理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-064
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ポスター発表(一般)
幼児の足部形態と足趾接地状況
運動発達・生活習慣との関連
荒木 智子須永 康代鈴木 陽介木戸 聡史井上 和久久保田 章仁相澤 純也加地 啓介兵頭 甲子太郎高柳 清美増田 正森田 定雄
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キーワード: 浮き趾, 幼児, 運動発達
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抄録
【目的】足部は歩行時において重要な役割をもち、その成長は幼児期に最も著しく進む。最近、幼児において「浮き趾」という特徴的な形態がみられる。「浮き趾」は立位時に足趾が接地出来ていない状態をいう。「浮き趾」には痛みや不快感などはない。本研究の目的は幼児の足部形態や生活習慣と足趾の接地状態の関連因子を検討することである。
【方法】対象は211名(男109名、女102名)の健常な3-6歳の幼児である。対象は足部に問題や既往歴を持たないものとし、神経学的疾患、整形外科的疾患等、足部の形態・機能に問題があるものは対象から除外した。第2趾から踵部中央までの足長、足長と直交するMTP関節から第5趾中足骨頭までの足幅についてスライディングスケールを用いて測定した。また、フットプリントを採取した。足長・足幅およびフットプリントは立位で測定を行った。足趾の接地状態については、フットプリントの撮像状況により、各足趾について0-2点(0点:完全離地、1点:部分接地、2点:完全接地)で点数化した。また、独歩開始時期などの発育歴や生活習慣に関する質問紙調査を行った。この研究は埼玉県立大学倫理委員会で承認を受けて実施した。統計学的処理はSPSSを用い、足部形態と月齢、身長、体重、浮き趾の点数分布はPearsonの相関係数を算出した。
【説明と同意】本研究に参加した被験者の幼児及び保護者に対して、研究内容・方法について書面で説明し、書面にて同意を得た。また測定時には改めて口頭で幼児に同意を得て、測定途中でも中断できるように配慮を行いながら実施した。
【結果】足長・足幅は月齢、身長、体重、独歩開始時期からの歩行期間と相関した(p<0.01)。その一方で出生時身長や出生時体重とは弱い相関を示すにとどまった。「浮き趾」については、被験者全員に1趾以上の「浮き趾」が見られ、接地状況を示す平均点数は左右合計で8.83±3.14点(1-19点)であった。足趾が完全に接地していない状態を最も多く示したのは第5趾であり、どの年齢層においても完全に接地していないのが各年齢平均で右72.9%、左が71.5%を占めた(3歳:右66.6%、左68.4%、4歳:右59.6%、左72.5%、5歳:右88.6%、左75.9%、6歳:右76.9%、左69.2%)。一方、一番接地状況が良好だったのは第1趾であり、各年齢平均で右0.9%、左0.7%(4歳:左1.6%、5歳:右3.7%、左1.2%、他は0%)にとどまり、第1趾は接地できていることが示された。浮き趾の出現数、点数と月齢、身長、体重、足長・足幅とは有意な相関はみとめられなかった。生活習慣については家庭での外遊び時間、TVゲーム時間、TV視聴時間、昼寝時間について聴取し、外遊び時間は平均1.0±0.7時間(0-3時間)、TVゲーム時間は0.3±0.5時間(0-3時間)、TV視聴時間は2.1±1.0時間(0-5時間)、昼寝時間は0.4±0.7時間(0-3時間)だったが、足部形態、浮き趾の点数とは有意な相関は示されなかった。普段はいている靴のサイズと足部形態については、実際の足部よりハーフサイズほど(平均0.4cm)大きめの靴を履いている場合が多かった。
【考察】これまで、「浮き趾」の出現には外遊び時間や靴の不適合など生活習慣に起因するという先行研究がみられた。しかしながら、本研究の対象については、生活習慣と「浮き趾」の出現については有意な相関は認められず、「浮き趾」の直接的な原因として示唆することは困難であった。「浮き趾」が第5趾に多くみられ、その一方で第1趾は良好な接地状況がみられたことについては、幼児の姿勢特性は後方、内側方向に荷重がかかりやすいことが要因と考えられた。歩行時における足底の重心移動が幼児型の直線的な移動から成人型の踵部から母趾に向かう曲線的な移動に近づく過渡期でもあり、姿勢や歩行の発達と足趾の接地状況も関係があると考えられた。そこから、幼児における「浮き趾」は正常発達の一面とも考えられ、しかしながら第2-5趾は足底の体重分散の重要な役割もあるため、足趾機能の発達を順調に進めていくためにも注意深く観察を続けることが必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】足趾は歩行時に重要な役割をもち、運動発達が著しく進む幼児期の状態を把握することは正常発達を促す上で重要と考える。足部形態は上位関節のアライメントにも影響を及ぼすため、理学療法学において「浮き趾」等の発生要因や問題点を追及することは意義がある。
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© 2011 日本理学療法士協会
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