理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-162
会議情報

ポスター発表(一般)
ホモシスチン尿症から下肢末梢神経障害と白質脳症を発症し痙性対麻痺を呈した一症例
播井 宏充緒方 政美春藤 健支佐藤 友里
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
ホモシスチン尿症は, 新生児マススクリーニングにより,先天性代謝異常症として発見され,出生約100万人に1人の常染色体劣性遺伝として発症する疾患である.本症例は,基礎疾患としてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(以下MTHFR)欠損症を有していたが,成人まで無症状であった.しかし,初発の痙攀発作での抗痙攀薬使用によりフェニトイン中毒となり,MTHFR欠損症の増悪で成人では稀なホモシスチン尿症を発症し,両下肢末梢神経障害や白質脳症による痙性対麻痺や高次脳機能障害を呈した.今回,稀な疾患で予後予測は困難であるが,理学療法介入で杖歩行自立となった経過を報告する.
【症例】
20代男性,身長171.3cm,体重59kg,BMI20.3,既往歴:小児喘息,右眼の斜視の手術.発達・発育には問題なく発症前ADL自立.現病歴:6月痙攀発作あり,フェニトイン内服開始,同年9月両下腿の末梢神経障害発症,ギランバレー症候群が疑われ外来理学療法を実施.その後,両足関節背屈困難で両ロフストランド杖と両側S−SHBを使用し屋外歩行自立となる.
翌年3月てんかん発作を繰り返し治療効果が不十分でフェニトイン増量,5月中旬からフェニトイン中毒様症状出現,6月歩行・視力障害出現,その後,起き上がりも困難となり当院神経内科へ入院.血中ホモシステイン増加, 葉酸,メチオニン低下など,ホモシスチン尿症によるアミノ酸代謝異常を発見,その後の遺伝子検査でMTHFR欠損症と診断.
【経過】
入院後10日目で理学療法開始,上肢麻痺なく,下部体幹~股関節周囲低緊張,痙性対麻痺重度で随意的な下肢分離運動は可能だが,痙性により両側ハムストリングス・下腿三頭筋が同時に筋緊張亢進し,動作を阻害していた.筋緊張はAshworth scale(以下AS)で両側股関節屈曲2,膝関節伸展3,足関節背屈3,感覚障害なし,精神症状(退行,多弁,病識低下,車椅子動作等混乱あり),Barthel index(以下BI)70点(減点項目:歩行,階段,入浴,車椅子移乗).車椅子移乗は軽介助,体幹の麻痺により端坐位保持には両上肢の支持が必要であった.立ち上がり,立位姿勢保持困難.両ロフストランド杖歩行は,入院前使用していた両側S-SHBでは足部の躓きあり歩行困難であった.理学療法は,痙性による筋緊張の抑制・体幹深層筋への姿勢反応促通・抗重力位での下肢荷重練習を主に治療を実施した.入院15日目,葉酸補充療法開始,高次脳機能障害と痙性対麻痺改善傾向を示す.易疲労あるが,四つ這い移動や交互式歩行器での歩行10m可能となる.入院45日日ベタイン内服開始後,血中総ホモシステイン低下.歩行は両ロフストランド杖とSHB使用で可能となるが,体幹支持性低下により骨盤前傾し,歩行耐久性低い状態であった.入院103日目外泊時,段差昇降や入浴動作困難であったが屋内ロフストランド杖使用し自立.歩行耐久性は,両ロフストランド杖とSHB使用し30m見守りで歩行可能となる.
【説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿った報告であり,本発表についてご本人とご家族へ説明し同意を得た.
【結果】
入院139日目,精神症状改善,下部体幹~股関節周囲の支持性改善により座位姿勢安定し,車椅子移乗時下肢の挙上や両ロフストランド杖歩行時の体幹姿勢改善した.痙性対麻痺は臥位で筋緊張軽減し,片側下肢随意運動時に各関節の分離運動が可能となった.しかし,立位や歩行時の下肢筋緊張亢進は残存,ASでは両股関節屈曲2,膝関節伸展3,足関節背屈3とグレードに変化を認めなかった.BIは85点(減点項目:歩行,階段)で院内歩行器自立となり,入院前のS-SHBを使用し両ロフストランド杖歩行100m可能となり耐久性も向上した.外泊時は,段差昇降に介助必要だが屋内ロフストランド杖とS-SHB使用し自立となった.
【考察】
本症例は,葉酸やベタイン内服により白質脳症の改善がみられ,さらに理学療法介入により,両下肢筋緊張軽減,体幹下部~股関節周囲の支持性向上し,座位姿勢改善,屋内両ロフストランド杖歩行自立したと思われる.しかし,下部体幹の支持性不足や両下肢痙性による膝関節過伸展での歩容は残存,上肢支持なしでの立ち上がりは困難,段差昇降時に介助が必要で今後も理学療法介入は必要である.
【理学療法学研究としての意義】
成人発症するホモシスチン尿症は稀であり,本症例の様な下肢末梢神経障害と白質脳症による痙性対麻痺を呈した患者への理学療法の介入と歩行自立へと至った経過報告.

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top