理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF2-014
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口述発表(特別・フリーセッション)
トレッドミル歩行が体性感覚異常に及ぼす影響
二田 真里子中井 英人荒本 久美子澄川 智子長谷川 美欧鳥山 喜之
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抄録
【目的】トレッドミル歩行は省スペースで一定速度に設定できるという利点から、室内運動として広く行われており、健常者のみならず様々な患者に用いられている。平地歩行は人が動くに対して、トレッドミル歩行は床が動き、自己の移動に対して空間の移動がない。トレッドミル歩行後足底のしびれ感や、床が動いている様な感じが生じ坐位でも身体動揺感の訴えを経験する。そこで、トレッドミル歩行後に現れる一過性の体性感覚異常について主観的調査と重心動揺の経時的変化を調査し若干の知見を得たので報告する。
【方法】対象は、中枢性疾患および耳鼻科的疾患、精神疾患に既往のない健常成人20名(男性13名、女性7名)とした。平均年齢は24.8±3.6歳、平均身長は167.7±6.9cm、平均体重は61.6±6.9kgであった。タイムスケジュールは10m最大歩行時間を計測し、施行前重心動揺(以下直前)を計測し、様々な影響を除外するために5分間の安静坐位をとった後トレッドミルにて10分間歩行し、その直後から重心動揺(以下1回目)測定を行い、直後から経時的に計8回計測した。測定間には1分間安静坐位をとった。トレッドミル歩行速度は10m最大歩行時間より70%の速度に設定した。歩行中トレッドミルの手すりを把持しないこと、まっすぐ正面を見るよう指示した。トレッドミル歩行後は立位または歩行を回避し、安静坐位では踵部のみ接地することを許可した。重心動揺測定にはアニマ社製GRAVICORDER-G620を用いて2m前方に設置した印を注視させ、裸足で閉脚開眼立位にて30秒間計測し、外周面積、単位時間軌跡長、単位面積軌跡長、前後変位の各パラメータを求めた。また主観的体性感覚異常の評価にはVASを用いて実施した。統計学的処理は一元配置分散分析を行った後、FisherのPLSDを行い、有意水準は5%とした。
【説明と同意】被験者には本研究の主旨を十分に説明し、同意を得て行った。
【結果】各重心動揺パラメータは直前、1〜8回目の順に外周面積は2.47、2.87、2.69、2.48、2.55、2.72、2.37、2.48、2.26であった。単位時間軌跡長は1.27、1.35、1.39、1.29、1.32、1.31、1.23、1.25、1.28であった。単位面積軌跡長は17.50、17.07、19.29、18.92、18.05、16.47、18.79、16.16、18.84であった。前後変位は-1.20、-1.30、-1.71、-1.45、-1.61、-1.12、-1.20、-1.30、-1.20であった。VASは0.42、1.42、1.37、1.05、0.90、0.58、0.58、0.47、0.63であった。単位時間軌跡長において2回目と6回目、7回目の間で有意に減少した。VASにおいて、直前と1回目、2回目の間で有意に増加し、1回目と5~8回目で有意に減少し、2回目と5~8回目の間に有意に減少した。その他の項目および外周面積、密集度、前後変位において有意差は認められなかった。
【考察】諸家の報告ではトレッドミル歩行後、視覚と体性感覚が解離することにより運動感覚と位置覚等の姿勢制御系は異常をきたすが、体性感覚異常は約2分で消失するとされており、視覚情報が姿勢制御系に与える影響は大きいとされている。開眼にて行った我々の重心動揺の結果には直後と歩行後には有意差はみられなかった。特徴として、単位時間軌跡長においてのみ有意差がみられ1回目から増加し、2回目に極大値を示し、実施後30秒から3分未満に動揺のピークを迎えている可能性が考えられた。さらに4回目に増加し、8回目にも増加が見られたことより、動揺の大きさ、速度の異常を表す単位時間軌跡長は直線的に減少していくのではなく、増減を繰り返しながらゆるやかに減少していく可能性があると考えた。めまいや平衡障害の程度を表す外周面積においてもピーク時間は違うものの増減を繰り返し減少した。さらに単位面積軌跡長と前後変位でも有意差はみられなかったものの、増減を繰り返し直前値に終息しつつあった。また、VASによる主観的調査では1回目から最大値を迎えた可能性があり、その後漸増的に減少していった。今回トレッドミル歩行前の重心動揺は一回のみの測定であったため、各パラメータの増減の幅を把握できず、施行前のデータの妥当性が検討されていなかった。さらに重心動揺では2分前後に、VASでは直後にそれぞれのピークを迎え、視覚情報による影響があるものの、重心動揺では判断できない要因が潜んでいると考え、今後の検討課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】トレッドミル歩行後、主観的評価と客観的評価にはずれがある。さらに重心動揺では増減を繰り返す性質があり時間的な関連はなく、休息から立ち上がり動作等移動時の動き始めには注意が必要である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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