理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-221
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ポスター発表(一般)
車椅子バドミントン選手の体力評価と競技力について
荒谷 幸次大川 裕行芝 寿美子芳賀 公平佐野 哲也沖 公恵
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抄録
【目的】
車いすスポーツにおいて,車いすマラソン,車椅子バスケットボール,車いすテニスなどの競技では,選手の体力特性についての研究が行なわれており,選手強化や指導法などに応用されている.しかし,車椅子バドミントンの研究は現在まで行われていない.そこで,車椅子バドミントン選手の身体計測,および運動機能評価を実施し,同競技に特有な評価として前後走を考案し,各評価結果と競技能力との関係を検討することを目的とした.
【方法】
対象は,2010年日本代表選手4名を含む車椅子バドミントン選手男性10名(平均年齢38.0±8.0歳).障害の内訳は,頸髄損傷1名(W1クラス),胸腰髄損傷8名(W2クラス),脳性まひ1名(W3クラス)であった. 身体計測は,身長,体重,握力,押す力,引く力,胸囲,上肢長,上腕周径,前腕周径,体脂肪率,肺活量,最大血圧,最小血圧,心拍数,最高酸素摂取量を計測した.最高酸素摂取量の測定は,屋内用車いすローラーを使用して実施した.手順は3分間の安静の後,3分毎に時速2kmずつスピードを漸増し,疲労困憊まで運動を実施した.安静時を含め,運動中はbreath by breathで呼気ガスを分析し(COSMED社製K4b2),指示されたスピードが維持できなくなった時点で終了とした.また,耳朶より採血を行い,血中乳酸値を測定した(アークレイ社製Lactate Pro).車椅子操作能力の測定は,20m走の所用時間,反復横移動の回数,リピートターンの回数,3分間走の走行距離,前後走の所用時間を測定した.前後走は,ロングサービスラインからショートサービスライン(3.88m)までの前方走行,後方走行の切り返し走行とし,5往復の所要時間を計測した.
【説明と同意】
全被験者に対して測定前に本研究の趣旨,目的を口頭と文書により説明し,文書により同意を得た.なお,本研究は,星城大学研究倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
身体計測値の平均は,身長(170.9±4.9cm),体重(62.1±9.6kg),右握力(48.4±9.5kg),左握力(45.0±10.0kg),押す力(43.8±9.9kg),引く力(41.8±13.5kg),胸囲(96.2±6.2kg),上肢長(54.7±2.1cm),上腕周径(31.4±3.2cm),前腕周径(27.9±2.0cm),体脂肪率(17.9±7.0%),肺活量(4.3±0.8L),最高血圧(129.4±8.9mmHg),最低血圧(77.6±4.8mmHg),心拍数(73.8±11.5bpm)であった.最高酸素摂取量の平均は29.4±6.8ml/kg・minであった.代表群と非代表群の比較では,前後走(24.4±1.9秒,28.2±0.9秒)とリピートターン(19.0±0.8秒,15.8±1.9秒),3分間走(507.9±52.5m,408±35.1m)で,いずれの値も代表群が有意に優れていた(p<0.05).前後走の所要時間は,3分間走(r=-0.98),反復横移動(r=-0.90),リピートターン(r=-0.87),握力(r=-0.77),肺活量(r=0.77),20m走(r=0.77)と高い相関を示した.
【考察】
車椅子バドミントン選手の最高酸素摂取量は,車いすマラソン選手(35.9±7.3 ml/kg・min)よりも低く,車いすテニス選手(29.5±2.5 ml/kg・min)と同等の値を示した.持久力が要求されるマラソンとは異なり,バドミントンやテニスは運動と休息を繰り返す間欠的な運動であることが影響しているものと考えられた.代表群は非代表群に比べ,筋力,肺活量などの身体測定値よりも車椅子操作能力が優れており,チェアワークが競技力に影響を与えることが確認された.車いすバドミントン選手の競技力向上のためにチェアワークの向上に取り組む必要性を示唆している.今回考案・実施した前後走は,各選手の身体測定項目,競技能力と関連しており,車椅子バドミントンの競技特性を加味した体力の一指標となることが示唆された.
【理学療法学的研究の意義】
障害者の健康の維持・増進において,スポーツ参加は有効な手段である.一方,我々理学療法士は障害者スポーツの安全性を確認し,障害者スポーツへの参加を促すために競技力の向上にも取り組む必要がある.本研究で車椅子バドミントン選手の身体能力および競技特性を確認することができた.併せて,競技力向上のためのチェアワークの重要性が確認できたことで被験者に対しても有益な情報が提供できた.
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© 2011 日本理学療法士協会
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