理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-162
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ポスター発表(一般)
重症心身障害児(者)における胸郭変形の定量的評価 第4報
健常児と障害児の胸郭の厚さ/幅比率の比較
山本 奈月羽原 史恭安藝 晴菜永田 裕恒青山 香久山 美奈子井手 麻衣子美濃 邦夫梶 睦大田原 幸子
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抄録
【目的】当院では、重症心身障害児(者)が示す非対称変形である『風に吹かれた股関節』や胸郭変形に対して検討を行い、第42回全国理学療法学術大会をはじめ、第43回、第44回で調査結果や症例の報告を行ってきた。これまでに、健常成人の胸郭の厚さ/幅比率の標準値は0.69、当院入所者のGMFCSレベル5はレベル2~4に比して有意に比率が小さいことがわかった。今回、健常児の胸郭の厚さ/幅比率および、中枢神経系疾患を持つ障害児の胸郭の厚さ/幅比率とを比較検討することで、成長による変化、日常生活での姿勢および運動能力との関連性を検討した。なお障害児に関しては、自力での姿勢変換が困難で胸郭変形があると予測されるGMFCSレベル4、レベル5に着目した。

【方法】当院で作製した器具を使用し、一定の計測方法に準じた計測と、アンケートを実施することに同意を得ることができた20の施設に研究の協力を依頼した。計測・アンケートの際には本人や療育者に目的・方法を説明した上で、同意書への記入を依頼した。GMFCSレベル3、4、5の子どもに関しては、(a)日常的にとることができる姿勢、(b)日中最も多い姿勢、(c)夜間最も多い姿勢、(d)使用している補装具についてのアンケート調査を行った。年齢による変化については、GMFCSで使用されている年齢区分(2歳の誕生日の前日まで、2~4歳の誕生日の前日まで、4~6歳の誕生日の前日まで、6~12歳の誕生日の前日まで、12~18歳の誕生日の前日まで)を使用した。

【説明と同意】本人またはご家族に本研究の目的、手順などを説明し、同意を得られた健常児91名、中枢神経系疾患を持つ障害児229名を対象とした。

【結果】1)健常児の胸郭の厚さ/幅比率は、年齢区分順に0.79、0.73、0.74、0.72、0.70と、成長するに従って比率が小さくなる傾向があった。2)障害児の場合、レベル5においては、年齢区分順に0.75、0.72、0.68、0.65、0.66となった。レベル4においては、年齢区分順に、データなし、0.70、0.69、0.68、0.70となった。3)日中最も多い姿勢に関して、レベル5では年齢区分順に61.5%、40%、32.4%、36.8%の子どもたちが背臥位と回答しており、他のレベルに比して背臥位で過ごす時間が長い傾向にあった。4歳を超えると、リクライニング座位で過ごす時間が長いとの回答が増加した。レベル4では、4歳までは背臥位の回答が最も多いが、4歳を超えると座位の回答が最も多くなった。4)夜間最も多い姿勢に関して、レベル5では年齢区分順に、46.2%、40%、32.4%、42.1%と、どの年齢においても背臥位が最も回答数が多かった。レベル4では、4~6歳の誕生日の前日までの年齢区分において側臥位の回答が最も多かったが、それ以外の年齢区分においては背臥位の回答が最も多かった。

【考察】今回の研究において、健常児では成長に伴って、徐々に胸郭が扁平になる傾向にあることがわかった。障害児でも健常児と同様に、成長に伴い胸郭は扁平化してくる傾向が認められるものの、特にレベル5の子どもでは健常児や他のレベルに比して扁平化する傾向が見られた。重度の障害を持つ子ども、特にレベル5の子どもたちは抗重力位での姿勢コントロールが非常に困難であり、姿勢変換に介護者からの介助を要するため、姿勢の多様性に乏しくなりやすい。今回のアンケート調査からも、レベル5では日中・夜間を通して背臥位で過ごす時間が長くなる傾向が裏付けられた。そして、背臥位を中心とした同一姿勢で過ごすことが多くなることが、胸郭の扁平化につながっている原因の1つとして考えられた。

【理学療法学研究としての意義】重症心身障害児の示す非対称変形は非常にゆっくりとした進行性を示す。今回、健常児や障害を持つ子どもたちのデータを集めたことによって、それぞれの傾向がわかってきた。障害を持つ子どもの将来像を予測し、幼いころから経年的・定量的に計測を行い、ケアすることで、非対称変形の進行を予防できるのではないかと考える。今回、全国の20施設の協力を得て、現在までに健常児・障害児合わせて320名の胸郭の厚さ/幅比率の計測を行えた。今後、障害児(者)の療育指針や効果判定に使用できるように、また、統計学的調査を行うために、更にデータを集めていきたい。
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© 2011 日本理学療法士協会
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