理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-253
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ポスター発表(一般)
小学生野球選手の内側上顆骨端線障害に対するインターバルスローイングプログラムを用いた競技復帰成績
小松 稔松本 晋太朗内田 智也野田 優希福岡 ゆかり古川 裕之藤田 健司
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抄録

【目的】 野球選手の投球障害として多くみられる内側上顆骨端線障害は、少年野球選手の約20%に発生するとされており臨床で非常に多くみられる疾患の一つである。一般にノースロー期間を設けた後にリハビリテーションを行い競技復帰するが、当院ではリハビリテーションの一環としてインターバルスローイングプログラム(以下、ITプログラム)を使用している。このプログラムでは、投球再開時から徐々に投球数と投球距離を伸ばしていきプログラム終了時点で練習復帰を許可している。当院では2009年2月に少年用ITプログラムを作成し運用開始したが、それ以前は成人用ITプログラムを応用しながら個々の症例に対してセラピストが主観や経験に基づき競技復帰を許可していた。そこで、本研究では少年用ITプログラム運用開始前後の競技復帰状況を比較し、このプログラムの効果を検討することを目的とする。

【方法】 2007年4月から2010年9月までに、当院にて内側上顆骨端線障害と診断を受けた小学生男子野球選手83名を後ろ向きに調査した。このうち他の投球障害を有していた者、ノースロー期間を設けず競技復帰した者、患者の都合により理学療法を継続実施できなかった者を除く43名(10.9±1.1歳)を対象とした。対象者の中でITプログラムを実施した者34名(11.0±1.1歳)を新IT群、それ以外の9名(10.2±1.2歳)を旧IT群とした。この2群間で野球歴、ノースロー期間、競技復帰に要した期間の各項目についてunpaired t-testを用い比較した後に、Effect Size(ES)を算出しその効果を検討した。また、再発件数をFisherの両側正確検定を用いて群間比較した。統計解析にはJMP ver.6.0(SAS, JAPAN)を用い、統計学的有意水準は5%とした。

【説明と同意】 対象者には本研究の趣旨と内容を説明し同意を得た。

【結果】 野球歴は旧IT群3.8±1.8年、新IT群で3.3±1.4年、(p = 0.91)、再発件数(率)は旧IT群1例(11.1%)、新IT群3例(8.8%)(p = 0.82)でこの2項目において2群間での有意差は見られなかった。ノースロー期間は旧IT群3.9±1.7週、新IT群2.9±1.2週(p = 0.06, ES = 0.27)で2群間での有意差は見られなかったが、競技復帰に要した期間は旧IT群8.4±3.2週、新IT群6.4±2.3週(p = 0.04, ES = 3.41)で新IT群において有意に短縮していた。

【考察】 以前当院で用いていた成人用ITプログラムでは、投球距離の設定など小学生にとって負荷が大きく、実際の臨床での運用には困難な面もあった。そのため投球距離を短く設定した少年用ITプログラムを作成、運用してきた。今回プログラム運用前後で競技復帰成績を比較したところ、新IT群では旧IT群に比べて約2週競技復帰に要する期間が短かった。しかし、再発率はどちらも約10%と有意差が認められなかった。再発した症例はフォーム不良による肘関節へのストレス軽減が不十分だった者が多かった。上腕骨内側上顆骨端線障害の再発率について述べた報告は我々が渉猟し得た範囲では見当たらなかったが、復帰までの期間が短縮したことを鑑みると早期復帰を望む少年野球選手に応じたプログラムとして適切だったのではないかと考えられる。これは少年用のITプログラム作成によって明確な基準が設定されたことで、小学生野球選手にとって適切な強度での運動で競技復帰が可能となったためだと考えられる。今後はITプログラムを適応するとともに、個々の症例に対してフォーム指導などを含めた包括的なリハビリテーションを実施していくことで早期復帰、再発予防を

【理学療法学研究としての意義】 内側上顆骨端線障害に対するリハビリテーションにおいて競技復帰のための有効な基準を提案することができたと考えられる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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