理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-094
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ポスター発表(一般)
脳卒中身体動作能力尺度の既知群妥当性の検討
徳久 謙太郎三好 卓宏河村 隆史鶴田 佳世林 佑樹河口 朋子畑 寿継林 拓児梛野 浩司庄本 康治嶋田 智明
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抄録
【目的】理学療法士は臨床にてさまざまな尺度を用いて脳卒中患者の機能・構造や活動,参加の能力や状態を評価している.特に身体動作能力の評価は理学療法士の治療,練習効果の判定に重要かつ敏感に反応することから,客観的かつ信頼性や妥当性,有用性に優れた評価尺度が求められている.そこで我々は近年,脳卒中身体動作能力尺度(Stroke Physical Performance Scale: SPPS)を開発した.SPPSは脳卒中片麻痺患者によるADLの遂行に必要な身体動作能力を評価する尺度であり,立位9項目,移動7項目,全16項目から構成される.その評点段階は自立,修正自立,軽度の介助,確固たる介助の4段階(0-3)であり,合計48点の尺度である.SPPSはラッシュ測定モデルに適合していることから,ラッシュ変換値(0-100)にて間隔尺度として扱うことができる特徴をもつ.これまでに我々はSPPSの良好な信頼性・妥当性,複数回転倒者との関連性について報告してきた.評価尺度の備えるべきその他の測定特性に既知群妥当性(Known groups validity)がある.評価尺度はその構成概念に関連する因子については対象者間で差があり,関連しない因子については差がないことが望ましいとされる.つまりSPPSでは身体動作能力に関連する因子では得点に高低差がみられ,関連しない因子では高低差がないことを確認することにより,SPPSの身体動作能力に関する弁別能や,交絡因子からの影響を明らかにすることができる.本研究の目的は,SPPSおよび数種の身体動作能力尺度の測定結果を,関連・非関連因子にて群化して比較し,既知群妥当性を検証することである.
【方法】対象は3施設に入院・外来通院中の脳卒中患者105名である.参加基準は口頭指示理解が可能,軽介助下にて歩行が可能な者とした.身体動作能力の非関連因子は身長,体重,年齢,性別,疾患,障害側,関連因子は発症から現在までの転倒の有無,歩行能力を設定した.身長,体重,年齢については平均値を境界に高値・低値群に2群化し,歩行能力については介助量を基準に評点化するFunctional Ambulation category(FAC)を測定し,評点段階ごとに3および4群化(2-5点)した.身体動作能力尺度はSPPSの他,Functional Reach test(FR),10mの最大歩行速度(MWS),Timed Up and Go test(TUG)を測定した.全ての評価は1週間以内に実施した.群間比較は一部正規性が確認できなかったためKruskal Wallis検定とMann Whitney U検定を用いた.有意水準は5%とし,多重比較にはBonferroni補正を実施した.
【説明と同意】本研究は各施設において,施設・所属長の許可を得て実施し,対象者には研究参加前に十分な説明を書面にて行い,自由意思により研究参加への同意を得た.
【結果】全対象者の測定結果はSPPSが平均61.5±19.9点,FRが21.6±7.7cm,MWSが40.7±24.2m/sec,TUGが26.9±24.6秒であった.非関連因子による群間比較ではSPPS,MWS,TUGにおいて有意差はみられず,FRにおいてのみ身長,体重,年齢,性別,罹患側にて有意差がみられた(P<0.05).関連因子である転倒の有無による群間比較にて有意差がみられたのはSPPSとTUGのみであった(P<0.05).FACの評点段階による4群では,介助(2)と監視(3)群間ではいずれの尺度でも有意差がみられず,監視(3)と修正自立(4)群間にて有意差がみられたのはSPPSのみであった(P<0.013).介助(2)と監視(3)群を統合し,3群化した場合にはFR以外の尺度で3群間全てに有意な差がみられた(P<0.016).
【考察】非関連因子による群間比較ではSPPS,MWS,TUGにおいては有意差がみられなかったことから,脳卒中患者を対象とした場合,これらの交絡因子による影響は少ないことが示唆された.しかしFRでは有意差がみられたため,FRを使用する場合には身長,体重,年齢,性別,罹患側の影響を考慮する必要性が示唆された.身長と年齢に関してはDuncan(1990)やFranzen(1998)らによる報告と一致した.転倒の有無ではSPPSとTUGに有意差がみられ,転倒の有無に関する弁別能を有していることが示唆された.歩行能力を表すFACによる4群化では介助と監視を弁別できなかったが,これらの評点段階を統合すれば弁別は可能であることが示唆された.総じてSPPSは他の身体動作尺度と比較して,既知群妥当性が良好である傾向がみられた.
【理学療法学研究としての意義】SPPSは脳卒中患者の身体動作能力を評価する数少ない尺度であり,これまでに明らかになっている測定特性に加え,既知群妥当性が良好であったことにより,さらなる有用性が確認された.また使用頻度の高いFRの使用上の注意が提供された.これらは理学療法評価の臨床・研究分野において有用な情報となるであろう.
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© 2011 日本理学療法士協会
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