理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-289
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ポスター発表(一般)
連続歩行時の足圧中心軌跡からみた足関節不安定性評価の試み
樋田 麻依尾身 三奈長谷部 聡子徳田 良英
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抄録

【目的】足関節捻挫は、受傷頻度が高く1人あたりの受傷回数も複数回にわたるものが多い。捻挫既往で足関節不安定性を有する者は、歩行時に足圧中心軌跡が外側へ偏位することが、フォースプレート上を歩行する生体工学的な実験研究において確かめられている(J.Hubbard・et al,2008)。しかし、フォースプレートは大がかりな機器であり設置施設が限定されるのに加え、距離が短い実験路のため、普段の歩行を常に再現できるとは限らない。そのため臨床的には、足関節捻挫者の歩行時の足圧中心の動揺性について、より簡便な評価法の開発が求められる。本稿はその緒として、1)若年者の足関節捻挫の実態把握、2)日常生活に近い歩行を得られ比較的安価な足圧分布計を使用し、歩行時の連続的な足圧中心軌跡を測定し、足関節不安定性がどのように影響するかを検討することを目的とする。
【方法】本稿は、1)若年者の足関節捻挫の実態把握のためのアンケート調査、2)足圧分布計を用いた足圧中心軌跡の計測、の2種類の調査を実施した。1)足関節捻挫既往の有無等に関するアンケートを行った。対象は日常生活に支障のない大学生で協力が得られた271名(有効回答数270)を無作為に抽出した(調査期間2009.4.22~30)。調査項目は、a.過去に足首を挫いたことはありますか、b.その時病院で捻挫と診断されましたか、c.左右どちらの足首を挫きましたか、d.足首をどちら側に捻りましたか、e.足首を挫いた時の、痛みや腫れはどのくらいでしたか、f.何回くらい足首を挫いたことがありますか、g.現在でも足関節に不安定性がありますか、とした。2)実験A:捻挫既往者10症例に対し、テーピングをしない場合と腓骨筋部に内反矯正の伸縮性テーピングをした場合のそれぞれで直線自由歩行を10秒間(500コマ)行い連続的歩行時の足圧中心の軌跡左右幅(最大偏位;cm)を計測した。計測は足圧分布測定システム(ニッタ社製;以下F-SCAN)を装着しスニーカーを履いて行った。最大偏位を各人の体格で補正するため、各対象者の足幅(裸足で第1中足骨頭~第5中足骨頭;cm)を測定し、動揺比率α(α=(左右幅の最大偏位/足幅)×100と定義)を算出し、テーピングの有無で比較した。統計学的解析はWilcoxon検定を用い有意水準1%とした。実験B:対象は足関節捻挫以外の下肢疾患を有さない大学生男女計35名(非捻挫10名[20脚]、両側捻挫16名[右16脚、左16脚]、片側捻挫9名[右7脚、左2脚])である。実験A同様に動揺比率αを算出し、α≧21をa群、13≦α<21をb群、13>αをc群に分け、捻挫者、非捻挫者の各群に占める割合を算出した。
【説明と同意】対象には研究内容を説明し、同意を得て調査・測定を実施した。
【結果】1)実態調査:捻挫既往のある学生は79.7%であり、捻挫回数が6回以上の者が15%も存在することがわかった。又、自覚的な足関節不安定性を訴える捻挫既往者は32%であった。2)実験A:動揺比率αの(平均値±標準偏差)はテーピング無(27.5±4.0)、テーピング有(20.3±6.3)で、統計学的有意差があった(p<0.01)。実験B:a群(非捻挫群25%、捻挫群47%)、b群(非捻挫群30%、捻挫群34%)、c群(非捻挫群45%、捻挫群29%)であった。
【考察】実態調査より、大学生の捻挫既往者が多く、足関節捻挫は身近な疾患であり、誰もが受傷する可能性が高いと考える。実験Aより、テーピング有はテーピング無に比べて動揺比率αは小さかった。これは、テーピングが腓骨筋を補助し足関節外側安定機構を補強したため、足関節安定性を高めたと考える。実験Bより、非捻挫者はc群に、捻挫者はa群に偏る傾向を示した。足関節捻挫既往者は、足部不安定性が残存する場合があることで歩行時の動揺比率αが大きい割合が高いと考える。
【理学療法学研究としての意義】足関節不安定性を足圧分布測定システムから計測された最大偏位と足幅から算出される動揺比率αを用いた評価法を模索し、その可能性を示唆した。今後、臨床で使いやすい安価で簡便な足関節捻挫の評価法開発に発展させることが期待できる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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