理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-143
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ポスター発表(一般)
脳卒中片麻痺者に対する部分免荷トレッドミル歩行練習の難易度の検討
武井 圭一國澤 洋介藪崎 純松本 孝彦國澤 佳恵高倉 保幸下松 智哉山本 満
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抄録
【目的】部分免荷トレッドミル歩行練習(以下、BWSTT)は、免荷装置を用いることにより歩行の難易度を低くした状態で歩けることが利点として注目されやすい。そのため、臨床ではBWSTTの適応を判断する指標として、平地より長く歩ける、楽に歩けるということが重要視される。しかし、脳卒中片麻痺者がトレッドミル上を歩行するという点では、他者が規定した速度で、かつ一定速度で動く接地面に歩調を合わせる課題を付加するため、BWSTTは一概に平地歩行より難易度が低いとはいえない。本研究の目的は、歩行距離や歩行練習の主観的な難易度からみた、脳卒中片麻痺者に対する歩行練習としてのBWSTTの位置付けを明確にすることである。
【方法】対象は、当院入院中の初回発作の脳卒中片麻痺患者で、介助なく平地歩行が可能な者23名(平均年齢58±10歳、平均発症後日数18±9日)とした。歩行練習は、免荷量を体重の20%としたBWSTT、免荷装置なしでのトレッドミル歩行練習(TOT)、12m歩行路での平地歩行練習(TOF)とし、1日ごとに実施した。練習時間は全て5分間を2セット、歩行速度は最大速度とした。測定項目は、歩行距離と、歩行練習の運動強度・難易度に関する主観的評価とした。運動強度は、Borgスケール、「このまま歩き続けたら、あと何分歩けますか」と継続可能な練習時間について全ての練習直後に調査した。継続可能な練習時間の結果は、0-5分、5分以上を上限とした0-6の7段階に数値化した。難易度としては、「この練習は、床の上を歩く練習と比べて歩きやすい、または歩きにくいですか」とBWSTT・TOTの直後に調査した。難易度の結果は、「歩きやすい・歩きにくい・変わらない」の3分類として集計した。統計解析にはSPSS Ver.17.0を用い、反復測定による分散分析およびFriedman検定、多重比較検定を用いた。有意水準は5%とした。
【説明と同意】対象者には、事前に本研究の主旨を説明して同意書への署名をもって同意を得た。尚、本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】歩行距離(平均±標準偏差)の結果、BWSTTは206±87m、TOTは180±80m、TOFは215±116mであった。反復測定の結果から3群間に有意差を認め、多重比較ではTOTとBWSTT、TOTとTOF間にのみ有意差を認めた。主観的評価の結果、Borgスケールは3群ともに中央値が13であり、統計学的有意差を認めなかった。継続可能な練習時間の中央値(25%値・75%値)は、BWSTTが5(2・6)分、TOTが4(2・5)分、TOFが5(3・6)分であった。Friedman検定の結果から3群間に有意差を認め、多重比較ではTOTとTOF間にのみ有意差を認めた。歩行練習の難易度(TOT・BWSTTの順に記載)は、歩きやすいが30%・48%、歩きにくいが61%・48%、変わらないが9%・4%であった。
【考察】BWSTTは、TOFと比較して難易度が低いとはいえないが、TOTと比較して難易度の低い練習方法であると考えられた。また、TOTとTOFの比較では、TOTはTOFよりも難易度の高い歩行練習であると考えられた。このことは、左右非対称の歩行パターンになる片麻痺者がトレッドミルでは一定速度で動く接地面に歩調を合わせる課題を付加することや、平地と同じ速度であってもトレッドミルの方が高速度に感じるという特徴が影響したと考えられた。トレッドミルでの歩行は、平地よりも左右対称な歩行パターンを促すことが報告され、脳卒中ガイドラインでは「行うよう勧められる」として推奨されており、難易度が高くても歩行改善の効果が期待される。以上のことから、脳卒中片麻痺者へのBWSTTの適用を評価する上で、トレッドミルの効果に着目して平地よりも難易度の高いトレッドミルに適応しやすい練習方法という視点が重要であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】BWSTTは、免荷装置を用いることで平地歩行よりも難易度を低くする目的で適用される傾向にある。その中で、本研究ではトレッドミルにより歩行改善の効果が期待されながらも難易度の高い練習であるためにトレッドミル歩行を適用できなかった症例に対しても、BWSTTが適応になるという視点を示した。このことは、BWSTTの適応を判断するのに役立つものである。
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© 2011 日本理学療法士協会
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