理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-010
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専門領域別口述発表
足趾把持力の年代による比較と動的バランス能力との関連
ロコモティブシンドロームに関する基礎的研究
新井 智之藤田 博曉細井 俊希石橋 英明
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抄録

【目的】足部の運動機能の低下はバランス能力や転倒発生に影響する重要な要因である.特に足趾把持力は転倒や片脚立ち時間などの静的バランス能力に関連する指標であることが報告されており,高齢者の転倒やロコモティブシンドローム予防の観点から有効は指標になり得ると考えられる.しかし下肢筋力の指標として用いられることが多い等尺性膝伸展筋力に比べ,足趾把持力に関する報告は少なく年代別の比較や動的バランス能力との関連を検討する必要があると考える.そこで本研究では地域在住高齢者の足趾把持力を年代別の比較を行うと共に足趾把持力と運動機能との関連を調査することを目的とした.また動的バランス能力の指標に足趾把持力が影響するかを検討することとした
【方法】対象は地域在住中高年者245人を対象とした.平均年齢は75.8±6.4歳(56-92歳)であり男性31人,女性214人であった.足趾把持力の測定機器は村田らの研究を参考に市販のアナログ握力計を用いて作成した.測定は膝関節屈曲90°足関節背屈0°の座位で行う.対象者は足趾を握力計のバーに掛け,最大筋力で足趾を屈曲させ握力計のバーを把持する.測定は左右肢で2回ずつ行い,それぞれの最大値を採用した.その他の運動機能評価は左右の最大等尺性膝伸展筋力(Nm/kg),左右の片脚立ち時間(秒),FRT(cm),10m最大歩行時間(秒),TUGT(秒)を測定した.解析では対象者を5歳ごとの年代別に分け,年代間の足趾把持力の比較を1元配置分散分析と多重比較法を用いて行った.また足趾把持力と他の運動機能との相関関係をPearsonの相関係数を用いて検討した.さらに動的バランス評価への足趾把持力の影響を検討するため,FRTとTUGTを従属変数,年齢,身長,体重,他の運動機能を独立変数とした重回帰分析を行った.なお重回帰分析を行うにあたり多重共線性の影響を少なくするため,独立変数間の相関関係を調査した.解析には統計解析にはPASW 18.0J for Windowsを用いた.
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し,研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文書を用いて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】年代別の足趾把持力の値(平均値±標準偏差)は65歳未満で10.3±5.2kg,65~69歳で9.3±3.7kg,70~74歳で8.2±2.9kg,75~79歳で7.1±3.3kg、80~84歳で6.1±3.6kg,85歳以上で3.6±2.8kgであった.1元配置分散分析と多重比較法の結果では足趾把持力は年代と共に低下しており,75~74歳と80~84歳では65歳未満,65~69歳に比べ有意低下していた.さらに85歳以上の群では足趾把持力が急激に低下し,その他の各群に比べ有意に低い値を示した.また足趾把持力と運動機能の関係は,最大等尺性膝伸展筋力は右r=0.35,左r=0.45,片脚立ち時間は右r=0.44,左r=0.38,FRTはr=0.35,10m最大歩行時間はr=-0.46,TUGTはr=-0.51であった.FRTを従属変数とした重回帰分析では足趾把持力,最大等尺性膝伸展筋力,身長,片脚立ち時間が要因として選択された(調整済み重相関係数0.19).またTUGTを従属変数とした重回帰分析では足趾把持力,最大等尺性膝伸展筋力,FRT,片脚立ち時間が要因として選択された(調整済み重相関係数0.43).
【考察】本研究の結果から足趾把持力は年代と共に直線的に低下すること,後期高齢者の足趾把持力は前期高齢者に比べ有意に低下していること,85歳以上の超高齢者では各年代と比較して著明に低下していることが示された.また先行研究では足趾把持力は膝伸展筋力や静的姿勢保持能力に関連すると報告されているが,本研究の相関分析と重回帰分析の結果から動的バランス能力や移動能力にも影響を与える指標であることが示された.以上のことから足趾把持力は高齢者の運動機能評価として有用な指標であることが示された.
【理学療法学研究における意義】足趾把持力に関する先行研究において245人の地域在住高齢者を対象にした方向は見当たらない.そのため本研究で示した足趾把持力の年代別の値は,転倒予防教室や病院のリハビリテーションの場面において対象者の目標設定に有益な情報であると考える.また足趾把持力の向上を図ることで後期高齢者のバランス能力向上につながる可能性があり,高齢者の生活機能向上を目的としたトレーニングとして応用できる可能性がある.

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© 2011 日本理学療法士協会
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