抄録
【目的】異常な筋緊張をもつ重症心身障害児は、睡眠時の姿勢変換は自力では行えない状態であり、夜間、習慣的な姿勢をとる傾向にある。そのため、睡眠不足(熟睡できない・すぐ目が覚める)や夜間の安全性の低下(呼吸・誤嚥障害など)、変形の助長などの二次的な問題も引き起こしてしまう危険性が考えられる。
今回、オットーボック社のスリープフォームという空気調整を行うことで様々なポジションに随時形成可能なポジショニングマットを使用して、児にとって安静かつ良姿勢への改善に向けたポジショニングを行い、その使用経過を追い、使用効果を検討した。
【方法】症例紹介:急性脳症後遺症、精神運動発達遅延。6歳男児。四肢高緊張・体幹低緊張。GMFCSレベルV。関節拘縮・後彎があり背臥位を持続して保持できず、側臥位にて安定姿勢となってしまう、さらには、夜間に十分な睡眠が得られない。
そこで、スリープフォームを用い、児の身体症状に合わせて左右対称姿勢を保持できるようポジショニング設定を行い、睡眠時に使用してもらった。
XSENSOR(Pressure Mapping System);圧力分布測定システムを使用して、スリープフォーム使用時・未使用時の背臥位時の支持基底面と圧分布状況を測定し、比較した。さらに、スリープフォームを継続的に一年間使用してもらい、睡眠時の様子・状態と関節可動域・後彎・胸廓の状態について経過を追った。
【説明と同意】本研究を行うにあたり、両親には十分な説明を行い、了解を得た。
【結果】スリープフォームを用い、児の身体症状に合わせてポジショニング設定を行うことによって、背臥位を持続的にとることが可能になった。背臥位時の支持基底面が拡大し、左右へ荷重が分散された。また、継続して一年間使用する中で、安定した臥位姿勢により、リラックスでき、筋緊張が緩和した。夜間持続できる睡眠時間が長くなった。胸郭の動きも向上し、呼吸状態が良くなった。後彎・体幹の左右差が軽減した。そして、スリープフォーム未使用時においても、背臥位を持続的に保持できるようになった。
【考察】スリープフォーム使用により、背臥位時の接触支持面が増大した事と、左右対称姿勢を持続的に保持できるようになった事は、児の背臥位姿勢を安定かつリラックスさせ、さらには長時間のストッレチ効果を与え、変形の主たる原因となる非対照的な伸張や短縮を防ぐことができ、変形の改善に繋がったと考える。また、安定した支持面を得られたことで、異常筋緊張が緩和され、リラックスでき、睡眠時間が増えたと考える。
スリープフォームは、本人の状態の変化や姿勢改善による変化、さらに身体成長による変化に対し、随時姿勢調整が行える。随時簡単にポジショニングの修正に対応できるスリープフォームだからこそ、児にとって、よりよい姿勢管理を常に、そして永続的に行うことができ、有効的な結果に繋がったと考える。
【理学療法学研究としての意義】スリープフォームを通じて、24時間姿勢管理として、睡眠時(夜間)のポジショニングを継続して行うことは、変形の起こりやすい重症心身障害児にとってとても有効的であることが分かった。また、重症心身障害児の身体状態(呼吸機能の維持など)にとって、リラックスした十分な睡眠時間を確保することは、とても大切であると改めて感じた。