抄録
【目的】
上腕骨後捻角を知ることは、肩のアライメント評価や可動域評価を行う際、ひとつの指標として役立つ。これまで、上腕骨後捻角の測定にはCT画像・X線画像・超音波を用いた方法等が数多く報告されている。しかし、理学療法士が臨床上すぐに活用できるものは少ない。そこで我々は、上腕骨後捻角と一定の関係を持つとされている超音波による上腕骨頭捻れ角の測定方法をもとに、体表から上腕骨頭捻じれ角の測定を行い、その信頼性と妥当性の検討を行なうこととし以下の実験を行った。
【方法】
対象は肩に既往のない健常成人15名(男性7名 女性8名)平均年齢30.3±9.7歳とした。測定はItoらによる上腕骨頭捻じれ角測定の変法を用いて、体表からの測定(以下、体表測定)と超音波での測定(以下、超音波測定)を行った。
体表測定は被験者を背臥位とし肩関節外転0°肘関節屈曲90°前腕回内外中間位にて行ない、結節間溝が床面に対し真上に向いた位置を確認した。肘頭を通る垂線と、尺骨茎状突起と肘頭を結んだ線のなす角度を上腕骨頭捻じれ角とし、水準計(EBISU社製)にて測定した。測定は検査者内信頼性を見るために各被験者に対し同一検査者が3回ずつ行なった。
超音波測定(ALOKA社製7.5MHz)は当院整形外科医師が行った。方法は、被検者を背臥位とし肩関節外転0°肘関節屈曲90°前腕回内外中間位にて行った。結節間溝の測定場所は体表測定であらかじめマーキングした場所とした。プローブには水準計を取り付け、床面に対し平行かつ上腕骨長軸に対して垂直になるよう設置した。モニター上で結節間溝が真上となる位置を確認し、肘頭を通る垂線と、尺骨茎状突起と肘頭を結んだ線のなす角度を上腕骨頭捻じれ角とし水準計にて測定した。
得られたデータより、体表測定と超音波測定それぞれの検査者内信頼性を級内相関係数(以下、ICC)にて検討した。また、体表測定と超音波測定で得られた値の一致度をICCで求め妥当性を検討した。
【説明と同意】
対象者に対し、本研究の概要と目的を説明した後、研究参加に伴う利益および不利益、研究に関わる個人情報の保護等について説明し同意を得た。
また、超音波使用時には当院整形外科医師に協力を得て医師により測定を行った。
【結果】
上腕骨捻れ角の平均値は体表測定14.5±12.5°、超音波測定14.6±15.5°であった。検査者内信頼性は体表測定ICC=0.95、超音波測定ICC=0.94であり、共に高い値を示した。体表測定と超音波測定によるICCは0.74であった。
【考察】
今回の研究では、上腕骨頭の捻じれ角を測定している。佐々木らによると、結節間溝が真上を向いた位置で床面との垂線と前腕長軸のなす角度を測り、垂線に対し前腕長軸が内側に向けば、後捻角は増大すると述べている。そのため、おおまかではあるが後捻角の大小は確認できると考えられる。
今回我々は臨床上、簡便に後捻角を測定する方法として体表から上腕骨頭捻れ角を測定した。その結果、検査者内信頼性は高い値を示し、同一検査者による測定において再現性があることが確認された。また、超音波測定との結果の比較により、体表測定は超音波測定と中程度の一致度を示し、上腕骨頭捻れ角の測定に対応できると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
上腕骨後捻角は画像測定や超音波測定などを行なう必要があり、臨床上即時的に評価することは難しい。本研究による体表測定は多少の経験は必要になるものの簡便であり特別な器具を使用しなくとも測定可能である。
しかし、今回の研究は上腕骨頭捻じれ角を測定しており、上腕骨後捻角を直接測定したものではない。現段階では超音波測定による間接的な評価方法とCT画像・X線画像などの直接的な評価方法との比較はされていない。今後、超音波測定とCT画像・X線画像による測定の関係が明らかにされれば、今回行った体表測定を利用し後捻角を推定できると考えられる。