理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-007
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口述発表(一般)
健常者における膝前面の皮膚血流について
膝関節屈曲に伴う経皮酸素分圧の変化
久保 憂弥大谷 浩樹伊藤 直之堀 秀昭尾島 朋宏
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抄録

【目的】経皮酸素分圧測定は,臨床上微小循環の病態把握に対する客観的評価として用いられている.Youngerらは膝前面の皮膚は下行膝動脈,外側上・下膝動脈,前脛骨動脈から穿通する微小動脈網より栄養されると報告しており,阿漕らはTKA術後に膝前面の経皮酸素分圧を測定し,創トラブル予防の指標に使用している.しかし,健常者における膝前面の皮膚血流に関する報告は,我々が渉猟する範囲では認められない.本研究はTKA術後超早期の理学療法を再考するための基礎研究であり,健常者における膝前面の経皮酸素分圧を測定し,膝関節屈曲に伴う変化を捉えることを目的とした.
【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患の無い健常者10名10膝(平均年齢24.2±3.9歳)とした.方法は,ラジオメーター社製経皮酸素分圧装置TCM400を使用し,膝関節伸展位及び膝関節30°,60°,90°,120°屈曲位にて経皮酸素分圧を測定した.TKAの皮切を考慮し,測定部位は膝蓋骨上下縁から上下1cm内外側4cmの部位で,近位外側・内側,遠位外側・内側の4ヶ所とした.比較検討項目は,膝関節屈曲に伴う変化と各測定部位間の差について二元配置分散分析及び多重比較検定(Tukey法)を用いた.危険率5%未満を統計学的有意とした.
【説明と同意】対象者には本研究の趣旨と方法を十分に説明し同意を得た上で研究を開始した.
【結果】測定肢位と測定部位に交互作用は認められず,測定肢位間(p<0.05)及び測定部位間に有意差(p<0.05)が認められた.各測定部位における経皮酸素分圧を,膝関節伸展位,30°,60°,90°,120°屈曲位の順に示す.近位外側は75.7→71.7→68.5→59.9→50.3mmHgであった.近位内側は68.2→65.2→60.0→47.0→34.5mmHgであった.遠位外側は60.6→57.7→53.4→45.5→33.0mmHgであった.遠位内側は74.5→74.9→74.7→68.7→51.1mmHgであった.膝関節屈曲に伴う変化として,近位内外側では伸展位と比較して,90°及び120°屈曲位で有意な低下が認められた(p<0.05).また,遠位内外側では伸展位と比較して,120°屈曲位で有意な低下が認められた(p<0.05).測定部位間において,伸展位では近位外側と,伸展位以外では近位外側及び遠位内側と遠位外側間に有意な違いが認められた(p<0.05).また60°以上の屈曲位では遠位内側と近位内側間に有意な違いが認められた(p<0.05).
【考察】本研究の結果より,近位内外側は膝関節90°,遠位内外側は120°屈曲位で有意な低下が認められた.その理由として,膝関節90°以上の屈曲により内側広筋と外側広筋は長軸及び短軸方向に伸張され,筋内を走行している下行膝動脈及び外側上膝動脈が圧迫されたためと考える.近位内外側は,遠位内外側と比較して軟部組織の容量が大きいことから圧迫による影響を受けやすかったと考える.測定部位間では,伸展位では近位外側と,伸展位以外では近位外側及び遠位内側と遠位外側間に有意な違いが認められた.その理由として,遠位外側は外側下膝動脈から栄養されており,その穿通枝の数は近位外側及び遠位内側を支配している深部動脈の穿通枝と比較して非常に少ないため,遠位外側は有意に低下したと考える.また,膝関節60°以上の屈曲位では遠位内側と近位内側間に有意な違いが認められた.野崎は,近位内側は下行膝動脈関節枝から栄養されており,これは内側広筋に入った後,内側広筋斜走線維を突き抜けて走行すると報告している.つまり,近位内側の皮膚血流は膝関節屈曲に伴い,内側広筋は伸張し圧迫による影響を受けやすいことから,近位内側は有意に低下したと考える.
【理学療法学研究としての意義】近年TKAの理学療法において,術後超早期に積極的なROM運動が施行され,屈曲可動域の獲得が求められている.本研究の結果より,健常者において膝関節屈曲に伴う経皮酸素分圧の低下が認められたことから,TKA術後超早期に膝関節90度以上屈曲することは,著明な経皮酸素分圧の低下を引き起こすと推察され,創傷治癒遅延の可能性が危惧される.TKA術後超早期は経皮酸素分圧にも留意した理学療法を展開する必要性があると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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