理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OF1-069
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口述発表(特別・フリーセッション)
距骨下関節への操作が身体に及ぼす影響
立位体幹前屈動作での足部と脊柱についての一考察
岡部 敏幸甲賀 英敏川合 旬美水谷 久美秋山 武彦山田 雄司伊藤 孝紀天野 守計
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抄録
【目的】姿勢制御の目的とは良好な姿勢変換を目指しており,良好な姿勢とは疼痛がなく,筋出力・身体の柔軟性に優れている姿勢ともいえる。姿勢制御で大きな役割を果たしていると考えられる部位は距骨下関節(STJ)である。したがって今回我々は,STJを操作して良好な姿勢の要素でもある柔軟性を立位体幹前屈動作(前屈)で検証し,STJが身体に及ぼす影響について検討したので報告する。
【方法】被験者の両足部STJへ入谷式足底挿板療法の直接的評価で使用される回内・外誘導テーピングを施行した。回内・外誘導の決定は,下腿骨回旋誘導のmobilization評価と歩容で決定した。測定項目はテーピング装着無し(無)と有り(有)での比較を行い,1.足幅は肩幅とした自然立位からの前屈位の指床間距離(FFD:cm)を測定(床面より下方を+,上方を-と表記)した。2.前屈位10秒間の重心動揺をパテラ社製スタビロメーターS510-Vで測定。測定項目は総軌跡長(D:cm),矩形面積(A:cm2),足長に対する踵部からの重心中心位置(G:%),矩形面積左右径(x:cm),矩形面積前後径(y:cm)とした。なお,方法1から2までの測定順序をテーピング無から有の順序での測定6名,テーピング有から無の順序での測定6名と分類した3.被験者で両足部STJへ回内誘導テーピングを施行した8名を対象に,安静時立位でのレントゲン立位側面を医師の監督の下で,放射線技師が撮影し,腰椎仙椎角(腰仙角)をFerguson法で測定した。測定順序は全てテーピング無から有の順序とした。統計的有意差判定はt検定を用い,5%未満を有意水準とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基ずき,被験者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た健常人12名(男性8名,女性4名。平均年齢23.8±3.97歳,21-35歳)を対象とした。
【結果】1.FFDは無0.3±12.32cmと有4.3±12.00cm(p<0.001)間で明らかにテーピング有のFFDは大きな値を示した。2.重心動揺測定はいずれの項目も有意な差を認めなかった。3.腰仙角は無40.0±10.30度と有36.8±9.58度(p<0.05)間で有意にテーピング有の腰仙角は小さな値を示した。
【考察】前屈は1.股関節屈曲2.骨盤前傾3.脊椎屈曲等の全身複合動作である。したがって股関節・仙腸関節・脊柱の可動域制限やマルアライメントが存在すると,前屈時に痛みや制限が生じると考えられる。FFDが明らかに拡大したことは,テーピングによりSTJを適切な方向に誘導したことにより,足部からの身体運動連鎖機構により良好な姿勢変換がなされたことと考えられた。そこでFFDが明らかに拡大された具体的な理由を前屈にともなう骨盤の後方移動量の増加によるものと仮説を立て,検証するため重心動揺を測定した。が,どの項目も有意な差を認めなかった。重心動揺測定の結果,重心位置に有意な差を認めなかったことから,前屈に伴う骨盤の後方移動量はテーピング有・無ともにほぼ同一と考えられるため,骨盤移動を構成する下肢以外の要因を検討した。次は脊柱に着目して脊柱の配列に差異があるのではないかと仮説を立て,立位での腰仙角を比較した。結果,テーピング有での腰仙角は有意に小さな値を示した。これらは,テーピング有での仙骨の前傾位が後傾方向に誘導され,いわゆる仙骨が起きた状態の骨形態となったことを示している。両STJ回内誘導により,立位で身体重心は前方へ移動し易くなるため,その補償として骨盤は後傾したと考えられた。前屈動作では骨盤は前傾方向に動く。テーピングにより,骨盤の後傾位は前屈方向への骨盤前傾可動域を増加した結果,FFDが拡大したと考えられた。また,腰仙角が増加すると骨盤は前傾し,ハムストリングスは伸張され前屈の制限をきたすことが予測される。テーピングにより腰仙角の減少は,ハムストリングスを弛緩させたため,前屈が容易になったとも考えられた。以上よりSTJを操作することが下肢のみに関わらず脊柱にも影響を及ぼし,足部からの身体運動連鎖により姿勢制御がなされていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】STJを操作することが下肢のみに関わらず脊柱にも影響を及ぼし,足部からの身体運動連鎖により姿勢制御がなされていることが示唆された。今後,ますます足部と身体の運動との連鎖について研究していくことの重要性を痛感している。

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© 2011 日本理学療法士協会
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