理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-249
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ポスター発表(一般)
先天性斜頸に対する保存的理学療法効果の検討
上肢帯交差症候群による頭部前方変位に着目して
三村 真士南田 義孝藤川 智広真鍋 健史山田 英司
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抄録

【目的】
今回先天性斜頸と変形性顎関節症を呈し、顎関節機能再建術施行までの期間に、斜頸による二次的な機能障害に対する保存療法を実施する症例を担当した。開口範囲制限と姿勢性疼痛の症状より上肢帯交差症候群(Upper Crossed Syndrome:以下UCS)と判断し、その特徴である頭部前方位に着目し、理学療法を施行した結果、開口範囲の拡大と姿勢性疼痛の減少が図れたので報告する。
【方法】
症例は、X-P撮影にて変形性顎関節症と斜頸と診断された17歳女性。斜頸の進行予防と姿勢性疼痛の緩和、摂食機能改善目的に当院紹介され、顎関節機能再建術までの期間、顔面と頸部の筋の柔軟性改善と筋力強化目的にて外来理学療法開始した。変形性顎関節症・斜頸共に過去に自覚症状は出現していなかった。初期評価時、MMTは両側舌骨上・下筋・僧帽筋中部・下部繊維・大・小菱形筋・前鋸筋・腹斜筋群2、その他は4であり、筋萎縮が認められたが左右差はなかった。咬筋、側頭筋も筋萎縮を認め、疼痛と筋力低下により肉が噛み切れない状態であった。関節可動域は、頸椎左回旋45°、体幹右回旋20°、体幹左側屈25°、顎関節開口2.7cm、左右偏位は共に0.5cmと制限があり、開口時に下顎関節突起が前方移動せず、不規則に左顎関節部にクリック音を認めた。疼痛は、圧痛検査(NRS)にて評価した。両側の後頭下筋群・胸鎖乳突筋・僧帽筋上部繊維・肩甲挙筋・内・外側翼突筋でNRS8点であり、短縮も認めた。主訴として、両側性の肩と腰の不規則な疼痛であり、左右差は認めなかった。姿勢アライメントは、矢状面上では頭部前方位となっており、体軸と頭部軸のズレを認めた。前額面上では、頸椎右側屈・右回旋、頭部左偏位、左肩拳上、右肩下制、左右の翼状肩甲傾向、腰椎左凸の側弯を呈しており、骨盤帯から上部体幹は右側へ四辺形移動を呈していた。
【説明と同意】
本症例には事前に症例報告に関する説明を行い、同意を得た。
【結果】
上記より手術にて顎関節機能の再建を図り、術前理学療法にて斜頸の進行予防と顔面筋の機能再建、姿勢性疼痛の緩和することを目標とした。理学療法プログラムとして、短縮筋へのダイレクトストレッチ、自動介助での頭部屈曲及び顎関節運動、萎縮筋に対する筋力強化と頭頸部中間位での筋再学習練習、頭部から長軸方向への軸圧負荷練習、自主練習指導を行った。理学療法介入初期は、歯列矯正の為の親不知抜歯による腫脹の為、顔面筋に対するダイレクトストレッチと筋力強化は実施できなかった。腫脹が改善した3週目より顔面筋に対するダイレクトストレッチと筋力強化練習を開始し、5週目には内・外側翼突筋のNRS4点、左顎関節運動時のクリック音発生頻度は減弱していた。7週目には開口運動は3.4cmまで改善し、肉の摂食も可能となった。上記に加え、軸圧負荷練習と萎縮筋への筋力強化・筋再学習練習を行うことで、圧痛は全ての筋にてNRS8から3へと減弱し、萎縮筋全てMMT3レベルに向上した。治療後の関節可動域は変化しなかったが、姿勢では体幹の四辺形移動は改善し、頭部が正中位方向へと変位した。今後、歯列の矯正終了後に顎関節固定術を施行予定である。
【考察】
UCSとは、Jandaにより報告されており、僧帽筋上部、肩甲挙筋、大胸筋の硬化と頸部深部屈筋や肩甲骨下部安定筋の抑制を起こし、抑制筋と硬化筋を結ぶと十字で表され、特異的な姿勢として肩拳上と翼状肩甲、頭部前方位を呈するとしている。本症例も萎縮筋と短縮筋の部位、肩拳上と翼状肩甲傾向、頭部前方位の状態、抑制筋と硬化筋の症状を総合的に判断し、UCSの状態であると考えた。
Dasらは、先天性斜頸の外科的手術として胸鎖乳突筋胸骨頭・鎖骨頭の切離にて改善を認めると報告しており、Daentzer らは、胸鎖乳突筋切離にて改善しなかった場合、深筋膜層切離と頸椎回旋位固定を併用すると筋性斜頸の改善を認めたと報告している。またChonらは、Myokineticストレッチを行うことで胸鎖乳突筋の筋厚の大幅な改善を認め、動きと頭の連動性が改善したと報告している。本症例も、胸鎖乳突筋や斜角筋のストレッチと併用して萎縮筋への筋力強化と筋再学習練習を行うことでUCSが改善され、頭部が支持基底面内に帰結し、疼痛が減弱し筋出力が向上したのではないかと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
これまで斜頸に対する外科的手術の報告は多いが、成人症例の保存治療に関する報告は少ない。成人期の斜頸に対する理学療法にて、斜頸そのもののアライメント改善は難しいが、姿勢の改善や姿勢性疼痛の回避、摂食機能改善の可能性が示唆された。

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© 2011 日本理学療法士協会
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