理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-034
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ポスター発表(一般)
ES細胞から作成した間葉系幹細胞の生体内における骨格筋形成能
磯部 恵里蜷川 菜々小玉 学小林 麻美細江 民美鳥橋 茂子
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抄録
【目的】脂肪組織由来の間葉系幹細胞(MSCs)は、筋・骨・脂肪細胞などの間葉系細胞へと分化する能力を持ち、MSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植すると骨格筋に分化するという報告がある。しかし脂肪組織には様々な細胞種が含まれているため、MSCsを脂肪組織から分離することは難しく、また採取には侵襲性を伴う。一方、ES細胞は多分化能を持ち、脂肪細胞へと分化誘導する系がすでに知られている。当研究室ではES細胞から脂肪への分化誘導過程でMSCsを収集する方法を確立し、またそのES細胞由来のMSCsをマウスの損傷骨格筋へ移植すると、移植一週間後に骨格筋に分化していることを確認し、昨年の本学会で発表した。そこで、今回は移植後二週間、三週間と経過を追うことでES細胞由来のMSCsが骨格筋再生過程にどのように関与するのかを検討した。 またES細胞由来のMSCsを移植することで損傷骨格筋の機能回復を促進するかどうか検証することを目的とした。

【方法】MSCsは炎症部位で活発に増殖し、分化するという報告がある。そのため炎症を生じる挫滅によって前脛骨筋を損傷させる骨格筋損傷モデルマウスを作成した。モデルマウスの挫滅損傷部位にマウスES細胞から形成したMSCsを損傷24時間後に移植した。MSCsはEGFPでラベルされたマウスES細胞(G4-2)から脂肪分化誘導過程においてCD105を指標として磁気ビーズ法で分離し、収集した細胞を通常培地で24時間、MSCs分化誘導培地で二日間培養した後、移植に用いた。この細胞(約1×105個、約0.02ml)を前脛骨筋の損傷部位または非損傷の同部位へ直接注入した。1週間後・2週間後・3週間後の組織を固定して厚さ6μm凍結切片を作成し、HE染色とEGFP、MHC、M-cadherinによる免疫蛍光染色を行いES細胞の動態を観察した。また、片方の前脛骨筋を挫滅損傷させたモデルマウスにES細胞由来のMSCsを移植した群と細胞移植しない群とに分け、それぞれについてCatWalk(Noldus社)による歩行分析を行い、損傷筋の機能回復を比較した。

【説明と同意】名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。

【結果】骨格筋損傷モデルマウスに炎症反応が生じている24時間後にMSCsの移植を行った。移植の1週間後、EGFP陽性の細胞が骨格筋中に観察され、ES細胞由来MSCsの生着が確認できた。2週間後・3週間後でも同様に生着が確認でき、骨格筋の再生過程に沿ってES細胞由来MSCsの分化が確認できた。歩行分析では、移植を行わない群より行った群の方で機能的改善する傾向が確認できた。

【考察】ES細胞MSCsは損傷骨格筋に生着して筋再生に関与し、機能的改善にも寄与することが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】将来、骨格筋の再生医療が普及し、これに対する効率的な理学療法的アプローチが必要になる。従って、筋再生メカニズムの基礎研究は理学療法分野において有意義である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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