理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-293
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ポスター発表(一般)
大腿四頭筋セッティングおよび持ち上げ操作が大腿骨前脂肪体に与える影響
超音波診断装置を使用した長軸像の観察
豊田 和典山本 泰三橋本 貴幸板垣 昭宏豊田 弓恵村野 勇矢上 健二関口 成城榊 佳美
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抄録
【目的】大腿骨前脂肪体(Prefemoral Fat Pad;以下PFP)は、膝蓋上嚢深部と大腿骨の間に存在する脂肪組織である。林は膝関節屈曲伸展運動における膝蓋上嚢の滑走性を維持するためにPFPは重要な組織であり、膝関節疾患に対する運動療法では膝蓋上嚢とともにPFPの機能維持が重要であるとしている。正常膝関節の自動屈曲運動時の膝蓋骨上方組織を超音波画像診断装置にて観察すると、膝関節自動屈曲に伴いPFPは膝蓋上嚢とともに水平面方向へ広がる。拘縮膝では柔軟性に富んだPFPが変性し、動きが制限されている場合が多いとの報告がある。正常膝関節の自動伸展運動時の膝蓋骨上方組織を超音波画像診断装置にて観察すると、筋・腱の浮き上がりとともにそれによる空間の部分を補うように膝蓋上嚢やPFPが矢状面にて骨から離れる方向へ広がる。橋本らは膝蓋上嚢持ち上げ操作(以下;持ち上げ操作)が膝蓋上嚢の癒着予防に有効な運動療法の一つであると報告している。筆者らは持ち上げ操作と大腿四頭筋セッティング(以下;セッティング)が膝蓋上嚢に与える影響を検討し、癒着予防の有用性を報告した。膝蓋上嚢癒着予防の運動療法として行なっているセッティングと持ち上げ操作がPFPに与える影響について超音波画像診断装置を用いて検討した。
【方法】対象は神経学的および整形外科的疾患の既往がない健常男性13名、健常女性10名で測定肢はすべて右下肢23足とした。対象者の平均年齢は27.7±4.0歳、平均身長は167.0±10.9cm、平均体重は62.0±13.1kgであった。測定姿勢は長座位とし、安静時およびセッティング時、持ち上げ操作時の長軸像を撮影した。セッティングは最大収縮、持ち上げ操作は検者の手で大腿四頭筋共同腱の矢状面方向への引き上げと内外側広筋から正中方向への圧迫を同時に行なった。撮影は超音波画像診断装置(東芝社製 famio SSA-530A)のリニア式プローブ12MHzを使用して、プローブを皮膚に対して直角にあて、過度の圧が加わらないように注意した。撮影した大腿骨前脂肪体の長軸像の幅を内臓デジタルメジャーにて計測した。測定部位は膝蓋上嚢の最近位部と膝蓋骨上縁中央を結んだ線の1/2とした。測定は3回行ない、平均値を測定値とした。測定および計測、持ち上げ操作はすべて同一セラピストが行なった。検討項目は、安静時、セッティング時、持ち上げ操作時のPFP矢状面幅の平均厚と増加率とした。増加率は安静時の計測値を基準にセッティング時、持ち上げ操作時で比較した。統計処理は多重比較法を用い、すべての統計解析とも危険率5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】実験に先立ち、対象者には研究内容について口頭にて十分に説明を行い、同意を得た。
【結果】PFPの平均厚は、安静時7.0±1.2mm、持ち上げ操作時13.5±1.9mm、セッティング時9.6±1.5mmであり、セッティング時、持ち上げ操作時のPFP幅の増加率はそれぞれ138±19%、195±25%であった。セッティングおよび持ち上げ操作時のPFP幅の増加率に主効果が認められた。安静時より持ち上げ操作時、セッティング時は増加率の差が有意であった。持ち上げ操作時はセッティング時と比較して増加率の差が有意であった。
【考察】セッティングと持ち上げ操作はPFPの矢状面幅を増大させたことから、セッティングや持ち上げ操作による膝蓋上嚢の癒着予防は、膝蓋上嚢だけではなくPFPの柔軟性を維持するための運動療法として有用な手段の一つであった。正常膝においてはセッティングよりPFP幅が有意に増大した持ち上げ操作はより有効な手段であった。実際の臨床では、PFP柔軟性を他動的に維持する持ち上げ操作と膝蓋上嚢、内外側広筋などの組織との連動性を維持する自動運動であるセッティングをセットとして固定期から積極的に行ない機能維持を図っている。また、セッティング時や持ち上げ操作時のPFP矢状面幅の測定はPFP柔軟性の客観的な評価となりえると考える。
【理学療法学研究としての意義】PFPが膝関節機能にとって重要な組織であることが徐々に明らかにされてきており、PFPに対する運動療法が必要であると考える。セッティングや持ち上げ操作は受傷後、術後早期から実施できる方法であり、PFP柔軟性維持のための有効な運動療法の一つであると考える。また、PFPに対する理学療法評価としても有効な方法になると考える。
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© 2011 日本理学療法士協会
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