理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-181
会議情報

ポスター発表(一般)
当院回復期リハビリテーション病棟における脳血管疾患患者に対する病棟練習の効果について
大角 梢幸地 大州柳澤 正臼田 滋
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)では、日常生活活動(Activities of Daily Living:ADL)の向上や早期定着のために理学療法士2名が起居や移乗、移動、トイレ動作を中心とした病棟練習を専属で行っている。対象患者は中等度介助レベル以上とし、主担当の理学療法士が集中した病棟練習が必要と判断した者としている。これまでに当院回復期リハ病棟では病棟練習を実施してきたが、その効果についての検討は不十分であり、今後より効果的なリハを提供するために現在実施している病棟練習の効果について明らかにする必要があると思われた。そこで本研究の目的は、当院回復期リハ病棟で実施している病棟練習の効果を脳血管疾患患者を対象として検討することとした。

【方法】
対象は平成21年10月から平成22年3月の期間に、当院回復期リハ病棟を退棟した全患者399名(病棟練習実施者122名)のうち、脳血管疾患患者でFunctional Independence Measure(FIM)とFunctional balance scale(FBS)を入棟時、退棟時ともに評価している123名とした。方法は、カルテおよびデータベースから、基本情報(年齢等)、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Brunnstrom recovery stage(Br.Stage)、FBS、最大10m歩行時間、FIMについて後方視点的に調査した。さらに、10m歩行時間からは歩行速度を算出した。10m歩行に介助を要し測定が不可能な場合には、歩行速度を0m/secとし、時間的な都合等で測定できなかった場合には欠損値のままとした。解析は、各データについてShapiro-Wilk検定を用いて正規性の確認を行った。その後、病棟練習を実施した病棟練習群、実施しなかった非実施群にて、基本情報と入棟時のMMSE、Br.Stage、FBS、歩行速度、FIMの結果、さらに、FBS、歩行速度、FIMの退棟時の結果と入棟時と退棟時の差(変化)について、Mann-Whitneyの検定とχ2検定を用いて群間比較を行った。加えて、病棟練習群と非実施群の群別に、調査した各変数間の関連性をPearsonの相関係数またはSpearmanの相関係数を用いて検討した。危険率5%未満を統計学的有意水準とした。

【説明と同意】
後方視点的調査のため、匿名化した既存データのみを使用した。得られたデータは研究者が施錠できる場所で保管し、研究以外の目的では使用せず、個人情報保護に配慮した。

【結果】
病棟練習群44名(年齢71.8±13.0歳(平均値±標準偏差))、非実施群79名(年齢75.7±10.7歳)で、両群間で入棟時のMMSE、Br.Stage、FBSの結果に有意差を認めなかったが、入棟時の歩行速度は病棟練習群0.2±0.4m/sec、非実施群0.5±0.6m/secと有意に非実施群が速かった(p<0.01)。退棟時FBSは病棟練習群38.5±15.1点、非実施群32.7±20.2点(p=0.329)、退棟時歩行速度は病棟練習群0.8±0.6m/sec、非実施群0.7±0.7m/sec(p=0.344)で群間に有意差は認めなかった。一方、FBS変化は病棟練習群18.2±13.8点、非実施群7.8±9.7点(p<0.01)、歩行速度変化は病棟練習群0.5±0.5m/sec、非実施群0.2±0.3m/sec(p<0.01)、退棟時FIMは病棟練習群99.1±22.4点、非実施群84.4±32.3点(p<0.05)、FIM変化は病棟練習群28.5±17.0点、非実施群15.4±13.6点(p<0.01)と、病棟練習群が非実施群に比して有意な改善を認めた。また、関連性の検討より、FIM変化はFBS変化(病棟練習群r=0.653、p<0.01、非実施群r=0.356、p<0.01)や歩行速度変化(病棟練習群r=0.531、p<0.01、非実施群r=0.267、p<0.05)と非実施群より病棟練習群にて相関係数が高くなっていた。

【考察】
病棟練習群では非実施群に比して有意にFIMが改善したことから、早期から実際の生活場面で患者一人ひとりの能力や生活スタイルにあった練習を提供することやそれらの練習頻度が増加することが、ADL動作の獲得に有効であることが示唆された。また、FBS、歩行速度においても病棟練習群で有意に改善を認めたことやFIM変化とFBSや歩行速度の変化に強い関連があったことから、病棟練習がバランスや歩行能力の向上に効果を及ぼすことが示唆された。一方、当院回復期リハ病棟では、非実施者への不利益がないよう極力多くの患者に病棟練習を実施するよう努力しているが、スタッフ数不足から全患者に実施出来ていない現状にある。今回の検討より病棟練習の効果が高かったことからも全患者に実施することが望ましく、今後は対象患者数の拡大について検討していく必要があると思われた。

【理学療法学研究としての意義】
本研究より、ADL向上に対する実際の生活場面での課題特異的な練習の有効性や重要性を示すことができる。

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top