理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-017
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口述発表(特別・フリーセッション)
運動学習に関わる一次運動野可塑的変化の役割
Theta Burst StimulationによるMirror Therapy運動学習効果の検討
野嶌 一平美馬 達哉川又 敏男
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抄録

【目的】運動学習における脳の可塑的変化に関しては、大脳皮質の運動機能領域の機能解剖学的変化やニューロン間の興奮性・抑制性作用の変化などが報告されている。これらの報告は、介入前後の脳機能変化と運動機能変化の相関関係を検討したものであり、実際の脳機能変化が学習された機能にどのような影響を及ぼしているかは不明である。リハビリテーション領域では、反復練習による学習効果を得ることが大きな目標となっており、脳機能変化と運動学習効果の因果関係を解明することは今後非常に重要となってくるものと考える。近年、脳卒中後片麻痺を呈する患者に対し、Mirror Therapyを実施することで運動機能が向上することが報告され、臨床に取り入れられてきているが、その運動学習機序は依然不明である。今回、経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)を用いて、介入前後の脳機能を検討する。また、動物実験で使われる法則に則ってヒトに応用され、大脳皮質に長期抑制・増強メカニズムに類似した作用を発揮することが報告されているTheta Burst Stimulation(以下TBS)を行い、大脳皮質運動野領域に直接介入することで運動機能がどのように変化するのかも併せて検討する。
【方法】
対象は右利きの健常成人16名(21.7±2.5歳、男性7名、女性9名)とした。TMSでの刺激領域は右一次運動野(M1)とし、左背側骨間筋(FDI)より運動誘発電位(MEP)を表面筋電図にて導出した。運動域値は、安静時(rMT)にFDIより10回中5回以上MEP振幅が50μVを越える最小の刺激強度とした。同様に、最大筋収縮の20%程度の筋収縮時にFDIより10回中5回以上MEP振幅が100μVを越える最小の刺激強度で運動域値を測定した(aMT)。また、MEPが0.5~1.0mVとなる強度での刺激を介入前後で実施した(MEP)。運動課題は2つのコルクボールを30秒間、左手で反時計回りにできるだけ早く回す課題とし、介入前後でその回数を比較した。運動介入は全例Mirror Therapyを実施した。Mirror Therapyは、実際は右手でボール回しを行っている所を、鏡を利用して左手が行っているように錯覚させる方法を30秒間10セット実施した。TBSに関しては、刺激強度90%aMTで5Hzの連続刺激として、M1と対照群として後頭部(Occipital:以下OC)に刺激を加えた。刺激は抑制性の作用を有することが報告されているcontinuous TBS(cTBS)とした。実験プロトコールは、1)運動機能計測とTMS測定を実施した後、Mirror Therapy(MT1)を行い、2)2度目の計測、その後にTBS刺激を2群に分けて実施し、3)3度目の計測、そしてもう一度Mirror Therapy(MT2)を行い、4)最後に再度計測を実施した。統計学的検討はTwo-way repeated ANOVAを行い、post hocとしてBonferroni検定を行った。
【説明と同意】本研究は、京都大学倫理委員会の承認を得て実施した。また、被験者は医師から口頭で実験内容を十分説明され、実験への参加は任意とした。
【結果】M1群のボール回し回数とMEP値は、1)19.8 ± 8.5回、803.8 ± 447.2μV、2)24.0 ± 10.3回、1115.2 ± 646.3μV、3)23.0 ± 9.5回、905.7 ± 515.2μV、4)27.0 ± 10.2回、1319.3 ± 762.8μVであり、OC群は1)18.4 ± 5.5回、705 ± 373.1μV、2)23.5 ± 5.2回、881.6 ± 434.4μV、3)25.5 ± 5.9回、903.0 ± 415.8μV、4)26.9 ± 5.0回、929.8 ± 568.0μVであった。統計学的検討の結果、M1群でcTBSにより有意なボール回し回数、MEPの低下が見られた。一方、OC群では計測毎にボール回し回数、MEPの増加が見られた。
【考察】皮質活動を抑制するcTBSをM1に与えることで、先行研究と同様にM1の機能が抑制され、またM1の抑制と同期して運動機能の有意な低下が見られた。このことは、M1の抑制によりMirror Therapyによって得られた運動学習効果が即時的に消失されることを示している。本研究の結果より、Mirror Therapyによる運動機能の向上は、運動同側のM1の可塑的変化による皮質脊髄路の活性化と強く関係していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】臨床における介入研究で、相関関係が示された要因間の因果関係を証明することができたことは、理学療法のエビデンス構築に寄与できるものと考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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