理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-155
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ポスター発表(一般)
top of the basilar artery syndromeにより,児戯的症状を出現した症例のリハビリテーション
兵頭 久倉田 考徳
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抄録

【目的】top of the basilar artery syndrome(以下、脳底動脈先端症候群)は、文献的な報告は驚くほど少なく、その症状・リハビリについて報告した事例は国内でほとんどない。脳底動脈は、橋の腹側面を上行し、その上縁で2本の後大脳動脈に分かれる。また、同血管は、前下小脳動脈を分枝し、小脳の下面、ならびに延髄と橋の外側部を給血している。
その広範な給血流領域から症状は多岐に渡り、重篤な症状を呈すことが予想される。そのような背景もあり、文献等による報告例が少なくないと考える。今回、過去の報告にあるAgitated Deliriumとは異なる、児戯的な症状を呈した脳底動脈先端症候群の発症後のリハビリについて報告する。


【方法】本症例は、45歳男性 初回の小脳梗塞では、運動機能に著しい障害はみられず、発症後1週間程度は強い嘔気・幻暈が主な症状として観察された。タンデム歩行ではフラツキを認めるものの、病棟内歩行は自立しており、早期自宅退院・復職が期待できた。(再梗塞後の症状)小脳梗塞後8日目に中脳視床症候群を発症した。前下小脳動脈領域の給血が損なわれた影響により、小脳梗塞が増大。右上下肢・体幹、舌に軽度のAtaxia症状や小脳性の幻暈と思われる症状が出現した。(皮質盲)後大脳動脈の給血領域である視覚皮質の虚血により両眼ともに皮質盲となった。(精神的退行)話し方や語彙などが、幼稚になり、感情のコントロールが不安定で、幼児のように感情を爆発させるような泣き方にまで至ることが多々あった。
(リハビリ内容)脳底動脈先端症候群発症後は、児戯的な言動がリハビリテーションの実施を阻害した。病前の症例は、子煩悩な性格であった。子供との面会を通じて父としての自覚を再認識し前向きに行動することを期待し、感情のコントロールがつくのを待って段階的に面会を行った
以前に比べ、右側上下肢、体幹部に失調が強く出現。視覚障害の影響で外界を認識できなくなり、その恐怖感から、ベッド上で寝返りを打つ事も困難になった。
まず、視覚代償の獲得を目指し周辺動作の自立、成功体験の獲得を目指した。接触や音などから物質の性質(素材感、重量感、硬質感etc)を識別させ、接触などの感覚から周辺の探索活動を促した。

【説明と同意】患者・家族にリハビリテーションの目的を説明し同意を得て介入した。

【結果】学習能力は保持されている様で、音・接触などの感覚情報、経験などの記憶情報を頼りに寝返り、移乗動作、トイレ動作の習熟を認めた。歩行は、平行棒など、接触刺激による手掛かりがある状況であれば軽介助~監視で歩行が可能なレベルとなっている。
視覚は光覚弁程度で指数弁まではいかない。
精神的な症状においても、動作の獲得が進むことで感情を爆発させて泣く様な場面は減少していったが、幼稚な表現や話し方は、発症後1年の経過を迎えようとしている現時点でも残存している。


【考察】脳底動脈先端部からは、塞栓性閉塞により後大脳動脈の潅流である中脳、視床、側頭葉、後頭葉の虚血をきたし、運動障害や小脳失調のみでなく多彩な症状を呈したものと考える。脳底動脈先端症候群では、同時に両側の後大脳動脈領域の梗塞を起こす事があるのが特徴の一つとされている。本症例はその特徴的な症状を呈したため両側の皮質盲となった。
同時に両側の後大脳動脈を梗塞した結果、皮質盲と失調症状を呈した。過去の文献で報告にない精神的退行現象については、(1)失明した影響による、恐怖感から、身体機能的に遂行可能な動作が行えなくなり、自信を喪失し、依存的な精神状態となった、(2)文献で報告があるAgitated Deliriumの周辺症状。(3)橋腹側部から前頭葉に投射している神経線維の影響。を考えた。


【理学療法学研究としての意義】脳底動脈先端症候群は臨床的に非常に稀な病気で、その血流領域から、存命率は低く、症状も非常に重篤化し積極的なリハビリテーションの対象となることは少ない症例と思われる。今回、脳底動脈先端症候群の児戯的な言動を伴う症例を担当し、症状の把握、リハビリテーションを実施する機会を得、ADL改善の糸口を掴む事ができた。今後の同様な症状を伴う脳底動脈先端症候群のリハビリをするうえでの参考に成れば大変嬉しく思う。

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© 2011 日本理学療法士協会
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