理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-011
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口述発表(一般)
ダイナミックストレッチング実施中の筋活動の経時的変化とストレッチング効果について
岡山 裕美大工谷 新一鶴池 柾叡
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抄録

【目的】
先行研究でダイナミックストレッチング(以下,DS)実施前後の股関節屈筋群の等速性筋力と筋活動の関係について,10回から50回のDS実施後のトルク変化には筋疲労の影響よりも筋力発揮における質的な影響があると報告した.今回の研究では,運動課題であるDS実施時の経時的変化に着目し,運動課題に筋力発揮が困難となる原因があるのかを明らかにすることを目的とした.また,実施後のストレッチング効果についても検討した.
【方法】
整形外科学的,神経学的に問題のない健常男性12名の利き足12肢を対象とした.平均年齢は24.0±1.3歳(平均±標準偏差),平均身長172.8±7.0cm,平均体重66.3±13.5kgであった.
DSは安静立位を開始肢位とし,一側の股関節と膝関節を90度屈曲位まで同時に屈曲させた後に元の肢位に戻すまでの動作とした.なお,DSの回数は50回とし,下肢挙上から開始肢位に戻るまでをメトロノーム(1Hz)にて誘導した.DS時に,大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),長内転筋(AdL)の表面筋電図をMyosystem1400(Noraxon)により記録した.得られた波形から波形の外観的特徴の観察および1動作の単位時間あたりの筋電図積分値(IEMG)を算出した.なお,1動作は,自作のフットスイッチにより規定した.また,DS実施前後には,膝関節屈曲位での股関節屈曲可動域と股関節内外旋中間位・内旋位・外旋位でのSLR(SLR中間位・内旋位・外旋位)を測定した.
得られた結果から,DS実施時のIEMGの経時的な変化を比較し,DS実施前後の股関節屈曲可動域とSLRの変化に対しては,対応のあるt検定を用いて有意水準を5%未満として統計学的に検討した.
【説明と同意】
被験者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た.
【結果】
DS実施時のIEMGの比較では,RF・TFL・AdL全てにおいて実施回数の増加とともにIEMGの増加が認められた.また,実施回数30回付近では,IEMGの低下が認められた.
股関節屈曲可動域をDS実施前後で比較すると,実施前は92.9±11.1度,実施後は99.3±13.2度であり,実施後で有意に高値を示した(p<0.01).同様に,SLR中間位は,実施前56.9±14.6度,実施後59.6±14.0度であり実施後で有意に高値を示した(p<0.05).SLR内旋位は,実施前48.8±13.2度,実施後58.8±16.0度であり実施後で有意に高値を示した(p<0.01).SLR外旋位は,実施前60.8±15.8度,実施後56.9±13.2度であり,実施後で有意に低値を示した(p<0.05).
【考察】
本研究では,IEMGはRF・TFL・AdL全てにおいて実施回数の増加にともない増加傾向を示した.また,経時的な変化を詳細にみると実施回数30回付近においてIEMGの低下が認められた.筋電図積分値は筋活動の程度を量的に示すものであり,運動単位の動員数に左右される(Basmajian, 1979).そのため今回の結果からは,運動回数の増加により筋への運動単位の動員が増加し,30回程度で筋疲労の影響が大きくなったため運動単位の動員数が減少した可能性が考えられる.30回以降では,疲労した運動単位の補償のために新しい運動単位が動員したと考えられた.
一方,関節可動域については,股関節屈曲可動域・SLR中間位と内旋位においては関節可動域の増加を示したが,SLR外旋位に関しては減少を示した.今回のDSでは主動作筋が股関節屈曲筋群であり,拮抗筋が股関節伸展筋群である.そのため,股関節伸展筋群には相反抑制が作用し,股関節伸展筋群が伸張されることで股関節屈曲方向への可動域は拡大すると考えられる.しかし,SLR外旋位においては可動域の減少が認められた.この要因としては,股関節内旋方向へ作用するTFLによる過用により筋が伸張時に筋緊張による抵抗が強くなったことが考えられた.
DSは10回から15回を目安として行われているとの報告があるが,今回の実験結果から30回までであれば動員される運動単位数が増加していくことが考えられた.しかし,自動運動において30回以上実施すると筋疲労の影響が大きく関与することが示唆された.
【理学療法学研究としての意義】
DSの適切な実施回数を決めるにあたっての有用な指標となる.また,今回の実験方法や用いたパラメータを応用していくことは,DSの効果判定を行う際にも有用となる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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