理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-012
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専門領域別口述発表
超音波エラストグラフィーと組織硬度計を用いたストレッチング前後の組織硬度の比較
金澤 浩浦辺 幸夫白川 泰山
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抄録

【目的】超音波による組織硬度の画像化、すなわちTissue elasticity imagingの研究は1990年代よりElastographyとして始められ、世界に先駆けて本邦で製品化された。主に乳腺、甲状腺や胆膵疾患領域で有用性が報告され、整形外科領域でもその有効性が検討されてきている。筆者らは、ストレッチングが筋腱複合体に及ぼす影響についての研究を進めており、これまでにストレッチングによる伸張量の組織による違いや、ストレッチングの至適時間などについて本学術大会で報告してきた(2006、2008)。今回は、ストレッチングによる組織硬度の変化に着目し、ストレッチング前後の筋腱複合体の組織硬度の変化を筋と腱で比較し、どちらがストレッチングの影響をより大きく受けているのかをReal-time tissue elastography、および組織硬度計を用いて調査することを目的とした。
【方法】対象はスポーツ習慣のない健康な成人男性10名(平均年齢24.8±1.8歳、身長171.8±5.5cm、体重61.4±8.4kg)とした。対象は足関節最大背屈角度に設定したストレッチングボード上で3分間の立位をとってストレッチングを行い、ストレッチング前後の右腓腹筋内側頭、および右アキレス腱の硬度を超音波エラストグラフィーと組織硬度計を用いて測定した。超音波エラストグラフィーはデジタル超音波診断装置(HI VISION Preirus、日立メディコ)、とリニア型探触子(EUP-L65、6-14MHz、日立メディコ)を使用した。観察は腹臥位で長軸走査を行い、腓腹筋内側頭の筋束、およびアキレス腱をROI(region of interest)で囲み、僅かに探触子をバウンドさせて圧を加え、脂肪組織を中間の歪みとなるようにコントロールしながら行った。組織硬度計による測定は、右腓腹筋内側頭と右アキレス腱の皮膚表面から組織硬度計(OE-220、伊藤超短波)を用いて行った。測定は3回実施して平均値を用いた。ストレッチング前後の組織硬度の差の検定は対応のあるt検定を用いて行い、有意水準を5%とした。
【説明と同意】本研究は、医療法人エム・エム会マッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号MRH1004)。また、対象には事前に研究の趣旨、測定方法、および測定時の危険性等を十分に説明して文書による同意を得て実施した。
【結果】足関節最大背屈角度の平均は26.1±2.9°だった。ストレッチング後の超音波エラストグラフィーは、筋束部では赤色部分が全例で拡大しており組織硬度が小さくなったことが観察された。それに対してアキレス腱部では色調の変化が認められず組織硬度の変化がなかったことが観察された。組織硬度計による測定では、腓腹筋内側頭ではストレッチング前の平均値は55.2±2.5であり、ストレッチング後は50.4±4.9と4.8ポイント(9.5%)有意に減少した(p<0.05)。アキレス腱ではストレッチング前の70.9±5.0から、ストレッチング後の70.6±3.8へ0.3ポイント(0.4%)減少したが統計学的な有意差は認められなかった(p=0.73)。
【考察】筋腱複合体にストレッチングが加えられると組織は伸張されるが、その程度は組織によって異なる(Herbertら2002、Kanazawaら2010)。本研究の結果は、3分間のストレッチングが組織硬度に与える影響は、腱よりも筋の方が大きいことを超音波エラストグラフィー、および組織硬度計ともに示している。これは、筋と腱の機械的特性の違いに起因していると考えられる。これまでの標本を用いた研究で、腱は筋よりも高いスティフネスを示し、伸張し難いことが報告されている(Bennettら1986)。本研究により、腱が示す時間依存的特性が生体においても反映されることが示された。また、超音波エラストグラフィーを使用することで、体内の組織硬度の部位による差異やその程度を把握することができるため、従来の組織硬度計よりも組織硬度の不均一性を客観的に捉えることができ、整形外科領域でも十分に活用できることがわかった。
【理学療法研究としての意義】ストレッチングボードを使用したスタティックストレッチングは、筋の硬度の改善に与える影響が大きいことがわかったことで、スタティックストレッチングを実施する際に標的となる組織が明確になった。また、超音波エラストグラフィーによって簡便に組織硬度を画像化し評価することが可能になり、臨床での応用が期待されるが、整形外科領域においても、リハビリテーションや治療の効果、または、組織の修復過程の評価などに応用が可能であると考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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