理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-172
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ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺者における跨ぎ動作能力と各要因との関連性について
田中 秀明井舟 正秀石渡 利浩川北 慎一郎横川 正美
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抄録
【目的】我々は先行研究にて脳卒中片麻痺者(片麻痺者)の障害物を跨ぐ動作において,重心動揺・動作時間の観点から麻痺側を先に跨ぐ(麻痺先行),非麻痺側を先に跨ぐ(非麻痺先行)方法では麻痺先行の方が跨ぎやすいとの結果を報告した.また,障害物跨ぎ動作と,下肢荷重率や筋力,歩行速度には相関があることを報告した.今回,より高い障害物を跨ぐ時に重要となる要因について調査を行ない若干の知見を得たので報告する.
【方法】対象は,屋外歩行が自立している片麻痺者男性12名,女性6名.発症からの平均経過期間240±197ヶ月,平均年齢65.2±7.0歳,平均身長158.8±5.5cm,平均体重53.9±7.7Kg,下肢Brunnstrom recovery stage3が8名,4が2名,5が8名,麻痺側右8名,左10名.歩行様式は,独歩8名,杖使用4名,杖・装具使用6名.杖または装具を使用している者は独歩でも歩行可能であった.方法は,障害物の設定として2本の支柱を150cmの間隔で設置し,支柱間にテープを貼り付け障害物とした.測定前に対象者の転子果長(以下TMD)を計測した.跨ぎ動作は助走路を前後に3mずつ設け独歩による5m自由歩行を実施した.中央に障害物を設置し高さはTMDの10%,20%,30%を無作為に設定し跨げる高さを測定した.跨ぎ方法は麻痺先行のみ実施し,施行回数は1回,障害物跨ぎの接触の有無を調査した.テープに接触をせずに跨げる高さを測定値とした.また,等尺性膝伸展筋力,片脚立位時間(片脚立位),Trunk Impairment Scale(TIS)を測定した.等尺性膝伸展筋力に関しては等尺性筋力測定器Combit CB-1(ミナト医科学社製)を用い,下腿下垂位で5秒間の等尺性収縮を左右1回実施し体重で除した値を測定値とした.片脚立位に関しては左右1回ずつ実施した.TISは各項目を実施し合計点数を算出した.統計学的分析は,最大に跨げる高さを目的変数,その他の要因を説明変数としてステップワイズ法による重回帰分析にて解析を行ない有意水準は5%とした.
【説明と同意】本研究の目的を説明し同意の得られた方を対象とした.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】各測定項目の平均値は,最大に跨げる高さが15.9±7.0cm,等尺性膝伸展筋力体重比(膝伸展筋力)が麻痺側0.8±0.4Nm/kg 非麻痺側1.7±0.6Nm/kg,片脚立位が麻痺側2.9±7.4秒 非麻痺側20.7±28.0秒,TISが17.0±3.7点であった.最大に跨げる高さと他の項目との単回帰分析においては,麻痺側片脚立位以外の全てに有意な相関を認めた.その4項目を説明変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った結果,非麻痺側膝伸展筋力とTISが説明変数として選択された.寄与率は71.9%(p<0.001)であった.選択された説明変数において,非麻痺側膝伸展筋力の推定値は5.172,標準βは0.326 (p>0.1)であり,TISの推定値は1.470,標準βは0.584 (p<0.01)であった.今回の回帰モデルの因子のうち,TISが跨げる高さに最も関与し,非麻痺側膝伸展筋力は補足的に関与していた.
【考察】跨ぎ動作は複合的な動作であり,動作遂行の為には様々な要因が考えられる.我々は先行研究にて,跨ぎ終わりのバランスにおいて麻痺先行は麻痺肢を先に跨ぎ超す為,支持性が非麻痺先行より不安定な結果となったが非麻痺先行の場合,麻痺肢が後方に位置する為,視覚的フィードバックが要求されることや,分離運動が不十分で時間をかけて分廻しになることから,麻痺先行の方が跨ぎやすいことを報告した.また,最大に跨げる高さに対して,非麻痺側膝伸展筋力,麻痺側荷重率,10m最大歩行速度のすべての項目において相関を認めた.今回は,いくつかの要素からどの要因がより跨ぎ動作との関連性が強いかを検討した結果,体幹機能がより強い要因に挙げられた.この結果から,バランス機能の代償としての下肢筋力や片脚立位よりも体幹機能がより強い要因となるのではないかと考えた.今回,麻痺側の片脚立位には相関を認めず,麻痺先行で障害物を跨ぐ方法では麻痺側の荷重能力よりも跨ぐ際に後方となる非麻痺側下肢の筋力や体幹機能の影響が強いことが確認された.
【理学療法研究としての意義】片麻痺者は日常生活において様々な環境で応用的な動作が必要とされる.今回の研究で,障害物跨ぎ動作を遂行する上で,どの項目が強い要因となるかを解析することで日々の運動療法や評価に寄与するものと考えた.
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© 2011 日本理学療法士協会
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