理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OS3-028
会議情報

専門領域別口述発表
脳卒中片麻痺患者の筋量,筋機能および運動能力の縦断的調査
藤田 俊文岩田 学福田 道隆池田 稔
著者情報
キーワード: 筋量, 筋パワー, 脚伸展筋力
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】脳卒中患者の体力測定において、筋力や持久力は研究対象として頻繁にとりあげられる要素であるが、これらの機能を発揮するためには、より基本となる体格や身体組成を知ることも重要である。特に筋量は筋力や筋パワーといった筋機能に大きく影響を与えると推測され、これらの関連性を明らかにする意義は大きいと考える。これまでに我々は脳卒中片麻痺患者を対象とした修正版ウインゲート無酸素性テスト(以下、m-WAnT)を開発し、筋パワー測定の実行可能性・信頼性・妥当性を確認してきた。また、筋量と脚伸展筋力や筋パワーといった筋機能との関連性について横断的に調査してきた。今回は、脳卒中片麻痺患者の筋量と筋機能および運動能力との関連性を縦断的に調査することを目的とした。
【方法】対象は入院中の脳卒中片麻痺患者21名(男18名、女3名)で、平均年齢は57.1±9.6歳であった。内訳としては、脳梗塞9名、脳出血11名、くも膜下出血1名で、麻痺側は右11名、左10名であった。筋量測定は、セグメンタル生体電気インピーダンス法(S-BIA法)による筋量測定装置(Physion MD、フィジオン社製)を使用し、麻痺側・非麻痺側の大腿部筋量、下腿部筋量、下肢筋量(大腿部と下腿部の合計)を体重で除した値(筋量/WB)を算出した。脚伸展筋力と筋パワー測定は、リカンベント型エルゴメータ(ストレングスエルゴ240、三菱電気エンジニアリング社製)を使用した。脚伸展筋力測定は等速性運動(ペダル回転速度50rpm、5回転)で脚伸展最大トルク(LEPT)を測定し、麻痺側・非麻痺側下肢それぞれの5回転中の最大値を算出した。その上で麻痺側と非麻痺側のLEPTを各下肢筋量(LEM)で除した値(LEPT/LEM)を算出した。筋パワー測定は先行研究をもとにm-WAnTを実施した。麻痺側・非麻痺側LEMTを用いて負荷量を設定し、最大努力にて9秒間(0~6秒はランプ負荷、6~9秒は定常負荷)のペダリング動作をおこない、6~9秒の3秒間の平均パワー(MP)を算出した。さらに、筋パワーにおいてもMPを麻痺側と非麻痺側下肢の合計筋量(TLEM)で除した値(MP/TLEM)を算出した。運動能力として、5回反復起立する際の所要時間(5回起立時間)と10m最大歩行所要時間(10m歩行時間)を測定し、各テスト3回測定した最速値を使用した。各項目の測定は、初回測定時から1ヶ月後に2回目の測定を行った。各測定項目の初回測定時と2回目測定時の差を対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付順位検定を用いて検証した。また、LEPT/LEM、MP/TLEM、5回起立時間、10m歩行時間については、初回測定時から2回目測定時の改善率を算出し、それぞれの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検証した。なお、有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究は弘前大学医学部倫理委員会の承認および協力施設の倫理委員会の承認と、対象者に研究の趣旨と内容について十分説明し同意を得た上で行った。
【結果】麻痺側大腿部筋量/WB(p<0.05)、麻痺側下肢筋量/WB(p<0.05)、非麻痺側下肢筋量/BW(p<0.05)、両側LEPT/LEM(p<0.01)、MP/TLEM(p<0.01)、5回起立時間(p<0.01)、10m歩行時間(p<0.01)において有意な差がみられた。また、非麻痺側大腿部筋量/WBにおいて有意差は見られないものの改善傾向を認めた(p=0.07)。各項目の改善率の関連性については、MP/TLEMと5回起立時間において有意な相関関係がみられた(rs=0.47、p<0.05)。
【考察】先行研究では脳卒中発症後の廃用性筋萎縮は筋機能や運動能力に大きく影響しており、特に麻痺側および非麻痺側とも大腿部筋量の影響が大きいことが明らかになっている。今回は縦断的に筋量の変化について調査した結果、部分別に見ると麻痺側大腿部筋量の改善がみられ、非麻痺側大腿部筋量についても改善傾向が見られたことより、脳卒中患者のリハビリテーションにおいて筋量の増加がみられていることが明らかになった。さらに、脚伸展筋力および筋パワーにおいては単位筋量あたりの筋力と筋パワーを算出し、結果として2回目測定時で有意に改善していたが、これは生理的に機能している運動単位が増加したことを示唆していると考える。また、筋パワーと5回起立時間で有意な相関関係を認めており、5回起立時間は筋パワーをより反映しているパフォーマンステストであると捉えることができる。本研究より、早期より筋萎縮予防・改善を図ること、さらには筋力や筋パワーに注目した運動療法を実施することが重要であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者の体力を包括的に捉える上で、筋量・筋力・筋パワー測定は臨床上意義が高く、さらに筋量、筋機能、運動能力の関連性を明らかにできたことは脳卒中リハビリテーションにおいて意義は大きいと考える。

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top