理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF1-012
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
3次元空間内の上腕運動範囲(Join Sinus Cone)の立体角の大きさに基づく利き手側と非利き手側の肩関節可動範囲の比較
大場 潤一郎西下 智上島 美紀家門 孝行新原 正之白銀 暁吉田 直樹
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キーワード: 肩関節, 立体角, 左右差
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抄録
【目的】
臨床において、治療の到達目標の設定のためや、関節可動域制限の要因を探るためなどの目的で、関節可動範囲の左右側間の比較がよく行われる。一方、日常生活において左右対称の動作は少なく、利き手を優位に使用する。利き手と非利き手は機能的にも非対称性があるとの報告があるので、その非対称性がどの程度なのか、関節可動範囲についても同様のことが言えるのかを知らなければ、関節可動範囲の左右比較は単純には行えない。したがって、これを明らかにすることには意義がある。上肢の関節の中で、肩関節は上肢全体の運動に影響する重要な関節である。利き手側と非利き手側の肩関節の可動範囲を比較した先行研究は多くあり、両者に違いがあるとした報告では約3°~7.5°であり、臨床的に見て大きな差とは言えない。しかし、肩関節は肩の回転中心を頂点とし円錐を広げたような形の上腕の運動範囲をもつ3次元の運動を行っているので、肩関節可動域を従来の方法で計測したこれらの研究は、その意味で肩運動範囲全体の比較としては不十分である可能性がある。肩関節の3次元的な運動領域はjoint sinus coneまたは単にsinus(サイナス)と呼ばれ、その大きさは運動範囲の大きさに直結した情報と考えられ、立体角という指標で表現することができる。今回、この立体角を用いて、利き手側と非利き手側の肩関節運動範囲の大きさの比較を試みた。
【方法】
対象は健常男性 12 名(23~35 歳)の両肩(右利き:10名、左利き:2名)。被験者は端座位で、分回し (circumduction)その他、肩関節を大きく動かす運動 を行った。計測には磁気式の6軸位置角度計測装置 PATRIOT (Polhemus 社)を用い、センサを上腕と胸骨部に取り付け、上腕長軸方向と胸郭の姿勢をオイラー角として 60Hz で計測した。 肩の運動中、体幹は固定せずに自然な運動にまかせた。両センサの情報から、体幹の運動(代償動作)の影響を除去し、胸郭に固定した座標系における上腕長軸方向を算出した。この結果からsinusの領域を求め、sinus領域を上腕方向を示す単位球面上に表示した場合の面積を算出した。この面積は上腕の運動範囲を示す立体角に相当する。立体角とは、角の頂点を中心とする半径 1の球から錐面が切り取った面積の大きさで表すことができる。これは2次元の角度を3次元に拡張した角度である(単位:ステラジアンsr)。この立体角を、利き手側と非利き手側で比較した。計測および解析には、MATLAB(MathWorks社)で本研究用に開発したソフトウェアを用いた。統計学的処理としてt検定を用いた。有意水準はp=0.05とした。
【説明と同意】
対象者には、計測前に実験の趣旨を口頭及び書面で説明し、書面で同意を得た。
【結果】
利き手側の立体角は、5.43 ±0.55sr(平均値±標準偏差)。非利き手側の立体角は、5.30 ±0.63srあった。両者の平均値に有意差はみられなかった。個人間の差(利き手側から非利き手側を引いたもの)は、0.13±0.38srであった。
【考察】
利き手側と非利き手側の間で立体角に差が認められなかったので、何らかの原因により一側の肩関節可動範囲に制限をきたした場合に、対側の立体角を参考にして治療の到達目標の設定を行うことができる。
我々が行った研究において、同側の肩関節可動範囲と立体角との間で高い相関があり、その差が小さいことがわかっている。本研究の結果においても個人間の差が小さかったことから、我々が用いている肩の可動範囲計測のための運動課題が、精度が高い方法であると考えられた。今後も、sinusを計る際の手法の一つとして利用できるだろう。
今回、指標として用いた立体角は、運動範囲の大きさを表すものであるが、これだけをもってsinusに差が無いとは言い切れない。sinusの形など、他の要素については今後の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では、立体角を用いて利き手、非利き手の肩関節可動範囲の傾向を知ることが出来た点、sinusには形、大きさ、位置など様々な要素があるため、立体角以外にも利き手、非利き手の可動範囲の比較、検討をする必要がある点に意義がある。
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© 2011 日本理学療法士協会
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