理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-185
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ポスター発表(一般)
回復期リハビリテーション病棟における脳血管障害患者の転帰予測
佐々木 隆行前田 了俊阪中 陽介金屋 諒子前田 匡之湯森 直也尾藤 慈子冨上 寛之角谷 直彦長山 洋史
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抄録
【目的】回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)は平成22年度の診療報酬改定により入院料の算定要件が見直された。中でも重症患者の受入割合が1割5分から2割以上に引き上げられたことで、より効率的に機能を改善し自宅復帰につなげることが求められるようになった。そのため回復期病棟転入時より転帰先を見据えた支援が必要である。そこで、本研究では、脳血管障害患者(以下、CVA患者)を対象に転入時評価から転帰予測が可能であるかを検討することを目的とする。
【方法】対象は2009年3月から2010年4月までに当院回復期病棟から退院したCVA患者76名(平均年齢74.4±10.6歳)とした。再発や急変により転棟、転院した者は除外した。病型分類は、脳梗塞49名、脳出血24名、くも膜下出血3名であった。転帰先は自宅54名、施設22名であった。また、多変量解析を行うにあたり評価測定が困難で欠損値がある者は対象から除外した。最終的な解析対象者は69名(平均年齢74.9±10.3歳)であった。退院時FIM運動項目(以下、M-FIM)を従属変数とし年齢、性別、発症から回復期入棟までの日数、転入時M-FIM、転入時FIM認知項目(以下、C-FIM)、Mini Mental State Examination(以下、MMSE)、上肢Brunnstrom stage(以下、BRS)、手指BRS、下肢BRS、上肢表在感覚、上肢深部感覚、下肢表在感覚、下肢深部感覚、高次脳機能障害の有無の14項目を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を実施し回帰式モデルを作成した。なお、多重共線性を回避するため各独立変数間での相関を求め強い相関が存在する場合は一方を削除した。次に退院時M-FIMを用いたReceiver-Operation-Characteristic(以下、ROC)曲線を作成し、転帰先を分類するためのカットオフ値を検討した。統計解析はSPSS 16.0 for windowsを用い、有意水準5%未満とした。
【説明と同意】本研究を行うにあたり、対象者には事前にデータの取り扱いについて説明し同意を得た。得られたデータは匿名化し個人情報管理には十分注意を払った。
【結果】重回帰分析の結果、退院時M-FIMに影響を与える因子として転入時M-FIM(標準偏回帰係数β=0.67、p<0.01)と下肢BRS(β=0.212、p<0.01)、MMSE(β=0.159、p<0.01)、年齢(β=-0.114、p<0.01)が抽出された。回帰式モデルは退院時M-FIM=21.391+0.702×転入時M-FIM+3.469×下肢BRS+0.407×MMSE-0.265×年齢(自由度調整済みR2=0.911、P<0.01)であった。ROC曲線の結果より退院時M-FIMのカットオフ値は62点と判断した。感度81.5%、特異度95.5%、Area under the curve(以下、AUC)91.2%であった。
【考察】解析結果より退院時M-FIMに関与する因子として転入時M-FIM、下肢BRS、MMSE、年齢の4つの独立変数が抽出された。その中で転入時M-FIM、下肢BRS、MMSEは数値が高いほどプラス得点、年齢は高齢であるほどマイナス得点に反映される結果となった。得られた回帰式モデルは転入時の基本的な測定項目から予測値を算出することができる。また、適合度を表す寄与率も91.1%と高値であることから予測式として有効な指標と考える。次にROC曲線の結果よりカットオフ値を62点と判断した。このときのAUCは91.2%、感度81.5%、特異度95.5%といずれも高値でありCVA患者の転帰先を判別する基準値となりえると考える。以上より回復期転入時評価から退院時M-FIMの予測値を算出し、カットオフ値と照合することで、転入時に転帰予測が可能となる。これにより早期から予後を見据えた介入が可能となり退院に向けたアプローチが効率的に実施できると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】早期に転帰予測することは理学療法を実施するうえで大変有益である。今回得られた結果は比較的簡便な指標で予測可能なことから臨床で用いやすい。今後はより対象者数を増やし、本結果を頑健なものとしていくことが今後の課題である。
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© 2011 日本理学療法士協会
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