理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-039
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口述発表(特別・フリーセッション)
脳卒中後片麻痺者における内側腓腹筋の構造学的特徴について
澁田 紗央理大畑 光司泉 圭輔古谷 槇子北谷 亮輔
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抄録

【目的】
脳卒中後片麻痺患者では、中枢神経系の損傷により、軟部組織の拘縮と筋の過剰な活動が生じることが知られている。代表的な筋の過剰な活動として、痙性麻痺による伸張反射の亢進が挙げられる。伸張反射とは筋が伸張されることにより生じる反応であり、よって筋の短縮が生じると、少しの伸張力であっても筋紡錘は伸張されやすくなり、その結果伸張反射が生じやすくなるとされる(Jean-Michel ,2005)。このように、痙性は筋の構造学的特徴の影響を受ける可能性があるが、実際の痙性の発症メカニズムやその要因となり得る筋の構造学的特徴については未だ明らかになっていない。そこで本研究では、足関節角度変化に伴う内側腓腹筋の構造学的変化について、超音波診断装置を用いて可視的かつ非侵襲的に定量的評価を行い、痙性筋の構造学的特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は発症後6ヶ月以上、地域在住の脳卒中後片麻痺患者14名(発症後4.6±4.0年、右麻痺4名、左麻痺10名、Brunnstrom StageII~VI、男性9名、女性5名、平均年齢48.9±15.1歳、身長166.2±7.4cm、体重58.2±6.1kg)とした。GE 横河Medical System社製 超音波診断装置LOGIQ eを用い、内側腓腹筋を測定した。測定肢位は腹臥位で膝関節伸展0°とし、Liner Probeを膝関節内側裂隙と内果の近位1/3から外側3cmの部位に設置し、内側腓腹筋を撮影した。得られた画像から、内側腓腹筋の筋厚および羽状角を計測し計算式を用いて筋線維長を算出した。測定条件は、足関節最大他動背屈位、足関節0°、安静位の3条件とし、ゴニオメーターを用いて各条件における足関節角度を確認した。統計解析は、測定肢位と麻痺側-非麻痺側の羽状角および筋線維長の変化について、反復測定二元配置分散分析を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
本研究は本学医の倫理委員会の承認を受け、説明を行った後、文書にて同意を得た。
【結果】
対象者の足関節角度は最大背屈位において麻痺側9.7±6.0°,非麻痺側18.9±5.9°であり、有意な差を認めた(p<0.01)。安静時においては麻痺側25.7±5.5°,非麻痺側24.7±5.0°であり、有意な差は認められなかった。内側腓腹筋の羽状角は、麻痺側と非麻痺側で有意な差があり(p<0.01)、足関節角度による変化が認められた(p<0.01)。多重比較の結果、非麻痺側ではすべての足関節条件で有意な差が認められた(p<0.01)。麻痺側では、足関節安静位から足関節0°位においては差が認められたが(p<0.05)、足関節0°位から最大背屈位においては差が認められなかった。一方、筋線維長に関しては、麻痺側と非麻痺側で差はなく、足関節角度による有意な変化が認められた(p<0.01)。
【考察】
足関節安静位から最大背屈位までの足関節角度変化に伴い、筋線維長は伸張され続けるにも関わらず、羽状角は足関節角度0°以降の背屈運動で変化が見られなくなった。これは麻痺側の下腿三頭筋では、安静時から足関節0°位までの背屈運動では羽状角の低下を伴い筋線維が伸張されるが、足関節0°位から最大背屈位の間では、羽状角は変化し得なくなり、羽状角の変化を伴わずに筋線維が伸張されるという動態を呈することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中後片麻痺者の日常生活機能に関与するとされている痙性について理解を深めることは、片麻痺者の病態の理解や理学療法の治療の発展に重要な役割を果たすと考えられる。今後、片麻痺者における筋の構造学的特徴と痙性および運動機能との関係についてさらなる検討が必要であると考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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