抄録
【目的】
当センターでは、運動が不器用な発達障害児に対して、東根が紹介するコーディネーショントレーニング(Co-Ordination Training:COT)をHome-exとして指導実施し、2009年にその効果について報告した。今回は、COTにチャイナステップなどを加えた課題を集団で指導し、実施できた群と実施できなかった群の運動能力の変化に違いがあるのか検討したので報告する。
【方法】
対象は独歩可能な発達障害児31名中、指導前後に運動面の評価が行えた13名(男児11名、女児2名)。平均年齢は8歳1.8か月±2歳。 診断名はPDD6名、CP4名、低出生体重児2名、ADHD1名。対象の内、Home-ex を実施できた7名(男児6名、女児1名)を実施群、実施できていなかった6名(男児5名、女児1名)を非実施群とし2群に分けて検討した。実施手順は、1)運動能力の評価、2)Home-exを集団で指導(COT10課題、チャイナステップ4課題、股関節のストレッチ2課題、体幹強化2課題、3)約4か月間Home-exを実施、4)運動能力の再評価。運動能力検査は、立ち幅跳び(cm)、開眼片足立ち(秒)、ステップテスト(秒)、台上旋回(平均台上で立位になり回転した回数)、ボール投げ(的当て30点満点)を実施した。統計学的分析は、対象の2群間に、年齢、人物画(IQ)、施行前の運動能力検査に差がないか、Mann-Whitney's U testで検定した。2群各々の、Home-ex前後の運動能力検査に変化があるのかWilcoxonの符号付順位検定を行った。いずれも、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象児と両親には、トレーニングの目的を事前に説明し、研究報告について文面で同意を得ている。
【結果】
Home-exは、一人平均(mean±SD)19.6±16.3日、261.6±219.7分行われた。2群間の能力差(mean±SD)は、台上旋回で実施群が3.6±1.1回、非実施群が5.5±1.2回で有意差があったが、年齢、人物画、その他の運動能力検査では有意差が認められなかった。Home-ex実施前後の運動能力検査の平均値(mean±SD)は、非実施群は全ての検査で有意差が認められなかった。実施群は、立ち幅跳びで76.1±27.6cmが92.3±17.8cm、ステップテストで47.9±23.3秒が35.4±13秒、台上旋回で3.6±1.1回が4.8±1.9回に有意に改善した。開眼片足立ちとボール投げは有意差が認められなかった。
【考察】
今回の対象の2群間には、年齢、身体像を含む知的面、台上旋回以外の運動能力に著明な差が認められなかった。したがって、実施群だけ運動能力検査に有意差が認められたことは、今回施行したHome-exが運動能力を向上させる一手段になったと考えられる。これは運動要素である、ジャンプ力、俊敏なステップ、立位における下半身の安定性などが向上したことが影響していると推測される。片足立ちについては、前回も変化がなかったことから、今回は課題の中に片足立ちを意識した練習を導入した。しかし、実施群には保持時間が5秒以下や30秒以上とレベルの違う児が混在していたが、全例に著明な変化が認められなかった。片足立ちの能力向上は、今回行った程度の練習では効果が得られないことが分かった。片足立ちは、前庭系、固有覚系、および視覚系が関与するといわれており、片足立ちが苦手な発達障害児にとって体育やスポーツで運動技能を学習していくのに影響すると考えられる。したがって、片足立ちに必要な能力を分析し、効果性を上げていくトレーニング方法を模索していく必要がある。ボール投げは、実施群に統計的な有意差は認められなかったが、7人中5人のスコアが向上し、平均(mean±SD)で3±2.4点が5.3±2.6点になり改善傾向はみられた。しかし、スコアが30点満点に対して非常に低値で、この子どもたちにとってボール運動は、上肢の動作だけでなく、空間認知や視知覚機能、集中力などの影響もあり、苦手な課題であることを再認識させられた。また今回、練習チャートに記載して熱心に取り組んだ子どもが7名であり、家庭で両親と一緒にトレーニングに取り組んでいく工夫や、導入方法を今後考えていく必要性を感じた。
【理学療法学研究としての意義】
発達障害児の不器用さは、麻痺などによる運動機能の制約だけでなく、感覚・知覚・認知の問題など様々な要因から生じている。今回、発達障害児に対してCOTなどのHome-ex を実施し運動能力が向上したことは、発達障害児に対する理学療法の一方向性を示唆したと思われる。