理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-182
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ポスター発表(一般)
当院脳腫瘍入院患者における自宅退院に影響する因子
並木 優子佐藤 亜香里神谷 健太郎岩松 秀樹佐々木 秀一川端 良治
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キーワード: 脳腫瘍, 転帰, 退院支援
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抄録
【目的】
脳腫瘍患者の転帰先は、病態、追加治療の有無、身体機能、家族の介護力など様々な要素を考慮し決定されている。脳腫瘍の種類によっては、生命予後の不良な疾患もあり、在宅での療養を希望する患者および家族に対しては入院早期から退院支援が必要である。
本研究は、脳腫瘍入院患者における自宅退院の可否に影響する因子を明らかにすることを目的とし、後方視的調査を行ったので報告する。
【方法】
対象は、平成21年4月から平成22年3月までに当院脳神経外科病棟に入院し、リハビリテーション依頼のあった症例78例のうち、死亡退院10例を除く68例(男性35例、女性33例)である。対象症例の平均年齢は58.5±15.0歳であった。診断の内訳は、神経膠腫28例、髄膜腫10例、悪性リンパ腫10例、転移性脳腫瘍10例、その他10例であった。
調査項目は、転帰先(自宅=0,自宅以外=1)、年齢、性別、治療内容(手術・放射線療法・化学療法の有無)、入院の原因(手術・放射線療法・化学療法目的、その他)、過去の入院回数、入院時の転倒アセスメントスコア、運動麻痺の有無、高次脳機能障害の有無、退院時のmodified Rankin Scale(以下mRS)、同居家族の人数を後方視的に診療録より調査した。退院支援が必要な症例を早期にスクリーニングする指標として、長野らが開発した退院支援スコアを用いて評価した(文献)。退院支援スコアは、年齢、入院のきっかけとなった主疾患、入院時の歩行と排泄に関するADL、認知機能障害の有無、家族の介護力、介護保険の申請状況、退院後に予測される医療処置の評価を含んだ指標である。統計解析にはSPSS11.0Jを用い、Spearmanの順位相関係数ならびに変数減少法によるロジスティック回帰分析を用いて相関係数並びにオッズ比(OR)並びにORの信頼区間(CI)を算出した。いずれの検定も危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】
入院時の同意書の範囲で個人が特定できないように配慮し、後方視的に診療録からの調査を行った。
【結果】
対象とした脳腫瘍患者の転帰先は、自宅退院が44例(64.7%)、回復期7例(10.3%)、療養型施設17例(25.0%)であり、当院における平均在院日数は40.6±38.8日であった。脳腫瘍患者において自宅復帰が困難な患者の要因として、mRSが高い(r=0.730)、入院時の排泄ADLが不良(r=0.519)、退院支援スコアが不良(r=0.490)、転倒スコアが高い(r=0.378)、高次脳機能障害を有する(r=0.364)、全身状態の悪化による入院である(r=0.360)、入院時の歩行ADLが不良(r=0.322)、認知症を有する(r=0.294)、介護力の不足(r=0.283)、入退院の回数が多い(r=0.231)が有意な因子であった(P<0.05)。
相関係数の絶対値が0.3以上の変数を用いてロジスティック回帰分析を行ったところ、全身状態の悪化による入院である(OR=344.2, CI:1.4-82897.5, P=0.04)、高次脳機能障害を有する(OR=18.0, CI:2.6-123.7, P<0.01)、mRSが高い(OR=7.9, CI:2.3-26.5,P<0.01)であった。本モデルによる転帰先の適中率は、87.0%と極めて良好であった。
【考察】
本研究の結果、転帰に影響する因子は、「全身状態の悪化による入院」、「高次脳機能障害を有する」、「ADL が低い」であることが分かった。全身状態の悪化を理由とした症例では、脳腫瘍の増大による痙攣の出現、意識レベルの低下、摂食不良などの症状による入院であった。腫瘍の部位によっては、治療後に運動麻痺および高次脳機能障害を呈し、ADLに介助を必要とする場合がある。そのため、「高次脳機能障害を有すること」、「ADLが低い」ことが自宅退院の可否に影響する因子となったと考える。
脳腫瘍は進行性の疾患であり、自宅退院後も追加治療や再発などによる入退院を繰り返す症例も多い。再入院では、入院時から歩行・排泄ADLの不良な症例や認知症を有する症例、介護力不足の家族など状況は様々である。また、再入院による入院回数の増加は、家族の負担となる可能性もある。しかし、障害の重症度に関わらず在宅での療養を希望する家族は多いため、入院早期から自宅退院の可否を検討し、円滑な退院支援を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は、自宅退院に影響する因子について調査した。入院早期から自宅退院の可否を予測することが可能であり、また、転院となっていた症例でも早期から退院支援を行うことで自宅退院へと導けるのではないかと考える。
今後は、自宅退院例の家族の介護力、本人および家族の満足度に貢献できたか等の詳細を調査する必要もあり、それらの基盤にもなる研究であると思われる。
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© 2011 日本理学療法士協会
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