統計処理は有意水準5%未満にてWilcoxon符号順位検定を使用し検討した。
    【説明と同意】
    対象にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的・内容を説明し、同意を得た後、測定を行った。
    【結果】
    各回旋角度は、中間位が外旋10.2±6.2度、Craigが内旋12.4±3.0度であった。各回旋角度での外転トルクは、0度が134.1±24.0%、中間位が128.3±23.2%、Craigが140.0±23.4%であった。外転トルクに関して、0度と中間位、Craigと0度、Craigと中間位に有意差が認められた(p<0.05)。
    【考察】
    今回、股関節外転筋力を発揮しやすい股関節回旋角度はCraig testの角度、すなわち大転子が最外側に位置する角度という結果となった。股関節外転筋のうち中殿筋と小殿筋は大転子に停止しており、大転子が最外側に位置すると筋線維の走行が直線に近くなり、外転筋力が発揮されやすかったと考える。また今回の対象では内外旋0度、内外旋中間位に移行するに従い大転子が背側に移動していくことが、内外旋中間位よりも内外旋0度が、有意に強い股関節外転筋力を発揮した原因であると考えた。
    理学療法学研究としての意義】
    股関節内旋角度より外旋角度の方が大きい対象においては、大転子が最外側に位置する回旋角度が股関節外転筋力を発揮しやすいため、それを考慮した評価、治療、指導をする必要性が示唆された。
  • 第2報
    塩田 琴美, 橋本 俊彦, 松田 雅弘, 高梨 晃, 川田 教平, 宮島 恵樹, 野北 好春, 堀部 浩司, 小林 真紀子, 石永 裕司, ...
    専門分野: 基礎理学療法3
    セッションID: PI1-020
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    近年では血液透析(以下、HD)患者の増加に加え、高齢者への透析導入や透析歴が10年以上に及ぶ患者も増加している。一般的にHD患者では、骨格筋の筋力低下・筋萎縮、筋血流分布の低下、心肺機能の低下など運動耐用能の低下が生じている。また運動習慣のないHD患者では、前述の機能は更に低下し、死亡率が高いことがこれまでの研究結果から示されている。この様な身体機能の低下は、Activities of Daily Living(ADL)やQuality of Life(QOL)の低下を導き悪循環を形成すると報告されている。そのため、身体機能の低下により悪循環を減少するために、運動療法の導入が急務である。しかし、これまでに日本においてHD患者に対する運動療法の効果を示した研究は未だ少ない。加えて、先行研究の多くは、非透析日に運動療法を行うものが多く、身体機能の効果は認められているが、同時に脱落者が多いことも示されている。そこで、本研究では、透析施行中に継続した1年間の運動療法を実施し、その介入効果について明らかにすることを目的とした。
    【方法】
    対象は、全身状態および透析施行中の循環動態が安定し、本実験に対し参加の同意の得られたHD患者9名とした(年齢58-77歳; 男性 4名, 女性5名;透析歴 4.5±4.35年)。はじめに、介入前の身体機能測定を実施した。身体機能測定では、筋力評価として握力(握力計;竹井機器社製)、簡易型筋力計(μ-tas F-1; Anima社製)を用いての股関節屈曲、膝関節伸展、足関節背屈および底屈筋、加えて最大筋力測定時に筋電図計(DKH社製)を用いての筋活動量の評価を行った。更に、バランス能力評価として開閉眼での片足立位保持時間、開閉眼での静的立位時の重心動揺の測定(G- 620; Anima社製)、Functional Reach test(以下;FR),Timed Up and Go test(以下;TUG)、歩行能力評価として普通時と最大時の10m歩行速度の測定を行った。運動療法では体幹・下肢の筋力増強を中心として、週に一回セラピストが個別にベッド上で透析施行中に行った。加えて、運動療法介入中の血液検査データおよび血圧データについても経時的な変化を記録した。運動療法介入1年後、身体機能測定項目、血液検査データおよび血圧データを介入前後でSPSS 15.0 J for windowsを使用し、wilcoxonの順位和検定を用いて比較検討を行った。
    【説明と同意】
    対象者には、事前に本研究の内容を説明し同意を得て行った。
    【結果】
    全参加者が1年間にわたり運動の継続が可能であった。加えて、介入前後において、身体機能の項目では、膝関節伸展筋力、足関節背屈筋力および歩行速度にて有意に機能の向上を認めた(P<0.05)。また、血液検査データおよび血圧については、有意な差を認めなかった(P>0.05)。
    【考察】
    本研究では、透析施行時に1年間に渡って運動療法を施行し、その介入効果を明らかにした。その結果、身体機能において有意な改善を示した。また、血液検査データおよび血圧については有意な差を認めなかった。更に、1年間を通して、血液透析施行中に運動療法を実施しても循環動態に変動をきたす対象者もみられなかった。これらの結果から、透析中の運動療法の介入は、循環動態に対する悪影響を与えないことが示唆できる。更に、金沢らは、慢性腎不全の病態下において長期的運動を行っても腎機能や腎病変は必ずしも憎悪せず、むしろ腎を保護する可能性があると示唆している。加えて、HD患者の多くは栄養状態が不良であることも多い。このように運動療法を介入することで、食欲を増進させ栄養障害の改善につながる効果も期待でき、様々な因子における効果を望めると考えられる。今回の対象者においても、運動療法の介入をきっかけとしてその効果を実感し、多くの対象者が運動習慣など自己管理能力を高める傾向にあった。今後も運動処方を安全にかつ効果的に行うためにも、検査データなどの所見を含め、HD患者の身体機能の特性を明らかにし、それらを基に透析中の運動処方時におけるプロトコールの作成を行う必要があると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    透析患者の運動療法については、未だ研究報告が少ない。そこで、透析患者に対する運動療法を推進していくためにも、運動療法を行う意義・効果を示す研究として重要な意義を示す研究であると考えられる。
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