理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-003
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口述発表(一般)
大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に与える影響
赤澤 直紀北裏 真己松井 有史大川 直美廣田 茂美
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抄録

【目的】
臨床場面では,ハムストリングス短縮により膝関節伸展制限を有した症例に遭遇することを経験する.先行研究では,膝関節伸展制限の改善が生活機能向上に寄与することを報告(Steffen,1995)しているが,従来のストレッチングや関節可動域運動を中心としたアプローチでは痛みや防御的筋収縮を伴うことが多く,治療が難渋する場合も少なくない.そこで我々は,膝関節伸展制限を有する症例に対してストレッチングや関節可動域運動を行う前処置として,制限因子であるハムストリングスではなく拮抗筋である大腿四頭筋が位置する皮膚表面に対し軽擦刺激を与えている.軽擦刺激により,痛みや防御的筋収縮を誘発することなくハムストリングスの伸張性が改善することを経験している.しかし,大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に与える影響について検討した研究は,我々が調査した範疇では見当たらない.本研究の目的は,健常者を対象とし, Finger Floor Distance(以下:FFD)を用い,大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に与える影響について検討することである.
【方法】
健常者85名(男性56名,女性29名,年齢:31.4±12.2歳)を大腿前面部への軽擦群52名,対照群33名に群分けした.軽擦群に対しては被験者の両大腿部前面に軽擦刺激を40秒実施し,介入前後のFFDをそれぞれ1回測定した.対照群については,軽擦介入は行わず40秒間の安静臥床前後のFFDをそれぞれ1回測定した.軽擦群に対する介入肢位は,背臥位となった被験者に対して施行者は正座位となり,施行者の大腿上に股関節内外旋中間位とした被験者の一側下肢を位置させた.軽擦方法は大腿長に応じて膝蓋骨上縁から近位25cm~30cmの範囲とし,軽擦方向は膝蓋骨上縁から大転子(末梢から中枢)に向かう方向とした.軽擦スピードは,1秒間に2ストロークするスピードとし,軽擦圧は大腿上で抵抗なく軽擦手を滑らすことの出来る圧とした.また,軽擦には片手第1指~第5指の中手骨頭~指腹部を用い,他手で介入側下肢の脛骨近位部を固定した.軽擦時間は片側大腿部軽擦20秒とし,軽擦順序として右大腿部軽擦の後,時間を空けず左大腿部軽擦を行った.なお,軽擦介入は再現性を確保するため1名の男性理学療法士が実施した.FFD測定は0cmに達しない場合をマイナス(-)値とし,0.1cm単位で測定した.統計解析は両群のFFDについて介入前後,群別を要因とした2元配置分散分析を行った.なお,本研究における統計学的有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
参加者には本研究の目的,方法,リスクなどを口頭および文書で説明し,署名にて同意を得た.
【結果】
介入前後の主効果は有意であった(軽擦群介入前FFD:-4.1±10.2cm,介入後FFD:-0.2±10.0cm,対照群介入前FFD:0.2±9.8cm,介入後FFD:2.1±8.9cm,p<0.001).群別の主効果は有意ではなかった(p=0.13).また,FFD変化量は対照群(1.9±2.6cm)と比較して軽擦群(3.9±1.8cm)が高値を示した.
【考察】
両群ともに,FFDは介入後に有意な増加を認めた.対照群のFFDの増加は,反復測定の影響を受けたと考えられる.しかし,軽擦群FFD変化量が対照群より高値を示したことから,大腿前面部への軽擦刺激はハムストリングス伸張性改善に影響を与えた可能性が考えられる.大腿前面部への軽擦刺激がハムストリングス伸張性に影響を与えた機序について,大腿四頭筋の上面皮膚を,1秒間に2ストロークするといった比較的速い軽擦刺激が,皮膚受容器(速順応性受容器)を刺激し,同側性伸筋反射(伸筋である大腿四頭筋の興奮)が起こった結果,屈筋であるハムストリングスが抑制され伸張性の改善が得られたのではないかと推察する.
【理学療法学研究としての意義】
大腿前面部への軽擦刺激は,非常に簡便であり,理学療法士だけでなく他職種や家族も実践可能なため,臨床導入が容易である.また,軽擦刺激による効果は短時間で現れるため,ハムストリングスのみならず他筋に対しても臨床応用が期待できる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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