理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-034
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ポスター発表(一般)
ラット骨格筋における廃用性筋萎縮に対する磁気刺激での予防効果
藤原 義久藤田 直人荒川 高光三木 明徳
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抄録
【目的】廃用性筋萎縮は筋線維の性質の変化,すなわち速筋化を伴う。一方,磁気刺激は刺激時に不快感がほとんどないことや,脂肪や骨の影響を受けず深部組織まで刺激を行えるなどの利点がある。したがって,抗重力作用のある深部筋へ刺激可能な磁気刺激は,筋萎縮や速筋化を抑制する有効な手段であると思われる。しかし,廃用性筋萎縮に対して磁気刺激を用いた報告は乏しいのが現状である。そこで,遅筋線維が多く分布するヒラメ筋と速筋線維が多く分布する足底筋を対象として,磁気刺激が筋萎縮の予防や筋線維の性質の変化に及ぼす影響を形態学的に調査を行った。さらに,廃用による筋線維の速筋化に対する磁気刺激の影響を詳細に調査するため,筋線維タイプを特徴付けるミオシン重鎖(Myosin Heavy Chain :MHC)アイソフォームの発現パターンの変化から生化学的な検討を行った。

【方法】8週齢のWistar系雄ラットを,無処置対象群(CON 群),2週間の後肢非荷重群(HU 群),HU群に40%出力(刺激間隔20秒,刺激時間20分間)で磁気刺激を行った群(HUM 群)の3群に分けた。磁気刺激装置はMagstim200(ミユキ技研)を用いた。最大頂点磁気強度は2.0Tで,立ち上がり時間100µs,パルス幅1msの単一位相波形の刺激条件にて,実験期間中毎日,下腿後面の筋腹中央部を経皮的に刺激した。実験期間終了後にヒラメ筋と足底筋を摘出し,相対重量比を算出した。摘出した筋試料は約7µm厚に薄切し,ミオシンATPase染色(pH4.1)後に光学顕微鏡で観察し,筋線維横断面積と筋線維タイプ構成比を測定した。次に,SDS-PAGE 法により各筋試料に含まれるMHCアイソフォームをMHC I,MHC IIa,MHC IIb,MHC IIxの4種類に分離し,銀染色により可視化した。そして,画像解析ソフト(Image J) を用いてMHCアイソフォームの発現比率を算出した。統計処理は一元配置分散分析とScheffeの多重比較検定を行った。

【説明と同意】全ての実験は,所属大学における動物実験に関する指針に従って実施した。

【結果】各筋の相対重量比(mg/g)は,ヒラメ筋でCON 群0.45,HU 群0.24,HUM 群0.24であり,足底筋でCON 群1.07,HU 群0.89,HUM 群0.84であった。両筋ともに相対重量比はCON 群と比較しHU 群,HUM 群で有意に減少した。また,筋線維横断面積(µm)はヒラメ筋でCON 群type I:2383, type IIA:2020, type IIB+IIX:2007,HU 群type I:1140, type IIA:1451, type IIB+IIX:1460,HUM 群type I:1009, type IIA:1218, type IIB+IIX:1339であり,足底筋でCON 群type I:1047, type IIA:1157, type IIB+IIX:2052,HU 群type I:733, type IIA:864, type IIB+IIX:1756,HUM 群type I:926, type IIA:968, type IIB+IIX:1999であった。ヒラメ筋の筋線維横断面積はCON 群と比較しHU 群,HUM 群の全筋線維タイプで有意に減少したが,足底筋の筋線維横断面積はCON 群と比較しHU 群,HUM 群のtype IIAのみ有意に減少した。次に,筋線維タイプ構成比(%)は,ヒラメ筋でCON 群type I:80.7, type IIA:16.6, type IIB+IIX:2.7,HU 群type I:62.0, type IIA:28.5, type IIB+IIX:9.5,HUM 群type I:79.5, type IIA:15.5, type IIB+IIX:5.0であり,足底筋でCON 群type I:9.7, type IIA:26.3, type IIB+IIX:64.0,HU 群type I:7.7, type IIA:25.3, type IIB+IIX:67.0,HUM 群type I:9.7, type IIA:24.0, type IIB+IIX:66.3であった。筋線維タイプ構成比を見ると、各群で著明な変化が見られなかった足底筋とは対照的に,ヒラメ筋では後肢非荷重により有意に減少したType I 線維の割合が,磁気刺激を行うことで有意に増加した。さらに, MHCアイソフォームの発現比率(%)も筋線維タイプ構成比と同じような結果が得られた。

【考察】筋萎縮に対する磁気刺激の予防効果はほとんど見られなかった。しかし,廃用により筋線維の速筋化が引き起こされたヒラメ筋で,磁気刺激による筋線維の速筋化の抑制効果が見られた。筋の萎縮はタンパク質の合成系と分解系のバランスが破綻し,タンパク質の分解系が亢進することが原因と報告されている(Bodine et al. 2001)。一方,MHCアイソフォームはそれぞれ個別の遺伝子の情報に基づいて作られ,主に転写レベルで発現の調節が行われる(Weiss et al. 1996)。すなわち、廃用による筋萎縮と筋線維の速筋化は全く異なったメカニズムで引き起こされ、磁気刺激はMHC発現系に優位に作用し筋線維の速筋化を抑制したと考えられる。

【理学療法学研究としての意義】今回の研究では,磁気刺激が廃用による筋線維の速筋化を抑制することが示唆された。
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© 2011 日本理学療法士協会
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