理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-022
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ポスター発表(一般)
足関節の不安定性は片脚立位のバランス応答に影響を与えるか
八木 優英鈴木 謙太郎阿南 雅也新小田 幸一
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抄録
【目的】慢性足関節不安定症(以下,AI)は足関節捻挫の再発や変形性足関節症への進行などの危険性があり,理学療法士がその特徴を把握し,患者の評価,治療を行うことが重要である.しかし,AIの1つである足関節機能的不安定性(以下,FAI)の評価では,患者の主観的な不安定感が臨床指標であり,これはFAIが構造学的な不安定性の治癒を果たしてもなお,症状が残存する例があるからである.そこで本研究は,AIの1つであるFAIに着目し,足圧中心座標に対し,工学分野の過渡応答特性の評価に用いられ,出力が非線形でかつ閉ループの動きをする場合非常に有効な位相面解析を行った.また,身体重心加速度に対し,運動の円滑さを表す指標であるJerk costを動作時間及び動作距離で補正した指標であるJerk indexを用い,FAIの姿勢制御の特徴を明らかにするとともに,これらの解析がFAIの評価手法として有効であるかを検討することを目的として行った.
【方法】被験者は右または左に足関節疾患の既往があり,FAIを呈している若年成人6人(男性4人,女性2人,年齢22.8±1.5歳,体重60.3±5.7kg)であった.FAIの評価にはClaireらによる評価スケールを用い,30点満点中24点以下の足関節をFAIと判定した.全被験者の患側が前方引き出しテストおよび,距骨内反テストの徒手検査において陽性であった.課題動作は静止立位から側方へ1歩移動し,先行する側の下肢にて片脚立位をとる動作とし,動作スピードは被験者の任意のスピードとした.課題動作は患側および健側の両側で試行した.側方1歩移動の歩幅は各被験者の棘果長の50%に設定し,各条件を患側および健側でそれぞれ2回試行した.動作時の床反力を2基の床反力計(Advanced Mechanical Technology社製床反力計1基,Kistler社製床反力計1基)を用いて,サンプリングレート540Hzにて取得し,足圧中心(以下,COP)の軌跡および床反力を算出した.動作開始は支持側が接地した時点,動作終了は支持側の受ける全方向の床反力のnormの変化量が体重と重力加速度との積の0.05%未満に収束し,0.5秒間保持できた時点とした.解析区間中のCOPの左右方向の座標(以下,COPx),COPの前後方向の座標(以下,COPy)を横軸に,一階微分値を縦軸にとりそれぞれ位相面上に表した.そして,COP移動距離,各方向の床反力norm,動作時間からJerk indexを算出した.なお,本研究の課題動作は運動開始から床反力のnormの収束までという閉ループの運動である.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver. 14.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の開始にあたり広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座の倫理委員会の承認を得た.また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,応答および文書による同意を得た後に実施した.
【結果】患側,健側共にCOPx,COPyの位相面図はリミットサイクルを描き,収束する様子が観察できた.また,患側では,健側に比べ,各解析項目のリミットサイクルのCOPyの一階微分値の収束範囲が広い様子が観察され,収束から逸脱する例があった.同様にCOPxの一階微分値の収束範囲が広い様子が観察された.Jerk indexは左右方向および前後方向で健側に比べ,患側で有意に大きな値を示した(p<0.05).
【考察】 患側のJerk indexは健側に比べ有意に大きかったことから,COMの加速度の変化が大きく,これを円滑に制御できていないと考えられた.これはCOMの加速度の変化が大きいことは,加減速を繰り返していることを意味している.COPの位相面解析の結果で見られたCOPの速度変化が大きい様子は,健側より患側で急激に加速と減速を繰り返すCOMの制御に必要な特徴的な応答であると考えられる.
【理学療法学研究としての意義】研究で用いた位相面解析の軌跡の観察により,FAI患者が呈する不安定感を理学療法士が視覚的に捉えることができ,FAIを呈する患者の評価における主観的な不安定感以外の評価指標になり得ると考えられる.また,Jerk indexはFAIの片脚立位時の重心制御の滑らかさを明らかにする指標となり得ると考えられる.
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© 2011 日本理学療法士協会
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