理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-122
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ポスター発表(一般)
ハンドヘルドダイナモメーターを用いた股関節外転筋筋力測定における対側下肢固定の有無による違い
トルク値・再現性に及ぼす影響
川幡 麻美吉田 啓晃木下 一雄安部 知佳中島 卓三伊藤 咲子樋口 謙次中山 恭秀安保 雅博
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抄録
【目的】
Hand-Held Dynamometer (以下、HHD)を用いた股関節外転筋筋力測定法では、μTasF-1(アニマ社製)を用いたベルト固定法が、再現性の観点より優秀な成績であるとの報告があり、多く用いられている。しかし、測定時の対側下肢の固定方法は明確に定められていない。そこで本研究は、外転筋筋力測定時に考えられる3つの対側固定方法を健常者とTHA(人工股関節全置換術)術後患者に施行し、対側下肢固定の方法が筋力測定値及び再現性に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象は、健常成人10名(男性6名、女性4名、平均年齢27.7±3.8歳)、THA術後患者9名(男性1名、女性8名、平均年齢59.4±4.2歳)とした。HHDを用いて以下の3種類の方法にて股関節等尺性外転筋筋力を測定した。尚、測定肢位は背臥位、股関節内外転中間位とし、センサーパッドを測定肢大腿遠位外側部にベルトで巻きつけて固定した。a.対側下肢も同時に外転した(以下、外転固定法)、b. 対側の大腿遠位外側とベルトの間に検者の足部を入れ、検者の体重によって外転力に拮抗するように固定した、対側下肢と検者の足部は接触させた(以下、検者固定法)、c. 方法は検者固定法と同様で、対側下肢と検者の足部は接触させなかった(以下、非固定法)。検者固定法と非固定法では、測定側股関節のみを外転させるように指示をした。全ての方法において、5秒間の等尺性股関節外転運動を、30秒以上の間隔をあけて施行した。各方法を健常者は右側、THA患者は術側、非術側共に3回ずつランダムに行った。測定は理学療法士1名が行った。各方法における筋力測定値は、3回の最大値と大腿長の積であるトルク値(Nm)で表した。
統計処理には、各方法におけるトルク値の差については一元配置分散分析を行い下位検定にはBonferoni/Dunn法の多重比較法を用いた。検者内信頼性の検討には級内相関係数ICC(1,1)を求めた。
【説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的と内容を説明し、協力の同意を得た。
【結果】
トルク値(平均±SD)は健常者にて、外転固定法118.7±38.1、検者固定法85.1±35.8、非固定法81.9±35.5 Nmであり、外転固定法は検者固定法や非固定法と比較して有意に高値であった。患者術側では外転固定法34.2±15.7、検者固定法32.7±13.4、非固定法27.4±10.8 Nmであり、外転固定法-非固定法にのみ有意差を認め、検者固定法-非固定法間においては非固定法の方が小さい傾向にあった。患者非術側では外転固定法35.7±18.2、検者固定法41.0±18.2、非固定法34.6±12.5Nmであり、有意差は認められなかった。ICC(1,1)は、どの測定方法においても健常者では0.90以上、患者では0.97以上であった。
【考察】
今回施行した3つの方法は、全てICCが高値を示しており、高い再現性を有していた。トルク値は、健常者では両側共に十分な筋力を有しているため、固定の有無によるトルク値に差が生じなかった。しかし、患者術側は測定側の筋力が低下しており、筋力を発揮する際には対側下肢を固定し骨盤帯を安定させる必要があるため、固定の有無によりトルク値に差が生じたと解釈した。また、患者非術側は対側(術側)の筋力が低下しており、固定として十分に機能していないため、各方法による有意差が生じなかった。
3つの方法のトルク値では、外転固定法で最も高値を示した。「最大筋力値を測定する」という観点では、この方法が最も妥当であると考える。また、検者固定法に関しては、健常者と患者術側では対側下肢の使い方が異なる結果となった。健常者の場合は固定を行う検者足部に、対側下肢を押し付けなくても測定側下肢のみの外転を行うことが出来るため、非固定法の値と近い結果となったのに対し、患者術側では、検者足部を押すことによってその反力を用いて測定側股関節を外転させているため、外転固定法の値と近くなった。よって、検者固定法では対側下肢を固定する力が対象者によって大きく変わることがわかった。以上より、股関節疾患患者において、対側下肢固定の有無がトルク値に影響する重要な要素となり、その固定法を統一する必要があるといえる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究により、股関節疾患患者における対側下肢固定方法を統一することの重要性が示唆された。しかし、トルク値の比較のみでは外転筋群のどの筋による筋活動であるかが不明確であるため、今後は外転の主動作筋である中殿筋に着目し、表面筋電図を用いてその筋活動量を比較し検討する。
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© 2011 日本理学療法士協会
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